2021年7月7日水曜日

[AI関連発明]写り込み除去エンジン(特許6843342)

 例えば、自動車等の被写体を撮影したときに、ボディ等に表面に周囲の風景等が写り込むことがあるが、この発明は、写り込みを除去する処理を行うエンジンを生成する方法である。

【請求項1】
  対象物に周囲の写り込みが認められる第1画像の画像データである第1画像データと、前記第1画像に対応する、前記対象物への写り込みが軽減された第2画像の第2画像データとを取得する取得ステップと、
  前記第1画像データ及び前記第2画像データを用いてニューラルネットワークの学習を行うことで、入力画像データの画像から写り込みが除去された画像の画像データを出力する写り込み除去エンジンを生成する生成ステップと、
 をコンピュータに実行させる、写り込み除去エンジン生成方法。

 この発明の構成は極めてシンプルで、写り込みのないが画像と写り込みのある画像を教師データとした学習によって、写り込み除去エンジンを生成するというだけである。
 個人的な見解としては、写り込みを除去するためのモデルを生成しようとすれば、普通こういう構成になるように思う。


2021年7月6日火曜日

[AI関連発明] 文字処理システム(特許6845911)

  この発明は、基準文字の画像と、基準文字とは異なる字形を持つ画像とを比較する文字処理システムの発明である。異なる字形を持つ画像の中から、特徴的な字形を有する「特異文字」を容易に判定できるようにユーザに対して相違情報を出力するシステムである。

【請求項1】
  文字処理システムであって、
  予め定められた字形を持つ基準文字の画像と、互いに異なる字形を持つ複数の文字の画像とを用いた機械学習によって生成され、入力される文字の画像から前記予め定められた字形に適応した文字の画像を生成する学習済みモデルを格納する格納部と、
  前記学習済みモデルを用いて、処理対象の文字の画像から、前記予め定められた字形に適応させた前記処理対象の文字の画像を生成する文字画像生成部と、
  前記文字画像生成部が生成した画像と前記基準文字の画像との比較結果に基づいて、前記処理対象の文字と前記基準文字との相違を示す情報を出力する相違情報出力部と
を備える文字処理システム。


 文字画像生成部の要件までは、要するに基準文字の画像と異なる字形の画像を教師データとしてモデルを作成しておき、学習済みモデルを用いて、処理対象の文字(620-1)を基準文字(640-1)に適応させた文字(630-1)に変換することを規定している。ここまでは、処理対象文字を基準文字のフォントに近づけると言っているだけであり、それほど特徴的ではない。
 本件特許は、生成した画像と基準画像とを比較してその相違情報(650-1)を出力する構成を備えており、相違情報を出力することで、処理対象の文字が特異文字かどうかを容易に判断することができるようにしている。
 
 この発明は、機械学習の処理の部分はAIの単なる適用にすぎないが、その結果を使って相違情報を出力するシステムとすることに特徴があると考えられる。


[裁判例] ゲームプログラム事件(知財高裁 令和3年6月29日)

 拒絶査定不服審判に対する審決取消訴訟である。審判段階において補正が行われた補正の適否が争点となった。
 発明は、カードを使った対戦ゲームに関する。戦闘で勝利した際の商品として、またはガチャでカードを入手することができるが、カードにはレアリティが設定されている。ユーザが所持できるカードの枚数には上限がある(アイテムボックスに上限がある)ので、レアリティの低いカードは不要となるが、発明は、所定の条件を満たすカードを自動的に特定のアイテム(戦闘には使えないが、他のアイテムの強化等に使用可能)に変換するというものである。
 このように、特定のアイテムに変換することにより、「不要なアイテムによりユーザのアイテムボックスが満杯になるのを防ぐことができる」という効果がある。



 補正後の請求項1は、以下のとおりである。争点となっている要件に下線を引いた。
【請求項1】 
 コンピュータに,アイテムのアイテム情報に関するフィルタリング条件を設定する条件設定機能と, 
 前記アイテムがユーザに付与された際に自動的に, 前記アイテムのアイテム情報,および,前記条件設定機能によって設定されたフィルタリング条件を比較する比較機能と,
 前記比較機能によって比較された結果,前記アイテム情報が前記フィルタリング条件を満たしているアイテムを,当該アイテムのアイテム情報に含まれる価値情報 毎に異なる設定情報に対応付けて数値化する変換機能と, 
 前記変換機能によって数値化された前記アイテムの数値に基づいて,前記アイテムを所定個数の価値の等しい一種類の特定のアイテムに変換するアイテム変換機能と, 
 前記特定のアイテムを,前記ユーザに関連付けられたアイテムボックスに対応付けて記憶するアイテム記憶機能とを実現させるゲームプログラム。

(裁判所の判断)
 ・・・当初明細書に記載された「アイテムボックス」は,アイテムを収納するための構成であって,かつ,アイテムの収納上限が設けられているものと認められる。
 一方,当初明細書には「特定のアイテム」について,アイテム付与部によって付与されるアイテムとは異なる種類のアイテム(段落【0049】)であり,アイテム付与部により実行されるアイテム付与ステップによってユーザに付与された「アイテム」が,アイテム変換ステップにより変換され(段落【0026】,【0035】,【0039】,【0048】),特定アイテム付与ステップによりユーザに付与される(段落【0040】,【0050】)ものであって,上限なくユーザが所持可能とすることができるものである(段落【0031】,【0040】,【0050】,【0052】)と記載されている。 
  そして,収納上限が設けられているアイテムボックスに「特定のアイテム」を収納すると,「特定のアイテム」を上限なくユーザが所持することは不可能であるから,当初明細書に接した当業者は,「特定のアイテム」は,「アイテムボックスに収納して保持する」ものではないと理解すると解される。 
 そうすると,「『特定のアイテム』を『アイテムボックス』に収納して保持すること」を意味する「前記特定のアイテムを,前記ユーザに関連付けられたアイテムボックスに対応付けて記憶するアイテム記憶機能」との新たな発明特定事項は,当業者によって当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項の範囲内のものであるとはいえない。

 このように、特定のアイテムの性質に照らして、収容上限のあるアイテムボックスに収納するというのは、明細書の記載の範囲内ではないと判断した。
 原告は、様々な主張をしているが、興味深いものとして、「「特定のアイテムをアイテムボックスに入れて所持したとしても,「ユーザ操作なしで不要なアイテムを持たずに済む」という本願発明1の技術的意義は損なわれない」というものがある。
 これに対し、裁判所は、次のように判示した。

(裁判所の判断)
 確かに,「特定のアイテム」をアイテムボックスに入れて所持したとしても,「ユーザ操作なしで不要なアイテムを持たずに済む」という本願発明1の技術的意義は損なわれるものではないが,前記(2)のとおり,当初明細書に接した当業者は,アイテム付与部によって付与されるアイテムとは異なる種類のアイテムである「特定のアイテム」は,「アイテムボックスに収納して保持する」ものではないと理解すると解されるから,原告の上記主張を採用することはできない。

 このように発明の技術的意義を損なわないかどうかということと、明細書に記載された範囲内かどうかは別の問題であると判示した点は参考になる。

[裁判例]【補足】システムを装置に変えることは容易か(令和3年(行ケ)10027号)

 2022年12月29日の投稿で、タイトル記載の裁判例(審決取消訴訟)でシステムを装置に変えることに進歩性が認められたことを報告した。その中で、同日に出された侵害訴訟の判決では、同じ引例を理由に、新規性なしと判断されたことに非常に驚いたとコメントした。  この件について、今月号の...