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2025年8月15日金曜日

「特許審査におけるAIの活用」(パテント2025年9月号より)

 2017年度の人工知能技術の活用に向けたアクション・プランの公表以降に、特許庁が行ってきたAI活用に関する様々な実証事業についての報告である。

具体的には、以下のタスクを実施したとのことである。
・機械分類付与タスク
 特許文献にFI、Fターム等の分類を付与する。
・類似文章のランキングタスク
 審査対象の発明をクエリとして、類似候補文章群を類似性の近い順にランキングして並べる。
・特許文献の要約タスク
 特許文献を要約し、読みやすさと内容の正確さを評価する。
・他庁のドシエ情報の要約タスク
 日欧で出願され且つヨーロッパ特許庁で審査が完了している案件について、サーチレポートや日本の拒絶理由通知書、意見書、補正書を要約し、読みやすさと正確性を評価する。
・表の構造化タスク
 画像中の表をison形式の構造化データにする。また、構造化データにキャプションを付ける。

 特許庁がこれまで取り組んできたことは分かるが、特許審査の中心である特許調査に対してのタスクがないのは残念であった。特許調査に使えそうなAIの登場は最近のことなのでそれも仕方がないこととは思う一方で、報告書を作成できそうなタスクを選定しているような気もした。
 次は、特許調査に挑んだ結果報告を期待したい。

2025年4月27日日曜日

装置クレームとシステムクレーム(KSIニュースレター)


次の3例を考える。
・装置クレーム  「AとBとCを備える装置」
・システムクレーム1 「AとBとCを備えるシステム」
・システムクレーム2 「サーバが A とBとを備え、端末がCを備えるシステム。」

(権利範囲の観点)
装置クレームとシステムクレームは権利範囲が異なる。
対象製品が装置の場合、装置クレームとシステムクレーム1で結論が異なり得る(平成21年( ワ) 第35184号)。

(特許性の観点)
装置の構成要件を分散配置しただけなら進歩性はないと考えられる(平成30年(行ケ)第10091号)。
ただし、何でもかんでも進歩性なしとはならない可能性がある。装置クレームについて、「当該処理をユーザ端末のみで 行うことが、提供するサービスの内容いかんにかかわ らず適宜選択可能な事項であるとはいえない。」(令和3年(行ケ)10027号)


2025年2月19日水曜日

弁理士会研修「最新技術と知財:生成AIの特許事情」

[研修の備忘]

〇国内生成AI特許の出願傾向
・2024年12月までの調査で846件が公開、373件が登録になっている。
・2023年4月から生成AIの出願が急増している(2022年11月にChatGPTの発表があった)。ただし、2023年4月の出願件数が多いのはほとんどがソフトバンクグループの出願である。2024年12月までの約800件の出願のうち、約300件(驚!)がソフトバンググループ。
・2024年後半から公開件数も急増している。
・国内生成AIの特許は、LLMを活用するアプリケーション、サービスに関する特許がほとんどである。

〇審査基準のおさらい
・人間が入力したクエリをそのまま生成AIに入力する→進歩性なし
・人間が入力したクエリを加工して生成AIに入力する→進歩性ありの可能性

〇個別特許の検討
 こうした例を一気に紹介してもらえるのはありがたい。ざっと聞いてみて納得感があり、個人的な感覚とずれがないのを確認できたのはよかった。

・法律文書を修正するプログラム(特許7506867)
 修正したい箇所と評価情報の一部をプロンプト入力すること。

・会話仲介装置(特許7445108)
 会話が指定会話か判定し、指定会話の場合に訴求対象の商品を選択し広告を出す。

・社内の承認ワークフローを設定する装置(特許7430953)
 組織役職情報に基づいてルールを生成する。

・求職者のレジュメを生成する装置(特許7353696)
 過去の経歴と応募する企業の情報に合わせレジュメを調整する。

・電子決済サービスに関する業務効率化(特許7393579)
 先月いくら使ったかの問いに対し、利用履歴から回答生成する。

・質問に対する回答する装置(特許7441366)
 質問に特化したデータベースを選択して回答する。

・電子カルテ(特許7441391)
 カルテの内容を提供し電子カルテ内容のプロンプトを生成する。

・電子カルテ(特許7421000)
 患者の診療情報を生成AIに入力しEQ-5D-5Lに対応したQOLを数値化して出力する。

・ストリーミングサーバ(特許7325787)
 ライブストリーミング中にメッセージを受信し、ユーザがユーザリストに入っているかとメッセージの内容でメッセージの表示タイプを決める。

・仮想人物対話装置(実用新案3241834)
 キャラクタのプロフィール情報を入力すると、看護師の容姿の3D画像を生成する。

2023年4月25日火曜日

[米国]最近の裁判例

LESの米国問題WGのメモ。詳細は、後日発行されるLES JAPAN NEWSを参照。

Broadcom Corp. v. International Trade Commission (Fed. Cir. Mar. 8, 2022)

 国内産業要件を満たさないとしたITC決定を支持した判決。
 ITCでの差し止めが認められるためには、特許権者は、US国内で発明を実施している必要がある。
 Broadcom社のチップは、特許の構成要件の一部を満たしておらず、また、構成要件を充足する製品が製造されていることの証拠が不十分だったため、国内産業要件が認められなかった。


Lite-Netics, LLC v. Nu Tsai Capital LLC, DBA Holiday Bright Lights (Fed. Cir. February 17, 2023)

 LiteがHBL及びその顧客に特許権侵害しているとの通知を送ったことに対し、HBLが差し止めを求め、地裁は差し止めを認めたが、CAFCは地裁決定を覆した。
 CAFCは、過去の判例を引用し、「実際、特許権者は、その権利の性質と範囲に関する信念に基づいて善意で行動し、『それらの権利が何であるかを誤解している場合でも』、それらの権利を主張することを完全に許可されている。」と述べた。



2022年11月10日木曜日

「欧州におけるコンピュータ実装発明」(パテント2021年2月号より)

 欧州におけるコンピュータ実装発明(CII)の特許適格性や進歩性についての論文である。特許適格性のハードルが非常に低いことや、技術的特徴と非技術的特徴の両方を含む混合型クレームの判断の仕方については、おなじみの話のように感じた。
 
 個人的には、この論文での学びは、進歩性をクリアするためには、非技術的な課題を明細書に書くべきではないということであった。そのこころは、「明細書が技術的効果と非技術的効果を潜在的に進歩性を備える構成に関連付けている場合、非技術的効果はこの潜在的に進歩性を備える構成を非技術的にする。簡単に言えば、非技術的効果は技術的効果を打ち負かす。」ということである。
 どうしても非技術的効果に言及したい場合には、出願の全体的な背景に関連させて非技術的効果について漠然と言及する、あるいは、進歩性の議論に用いることができない既知の構成に関連させて非技術的効果に言及する、ということが考えられるそうである。
 
 ソフトウェア関連発明の場合、最終的には、非技術的効果を狙ったものも多く、日本の明細書では、普通に効果として記載しているように思う。しかし、欧州では、それを正直に書いてしまうと厳しいようなので、欧州向けには明細書を変える必要があるのかもしれない。
 
 

 

2022年10月21日金曜日

「AI関連発明の権利行使に関する留意点の検討について」(パテント2022年9月号より)

 昨今のAI関連発明の特許件数増加に伴い、 AI関連発明の権利行使については注視すべき論点である。
 タイトルに記載した論文は、令和3年度特許委員会第3部会第1チームによるものである。この論文では、権利行使しやすいAI関連発明の請求項とはどのようなものか、という仮説をたて、仮想登録例、仮想裁判例、審査基準の事例をもとに、仮説の検証・考察を行っている。仮説は、権利行使しやすいAI関連発明の請求項とは、次の2つの要件を満たす請求項である。
1.内部の処理を請求項中に書かない。
2.入力と出力の関係を規定した請求項を書く。

 仮説の検証・考察は、仮想登録例だと権利行使できそうかの検討、仮想裁判例の検討と請求項の変更案の検討、審査基準の事例をどのように改善すれば権利行使できそうかの検討、のアプローチで構成されている。

 この論文では、仮説に沿った請求項を作るためのアイデアとして、次のような方法が提案されている。

・学習アルゴリズムを特定しないために、「ニューラルネットワーク」のような用語は使わず、「学習済みモデル」等とする。
→これは基本だと思うので、ぜひ実践すべき。

・学習工程と算出工程とを含む場合、学習工程を削除し、算出工程に学習工程に関する記載を含める。
→算出工程に学習工程を含めた場合、そうした学習を経て生成された学習済みモデルで算出する、という要件になり、結局のところ学習工程も問題になるので、立証が容易になるのかは疑問である。ただし、学習工程を行う者と算出工程を行う者が異なる場合には、算出工程を行う者に対して直接侵害を訴えることができるという効果はあると思う。

・機械学習が教師あり学習に限定されないように、教師データとして出力データを特定しない。
→確かに、入出力の両方を教師データとすると教師なし学習は外れてしまう。もし、教師あり学習で発明提案を受けたとしても、教師なし学習が可能で、入力データだけで特徴が出せるなら、出力データを特定しないことは検討に値する。

2021年8月7日土曜日

「進歩性の拒絶理由に対する各種反論の有効性」(パテント2021年7月号より)

「進歩性の拒絶理由に対する各種反論の有効性」パテント2021年7月号田中研二先生の論文より。 
 この論文では、進歩性の拒絶理由通知に対して意見書だけで反論した場合の有効性を調査している。全部で716件を調べたとのことで頭が下がる。
 全716件の特許査定率は82.5%とのことで、全案件の特許査定率85.2%と遜色がなかった。
 意見書だけで反論したにしては意外に特許査定率が高いと感じたが、意見書だけで心証を覆せる自信があった案件の集合だからではないかと思われる。

 さて、分析にかかる各種反論は、下記の5種類である。
①事実認定に対する反論
②設計事項ではない反論
③動機づけがないとの反論
④阻害要因が存在するとの反論
⑤有利な効果を奏するとの反論

 これらのうち、反論の有無と審査結果との間に有意な結果が見られたのは①事実認定に対する反論だけであり、②~⑤の反論は、審査結果に影響しなかった。これは感覚に合う結果である。①は組み合わせが容易と考えるか、という評価の問題ではなく、引用発明等の認定が間違っているということだからである。

 少し意外に思えたのが、裁判例では進歩性ありと認定される場合に、④阻害要因があるという理由をよく見かけるが、審査では阻害要因の反論がそれほど効果的ではなかったという結果である。これは裁判の俎上に上がるのは、審査のフィルタにかけられたものであり、①事実認定の誤りがあれば審査の段階で進歩性ありと判断されるため①の事案が少なく、④阻害要因を理由として判断が覆された例が目立ってしまうだけかもしれない。そういった意味では、裁判例で阻害要因が認められているからといって阻害要因を探すのではなく、④阻害要因よりも①事実認定についての反論を中心に検討すべきであろう。

 なお、④阻害要因をさらに小分類に分けて調査を行った結果から、田中先生は、「審査基準に記載された類型でない限り、多少の不利益があっても決定的な阻害要因といえない、というのが多くの審査官の共通見解であると考えられる」という見解を述べられている。このことから、阻害要因について反論する際には、どの類型の阻害要因に該当するのか、審査基準ないし裁判例を示すことが一つのポイントではないかと思う。
 

2021年1月21日木曜日

AIを用いた特許調査

  知財管理2021年月号に、「AIを用いた特許調査における業務効率化に関する研究」と題する記事があった。内容は、AIを用いたスクリーニング調査において、教師データが調査結果にどういう影響を与えるかの検証結果である。

 検証の対象となった調査ツールは、見つけたい発明と類似の公報を正例、類似しない公報を負例として学習を行い、学習済みのモデルを使って調査を行うというタイプのものである。教師データは多い方が正解率が上がることや、教師データの正例と負例との距離が近いほど正解率は下がるといった結果は感覚的なところと整合していた。少し違っていたのが、学習に用いる項目数(特許請求の範囲、要約、発明等)が多い方が正解率が下がったという結果である。「釣り具分野」でしか検証されていないし、今回だけの結果でどうこうということはないが、そういうこともあるんだなと。あと、教師データは、文字数を統一(短い教師データは、同じ文章をコピペ)すると正解率が上がった。

 こうした結果を見ると、どういう細工をするとどういう結果が出るのか、といったAIの癖みたいなものを理解していないと、ツールを使いこなせないという印象である。

 最近では、所望の発明を自然文で入力すると、それに近い公報を検索するAI調査のツールもあるが、それにしてもどういう表現をするかによって結果が異なるということがありそう。



2021年1月15日金曜日

特許のシグナリング機能

  特許には、製品の質や企業の価値を伝達する機能がある、という論調を見つけたのでここにメモする。

(1)消費者に対するシグナリング機能

「2. 企業の知的財産権取得に関する実験経済学的分析」(平成30年度我が国の知的財産制度が経済に果たす役割に関する調査報告書)において、被験者に対して、「特許取得済」「意匠と登録済」「特許出願中」等のラベルを付与した説明文と「ラベルなし」の説明文を見せて、その製品を購入する際の支払意思額を入力させるという実験を行った。

 この結果によれば、製品の品質等に関する不確実性が高いときや信頼感が醸成されていないときに(製品ライフサイクルの導入期等)、知的財産権のラベルは支払意思額を高める効果があった。また、どのような機能に対して権利が取られているかを明確に表示する方が効果が高かった。

 知的財産のラベルは技術等の裏付けになるので、支払意思額を高めそうなことを漠然とは想像するが、それが確からしいことが分かった。


(2)資金調達におけるシグナリング機能

 「スタートアップ企業にとっても特許権の取得は重要!」(特許行政年次報告書2019年版)というコラムにおいて、特許出願後にベンチャーキャピタルから資金を得られる確率がどのように変化するのかを記載している。これによれば、特許出願をした場合としなかった場合の資金獲得確率の比率は、下記のとおり。


 コンピュータ産業では、特許出願をした場合はしなかった場合に比べ、資金獲得確率はなんと10.99倍!

 特許出願という事実が効いて資金を獲得したのか、特許出願できるような技術力のある会社だったからなのか、という気は少ししたが、特許出願後からの経過日数との関係を見れば、特許出願が効いたという整理でいいのかな。






2020年4月30日木曜日

「AI・IoT技術の時代にふさわしい 特許制度の検討に向けて」


 特許庁は、産業構造審議会知的財産分科会(産構審)で、「AI・IoT技術の時代にふさわしい 特許制度の検討に向けて」を一つの議題として検討を行っている。
2020年4月2日に行われた特許制度小委員会の配布資料に、掲題についての方向性のまとめがあった。
https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/tokkyo_shoi/document/37-shiryou/03.pdf

 AI技術の保護の在り方、ビジネスモデルの多様化への対応、データ保護の在り方等、特許制度の課題や検討の方向性等が示されている。ビジネスモデルの多様化に関しては、いわゆる「プラットフォーム型ビジネス」の損害額の認定が論点として挙げられている。確かに、特許発明と関係性の薄いサービスへの課金や広告収入で収益をあげている場合には、クレームドラフティングで何とかできる範囲を超えているように思う。それでも、発明としてはやや関連の薄い構成を含むことになったとしても、できる手は打っておいたほうが良いのかもしれない、と考えさせられた。

除くクレーム(令和6年(行ケ)第10081号)

 1 除くクレームについて  特許実務において、引用文献と差別化を図るために、構成要件の一部を除くことが行われることがある。新たな技術的事項を導入しないものである場合には構成要件の一部を除くことが認められるが(ソルダーレジスト大合議事件(平成18年(行ケ)第10563号))、...