2023年7月15日土曜日

部品を販売したときの完成品の特許の消尽(平成26年(ネ)10043号)

 特許権者が販売した特許製品については、特許が用い尽くされたものとして特許権の効力が及ばない。これを「消尽」という。特許権者から製品を購入したのに、その製品の使用に際し特許権を行使されてはたまらない。消尽が認められる趣旨は容易に理解できると思う。
 
 ところで、特許権者から特許製品の部品を購入した場合はどうであろうか?特許権者から特許の部品を購入して特許製品を組み立てた、といった場合、その完成品について特許権を行使されることはあるだろうか。
 もう少し整理すると、購入した部品の性質により2パターンに分けられる。
 購入した部品が広く一般に流通するものなら、それを使って特許製品を組み立てた場合、当然、特許権が及ぶと解される。例えば、椅子の特許を有する特許権者からネジを購入し、そのネジを使って椅子を製造したとした場合、特許権者からネジを購入したことにより特許権の行使を逃れることはないであろう。
 もう一つのパターンは、購入した部品が特許製品を製造するためにのみ用いられるものだった場合、あるいは、特許製品を製造することの蓋然性が高い場合である。例えば、エンジンに特徴のある自動車の特許権者からエンジンを購入し、そのエンジンを使って自動車を生産した場合である。この場合、特許権者から購入したエンジンは自動車を生産するためにしか使うことができないため、特許権者はエンジンを使うことを予見している。このような場合にも、自動車の特許について、権利行使を認めてもよいか。
 
 平成26年(ネ)10043号の判決において以下のように述べている。この判決においては、上記で「部品」で述べたものを「1号製品」と呼んでいることに注意されたい。

[裁判所の判断]
 (ア) 特許権者又は専用実施権者(この項では,以下,単に「特許権者」という。)が,我が国において,特許製品の生産にのみ用いる物(第三者が生産し,譲渡する等すれば特許法101条1号に該当することとなるもの。以下「1号製品」という。)を譲渡した場合には,当該1号製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し,もはや特許権の効力は,当該1号製品の使用,譲渡等(特許法2条3項1号にいう使用,譲渡等,輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をいう。以下同じ。)には及ばず,特許権者は,当該1号製品がそのままの形態を維持する限りにおいては,当該1号製品について特許権を行使することは許されないと解される。しかし,その後,第三者が当該1号製品を用いて特許製品を生産した場合においては,特許発明の技術的範囲に属しない物を用いて新たに特許発明の技術的範囲に属する物が作出されていることから,当該生産行為や,特許製品の使用,譲渡等の行為について,特許権の行使が制限されるものではないとするのが相当である(BBS最高裁判決(最判平成9年7月1日・民集51巻6号2299頁),最判平成19年11月8日・民集61巻8号2989頁参照)。 
 なお,このような場合であっても,特許権者において,当該1号製品を用いて特許製品の生産が行われることを黙示的に承諾していると認められる場合には,特許権の効力は,当該1号製品を用いた特許製品の生産や,生産された特許製品の使用,譲渡等には及ばないとするのが相当である。 

 このように裁判所は、特許権者から譲渡を受けた1号製品を用いて特許製品を生産することについて消尽を認めないとしつつも、特許権者がその生産を黙示的に承諾している場合には、特許権の効力が及ばないと判断した。

 次に、具体的にどういう場合に黙示的に承諾しているかについて検討する。この事件においては黙示の承諾は認められなかったが、その理由は以下のとおりである。
⓵販売者はライセンシーであったが、包括的なクロスライセンスであったため、ライセンス対象製品を用いて生産される可能性のある製品の全てについて生産等を承諾したとは言えない。
②特許製品を完成させるためには、技術的・経済的に重要な価値を有する他の部品を要する。
③1号製品を使って完成品を製造するのに特許権者の許諾を要するとしても、1号製品の流通を阻害するとは言えない。
④販売者はそもそも特許権のライセンスを与える権限がなかった。

 この事件では①~④のような事情があったため黙示の承諾があったとは認められなかった。
 上記した①~④については、この事件固有の事情なのでこの事情があれば(あるいはなければ)どうといった結論を導けるものではないが、参考にはなる。
 総合的に見て、特許権者が販売した部品を使って完成品を生産することを特許権者が容易に予見できるケースでは特許の消尽が認められると思われる。
 

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