2020年6月12日金曜日

[EP]ゲーム方法等の審査ガイドライン

 EPCの審査ガイドラインでは、G3.5.2において、ゲーム方法等の審査について記載している。

パートG 特許性

章 発明

3 除外されるリスト

3.5 精神的活動、ゲーム、ビジネスのためのスキーム、ルール及び方法

3.5.2 ゲームのためのスキーム、ルール及び方法

 ガイドラインは、EPOのホームページに記載されているので、そちらを参照していただくとして、内容をかいつまんで紹介する。

 まず、原則として、ゲームルール自体は、どんなにオリジナリティがあっても進歩性を生まない。EPOの審査においては、非技術的な要素は考慮されないからである。逆に、ゲームルールを特定する技術的手段を特定していれば技術的特徴を有する。

 ゲーム実装による進歩性は、エンジニアやゲームプログラマ等の当業者の視点で評価する。非技術的手段を言い換えるだけ(ゲームトークンの数を監視するための「勝利計算手段)、または、要約するだけ(「ゲームトークン」の代わりに「オブジェクト」)では、非技術的要素であり、進歩性に関係しないと記載されている。こうした観点で、クレームの構成要件をチェックすると良いかもしれない。

 日本の実務と異なることとして、日本では、発明の効果として娯楽性や興趣性に言及した明細書が見られるが、ガイドラインでは、娯楽性や興趣性は技術的効果ではないと明記されている。例えば、ゲームスコアや腕前のレーティングを計算する方法を構成要件とし、これにより娯楽性が向上すると記載しても、技術的要素とは考慮されない。


2020年6月4日木曜日

[審査]AI関連発明の進歩性

 AI関連発明の記載要件に続いて、進歩性についても特許庁が示している事例を、2例、紹介する。

(例1)
【請求項 1】
 情報処理装置によりニューラルネットワークを実現するダムの水力発電量推定システムであって、
 入力層と出力層とを備え、前記入力層の入力データを基準時刻より過去の時刻から当該基準時刻までの所定期間の上流域の降水量、上流河川の流量及びダムへの流入量とし、前記出力層の出力データを前記基準時刻より未来の水力発電量とするニューラルネットワークと、
 前記入力データ及び前記出力データの実績値を教師データとして前記ニューラルネットワークを学習させる機械学習部と、
 前記機械学習部にて学習させたニューラルネットワークに現在時刻を基準時刻として前記入力データを入力し、現在時刻が基準時刻である出力データに基づいて未来の水力発電量の推定値を求める推定部と、
 により構成されたことを特徴とする水力発電量推定システム。
 【請求項 2】
 請求項 1に係る水力発電量推定システムであって、
 前記入力層の入力データに、さらに、前記基準時刻より過去の時刻から当該基準時刻までの所定期間の上流域の気温を含むこと、を特徴とする水力発電量推定システム。

 引用発明として、上流域の降水量、上流河川の流量及びダムへの流入量を説明変数、未来の水力発電量を目的変数として重回帰分析によってダムの水力発電量を推定するシステムが存在した。
 請求項1と引用発明との違いは、回帰モデルを行うかニューラルネットワークを用いた機械学習を用いるかという点であるが、回帰モデルに代えてニューラルネットワークを用いることは、当業者が容易に想到し得るから、請求項1は進歩性を有しない。
 請求項2は、入力データに上流域の気温を含むことにより、雪解け水による流入量増加の影響にも対応できる発明である。上流域の気温を変数として用いることは従来知られていなかったから、進歩性を有する。
 なお、本件は、発明のポイントは、上流域の気温という新しい変数を見出したことにあり、回帰モデルを用いて発電量を推定するシステムであったとしても進歩性を有すると考えられ、もっとプリミティブにテーブルを参照するようなシステムであったとしても進歩性を有する可能性がある。

(例2)
【請求項 1】
 回答者と質問者の会話に係る音声情報を取得する音声情報取得手段と、
 前記音声情報の音声分析を行って、前記質問者の発話区間と、前記回答者の発話区間とを特定する音声分析手段と、
 前記質問者の発話区間及び前記回答者の発話区間の音声情報を音声認識によりそれぞれテキスト化して文字列を出力する音声認識手段と、
 前記質問者の発話区間の音声認識結果から、質問者の質問種別を特定する質問内容特定手段と、
 学習済みのニューラルネットワークに対して、前記質問者の質問種別と、該質問種別に対応する前記回答者の発話区間の文字列とを関連付けて入力し、前記回答者の認知症レベルを計算する認知症レベル計算手段と、
  を備え、
 前記ニューラルネットワークは、前記回答者の発話区間の文字列が対応する前記質問者の質問種別に関連付けて入力された際に、推定認知症レベルを出力するように、教師データを用いた機械学習処理が施された、
 認知症レベル推定装置。

 従来は、質問と回答の問答を入力、認知症レベルの診断結果を出力としたニューラルネットワークを用いた認知症レベル推定装置が知られていたところ、請求項1の発明では、単に質問を用いるのではなく、質問から特定した質問種別(食事、天気、家族等)を用いる点が相違する。そして、この構成により、認知症レベルを高精度に推定できる。
 ニューラルネットワークにおいて、入力データに前処理を施すことは常套手段であるが、この発明のように、質問から質問種別を特定してこれを入力データとして用いることは知られておらず、技術常識でもないから、進歩性を有する。

 以上のように、AI関連発明の進歩性の判断としては、単に、ニューラルネットワークを適用した、というだけでは進歩性はないが、新しい変数を用いたとか、入力データの前処理を行ったという工夫があれば、進歩性が認められる可能性があると言える。
 

[裁判例]【補足】システムを装置に変えることは容易か(令和3年(行ケ)10027号)

 2022年12月29日の投稿で、タイトル記載の裁判例(審決取消訴訟)でシステムを装置に変えることに進歩性が認められたことを報告した。その中で、同日に出された侵害訴訟の判決では、同じ引例を理由に、新規性なしと判断されたことに非常に驚いたとコメントした。  この件について、今月号の...