2020年9月29日火曜日

[裁判例]動画配信システム事件(知財高裁 令和2年9月24日)

  本件は、拒絶審決に対する審決取消訴訟である。出願に係る発明は、アクターの動きに基づいて生成されるキャラクタの動画を配信するシステムに関し、特徴は、視聴ユーザが装飾オブジェクトの表示を要求すると、アクターによる選択に応じて、キャラクタに装飾オブジェクトを表示することである。


 甲1発明は、声優の動作に応じて動くキャラクタの動画を配信するシステムであり、ユーザからテキストメッセージを受け付けると、声優がメッセージに応じた動きをする。甲2発明は、3DCGキャラクタをライブ配信するライブ配信プラットフォームにおいて、視聴者が創作したギフトをVR空間内に登場させ、3DCGキャラクタの主人公が視聴者からの作品を装着する技術である。

 出願人は、多岐にわたって取消事由を主張しているが、ここでは、「(D3)前記装飾オブジェクトに設定されている装着位置情報に基づいて定められる前記キャラクタオブジェクトの部位に関連づけて」の要件に関する取消事由について取り上げる。

 出願人の主張は、相違点を解消するために2段階の変更が必要となるというものである。すなわち、甲1発明に甲2発明を適用した上で、さらに、審決が周知技術であると認定する(D3)の構成を適用する必要があるというものである。

 これに対して裁判所は以下のように判断した。

「しかしながら,CGの技術分野において,何らかのオブジェクト(例えば カチューシャ)をCGキャラクターが装着しているかのようにCGキャラク ターの動きに追従させて表示するためには,当該オブジェクトを装着する身 体の部位(カチューシャであれば頭部)のVR空間での座標に基づいて当該 オブジェクト(カチューシャ)を表示しなければならない。つまり,CGキ ャラクターの身体の部位とオブジェクトとを関連付ける装着位置情報に基づ いて当該オブジェクトの表示を行わなければ,当該オブジェクトを装着しているかのように表示することはできない。そうすると,甲2記載のユーザー ギフティング機能において,身体に装着するアクセサリー等がギフトとして想定されている場合(甲2記載の「東雲めぐ」もそのような場合である。)には,オブジェクトに設定されている装着位置情報に基づいて定められる部位にオブジェクトを表示させるという審決認定の周知技術は,まさに甲2記載の技術の一部をなしている(それは,適宜の手段によって実現されることが予定されているといえる。)のであって,甲2記載の技術とは別の技術ということはできないものというべきである。 」


 出願人は、容易の容易は非容易であるという論理に持ち込みたかったと思われる。しかし、形式的には2段階に見えても、2段階目の周知技術の適用が、1段目の技術の適用に際して予定されているものである場合には、細分化して論じることが失当なのであろう。

2020年9月22日火曜日

[裁判例]ホワイトカード事件(知財高裁 令和2年8月26日)

  本件は、ホワイトカードの使用限度額を引き上げるシステムに関する特許権を保有するMRSホールディングズがLINE Pay株式会社を訴えた事件の控訴審である。

 本件特許の概要は、次のとおりである。従来のクレジットカードはユーザの支払い能力等に基づいて使用限度額が設定されている。この使用限度額は、他者から送金を受ける等して一時的に所持金が増えた場合にも容易に変更できなかったという課題があった。この課題に鑑み、本件特許では、他者からの送金があった場合などに、「ホワイトカード」の使用限度を引き上げることができるようにした発明である。

 これに対し、LINE Payが、送金・入金及び振替入金の各機能に用いるLINE Payカードは電子マネーに係るプリペイドカードである。控訴人は、現金を電子マネーとしてプリペイドカードにチャージすることも使用限度額の引き上げに当たると主張した。

 論点となったのは、「ホワイトカード」はクレジットカードを意味しているのか(プリペイドカードは含まないか)、「使用限度額」の要件を充足するか、である。

 裁判所は、「ホワイトカード」「使用限度額」について以下のように認定した。

 本件明細書では、従来のクレジットカードにおいて使用限度額を引き上げるには「所定の手続き」を要する等して容易でないという課題を挙げ、その解決手段として本件発明の具体的構成を記載していることや、「ホワイトカード」の用語の意味(クレジットカードに関して使用された場合に「カード会社が個人向けに発行する最もベーシックなクレジットカード」を意味する)から、「ホワイトカード」はクレジットカードを意味し、プリペイドカードやデビットカードを含まないと判断した。

 「使用限度額」については、上記の課題に鑑み、ユーザが所定期間内に使用することのできる金額の上限額を意味し、その額は、ユーザとの契約時には、その支払能力(信用力)に応じて設定され、「ある程度固定される」ものであると認定した。


 表面的にだけ見れば、プリペイドカードのチャージ額も「使用限度額」と言えないこともなく、プリペイドカードも本件特許に該当するようでも、発明の課題等に基づいて理解すれば、「ホワイトカード」がプリペイドカードを意図したものでないことは明白である。

2020年9月9日水曜日

無効審判と異議申立

 

 無効審判と異議申立のどちらの方が特許を潰せる可能性が高いですか?という質問を受けることがある。

 感覚的には、異議申立の取消決定のハードルは非常に高いのだが、統計的にはそうでもない。

無効率

取消率

2019

16.0%

13.5%

2018

15.2%

12.9%

2017

21.0%

10.5%

2016

25.1%

7.8%

2015

17.8%

0.0%

※無効、取消は一部無効、一部取消を含む

(特許行政年次報告書2020年版<統計・資料編>のデータを加工) 

  

 面白いことに無効審判による無効化率は低下してきており、異議申立の取消率が上がってきている。このため、感覚と統計データとのギャップがあるのかもしれない。

 ところで、取消率が13.5%というのは非常に低いという印象を持たれるかもしれないが、これは、訂正により生き残る場合には、取消にカウントされないためである。

 


 (特許庁HP「特許異議申立の統計情報」より)


上記の審理結果の内訳から、かなりの案件で訂正させることには成功していることが分かる。



[裁判例]【補足】システムを装置に変えることは容易か(令和3年(行ケ)10027号)

 2022年12月29日の投稿で、タイトル記載の裁判例(審決取消訴訟)でシステムを装置に変えることに進歩性が認められたことを報告した。その中で、同日に出された侵害訴訟の判決では、同じ引例を理由に、新規性なしと判断されたことに非常に驚いたとコメントした。  この件について、今月号の...