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2023年2月6日月曜日

[裁判例]着信者主導による通信方法(令和4年(行ケ)10013号)

 拒絶審決に対する審決取消訴訟である。裁判所は、結論としては、拒絶審決の結論を支持したが、その理由の中で審決の要旨認定が誤りであると判示した。
 出願に係る発明は、以下のとおりである。いつもなら概要を記載するのだが、この発明は、何を言わんとしているのかよくわからなかったため、単に引用した。

 【請求項1】 
 コンピュータによって実行される方法であって、 
 サービスの要求を受けるステップと、 
 前記要求を処理するために指示情報を使用するステップと、を含み、 
 前記指示情報が認証情報に基づいて設定された情報であり、 
 前記認証情報が物品から取得される情報であり、 
 前記物品が前記認証情報を利用者に提供する物品である、 方法。

 問題となったのは、「指示情報」(下線部)の解釈であり、審決は、次のように解釈した。
(審決の解釈)
ア 本願発明の「指示情報」は、本願明細書記載の「指示ファイル」の情報に対応するものであり、具体的な実施例としては、買い手の口座に対応する「指示ファイル」に設置(設定)した電子決済の「有効/無効フラグ」である(【0066】)。 

 審決は、上記の指示情報の解釈を前提として、本件発明と引用文献1との2つの相違点を認定し、それらの相違点について容易想到であるとした。

 これに対し、裁判所は次のように判断した。
(裁判所の解釈)
 本願発明の特許請求の範囲の請求項1の記載は、 「・・(省略。請求項1を引用。)・・」というものである。
 上記記載によれば、本願発明は、サービスの要求を受けるステップと、前記要求を処理するために「指示情報」を使用するステップと、を含むコンピュータによって実行される方法であり、本願発明の「指示情報」は、コンピュータがサービスの要求を処理するために使用する情報であって、利用者に提供する、物品から取得される認証情報に基づいて設定された情報であると解される。 
 そして、本願明細書には、本願発明の「指示情報」について定義した記載はもとより、「指示情報」の用語を明示的に用いた記載はなく、「指示情報」を特定の情報に限定する記載や特定の場所に保存された情報に限定する記載もないことに鑑みると、本願発明の「指示情報」は、上記のとおり、解釈するのが相当である。 

 上記したように、裁判所は、「指示情報」は、請求項に記載されているとおりに解釈するのが相当であると判示した。この解釈に基づき、以下のとおり、請求項1に記載された構成は引用文献1に実質的に記載されていると判断した。

(裁判所が行った対比)
 利用者が店舗において購入希望商品の発注を行う際、店舗端末22に付属したQRコード読取装置21は、携帯電話機1の表示部11に表示されたQR決裁証明鍵1201を読み取るとともに、携帯電話機1の正面あるいは側面に印刷された標識19,20から携帯電話製造番号と携帯電話番号を読み取り、その読取結果を店舗端末22に転送し、店舗端末22は、携帯電話機1から読み取った携帯電話製造番号、携帯電話番号及びQR決裁証明鍵1201を決裁承認要求として認証サーバ41に送信し、・・・携帯電話製造番号及び携帯電話番号の両方が正当なものであり、しかも店舗端末22から受信したQR決裁証明鍵1201の情報(全部または一部)が自分自身で発行した正規のものであると認められた場合には、認証サーバ41は詳細決裁承認を店舗端末22に返信し、店員が、利用者本人に購入意思を確認した上で、決済処理が行われていることを理解できる。 
・・・
 そうすると、かかる制御を行うための情報は、「コンピュータ」である認証サーバ41が、「サービスの要求」としてのQR決裁承認要求を認めるか否かを処理するために使用する情報であって、「物品」である携帯電話機1から取得される「認証情報」である携帯電話製造番号及び携帯電話番号に基づいて設定された情報であるといえるから、本願発明の「指示情報」に相当するものと認められる。

(引用文献)
 引用文献1は、セキュアな認証と決済を提供する商取引方法の発明である。


 「指示情報」を請求項に記載のとおりに解釈した結果、携帯電話機から読み取った”携帯電話製造番号及び携帯電話番号に基づいて設定された情報”は、「指示情報」に該当するとされた。
 携帯電話製造番号等は、審決が「指示情報」の具体例として挙げた、「電子決済の有効/無効フラグ」とは全く異なる。本件の出願人が携帯電話製造番号等までも「指示情報」として意図していたかどうかはわからないが、進歩性なしと判断された。
 新規性、進歩性の判断においては、発明の要旨認定は特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであるとの考え方が表れた例といえる。

 
 

2022年3月19日土曜日

[裁判例]サブコンビネーション発明の要旨認定(知財高裁令和4年2月10日)

 知的財産権の権利者と利用者のマッチングの発明の拒絶審決に対する審決取消訴訟である。
 発明は、権利活用を希望するユーザ側の情報処理装置に関するものであるが、特許請求の範囲には、次のように、サーバ側の構成(構成要件(C)等)も混在していた。

【請求項1】
(A)第1ユーザによって操作される情報処理装置であって, 
(B)事業に使用されていないが前記第1ユーザが活用を希望する知的財産権を,前記第1ユーザが保有する1以上の知的財産権の中から特定し,当該知的財産権に関する公報の情報を,サーバによる第2情報及び第3情報の抽出の根拠となる情報を含む第1情報として,前記サーバに通知する公報通知手段と, 
(C)前記サーバにおいて, 
(C1)前記公報通知手段により通知された前記第1情報により特定される前記公報に含まれ得る第1書類の内容のうち,所定の文字,図形,記号,又はそれらの結合が,前記第2情報として抽出され, 
(C2)当該公報に含まれ得る第2書類の内容のうち,抽出された前記第2情報と関連する文字,図形,記号又はそれらの結合が,前記第3情報として抽出され, 
(C3)所定の文字,図形,記号,又はそれらの結合を第4情報として予め登録している複数の第2ユーザのうち,抽出された前記第3情報と関連のある第4情報を登録した者が,通知対象者として決定され, 
(C4)当該通知対象者の端末に対して,当該知的財産権に関する情報が第5情報として通知され, 
(C5)当該通知対象者の端末から,当該第5情報に関する当該知的財産権に対して当該通知対象者が興味を有する旨の第6情報が取得されて, 
(C6)当該第6情報に基づいて,前記複数の第2ユーザの中に当該知的財産権に興味を有する者が存在することを少なくとも示す情報が,第7情報として 生成され, 
(C7)前記情報処理装置により前記第1情報が通知された結果として生成さ れた当該第7情報が,当該情報処理装置に送信された場合において, 
(D)当該第7情報を受付ける受付手段と, 
(E)を備える情報処理装置。

 審決は、サーバ側の構成については、直接的に情報処理装置を限定する特定事項ではないとして、以下のように発明を認定した。

【審決が認定した請求項1の発明】
(A)第1ユーザによって操作される情報処理装置であって, 
(B')事業に使用されていないが前記第1ユーザが活用を希望する知的財産権を,前記第1ユーザが保有する1以上の知的財産権の中から特定し,当該知的財産権に関する公報の情報を,前記サーバに通知する公報通知手段と, 
(D')知的財産権に興味を有する者が存在することを少なくとも示す情報であって,情報処理装置により当該知的財産権に関する公報の情報がサーバに通知された結果として生成され,サーバから情報処理装置に送信された情報を受付ける受付手段と, 
(E)を備える情報処理装置。

 裁判所は、次のように述べて、審決の認定に誤りはないと判断した。

(総論)
「ところで,サブコンビネーション発明においては,特許請求の範囲の請求項中に記載された「他の装置」に関する事項が,形状,構造,構成要素,組成,作用,機能,性質,特性,行為又は動作,用途等(以下「構造,機能等」という。)の観点から当該請求項に係る発明の特定にどのような意味を有するかを把握して当該発明の要旨を認定する必要があるところ,「他の装置」に関する事項が当該「他の装置」のみを特定する事項であって,当該請求項に係る発明の構造,機能等を何ら特定してない場合は,「他の装置」に関する事項は,当該請求項に係る発明を特定するために意味を有しないことになるから,これを除外して当該請求項に係る発明の要旨を認定することが相当であるというべきである。

(各論:一例として構成要件Cのみ)
「本件補正後発明の構成要件(C)及び(C1)ないし(C7)は,情報処理装置から知的財産権に関する公報の情報(第1情報)の通知(送信)を受けた サーバが,第1情報から第2情報を抽出し,さらに第3情報を抽出し,第3情報と第4情報とから通知対象を決定して当該公報の情報を第5情報として通知対象者の端末に通知し,その後,通知対象者の端末から第6情報を受信し第7情報を生成して情報処理装置に送信するという,サーバが行う処理を特定したものであって,情報処理装置が行う処理を特定するものではない。 すなわち,情報処理装置から通知された情報に対して,どのような処理を行い,どのような情報を生成して情報処理装置に送信するかという処理は,サーバが独自に行う処理であって,情報処理装置が行う処理に影響を及ぼすものではない。 
 一方,情報処理装置は,第1情報をサーバに送信し,第7情報をサーバから受信するものであるところ,かかる情報処置装置の機能は,サーバに所定の情報を送信してサーバから所定の情報を受信するという機能に留まり,当該機能は,上記構成要件(C)及び(C1)ないし(C7)によって影響を受けたり制約されるものではない。このように,構成要件(C)及び(C1)ないし(C7)は,情報処理装置の機能,作用を何ら特定するものではない。 
 よって,本件補正後発明の認定に当たっては,構成要件(C)及び(C1) ないし(C7)を発明特定事項とはみなさずに本件補正後発明の要旨を認定すべきであり,これと同旨の本件審決に誤りはない。 」


 例えば、ユーザの携帯端末によってサーバにアクセスして処理を行う発明だと、サーバの構成は見えにくいので、権利行使が可能なように、サーバの構成を除外して携帯端末の処理だけを規定した発明を記載することがある。複数主体が実施に絡む場合には、クレームの仕方を工夫することで実施行為を捕捉することができるという論調も見られる。
 権利行使を見据えたクレームドラフティングはもちろん重要である。携帯端末だけで発明を特定できれば侵害行為を捉えやすい。しかし、携帯端末側に特徴がない場合には、サーバ側の構成が捨象された結果、この判決のように何の変哲もない構成のみの発明と認定されてしまうおそれがあることにも注意を要する。



2020年10月21日水曜日

[裁判例]医薬品相互作用チェックシステム事件(知財高裁 令和2年10月7日)

 無効審判の不成立審決に対する取消訴訟である。対象の特許は、「医薬品相互作用チェックシステム」であり、「一の医薬品から見た他の一の医薬品の場合と,前記他の一の医薬品から見た前記 一の医薬品の場合の2通りの主従関係で,相互作用が発生する組み合わせを個別に格納する相互作用マスタ」を有している。

 これに対し、引用発明も医薬品相互作用チェックをする装置である。引用発明は、「一の医薬品から見た他の医薬品の一般名コード,薬効分類コード,BOX コードかの少なくともいずれかについて,相互作用が発生する組み合わせを格納し, また,他の一の医薬品から見た医薬品の一般名コード,薬効分類コード,BOXコードかの少なくともいずれかについて,相互作用が発生する組み合わせを格納する」構成を有し、争点となった。

 裁判所は、対象特許における「医薬品」について以下のとおり判断した。

「これらによると,本件発明1においては,「相互マスタ」には,「一の医薬品」及 び「他の一の医薬品」として,「降圧剤」などといった単なる薬効を入力するだけでは足りず,販売名(商品名)又は一般名を記載するか,薬価基準収載用薬品コードであれば薬効,投与経路・有効成分(7桁のコード)以下の下位の番号によって特定されるものなど,具体的に当該医薬品の薬効,投与経路及び有効成分が特定できるレベルのものを登録する必要があると解される。」

 原告は、「医薬品」を上記のように解釈するのは、リパーゼ事件判決に反すると主張している。

 ここで、リパーゼ事件判決とは、発明の要旨認定に関する最高裁判決である。この事件において、発明の要旨認定は、「特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであり、特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない」と判示された。

 裁判所は、リパーゼ事件判決との関係について以下のように述べた。

「特許請求の範囲から発明を認定するに当たり,特許請求の範囲に記載された発明特定事項の意味内容や技術的意義を明らかにする必要がある場合に,技術常識を斟酌することは妨げられないというべきであり,リパーゼ事件判決もこのことを禁じるものであるとは解されない。 」

 

除くクレーム(令和6年(行ケ)第10081号)

 1 除くクレームについて  特許実務において、引用文献と差別化を図るために、構成要件の一部を除くことが行われることがある。新たな技術的事項を導入しないものである場合には構成要件の一部を除くことが認められるが(ソルダーレジスト大合議事件(平成18年(行ケ)第10563号))、...