2022年8月23日火曜日

[EP]ゲームルールか技術的事項かPart4(T0060/98)

 Gameaccount(T1543/06)の中で、進歩性が認められた例として引用された審決である。対象は、スロットマシンに係る発明で、特徴は、シンボルが揃ったときの当選価値の判断の仕方にある。(下の図は、基礎出願より抜粋)

  


 具体的には、シンボルは代替可能なシンボル(いわゆるワイルドシンボル)を含んでいる。上の図では、「Angel」「Devil」は、ほかのシンボルの代替として使用でき、例えば、「7-Bar」「7-Bar」「Angel」というシンボルが並べば、「7-Bar」「7-Bar」「7-Bar」の当選とみなされる。
 ここで、「Angel」はランクアップシンボル、「Devil」はランクダウンシンボルである。「Angel」を1つ含む場合は、例えば、「7-Bar」「7-Bar」「7-Bar」よりも1ランクアップの「Devil」「Devil」「Devil」と同じ当選価値となり、「Angel」を2つ含む場合は、「7-Bar」「7-Bar」「7-Bar」よりも2ランクアップの「Angel」「Angel」「Angel」と同じ当選価値となる。

 クレームは以下のとおりである。
「当選ライン(A,B,C)に沿って停止表示される複数のキャラクタを備え、前記キャラクタは、異なるキャラクタとして使用可能な少なくとも1つの置換可能キャラクタを含み、前記置換可能キャラクタの置換により、前記当選ラインに沿って停止表示されるキャラクタの組み合わせを前記置換可能キャラクタを含まない同等の当選組み合わせの当選価値と異なる当選組み合わせとし得るゲーム機であって
 前記当選ライン(A、B、C)に沿って停止した前記キャラクタの組合せを当選テーブルと比較して、当選の有無を判定するステップと 
 前記当選テーブルが、異なるキャラクタとして使用された場合に置換可能なキャラクタを含まないキャラクタの組合せをランク付けした値で構成されている点(上の右図)、及び、
 前記置換可能なキャラクタは、ランクアップ又はランクダウンのキャラクタであり、ランクアップのキャラクタを置換してキャラクタの組合せを入賞組合せとした場合、ランクアップのキャラクタを含まない同等の組合せよりも上位となり、これにより、上位の当選組合せに対して当選価値を増加させ、ランクダウンのキャラクタを置換してキャラクタの組合せを当選組合せとした場合、ランクダウンのキャラクタを含まない同等の組合せよりも下位となり、より低い当選組合せに対して当選価値を減少させる。」

 従来技術として、「ダブル」、「トリプル」、「+10」、「+20」などの代替可能なシンボルは知られていた。「ダブル」を含む場合には当選価値を2倍に、「+10」を含む場合には当選価値を+10する。
 しかし、これらは、当選テーブルにおいてランクアップ、ランクダウンをさせるものではない点が、本件発明と相違している。
 
 審判部は、上記の相違について、進歩性の評価は、非技術的ゲーム開発者から渡された非技術的概念に基づいてゲーム機の開発を任された技術専門家の立場から行わなければならず、ゲームのルールにある改善は進歩性に寄与しないと判断した。
 ただし、請求項の解決手段は、演算操作を省略できる程度にゲーム機を簡素化するものであるから、先行文献の教示と比較して技術的な改善をもたらすものであるとし、進歩性を認めた。

→進歩性あり

[コメント]
 整理が難しい事例である。
 当選テーブルを参照して当選価値を決定することはルールであって非技術的事項であるから進歩性には寄与しない。このルールが制約として与えられたときに開発者が何をするか、が進歩性の評価基準である。ここまでは審決もそう言っている。なお、このルールは、おそらくプレイヤも知っているものと思う。
 本発明は、与えられたゲームルールにしたがって実装しただけのような気がする。ゲームルールを実装した結果、演算操作が簡素になったというのは、与えられたゲームルールが簡素だったからではないのか?
 演算操作を省略できることがゲームルールの変更によるものであるとしても、ときに有効な主張になるのかもしれない。

[EP]ゲームのルールか技術的事項かPart3(T1543/06)

 先に紹介した2件の審決例を含む20件以上の審決で引用されている審決である。
 発明の内容は、ランダムに生成された数字に基づいて手が打たれるゲーム(例えば、双六)に関する。完全にランダムだと運ゲーであるが、この発明ではプレイヤスキルの要素を持たせるため、あらかじめ数字のシーケンスを与え、その中から、第1回目の動き、第2回目の動き、・・・を選択させる(一例として使った数字をシーケンスの中から削除していく)ようにした。
 請求項1は次のとおりである。

「1. ユーザーが手を打つ(makes move)ゲームまたは他のアプリケーションを実行するためのシステムであって、該システムは、
 プロセッサと
 インジケータを表示するためのモニタであって、該インジケータは複数の数字を表示する、モニタとを備え、プロセッサは以下のように構成される:
 入力デバイスからのユーザー入力に従って、1または複数の数字に対応するゲーム内のポジションの数だけ駒を進めること、
 前記インジケータを所定の回数だけ作動させて、前記複数の移動番号の第1のシーケンスを決定するように、前記インジケータを制御すること、および
 前記前進は、前記第1のシーケンスの第1の手番に対応する数の位置だけ前進することと、前記シーケンスの第2の手番に対応する数の位置だけ前進すること。」

[出願人の主張]
 本発明の貢献は、固定またはスクロールされた数字のセットを提示するインジケータによるグラフィカルユーザーインターフェースの提供に存在し、これは、ゲームを行うプロセスの効率に影響を与え、また、ゲームにある程度のスキル、予測性、洗練性、興味を付加する効果を有する。

[審判部の判断] →進歩性なし
「本発明の中心的な考え方は、ゲームプレイにおいて手番を生成し使用する方法、すなわちプレーヤに事前に提供されるグループに関するものである。これは、例えば、ゲームに付属するゲームルールのシート(「各プレイヤーは6個のサイコロを投げ、順番に、すべての番号がなくなるまで、サイコロの目の数だけ自分の駒を動かす」)に記載されているように、実際には(ボード)ゲームをプレイする典型的な指示として読むことができる。」

 審判部はまず本発明の中心的な考え方がゲームルールのシートに記載されている指示と同視できるものであるとした。そして、物理的手段であるプロセッサは、ゲームルールを実行するだけであると判断した。

「また、ゲーム規則と技術的実装の間には識別可能な相乗効果も存在しない。特許請求の範囲(および明細書)には、プロセッサがこれらの機能を実行するために具体的にどのように構成されるか、または、モニタがどのように指標を表示するかについての詳細は記載されていない。被告が「ゲームをプレイするプロセスの効率に影響を与え、さらに熟練度、予測可能性、洗練度、興味を付加する」と特定した効果は、ゲームの非技術的領域で重要となり得るゲームの関心事と要因に完全に関連しており、いずれにしてもルールの中心概念から流れているものである。これらは、モニターに固定された、あるいはスクロールされた一連の数字を表示した結果ではない。」

 クレームは、プロセッサの構成をゲームのルールにしたがった実行内容を特定する形で発明を規定しているが、本質は、ゲームルールのシートに記載された指示と同じであり、効果もゲームルール自体によって生み出されるものである。
 ゲームルールのシートに記載されているような内容は、当然、プレイヤが知っているから、本件についても、“クレームで特定されたルールをプレイヤが知っているかどうか”という判断基準があてはまると言える。


 

2022年8月19日金曜日

[EP]ゲームのルールか技術的事項かPart2(T0414/12)

 ダイス、トランプ、スロットマシーンリール等の模擬ランダム化装置を含む電子ゲームの発明についての審決である。特徴は、複数のスポーツイベントから選択されたスポーツイベントの1つ以上の結果に基づいて、ベットの結果を決定することにある。
 クレームから、プロセッサ手段の特徴を記載すると以下のとおりである。

(a)前記ベットを受信したことに応答して、受信したスポーツイベント情報に基づいて、複数のスポーツイベントからスポーツイベントを選択する1つ又は複数のアルゴリズムを実行する
(b)選択されたスポーツイベントにベットを割り当てる
(c) 選択されたスポーツイベントの1つ以上のイベント結果を受信する
(d) 前記少なくとも1つの入力値を、前記受け取ったイベント結果に基づいて少なくとも部分的に決定し、ベットの結果が少なくとも部分的には前記選択されたスポーツイベントの受信されたイベント結果に基づくようにする
(e)前記メモリ手段(52)は、前記ゲームのためのルールを決定する入力値の複数のセットを記憶するために動作可能であり、かつ
(f)前記プロセッサ手段(50)は、前記複数の入力値決定規則のセットを選択し、前記選択された規則のセットを利用することによって、前記1つまたは複数の入力値を決定するために動作可能である。

(最も近い先行資料との相違)
 ゲームの「チャンス」入力値を生成する「模擬ランダム化装置」としての乱数発生器を用いてベッティングゲームを行うよう動作可能なメモリ手段とプロセッサ手段とを含む公知の電子ゲーム装置が、最も近い先行技術として考えられることは議論の余地がないところである。当業者、すなわち、ソフトウェア工学の技術を有するゲームシステム開発者にとって、このような著名な装置は、発明のステップを評価するための良い出発点となるものである。
 このような著名な先行技術のシステムに関して、請求項1のシステムは、模擬乱数化装置の値を決定する方法のみが異なる。これは請求項の特徴である特徴(a)~(f)に定義されている。

(本発明の本質)
 プレイヤは「ゲーム結果が固定されていないこと、ゲームに勝つチャンスがあること」(7 ページ 27 行目から 28 行目)を知ることができる。このように、プレイヤは単に偶然のゲームに賭けているのではなく、表面上は偶然のゲームであるものを仲介して、スポーツイベントの結果に賭けているのである。重要なのは、プレイヤはそれを承知の上で行っていることである。このことから、審判部は、請求項に係る発明の基本的な核心思想は、実際には、スポーツイベントへの賭けとチャンスゲームを組み合わせた、いわば賭博場とゲームカジノを一緒にした新しいハイブリッドベッティング方式であると結論付けている。

(進歩性) →進歩性なし
 請求項1の特徴(a)~(f)は、それぞれベッティングスキームの異なる側面の明白な実装であり、当業者が著名な電子ゲーム装置でスキーム全体を実施すれば、すべて明白な態様に従うことになる。
 本発明では、スポーツイベントの結果に対してベットを行うので、改ざんの影響を受けにくいという効果があるが、これは、ゲームルールの特定の実装方法から生じる技術的効果ではなく、むしろベッティングゲームが変更されたことの直接的な結果である。非技術的なソリューションにすぎない。

 前述した任天堂のケース(T12/08)との違いは、プレイヤがルールを知っているかどうかということである。任天堂のケースでは出現確率のアルゴリズムを知らないのに対し、本件ではスポーツイベントの結果に依存することを知っている。そこが、非技術的なゲームのルールかどうかの判断の分かれ目になっている。

 

[EP]ゲームのルールか技術的事項か(T12/08)

 ガイドラインで引用されている2009年の審決である。対象は、ポケモンGOに関係する任天堂の出願である。発明のポイントは、キャラクタをマップ上に出現させるか否かの確率を時間に依存して変化させる構成にある。
 キャラクタの出現確率を時間依存にすることは、ゲームのルールなのか、技術的事項なのか。

 EPにおいて、技術的事項と非技術的事項とを含む発明の進歩性判断は、非技術的事項についてはそれがいくら画期的であっても、非技術的事項は、制約条件として設定し、その制約条件を満たすために技術的事項として何をしたか、が問題となる。
 例えば、ショッピングツアーを提供する発明の例(2022/4/7投稿)では、2つ以上の商品を選択したときに最適なショッピングツアーを提供することは非技術的事項であり、2つの商品を購入する最適ルートを提供するという仕様(=制約条件)がビジネス部門から与えられたとき、技術的にそれを実現することが自明であったかどうかが問題となった。
 
 キャラクタの登場確率を時間依存で変える、ということはゲームルールであって、非技術的なのであろうか?
 審判部の判断はNOであり、技術的事項であるとの判断であった。その理由を見ていきたい。

→進歩性あり

「出現確率を時間依存にするこれらの相違は、機械が生成する偶然の出会いの予測可能性を低下させる効果がある(提出された説明の 5 ページ 23 行から 6 ページ 22 行を参照のこと)。この効果は、ゲーム文脈の中でプレーヤの興味を引き、その娯楽価値を高めるのに役立つ偶然の出会いそれ自体の一般的な(非技術的な)目的を超えるものである。異なる特徴によって対処される問題は、それに応じて、より予測しにくい方法で出会いを生成するように、ゲーム装置またはゲームプログラムをどのように修正するかとして定式化することができる。

 制約条件は、より予測しにくい方法で出会いを生成する、である。そして、制約条件を満たすために出現確率を時間依存にすることは技術的事項である。

 ゲームルールについて以下のように述べている(翻訳がやや変かもしれない)。
「「ゲームルール」は、一般に受け入れられているより古典的な意味(EPC 策定時に策定者が理解したであろう意味)で、「ゲームの文脈(そのようなものとして)でのみ意味を持つ行為、慣習、条件に関してプレイヤ間(またはプレイヤとの間)で合意された規制の枠組みが純粋に精神的、抽象的な構成要素であること」の一部を形成する、と審判部は解釈している(T336/07, 理由3.3.1 参照)。」

 ゲームルールは、ゲームの枠組みの中で、プレイヤ間またはプレイヤと合意されるものである。これに対して、出現確率を時間依存にすることはプレイヤに同意されるものではあり得ない(これを同意してしまっては、出現確率がバレてしまう)。よって、ゲームのルールではないと述べている。
 また、わかりやすいアナロジーとして次の例を挙げている。
「類似の例として、サイコロを振ることはそれ自体ゲームルールではなく、(よく知られているとしても)数字をランダムに発生させる技術的な方法と手段(サイコロ)であり、ヘビとはしごゲームでサイコロで出た目によってボード上の駒を動かすことは明らかにゲームルールに対応するものである。」

 この審決からすると、ゲームルールかどうかを見分ける一つの判断材料としては、それが、ゲームの枠組みの中でプレイヤと合意されるものであるかどうか、ということである。




 
 

 
 

[裁判例]マッサージ関連サービスを提供するシステム(知財高裁令和4年6月28日)

  無効審決(請求棄却)に対する審決取消訴訟である。発明は、マッサージチェアの制御に関し、マッサージチェアを制御するプログラムをダウンロードするとともに、リモートコントローラから制御を行わせる発明である。


【請求項1】(下線は、相違点を示すために引いた)
 マッサージ装置であって、 
 マッサージ部と、 
 リモートコントローラと、 
 前記マッサージ部の運動を駆動するように機能する駆動部と、 
 前記駆動部と接続された、縮小命令セットコンピュータであるマイクロコトローラとを備え、前記マイクロコントローラは、
 外部装置と接続し、 
 前記マイクロコントローラによって実行可能なマッサージプログラムのプログラムコードと、前記マッサージプログラムと関連付けられたアイコンのグラフィカルコンテンツとを、暗号化された形式で前記外部装置から受信して前記マッサージプログラムをメモリに保存し、
 前記外部装置から受信した前記マッサージプログラムと前記アイコンの前記グラフィカルコンテンツとを復号し、 
 前記アイコンを前記リモートコントローラに保存させ、一連のマッサージ動作を身体に施すために前記マッサージ部を介して前記復号されたマッサージプログラムを実行するように構成される、マッサージ装置。 

 審決の相違点の認定について争いはない。
 相違点1は、本件発明では、暗号化された形式で受信したマッサージプログラム及びアイコングラフィカルコンテンツを、復号してリモートコントローラに保存している点、
 相違点2は、マイクロコントローラが縮小命令セットコンピュータである点である。 
 
[裁判所の判断]
(相違点1について)
「d そして、本件発明1において、「アイコンをリモートコントローラに保存させること」が特定されているが、アイコンはプログラム選択という操作に利用されるものであり、甲1発明1においては、操作手段としてリモートコントローラを有しているのであるから、アイコンによって選択されることが予定されているプログラムをダウンロードした後、そのプログラムがアイコンによって選択できるように対処すべきことは、当業者が当然考慮すべき普遍的な課題であるところ、その普遍的課題に照らして、甲1発明1に操作手段として備わっているリモートコントローラにアイコンを保存させることは、当然に考慮する設計的事項にすぎず、しかも、ダウンロードしたアイコンをリモートコントローラに保存することも周知の技術である(甲2、甲3)から、当業者であれば、「アイコンをリモートコントローラに保存させること」は、容易に想到し得たものと認められる。 」

※ここでは割愛したが、プログラムやアイコンを暗号化して通信することは周知技術であると判断されている。

(相違点2について)
「・・・このように、本件特許の出願時において、プロセッサアーキテクチャとしてはRISC(縮小命令セットコンピュータ)が主流となっており、また、マッサージ装置の技術分野においてRISCを用いることも周知技術であったから、甲1発明1において、治療プログラムを実行する主データ処理装置200(マイクロコントローラ)としてRISCを採用し、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たものであり、そのことにより、格別な効果を奏するものでもないと認められる。」

 以上のように、裁判所の判断は至極当然のように思われる。ではなぜ、審決は、同じ証拠をみて、進歩性ありと判断したのか。
 審決は、甲2,甲3に記載されているのは、「駆動部に接続されたマイクロコンピュータ」ではないので、本件発明に係る構成が開示されていないと判断した。

「したがって、甲2に記載のシステムにおいて、制御端末110が被制御端末の操作実行ファイル及びその操作に対応するアイコンを受信し、リモコン端末140に対して上記アイコンなどの識別子を送信しているとしても、上記相違点1における「駆動部に接続されたマイクロコントローラによる処理」に関するものではなく、上記相違点1における本件発明1に係る構成を開示するものとはならない。(本件審決84頁)」

 この点に関し、裁判所は次のように、引用文献を限定的に解釈すべきでないと判示した。
「本件審決は、甲2において、制御端末110から複数の家電機器に対する制御命令は、家電機器の制御部に対して実行されるものであるから、制御端末110は家電機器の駆動部に接続して制御する装置ではなく、また、甲3において、AV用集中制御装置(12)から複数のAV用機器(14)に対する制御命令は、家電機器の制御部に対して実行されるものであるから、AV用集中制御装置(12)はAV用機器の駆動部に接続して制御する装置ではないので、いずれも、本件発明1の「駆動部に接続されたマイクロコントローラ」に相当するものではないと解釈した。しかし、甲2及び甲3に記載された技術的事項は、前記⑶ア(イ)、イ(イ)のとおり認定されるものであって、本件審決のように、制御端末110が家電機器の駆動部に接続して制御する装置ではないこと、AV用集中制御装置(12)がAV用機器の駆動部に接続して制御する装置ではないことと限定的に解釈すべき根拠はなく、本件審決による甲2及び甲3の記載事項から把握される技術の認定には誤りがある。 
 したがって、被告の上記主張は採用することはできない。」

[コメント]
 引用文献からどういう発明を抽出するかは、しばしば問題となる。事案によっては、認定すべき発明を細分化しすぎ(いいとこどり)であると言われる。
 本件の場合は、甲2,甲3は周知技術として認定されているものの、普遍的課題に照らして当然に考慮する設計事項にすぎない、との判断が先にあるので、その時点で、進歩性なしという事案であったと思われる。










[裁判例]【補足】システムを装置に変えることは容易か(令和3年(行ケ)10027号)

 2022年12月29日の投稿で、タイトル記載の裁判例(審決取消訴訟)でシステムを装置に変えることに進歩性が認められたことを報告した。その中で、同日に出された侵害訴訟の判決では、同じ引例を理由に、新規性なしと判断されたことに非常に驚いたとコメントした。  この件について、今月号の...