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2023年4月1日土曜日

[裁判例]対戦ゲームサーバ 新規事項の追加(知財高裁令和4年(行ケ)10092)

 拒絶査定不服審判の審決に対する審決取消訴訟である。発明は、対戦ゲームサーバのプログラムであり、ユーザどうしをマッチングさせるときに、不適切な強さの対戦相手との対戦が行われることを防ぐことを目的としている。
 争点は、出願人が行った補正が新規事項の追加にあたり、不適法であるかという点である。

 補正後の請求項1は下記である。下線は補正箇所を示す。
【請求項1】 
 複数の通信端末に対して一ユーザ対一ユーザの対戦ゲームを提供するコンピュータに、 
 前記通信端末を操作するユーザ毎に一意に割り当てられる識別情報と、ユーザ情報とを、それぞれのユーザ毎に対応づけて管理するステップと、 
 前記ユーザ情報に応じて、数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さの下限値及び上限値により定められた強さの各段階のうち、前記ユーザがいずれの強さの段階であるかを決定するステップと、
 前記ユーザから対戦要求を受けた場合、前記識別情報に対応付けられたユーザ情報に応じた強さの段階に基づき、当該強さの段階から所定範囲内の同じ強さまたは異なる強さの段階の他のユーザとの対戦を開始するステップと、を実行させ、 
 前記対戦を開始するステップは、
 前記下限値及び上限値により定められた強さの段階毎に設定された対戦相手の強さの段階の上限および下限、ならびに、当該対戦相手の強さの段階の上限および下限内に含まれる弱者の割合および/または強者の割合に基づいて、自動的に対戦相手候補であるユーザを抽出し、当該対戦相手候補であるユーザの中から前記ユーザによって決定された他のユーザとの対戦を開始することを特徴とするプログラム。
 
 このように出願人は、「強さ」の説明として、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである」を加えた。
 明細書には、強さを上のように直接に説明した文章はなく、発明の課題として、「特にユーザが初心者であって、攻撃力及び防御力の合計値が低い場合、対戦相手に係る攻撃力及び防御力の合計値の方が高くなる可能性が高く、対戦ゲームで負けてしまうことが多くゲームに対するユーザの興味を著しく低下させてしまっていた。」(段落【0005】)との記載があるほか、実施の形態も「ユーザが保有するユニットの攻撃力及び防御力」を例として説明がなされていた。

 このことから、審決は、強さとは、「攻撃力及び防御力の合計値」であると解し、これを「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである」と補正することは、新たな技術的事項を導入するものであって、当初明細書等に記載した事項の範囲内でされたものではないと判断した。

[裁判所の判断]
 そして、「ゲーム」分野における技術常識に関して、「ユーザ」の「強さ」に、攻撃力及び防御力以外に、体力、俊敏さ、所持アイテム数等が含まれることが本願の出願時の技術常識であったことは、当事者間に争いがない(本件審決第2の2⑵イ(ウ)〔本件審決12頁〕参照)。 
 上記のような、対戦ゲームにおいて、強さに大差のある相手ではなく、ユーザに適した対戦相手を選択するという発明の技術的意義に鑑みれば、当初明細書等記載の「強さ」とは、ゲームにおけるユーザの強さを表す指標であって、ゲームの勝敗に影響を与えるパラメータであれば足りると解するのが相当であり、「強さ」を「攻撃力と防御力の合計値」とすることは、発明の一実施形態としてあり得るとしても、技術常識上「強さ」に含まれる要素の中から、あえて体力、俊敏さ、所持アイテム数等を除外し、「強さ」を「攻撃力と防御力の合計値」に限定しなければならない理由は見出すことができない。言い換えれば、「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」に限定するか否かは、発明の技術的意義に照らして、そのようにしてもよいし、しなくてもよいという、任意の付加的な事項にすぎないと認められる。 
 そうすると、当初明細書等には、「強さ」の実施形態として、文言上は「攻撃力及び防御力の合計値」としか記載されていないとしても、発明の意義及び技術常識に鑑みると、第2次補正により、「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」に限定せずに、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータ」と補正したことによって、さらに技術的事項が追加されたものとは認められず、第2次補正は、新たな技術的事項を導入するものとは認められない。そうすると、第2次補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであると認められ、特許法17条の2第3項の規定に違反するものではないというべきである。 

(コメント)
 上記の補正は、次の明確性要件違反に対応したものである。
「請求項1、7、8及び請求項1を引用する請求項2から6に係る発明の「強さ」には、攻撃力及び防御力の合計値のみならず、対戦ゲームの技術常識を勘案すると、必殺技等も包含される。
 ここで、例えば、必殺技は、数値化できないところからすると、「強さの下限値及び上限値」といっても数値化できないものに対して「下限値及び上限値」とは、何を特定しようとしているのか不明である。
 さらに、上述するような数値化できない「強さの下限値及び上限値」により定められた「強さの各段階」とは何を特定しようとしているのか不明である。
 よって、請求項1~8に係る発明は明確でない。」

 判決によれば、強さには、必殺技のように数値化できないものも含まれる。数値化できないのに、「強さの各段階」とはどう特定するのか、という点は明確になったのだろうか。
 特許庁の明確性の主張に対し、判決は、次のように述べるが、強さに何が含まれるのかは想定し得るとしても、その段階については明示していないように思われる。(特許庁が「強さの各段階」について主張しなかったのかもしれない)

[裁判所の判断]
 しかし、各形態のゲームにおいてどのような「強さ」のパラメータを設定するのが適当かは、当業者であれば適宜判断し得るものと推認され、ユーザの強さを基準として所定範囲内の強さを有する他のユーザを対戦相手として選択することにより、ユーザのゲームに対する興味の低下を防ぐという発明の技術的意義に照らせば、ある形態の対戦ゲームにおいて「強さ」にどのようなパラメータが含まれるかは、当業者であれば想定し得るものと推認される。そうすると、「強さ」が「攻撃力と防御力の合計値」に限定されていないとしても、第三者に不測の不利益をもたらすものとは認められない。

2021年7月6日火曜日

[裁判例] ゲームプログラム事件(知財高裁 令和3年6月29日)

 拒絶査定不服審判に対する審決取消訴訟である。審判段階において補正が行われた補正の適否が争点となった。
 発明は、カードを使った対戦ゲームに関する。戦闘で勝利した際の商品として、またはガチャでカードを入手することができるが、カードにはレアリティが設定されている。ユーザが所持できるカードの枚数には上限がある(アイテムボックスに上限がある)ので、レアリティの低いカードは不要となるが、発明は、所定の条件を満たすカードを自動的に特定のアイテム(戦闘には使えないが、他のアイテムの強化等に使用可能)に変換するというものである。
 このように、特定のアイテムに変換することにより、「不要なアイテムによりユーザのアイテムボックスが満杯になるのを防ぐことができる」という効果がある。



 補正後の請求項1は、以下のとおりである。争点となっている要件に下線を引いた。
【請求項1】 
 コンピュータに,アイテムのアイテム情報に関するフィルタリング条件を設定する条件設定機能と, 
 前記アイテムがユーザに付与された際に自動的に, 前記アイテムのアイテム情報,および,前記条件設定機能によって設定されたフィルタリング条件を比較する比較機能と,
 前記比較機能によって比較された結果,前記アイテム情報が前記フィルタリング条件を満たしているアイテムを,当該アイテムのアイテム情報に含まれる価値情報 毎に異なる設定情報に対応付けて数値化する変換機能と, 
 前記変換機能によって数値化された前記アイテムの数値に基づいて,前記アイテムを所定個数の価値の等しい一種類の特定のアイテムに変換するアイテム変換機能と, 
 前記特定のアイテムを,前記ユーザに関連付けられたアイテムボックスに対応付けて記憶するアイテム記憶機能とを実現させるゲームプログラム。

(裁判所の判断)
 ・・・当初明細書に記載された「アイテムボックス」は,アイテムを収納するための構成であって,かつ,アイテムの収納上限が設けられているものと認められる。
 一方,当初明細書には「特定のアイテム」について,アイテム付与部によって付与されるアイテムとは異なる種類のアイテム(段落【0049】)であり,アイテム付与部により実行されるアイテム付与ステップによってユーザに付与された「アイテム」が,アイテム変換ステップにより変換され(段落【0026】,【0035】,【0039】,【0048】),特定アイテム付与ステップによりユーザに付与される(段落【0040】,【0050】)ものであって,上限なくユーザが所持可能とすることができるものである(段落【0031】,【0040】,【0050】,【0052】)と記載されている。 
  そして,収納上限が設けられているアイテムボックスに「特定のアイテム」を収納すると,「特定のアイテム」を上限なくユーザが所持することは不可能であるから,当初明細書に接した当業者は,「特定のアイテム」は,「アイテムボックスに収納して保持する」ものではないと理解すると解される。 
 そうすると,「『特定のアイテム』を『アイテムボックス』に収納して保持すること」を意味する「前記特定のアイテムを,前記ユーザに関連付けられたアイテムボックスに対応付けて記憶するアイテム記憶機能」との新たな発明特定事項は,当業者によって当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項の範囲内のものであるとはいえない。

 このように、特定のアイテムの性質に照らして、収容上限のあるアイテムボックスに収納するというのは、明細書の記載の範囲内ではないと判断した。
 原告は、様々な主張をしているが、興味深いものとして、「「特定のアイテムをアイテムボックスに入れて所持したとしても,「ユーザ操作なしで不要なアイテムを持たずに済む」という本願発明1の技術的意義は損なわれない」というものがある。
 これに対し、裁判所は、次のように判示した。

(裁判所の判断)
 確かに,「特定のアイテム」をアイテムボックスに入れて所持したとしても,「ユーザ操作なしで不要なアイテムを持たずに済む」という本願発明1の技術的意義は損なわれるものではないが,前記(2)のとおり,当初明細書に接した当業者は,アイテム付与部によって付与されるアイテムとは異なる種類のアイテムである「特定のアイテム」は,「アイテムボックスに収納して保持する」ものではないと理解すると解されるから,原告の上記主張を採用することはできない。

 このように発明の技術的意義を損なわないかどうかということと、明細書に記載された範囲内かどうかは別の問題であると判示した点は参考になる。

除くクレーム(令和6年(行ケ)第10081号)

 1 除くクレームについて  特許実務において、引用文献と差別化を図るために、構成要件の一部を除くことが行われることがある。新たな技術的事項を導入しないものである場合には構成要件の一部を除くことが認められるが(ソルダーレジスト大合議事件(平成18年(行ケ)第10563号))、...