2022年3月27日日曜日

[裁判例]遠隔監視方法事件(知財高裁令和3年11月25日)

 「遠隔監視方法および監視制御サーバ」という特許に基づく特許侵害事件の控訴審である。
 発明は、従来、家庭への侵入者や家庭内の異常を警備会社へ通知するホームセキュリティシステムが知られているが、施設の所有者や管理責任者が、一次的に当該侵入や異常発生を知ることができなかったという課題に鑑みてなされたものである。すなわち、監視装置にて異常を検出すると、撮影された画像を顧客の携帯端末に送信する。また、携帯端末からの遠隔操作により、他の領域を参照することができるようにしたものである。

【請求項1】
1A 施設中の所定の位置に配置された監視装置からの情報を受理し、当該監視装置からの情報に基づき、所定のデータを関連する携帯端末に伝達するように構成された遠隔監視方法であって、
1B 監視装置による異常検出によって前記監視装置により撮影された画像を受理するステップと、
1C 前記受理された画像を監視装置と関連付けて記憶するステップと、前記受理された画像のうち、少なくとも所定の部分をコンテンツとして形成するステップと、
1D 前記監視装置の顧客の所持する携帯端末を特定するステップと、前記携帯端末に通知すべきメッセージを作成するステップと、前記通知すべきメッセージ、および、前記コンテンツを、前記携帯端末に伝達するステップと、を備え、
1E 前記コンテンツは、初期的に受理された画像のうち、略中央部分の画像の領域から構成され、前記コンテンツを受理した携帯端末からの遠隔操作命令であって、前記受理された画像のうち、他の領域の画像を参照することを示す命令であるパンニングを含む遠隔操作命令を受理するステップと、
1F 前記パンニングを含む遠隔操作命令にしたがって、前記受理され或いは記憶された画像のうち、前記中央部分の画像の領域から縦横左右の何れかにずらした画像の領域を特定し、当該特定された画像の領域から構成されるコンテンツを形成するステップと、
1G 前記特定された画像の領域から構成されるコンテンツを前記携帯端末に伝達するステップと、を備えた
1H ことを特徴とする遠隔監視方法。

 原審では、被告製品ではパソコン等の固定式のモニタを使用していることから、対象特許の「携帯端末」に該当しないとして、文言侵害および均等侵害の成立を否定した。
 控訴審では、「携帯端末」に加えて、「パンニング」についても、文言侵害および均等侵害の成立を否定した。
 裁判所の判断の概要は、対象特許はいずれの場所でも通知を受け取ることができるという携帯端末の特性を利用した点と、また、携帯端末の画面の小ささをカバーするためにパンニング可能とした点が本質的部分であるからこれを備えない被控訴人製品は非侵害というものである。
 以下に、対象特許の本質的部分についての裁判所の判示を抜粋する。

「本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書の開示事項を総合すれば,本件発明1は,従来の遠隔監視システムでは,施設の侵入者があったり,施設において異常が発生した場合に,当該施設の所有者や管 理責任者が一次的に当該侵入や異常発生を知ることができず,また,警備会 社からの二次的な通報により上記所有者や責任者が侵入や異常発生を知ることは可能であるが,これらの者が外出している場合等には警備会社が通報を することができないといった課題があり,こうした課題を解決するために, 構成要件1Bないし1Gの構成を採用し,施設の監視対象領域を監視する監視装置からのメッセージと監視装置によって得られた画像の情報が当該施設の所有者や管理責任者に対応する顧客の携帯端末に通知又は伝達されることにより,顧客が何れの場所においても施設の異常等を適切に把握することができるとともに,監視装置から受理された画像の略中央部分の画像からなるコンテンツを携帯端末に伝達することにより,表示装置が小さい携帯端末でも顧客により十分に認識可能な画像を表示することができ,さらに,カメラの「パンニング」を含む携帯端末からの遠隔操作命令により「パンニング」に従った領域を特定し,その領域の画像を携帯端末に伝達するステップを備え,顧客が参照したい領域を特定して携帯端末に提示することができるようにしたことにより,施設の所有者や管理責任者が外部からの侵入や異常の発生を知り,その内容を確認することができるという効果を奏するようにしたことに技術的意義があるものと認められる(【0004】ないし【0007】)。」


2022年3月19日土曜日

[裁判例]サブコンビネーション発明の要旨認定(知財高裁令和4年2月10日)

 知的財産権の権利者と利用者のマッチングの発明の拒絶審決に対する審決取消訴訟である。
 発明は、権利活用を希望するユーザ側の情報処理装置に関するものであるが、特許請求の範囲には、次のように、サーバ側の構成(構成要件(C)等)も混在していた。

【請求項1】
(A)第1ユーザによって操作される情報処理装置であって, 
(B)事業に使用されていないが前記第1ユーザが活用を希望する知的財産権を,前記第1ユーザが保有する1以上の知的財産権の中から特定し,当該知的財産権に関する公報の情報を,サーバによる第2情報及び第3情報の抽出の根拠となる情報を含む第1情報として,前記サーバに通知する公報通知手段と, 
(C)前記サーバにおいて, 
(C1)前記公報通知手段により通知された前記第1情報により特定される前記公報に含まれ得る第1書類の内容のうち,所定の文字,図形,記号,又はそれらの結合が,前記第2情報として抽出され, 
(C2)当該公報に含まれ得る第2書類の内容のうち,抽出された前記第2情報と関連する文字,図形,記号又はそれらの結合が,前記第3情報として抽出され, 
(C3)所定の文字,図形,記号,又はそれらの結合を第4情報として予め登録している複数の第2ユーザのうち,抽出された前記第3情報と関連のある第4情報を登録した者が,通知対象者として決定され, 
(C4)当該通知対象者の端末に対して,当該知的財産権に関する情報が第5情報として通知され, 
(C5)当該通知対象者の端末から,当該第5情報に関する当該知的財産権に対して当該通知対象者が興味を有する旨の第6情報が取得されて, 
(C6)当該第6情報に基づいて,前記複数の第2ユーザの中に当該知的財産権に興味を有する者が存在することを少なくとも示す情報が,第7情報として 生成され, 
(C7)前記情報処理装置により前記第1情報が通知された結果として生成さ れた当該第7情報が,当該情報処理装置に送信された場合において, 
(D)当該第7情報を受付ける受付手段と, 
(E)を備える情報処理装置。

 審決は、サーバ側の構成については、直接的に情報処理装置を限定する特定事項ではないとして、以下のように発明を認定した。

【審決が認定した請求項1の発明】
(A)第1ユーザによって操作される情報処理装置であって, 
(B')事業に使用されていないが前記第1ユーザが活用を希望する知的財産権を,前記第1ユーザが保有する1以上の知的財産権の中から特定し,当該知的財産権に関する公報の情報を,前記サーバに通知する公報通知手段と, 
(D')知的財産権に興味を有する者が存在することを少なくとも示す情報であって,情報処理装置により当該知的財産権に関する公報の情報がサーバに通知された結果として生成され,サーバから情報処理装置に送信された情報を受付ける受付手段と, 
(E)を備える情報処理装置。

 裁判所は、次のように述べて、審決の認定に誤りはないと判断した。

(総論)
「ところで,サブコンビネーション発明においては,特許請求の範囲の請求項中に記載された「他の装置」に関する事項が,形状,構造,構成要素,組成,作用,機能,性質,特性,行為又は動作,用途等(以下「構造,機能等」という。)の観点から当該請求項に係る発明の特定にどのような意味を有するかを把握して当該発明の要旨を認定する必要があるところ,「他の装置」に関する事項が当該「他の装置」のみを特定する事項であって,当該請求項に係る発明の構造,機能等を何ら特定してない場合は,「他の装置」に関する事項は,当該請求項に係る発明を特定するために意味を有しないことになるから,これを除外して当該請求項に係る発明の要旨を認定することが相当であるというべきである。

(各論:一例として構成要件Cのみ)
「本件補正後発明の構成要件(C)及び(C1)ないし(C7)は,情報処理装置から知的財産権に関する公報の情報(第1情報)の通知(送信)を受けた サーバが,第1情報から第2情報を抽出し,さらに第3情報を抽出し,第3情報と第4情報とから通知対象を決定して当該公報の情報を第5情報として通知対象者の端末に通知し,その後,通知対象者の端末から第6情報を受信し第7情報を生成して情報処理装置に送信するという,サーバが行う処理を特定したものであって,情報処理装置が行う処理を特定するものではない。 すなわち,情報処理装置から通知された情報に対して,どのような処理を行い,どのような情報を生成して情報処理装置に送信するかという処理は,サーバが独自に行う処理であって,情報処理装置が行う処理に影響を及ぼすものではない。 
 一方,情報処理装置は,第1情報をサーバに送信し,第7情報をサーバから受信するものであるところ,かかる情報処置装置の機能は,サーバに所定の情報を送信してサーバから所定の情報を受信するという機能に留まり,当該機能は,上記構成要件(C)及び(C1)ないし(C7)によって影響を受けたり制約されるものではない。このように,構成要件(C)及び(C1)ないし(C7)は,情報処理装置の機能,作用を何ら特定するものではない。 
 よって,本件補正後発明の認定に当たっては,構成要件(C)及び(C1) ないし(C7)を発明特定事項とはみなさずに本件補正後発明の要旨を認定すべきであり,これと同旨の本件審決に誤りはない。 」


 例えば、ユーザの携帯端末によってサーバにアクセスして処理を行う発明だと、サーバの構成は見えにくいので、権利行使が可能なように、サーバの構成を除外して携帯端末の処理だけを規定した発明を記載することがある。複数主体が実施に絡む場合には、クレームの仕方を工夫することで実施行為を捕捉することができるという論調も見られる。
 権利行使を見据えたクレームドラフティングはもちろん重要である。携帯端末だけで発明を特定できれば侵害行為を捉えやすい。しかし、携帯端末側に特徴がない場合には、サーバ側の構成が捨象された結果、この判決のように何の変哲もない構成のみの発明と認定されてしまうおそれがあることにも注意を要する。



2022年3月15日火曜日

無効資料調査についてのメモ

後日、手順書をまとめたいと思うが、とりあえず思いつくまま。

・「ありそうな」キーワードやFIで絞り込むこと
・「ありそうな」には、絶対にこれは含まれているというクエリ(必要条件ともいえる)と、発明を表現するにはこれは含まれているかもしれないというクエリがあるので、組み合わせて使う。
・各検索式のヒット件数は少なくする(20件前後?)。ヒット件数が多いということは、観点がぼんやりしているということであり、ゴミの山の場合あり。
※現実的に網羅できることはないので、大きな網で絞るのは得策ではない。可能性が高そうな範囲をいくつも見るのが、可能性を高めることになる。
・色々な観点が考えられる。構成要件のワード、効果のワード、具体例のワード等。自分が明細書を書くとしたら、どんなことを書くかを想像。
・絞り込みのためのFIは、全体の件数の割りにヒット数が多いものが良い。
→例えば、ありそうな集合をキーワード等で決定し、そこで使われているFIをランキング。一見、ランキングが高いものが有効に思えるが、その集合にかかわらず全体的に件数が多いのであれば、絞り込みに有効とは言えない。
・有力な文献の引用、被引用関係にある文献。
・有力な論文を引用している文献。
・複数のキーワードを使う場合、使われている場所が離れていると、ノイズが多い。
・キーワードが一般的だと、近傍検索で組み合わせても、ノイズが多いことがある。

・対象特許の本質、背景技術からの位置づけを理解することは重要。
これにより、どういうクエリが必要かを理解することができる。
→明細書や審査経過をチェックするのはもちろんだが、それだけで理解できることはない。特にどのような背景があったかは、従来技術を見ていくうちに分かる。検索式の作成とスクリーニングは繰り返した方がよい。

・スクリーニングの仕方としては、こまめに内容を精査するのがよい。(全件見た後、まとめて精査、は良くない。)。それによって、その後のスクリーニングの精度とスピードが高まる。

・主引例を探すときと要素技術を探すときでは、検索期間を変えてもよい。

・見る順番としては、出願人別が良い。分割出願等の関係を検討しやすい。
・多少の重複があるくらいなら、検索式ごとにみるのがよい。観点がはっきりしている方が探しやすい。

・主引例は図面で判断できることが多い。図面にバシッと現れているくらいでないと、論理付けで苦労する。図面に現れている場合には方向性が同じことが多い。

[2022/12/10追記]
・検索式の本質は、キーワード。FIやFTMでは探せない。発明の特徴は、FI=技術分野では表せない。FI、FTMはノイズを除去する役割。
・単一のキーワードもよほど特殊でない限り、ノイズを除去する役割。一言で発明の特徴は表せない。
・そうすると、本質は、近傍検索ということになる。要約は高々400字なので、近傍でなくてもよいかもしれない。
・検索式は、こういうものを探したい!という意思が必要。なんとなく、こんなものが含まれているのでは?という検索式は、しらみつぶし方式だが、効率が悪い。
・名詞(特によく見られる名詞)どうしを近傍検索すると思わぬ組み合わせがヒットしてしまう。助詞を入れるのはありかも。件数が一定数以上の場合には、要チェック!
・短い言葉は、なるべく近く設定。
・同義語(たとえば「貯金、蓄える、貯蓄、貯める」等)を漏れなく検索しようと、共通の漢字(たとえば「貯+蓄」等)を使うことが考えられる。逆に、考えられる言葉を全部列挙する選択肢もあるが、どちらがよいか。どのみち網羅することは不可能という立場なら後者か。

[裁判例]【補足】システムを装置に変えることは容易か(令和3年(行ケ)10027号)

 2022年12月29日の投稿で、タイトル記載の裁判例(審決取消訴訟)でシステムを装置に変えることに進歩性が認められたことを報告した。その中で、同日に出された侵害訴訟の判決では、同じ引例を理由に、新規性なしと判断されたことに非常に驚いたとコメントした。  この件について、今月号の...