2021年3月31日水曜日

[AI関連発明]ノッキング判定装置(特許6651040)

 (登録例26)

 内燃機関のノッキング音の音圧を推定する装置である。出願当初の請求項は次のとおりであった。

【請求項1】(出願当初)  内燃機関で発生するノッキング音以外の雑音を除去し、前記雑音が除去された内燃機関の音圧を推定する推定装置であって、  ニューラルネットワークにより、前記雑音を除去し、かつ、前記ノッキング音を抽出するマスクを用いて、前記雑音が含まれる内燃機関の音圧から前記雑音が除去された内燃機関の音圧を推定する第2推定部、 を備えることを特徴とする推定装置。

 これに対し概略次のような拒絶理由が通知された。
 すなわち、引用文献1に、閾値を用いて内燃機関の音圧を推定する装置が記載され、雑音を除去するマスクをニューラルネットワークにより構成することは従来周知の技術であるから、進歩性を有しない。

【請求項1】(特許クレーム)   内燃機関で発生するノッキング音以外の雑音を除去し、前記雑音が除去されたノッキング音を推定するノッキング判定装置であって、
  ニューラルネットワークにより、前記雑音を除去し、かつ、前記ノッキング音を抽出するマスクを生成するネットワークの重み、及び、前記マスクにより抽出されたノッキング音をノッキング発生時の内燃機関の筒内圧に変換する伝達関数を学習する学習部と、
  ニューラルネットワークにより、前記マスクを用いて、前記雑音が含まれるノッキング音から前記雑音が除去されたノッキング音を推定する第2推定部
を備えることを特徴とするノッキング判定装置。

 ポイントは、雑音を除去してノッキング音を抽出するマスクに加え、ノッキング音を内燃機関の筒内圧に変換する伝達関数を学習する点である。
 これは、「本願発明では、教師データとして理想的なノッキング音の測定が困難なため、エンジンの近傍音に構造減衰補正量の逆数(伝達関数)を乗算すれば、エンジンの筒内圧を推定できることに着目」しているからであるという。
 つまり、どんな音が理想的なノッキング音かは主観によらざるを得ず、理想的なノッキング音の測定は困難なので、測定した音をエンジンの筒内圧に変換する伝達関数を導入することで客観的に評価できるようにした(筒内圧なら推定値と実測値の誤差を評価できる)。
 この発明は、評価が困難なパラメータを、客観的に評価できるパラメータに変換する伝達関数を合わせて学習するという工夫し、機械学習を可能にしたものである。

2021年3月30日火曜日

[AI関連発明]学習装置(特許6632770)

 (登録例25)

【請求項1】
  ニューラルネットワークを使用した学習を行う学習装置であって、
  学習条件として、学習済みのニューラルネットワークを使用して行う推論の目的と、前記学習装置のハードウェア資源の制約と、学習データの特性を示す情報と、設定された目標とを含む、学習の前提及び制約を取得する学習条件取得手段と、
  前記学習の前提及び前記制約に応じて、ニューラルネットワークの構造の枠組みとなる学習モデルを選択する学習モデル選択手段と、
  前記学習の前提及び前記制約に応じて、選択された前記学習モデルについてニューラルネットワークの規模を決定する学習モデル規模決定手段と、
  前記学習モデルを前記規模で構成したニューラルネットワークに、前記学習データを入力して学習を行う学習手段と、
  を有する学習装置。

 機械学習における手法のひとつであるディープラーニングを行う場合、目的、学習データの特性等に応じて、学習パラメータを設定する必要があるが、ユーザがこうした学習パラメータを設定することが困難な場合があることに鑑み、推論の目的、ハードウェア資源の制約、学習データの特定、目標等から学習モデルの選択と規模の決定を行う発明である。
 下線部に見られるように、学習条件を具体的に限定することにより、特許査定を得た。








2021年3月29日月曜日

[AI関連発明]関連妨害波提示装置(特許6669939)

 (登録例24)

【請求項1】
  妨害波を含むサンプルデータを機械学習することにより生成され、妨害波の特徴量に基づいて前記妨害波の属するクラスを特定する学習済モデルを用いて、参照された妨害波である参照妨害波の属するクラスを特定する、クラス特定部と、
  前記参照妨害波の属するクラスに基づいて、前記サンプルデータを検索し、関連する妨害波に関する情報である関連妨害波情報を生成する、関連妨害波情報生成部と、
  前記関連妨害波情報の一部又は全体を提示する制御を行う、提示制御部と、を備え
  前記参照妨害波は、周波数スペクトラムにおける特異的波形部分である、関連妨害波提示装置。

 学習済モデルを用いて、参照妨害波の属するクラスを特定すると共に、クラスに基づいて妨害波に関連する情報(例えば、妨害波を発生している部品等の情報)を生成し、提示するというものである。

 審査の過程で、新規性を否定する引用文献が示されたが、出願人は拒絶理由の発見されていない請求項2に限定することにより特許査定を得た。追加した特徴は、「参照妨害波は周波数スペクトラムにおける特異的波形部分を含む」というものである。特異的波形部分という用語は請求項とその引写し部分以外にないが、要するに、ピーク波形部分103を意味していると解される。
 ところで参照周波数領域(上記図の網掛部分)は上限と下限の周波数を選択することで設定することができる。つまり、追加された要件は、人が分析範囲を選択する際には、ピーク波形部分103を含むように選択すると言っている。装置の構成としてこの要件をどう理解するか、やや疑問ではあるが、特許査定のポイントとしては、入力データが引用文献との差別化ポイントであるということになる。






 

2021年3月28日日曜日

[AI関連発明]メール解析サーバ(特許6651668)

 (登録例23)

 発明は、受信したメールに対する返信の要否を、学習済モデルを使って推定するサーバである。
出願当初の請求項は以下のとおり。

【請求項1】(出願当初)  蓄積された受信メールに対する返信の有無を判定する判定部と、  返信されたと判定された受信メールに含まれる文字と返信されていないと判定された受信メールに含まれる文字の少なくとも一方を解析し、ニューラルネットワークを用いた機械学習によって機械学習モデルを構築する学習部と、  受信した受信メールに含まれる文字を、前記機械学習モデルを用いて、当該受信メールに対する返信の要否を推定する推定部と、を有する、メール解析サーバ。

 審査において、引例文献1に推定部の構成が含まれていないのは相違点とされたが、相違点については引用文献2に記載されていると判断された。
また、引用文献2(段落[0019]-[0025]等)には、前記「受信した受信メールに含まれる文字を、前記機械学習モデルを用いて、当該受信メールに対する返信の要否を推定する」に対応する、機械学習モデルを使用して、即時応答を必要とする電子メールを識別すること、例えば、電子メールの内容、電子メールの主題等に電子メールが送られた日時および現在の日時の量に言及しているかどうかを判断すること、電子メールがまだ応答が現在の日付時点で送信されていない場合、ユーザに電子メールに応答することを示唆し得ることが記載されている。

 これに対し、拒絶理由が発見されていない請求項2の特徴を加えることで特許査定を得た。

【請求項1】(特許査定時)
  蓄積された受信メールに対する返信の有無を判定する判定部と、
  返信されたと判定された受信メールに含まれる文字と返信されていないと判定された受信メールに含まれる文字の少なくとも一方を解析し、ニューラルネットワークを用いた機械学習によって機械学習モデルを構築する学習部と、
  受信した受信メールに含まれる文字に対して前記機械学習モデルを用いて、当該受信メールに対する返信の要否を推定する推定部と、を有し、
  前記判定部は、
  前記蓄積された受信メール及び蓄積された送信メールを対比し、前記送信メールの本文に、前記受信メールの本文の一部を含むか否かを判定し、
  前記送信メールが前記受信メールの本文の一部を含む場合、当該受信メールは返信されたと判定する、メール解析サーバ。

 出願当初の請求項1との違いは、機械学習モデルを構築するための教師データの作り方(受信の有無の判定の仕方)である。教師データの作り方を具体的に特定することにより、引用文献との違いを出した。

2021年3月27日土曜日

[AI関連発明]異常監視装置(特許6722836)

 (登録例22)

【請求項1】
  金型の分割部を表した学習用画像を機械学習することによって生成された学習済みモデルと、カメラによって前記分割部を撮像して取得された撮像画像とに基づいて、前記分割部が異常状態であるか否かを判定し、前記分割部が異常状態であると判定したとき、型締めを停止させるための停止指示を出力する、制御部を有し、
  前記学習済みモデルは、前記分割部を照明する照明の種類及び前記カメラの種類を変化させて撮像することによって作成した前記学習用画像に基づいて生成された第1学習済みモデルを有する、
  異常監視装置。


 射出成型の金型の分割部の異常を監視するシステムの発明である。出願当初の請求項1は国際調査報告で進歩性なしと判断されたが、進歩性が認められた元の請求項5を新しい請求項1とし、特許査定を得た。
 上記下線部に見られるように学習済みモデルについて、教師データとして、照明の種類及びカメラの種類を変化させて撮像した画像を用いることを限定した。教師データが新しいことにより、特許が認められた例である。


2021年3月26日金曜日

[AI関連発明]作物生育ステージ判定システム(特許6638121)

(登録例21)

 【請求項1】
  作物生育ステージ判定システムのサーバ装置であって、
  作物の形状を抽出可能に撮影した画像情報を複数入力する第1の画像入力部と、
  上記第1の画像入力部で入力した複数の画像情報それぞれについて当該作物の生理的な発育程度を表す生育ステージの情報を入力するステージ情報入力部と、
  上記第1の画像入力部で入力した複数の画像情報と上記ステージ情報入力部で入力した生育ステージを示す情報とに基づいて、作物の画像と生育ステージとの対応付けの深層学習を行なって学習済モデルを構築する学習部と、
  生育ステージの不明な作物の形状を抽出可能に撮影した画像情報を入力する第2の画像入力部と、
  上記第2の画像入力部で入力した画像情報に対し、上記学習部で構築した学習済モデルに基づいて生育ステージを判定するステージ判定部と、
  上記ステージ判定部で判定した生育ステージの情報を出力する出力部と、
を備える作物生育ステージ判定システムのサーバ装置。

 国際調査報告で新規性、進歩性なしと判断されたのに対応した自発補正を行い、拒絶理由を受けることなく特許になった。上申書における出願人の主張は以下のとおりである。
 引例1は、農作物中の収穫部分自体の色及びサイズから収穫時期を判定するものであるが、判断となる基準が異なる。引例2は、NDVI(色情報)を用いて成育ステージの分類を行っているが、これは葉色の変化を捉えているので太陽光の影響や葉の表裏で反射強度が異なることが誤判定の原因となり、不適切な方法である。本願は色の情報を排除して((注)クレーム上、排除されていないのでは??)作物の個体の形状から成育ステージを判断するようにしたものであり、何を対象として学習し分類するかが異なっている。
 
 おそらく引例との差異はあるのだろうと思われる。ただし、作物の個体の形状から成育ステージを判定することは、農家の人が通常行っていることであろう。にもかかわらず、そうした証拠がなければ特許になるという例である。
 作物の形状から成育ステージを判断したことが新しい?ため特許になったと分類されようか。

2021年3月25日木曜日

[AI関連発明]内視鏡画像処理システム(特許6632020)

 (登録例20)

【請求項1】
  管腔臓器内の内視鏡により撮像された内視鏡画像を取得する画像取得手段と、
  第一の学習済みモデルに対して前記取得された内視鏡画像を与えることで、該内視鏡画像を撮像した内視鏡の位置及び方向を示す位置情報及び向き情報を取得する第一モデル処理手段と、
  前記取得された位置情報及び向き情報と前記取得された内視鏡画像とを関連付けて格納する格納手段と、
  を備え、
  前記第一の学習済みモデルは、教師用内視鏡画像を撮像した内視鏡の位置及び向きの正解を該教師用内視鏡画像に対して関連付けた複数の教師データに基づいて、機械学習されている、
  内視鏡画像処理システム。

 「研修医が内視鏡を適切に動作させる手技を習得しようとした場合、指導医の下で訓練を受けなければならず、指導医の負担の増加などの問題が生じている。また、医師が自身で操作する内視鏡の動作の良し悪しや自身の内視鏡手技の習熟度を自己判定できないといった問題もある。」ということに鑑み、「内視鏡画像を用いた内視鏡動作の支援を可能とする技術」を提供するものである。
 具体的には、内視鏡画像から内視鏡の位置及び向きの正解を推定するという構成を備えている。
 内視鏡画像から病理タイプを識別することはいくらでも行われているが、内視鏡操作の手技に着目して、位置や向きを出力させることは珍しいのかもしれない。
 ただ、医師が実際に内視鏡を動作させる際には、臓器内を網羅したか把握しているはずなので、撮影された画像から無意識のうちに位置や向きを理解しているとは思われる。


2021年3月24日水曜日

[AI関連発明]調理支援システム(特許6692960)

(登録例19)
 
【請求項1】
  調理者により食材がカットされて生成された食材片のサイズを特定する第1特定部と、
  前記特定された食材片のサイズを入力として、機械学習により生成された推定モデルを用いて、前記食材片の最適な加熱調理時間を推定する推定部と、
  前記推定された加熱調理時間を前記調理者に通知する通知部と
  を備える調理支援システム。

 「従来の調理支援システムでは、調理者が誤って又は自身の好みによりレシピと異なる大きさに食材をカットした場合に、そのカットされた食材片のサイズに応じてその後の加熱調理の時間を自動的に変更することができなかった。」という課題に鑑み、実際の調理の状況に応じて調理時間を推定できるようにした発明である。
 その方法はシンプルで、食材片のサイズを入力として最適加熱調理時間を推定するというものである。
 審査において拒絶理由が示されていない。推定に用いる入力パラメータが新しいと特許になる例といえる。



2021年3月23日火曜日

[AI関連発明]音評価AIシステム(特許6684339)

 (登録例18)

【請求項1】
  既知の音、および、所定プロフィールを有する被験者による前記音の主観評価を格納するデータベースと、
  前記データベースに基づき、前記音から前記所定プロフィールを有する被験者による前記主観評価を推定するトレーニングを行ったのち、未知の音から前記所定プロフィールを有する被験者による主観評価を推定する推定手段と、
  を備えることを特徴とする音評価AIシステム。

 従来から「人の感性によって解釈される物理量を入力し、その主観量をニューラ ルネットワークによって予測する発明」が知られていたが、「被験者のプロフィールごとに主観量が異なることは何ら想定されていない」。
 そこで、「入力したプロフィールに係る各被験者が感じると思われる主観量を推定することを課題」とし、主観評価を推定するためのデータベースを、所定プロフィールを有する被験者ごとにトレーニングするようにしたものである。
 学習済みモデル(ここではデータベース)を評価対象ごとに用意したことが新しいため、特許になったといえる。

2021年3月22日月曜日

[AI関連発明]警備システム(特許6659890)

 (登録例17)警備システム

【請求項1】
  警備モードの切り替えを行うためのユーザ操作が入力されるユーザ端末と、ユーザからの音声指示が入力される情報端末と接続される警備システムであって、
  前記警備モードの切り替えが行われたときのユーザ操作に関する情報と、当該ユーザ操作が行われた時点を基準とする所定の判定期間内に前記情報端末に入力された音声指示に関する情報との関係を、機械学習により分析する機械学習部と、
  前記情報端末にユーザからの音声指示が入力された場合に、当該音声指示に関する情報を前記情報端末から取得する情報取得部と、
  前記機械学習部で分析した関係に基づいて、前記情報取得部で取得した音声指示に関する情報を入力として、前記警備システムで設定されるべき警備モードを推定する推定部と、
  前記警備システムで設定されている警備モードが前記推定部で推定された前記警備システムで設定されるべき警備モードでない場合に、前記警備システムで設定されるべき警備モードへの警備モードの切り替えをユーザに提案する提案部と、
を備えることを特徴とする警備システム。

 この発明は、ユーザが音声指示したときに、設定されるべき警備モードを推定し、現在の警備モードが設定されるべき警備モードであるか否かを判定する(S3)。音声指示から警備モードの推定は、警備モードの切り替えが行われたときのユーザ操作に関する情報と、そのユーザ操作の時点を基準とした所定の判定期間(例えば10分)内に情報端末3に入力された音声指示に関する情報との関係に基づいて機械学習されている。
 そして、現在の警備モードが設定されるべきモードでない場合は、警備モードの切り替えを提案する(S4)。これにより、セキュリティの操作忘れを低減し、特に在宅中のセキュリティ利用率を高めることができるというものである。
 この発明は、「従来のシステムにおいては、複数の警備モードのうちユーザに対して最適な警備モードを提案することについては、考慮されていない。」(段落【0004】)という点に着目してなされたものであり、着眼点が新しいために、引用文献が見つからなかったと思われる。

 



2021年3月21日日曜日

[AI関連発明]識別装置(特許6650996)

 (登録例16)識別装置

【請求項1】
  歯牙の種類を識別する識別装置であって、
  歯牙を構成する複数の点のそれぞれにおける三次元の位置情報を含む三次元データが入力される入力部と、
  前記入力部から入力された三次元データと、当該三次元データに基づき歯牙の種類を推定するためのニューラルネットワークを含む推定モデルに基づき、当該歯牙の種類を識別する識別部と、
  前記識別部による識別結果を出力する出力部とを備える、識別装置。

 審査では、歯牙の特徴を含む前記三次元データおよび機械学習したモデルに基づいて歯牙の種類を識別する識別装置が示された。引例で用いている三次元データは次のようなデータである。

 これに対し、出願人は、「歯牙を構成する複数の点のそれぞれにおける三次元の位置情報を含む三次元データ」という要件を追加した。この三次元データというのは、次のような位置情報を有するデータである。この要件が引用文献には記載されていないとして、特許査定を得た。



 機械学習を用いて歯牙の種類を推定することは共通するが、機械学習に用いている入力データが異なることにより、特許査定を得た例である。




2021年3月20日土曜日

[AI関連発明]エッチング終点検出装置(特許6761910)

 (登録例15)エッチング終点検出装置

【請求項1】
  チャンバ内に配置された基板に処理を施す基板処理装置のプロセスログデータを取得するプロセスログ取得部と、
  前記プロセスログ取得部によって取得したプロセスログデータに基づき、前記チャンバ内に生じた光に関わる測定値以外の入力データを作成し、前記入力データに基づき、前記基板処理装置におけるエッチングの終点を検出する検出部と、を備え、
  前記検出部は、前記入力データが入力され、前記基板処理装置におけるエッチングの終点前後の何れであるかを出力する、機械学習を用いて生成された分類器を具備する、
ことを特徴とするエッチング終点検出装置。

 従来はエッチングの終点を検出するために分光器が用いられていたが、この発明では、「光に関わる測定値以外」の入力データを用いて終点を検出する。検出方法としては、機械学習で生成された分類器に画像データを入力して終点の前後のいずれであるかを検出する。
 引例は、プラズマエッチングの終点を検出するための方法であって、取得されたプロセスログを終点である場合に「1」、終点以外では「0」を出力するニューラルネットワークに適用して、終点を検出することが記載されている。
 出願人は、引例に係る発明では、終点にあるときだけ「1」、終点の前や終点の後では「0」を出力するものであり、終点の前と終点の後とは区別されないと主張し、この相違が認められて特許査定を得た。
 エッチングをしすぎないように終点が求まればよいので、引例のように終点を求めることが通常であると思われるところ、「終点前後の何れであるかを出力する」というのは珍しいのかもしれない。
 この例は、機械学習で生成された分類器を用いることまでは同じであるが、求めている対象が異なるために特許になった例である。



2021年3月19日金曜日

[AI関連発明]動作評価方法(特許6757010号)

 (登録例14)動作評価方法

【請求項1】
  トレーニの動作を評価する動作評価方法であって、
  機械学習によって生成された検出モデルのうち前記トレーニの動作の種別に応じた検出モデルを用いて、一連の部分動作を含む全体動作が撮影された全体動画から、複数の部分動作のそれぞれに対応する部分動画を検出するステップを備え、
  前記検出された複数の部分動画を参照して、前記全体動作及び前記部分動作の少なくとも1つを評価するステップを備える、
動作評価方法。

 出願当初の請求項では、下線部の要件がなかった。拒絶理由通知書では、動作中の各ステージにおける介助動作と推奨介助状態とのズレをスコアで表す発明(下図)が引用された。

 この文献には、機械学習の開示がないが、機械学習については別の文献が引用された。
 これに対し、出願人は、上記のように下線部を追加する補正を行い、「本発明1の特徴は、トレーニの動作の種別に応じた検出モデルを用いて、全体動画から部分動画を検出する点にある。」と主張し、これによって進歩性の拒絶理由を解消した。
 「トレーニーの動作の種別に応じた検出モデル」とは、例えば、「手のひらを洗う」「手の甲を洗う」といった動作ごとに検出モデルを用意しているということである(下図)。
 これにより、「本発明1によれば、トレーニの動作の種別に応じた検出モデルを用いるので、部分動画の検出の精度を向上させることができる。」とのことであるが、動作の種別ごとに、それに特化した検出モデルを用いれば検出精度を向上できることは当たり前である。出願当初と補正後の請求項は、公知の機械学習を全体に適用するか部分に適用するかの違いしかないが、これでも特許になっている。






2021年3月18日木曜日

[AI関連発明]内燃機関の制御装置(特許6741087)

 (登録例13)内燃機関の制御装置

【請求項1】
  複数の入力パラメータを取得するパラメータ取得部と、
  ニューラルネットワークモデルを用いて、前記パラメータ取得部によって取得された前記複数の入力パラメータに基づいて少なくとも一つの出力パラメータを算出する演算部と、
  前記演算部によって算出された前記少なくとも一つの出力パラメータに基づいて内燃機関を制御する制御部と
を備え、
  前記ニューラルネットワークモデルは、複数のニューラルネットワーク部と、該複数のニューラルネットワーク部の出力に基づいて前記少なくも一つの出力パラメータを出力する出力層とを含み、
  前記複数のニューラルネットワーク部は、それぞれ、一つの入力層と、少なくとも一つの中間層とを含み、
  前記複数のニューラルネットワーク部に入力される入力パラメータの総数が前記複数の入力パラメータの数よりも多くなるように、該複数の入力パラメータから選択された異なる組合せの入力パラメータが前記複数のニューラルネットワーク部の入力層のそれぞれに入力される、内燃機関の制御装置。
 この発明は、ニューラルネットワークの構造に特徴があり、図のように複数のニューラルネットワークを有する。そして、例えば変数x1~x3を入力する際に、x1,x2の組み合わせ、x1,x3の組み合わせ、x2,x3の組み合わせでそれぞれのニューラルネットワークに入力し、それぞれの出力を総合して最終的な出力を得るという構造である。これにより、入力パラメータの種類を増やすことなく出力パラメータの算出精度を向上させることができるという顕著な作用効果を奏する
 審査の過程では、拒絶理由が通知されたが、出願人は引用文献に記載されているのがファジイ理論に基づく技術であり、本発明のような入力パラメータZ2から選択された異なる組合せの入力パラメータがニューラルネットワークNN1~NNkの入力層のそれぞれに入力されることを示唆する記載がないと主張して特許査定を得た。たしかにそのとおりかもしれない。
 本件は、ニューラルネットワークの適用対象である内燃機関の制御装置ということとネットワークの構造との関係性が希薄であるので、引用文献を内燃機関の関連から持ってくる必要があったのかどうかは疑問がある。ニューラルネットワークの理論としては、本願発明のような考え方があった可能性はあり(例えばアンサンブル学習は近いと思う)、それらとの組み合わせも検討すべきであったのではないか。







2021年3月17日水曜日

[記事]スマホ1台2.5ドル ファーウェイ、5G特許の利用料公開 

(ポイント)
・ファーウェイは5G技術特許を世界で最も多く保有
・スマホ1台あたり上限は2.5ドル
・今後はスマホ以外の5G製品についても使用料の基準を整備
・ファーウェイ製品が米国から締め出されても、支払いが行われるようにするため

(出典)

[AI関連発明]構造物の異常判別方法(特許6664776号)

 (登録例12)構造物の異常判別方法

【請求項1】
  建築物からなる構造物から測定される振動データを状態判別モデルに入力することにより、前記構造物の異常を判別する構造物の異常判別方法であって、
  前記状態判別モデルは、データベースに格納されている正常振動データ及び異常振動データを含むビッグデータに基づいて、人工知能を含む機械学習及び統計学的手法を用いることにより作成したものであり、
  前記状態判別モデルに測定された前記振動データを入力し、当該状態判別モデルからの演算結果に基づいて、前記構造物の現在状態を判別することを特徴とする構造物の異常判別方法。

 請求項を読んで分かるように、このは発明は、状態判別モデルを予め機械学習及び統計学的手法で作成しておき、測定された振動データをこの状態判別モデルに適用するということを規定しているだけである。
 審査の過程では、構造物について、発明の構成を開示した文献が2件見つかったところ、出願人は、「建築物からなる」構造物であることに限定した。
 2回目の拒絶理由通知で、「建築物に対して振動データを測定し、何らかの状態モデルに当てはめて、当該建築物の異常を判定することは、当業者にとって周知の技術的事項である」として2件の文献が例示され「上記周知の建築物から測定した振動データに基づいて異常の判別を行うように構成することに、格別の技術的困難性および阻害要因は認められない。」と判断された。
 これに対し、出願人は、主引例である文献1,2と周知技術を示す文献6,7では、振動モードが大きく異なること等を主張して、これにより特許査定を得た。
 
 構造物については、発明の構成が開示されており、これを「建築物からなる」というように、適用対象を変えただけで進歩性が出るというのは、やや甘いような気がする。適用の対象の違いによって構成に工夫があるなら話は別であるが、構成としては同じというなら進歩性はないというのが通常の考え方と思われる。
 本件は、登録例ではあるが、今後、これと同じパターンで登録になるモデルケースとは言えない。

2021年3月16日火曜日

[EP]審査ガイドライン2021年改訂

 ICTの関係では、データベース管理システムに関するセクションがガイドラインに追加された(G-Ⅱ.3.6.4)。内容的には、コンピュータプログラムに関する特許の考え方と同じ考え方であり、特別目新しいものではないと思われるが、掲載されている例を紹介する。

 
(発明の技術的特徴として考慮される例)
・データベース管理システムの内部機能の特徴を規定すること
・構造化されたクエリの実行を必要とされるコンピュータリソース(CPU、メインメモリ、ハードディスク等)に関して最適化すること

(発明の技術的特徴とはならない例)
・保存される認知情報のみで定義されるデータ構造
・言語分析をコンピュータで自動的に行えるように、言語的考察を数学的モデルに変換すること
・ある用語が別の用語と意味が似ている確率を共起頻度の分析により計算する数学的モデル

(参考URL)
https://www.epo.org/law-practice/legal-texts/html/guidelines/e/g_ii_3_6_4.htm


[裁判例]【補足】システムを装置に変えることは容易か(令和3年(行ケ)10027号)

 2022年12月29日の投稿で、タイトル記載の裁判例(審決取消訴訟)でシステムを装置に変えることに進歩性が認められたことを報告した。その中で、同日に出された侵害訴訟の判決では、同じ引例を理由に、新規性なしと判断されたことに非常に驚いたとコメントした。  この件について、今月号の...