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2021年4月16日金曜日

[記事]利益相反について

(ポイント) 以下は、原審(令和2年(ラ)10004)の判決文からの情報も含む。

・利益相反に関する最高裁判決である。関係条文は次のとおり。
[弁護士法]
第二十五条 弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件

[弁護士職務基本規程]
第五十七条 所属弁護士は、他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む)が、第二十七条又は第二十八条の規定により職務を行い 得ない事件については、職務を行ってはならない。ただし、職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。

・事実関係
 塩野義製薬 vs 米ギリアドサイエンシズの特許侵害訴訟の関係である。塩野義製薬で上記訴訟の準備に深く関わったC弁護士が、ギリアドの代理人A弁護士,B弁護士の事務所に転職した。なお、C弁護士は、1か月余りで退職した。
 なお、ギリアドの主張としては、C弁護士に秘密漏洩なきことを誓約させるほか、A弁護士,B弁護士とC弁護士との間で十分な情報遮断措置をとっていたから、弁護士職務基本規程57条に定める「職務の公正を保ち得る事由がある」というものである。

・原審(知財高裁)
 「職務の公正を保ち得る事由」の意義は、「依頼者の信頼が損なわれるおそれがなく,かつ,先に他の所属弁護士(所属 弁護士であった場合を含む。)を信頼して協議又は依頼をした当事者にと って所属弁護士の職務の公正らしさが保持されているものと認められる事由をいうものと解するのが相当である。」とした上で、本件訴訟は利害の対立が大きい事件であり、C弁護士が訴訟準備の中心的役割を担っていたことや、C弁護士の転職と時期を同じくして事件の代理人がD弁護士からA弁護士らに代わったことからすると、塩野義にとって、「A弁護士らが基本事件の相手方の訴訟代理人として職務を行うことについて,その職務の公正らしさに対する強い疑念を生じさせるものであるものと認められる。」として、塩野義の主張を認めた。

・最高裁の判断
 同僚に利益相反を抱える弁護士がいたとしても、これを「具体的に禁止する法律は見当たらない」として、排除の申立て自体ができないと判断した。

 「具体的に禁止する法律は見当たらない」というのは、弁護士職務基本規程には同僚についての禁止規定があるが、弁護士法には規定がないということなのだろう。つまり、日弁連の会規にしたがって罰せられることはあっても、裁判で強制的に排除することはできないということと理解される。
 記事によれば、「いかなる条件で関与が禁止、容認されるのかを具体的な規則で規律することは日弁連に託された喫緊の課題の一つだ」とする補足意見をつけたとあるので、最高裁は利益相反についてきちんとしたルールが必要と考えているようである。

(参考URL)

2020年10月11日日曜日

[最高裁]予測できない顕著な効果(令和元年8月27日)

 予測できない顕著な効果に関する最高裁判決である。事件の経緯は以下のとおりである。

[特許庁前審決] 引用文献1と引用文献2との組合せは動機づけられない。

[前訴判決]   引用文献2の適用は容易に想到し得た。

[特許庁本件審決]組合せは容易だが、当業者が予測し得ない格別顕著な効果がある。

[原審判決]   本件各発明の効果は予測し難い顕著なものとはいえない。

 最高裁は、以下のとおり、他の化合物において本件化合物と同種の効果を有することは、本件化合物の顕著な効果を直ちには否定することにはならないと判示した。

「上記事実関係等によれば,本件他の各化合物は,本件化合物と同種の効果であるヒスタミン遊離抑制効果を有するものの,いずれも本件化合物とは構造の異なる化合物であって,引用発明1に係るものではなく,引用例2との関連もうかがわれない。そして,引用例1及び引用例2には,本件化合物がヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制作用を有するか否か及び同作用を有する場合にどの程度の効果を示すのかについての記載はない。このような事情の下では,本件化合物と同等の効果を有する本件他の各化合物が存在することが優先日当時知られていたということから直ちに,当業者が本件各発明の効果の程度を予測することができたということはできず,また,本件各発明の効果が化合物の医薬用途に係るものであることをも考慮すると,本件化合物と同等の効果を有する化合物ではあるが構造を異にする本件他の各化合物が存在することが優先日当時知られていたということのみをもって,本件各発明の効果の程度が,本件各発明の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであることを否定することもできないというべきである。 」

 その上で、原審判決の問題点について以下のとおり指摘した。

「原審は,結局のところ,本件各発明の効果,取り分けその程度が,予測できない顕著なものであるかについて,優先日当時本件各発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものか否か,当該構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点から十分に検討することなく,本件化合物を本件各発明に係る用途に適用することを容易に想到することができたことを前提として,本件化合物と同等の効果を有する本件他の各化合物が存在することが優先日当時知られていたということのみから直ちに,本件各発明の効果が予測できない顕著なものであることを否定して本件審決を取り消したものとみるほかなく,このような原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。 」

 最高裁は、組み合わせが容易であることを前提として効果の顕著性について評価をすることは誤りであると指摘した。結局、本件審決が、組合せは容易だが当業者が予測し得ない格別顕著な効果があると判断したように、組み合わせが容易か否かということと、発明の構成から予測し得ない効果があるか否かということは、別々に評価しなければならない。

除くクレーム(令和6年(行ケ)第10081号)

 1 除くクレームについて  特許実務において、引用文献と差別化を図るために、構成要件の一部を除くことが行われることがある。新たな技術的事項を導入しないものである場合には構成要件の一部を除くことが認められるが(ソルダーレジスト大合議事件(平成18年(行ケ)第10563号))、...