2020年11月19日木曜日

米国における特許適格性

11月18日にAIPPIソフトウェア特許研究会にて、矢作隆行ニューヨーク州弁護士より、機械分野において自然法則該当性が問題になったCAFC判決の紹介があった。備忘の意味を込めて、判決の骨子を書き留めておく。

 対象となったクレームは、トルクを伝達するシャフト部材の製造方法に関し、シャフトを伝達する振動を抑制する発明である。

 1. A method for manufacturing a shaft assembly of a driveline system, the driveline system further including a first driveline component and a second driveline component, the shaft assembly being adapted to transmit torque between the first driveline component and the second driveline component, the method comprising:

providing a hollow shaft member; tuning at least one liner to attenuate at least two types of vibration transmitted through the shaft member; and

positioning the at least one liner within the shaft member such that the at least one liner is configured to damp shell mode vibrations in the shaft member by an amount that is greater than or equal to about 2%, and the at least one liner is also configured to damp bending mode vibrations in the shaft member, the at least one liner being tuned to within about ±20% of a bending mode natural frequency of the shaft assembly as installed in the driveline system.

 ポイントは、シャフト部材を伝達する少なくとも2つのタイプの振動を減衰させるように少なくとも1つのライナーを調整し、少なくとも1つのシャフト部材をライナー内に配置することである。

 

22. A method for manufacturing a shaft assembly of a driveline system, the driveline system further including a first driveline component and a second driveline component, the shaft assembly being adapted to transmit torque between the first driveline component and the second driveline component, the method comprising:

providing a hollow shaft member; tuning a mass and a stiffness of at least one liner, and inserting the at least one liner into the shaft member;

wherein the at least one liner is a tuned resistive absorber for attenuating shell mode vibrations and wherein the at least one liner is a tuned reactive absorber for attenuating bending mode vibrations.

 ポイントは、少なくとも1つのライナーの質量と剛性を調整し、少なくとも1つのライナーをシャフト部材に挿入する、ことである。

 

上記の2つのクレームに対するCAFCの判断は以下のとおりである。

クレーム

多数意見

反対意見

クレーム1より一般的な記載であり、質量と剛性以外の変数も含む。

ライナーを所定の位置に配置することも限定されている。

→クレームは自然法則に向けられたものではない。差し戻し。

クレームは、振動の問題に対し、シャフト部材にライナーを挿入するという具体的な解決手段を含んでいる。

→特許適格性あり。

 

振動の減衰させるための最適化を要するが、それは実施可能要件である。

22

「ライナーの質量と剛性を調整する」は、フックの法則を適用したもの。

クレームにはライナーの調整に関する改良された方法は特定されていない。

→クレームは自然法則に向けられたもので、特許適格性なし。

 

2020年11月3日火曜日

[損害賠償額]102条2項の覆滅について

  特許法102条は特許権侵害による損害賠償額の算定について規定している。特許法102条2項は、侵害者が特許侵害行為によって受けた利益を特許権者の損害と推定することを定めている。102条2項は損害額を推定する規定なので、侵害者はその推定を覆すことが可能であり、推定を覆すことを覆滅という。

 共有に係る特許について一部の特許権者が訴訟を提起して特許侵害が認められた場合、侵害者が侵害行為によって受けた利益を一部の特許権者が総取りするのは、残る特許権者との関係からしても不合理である。

 このような場合には、共有者の存在により、102条2項の推定の覆滅が認められると判示したのが、知財高裁令和2年9月30日の判決である。

「しかるところ,例えば,2名の共有者の一方が単独で同条2項に基づく損害額の損害賠償請求をする場合,侵害者が侵害行為により受けた利益は,一方の共有者の共有持分権の侵害のみならず,他方の共有者の共有者持分権の侵害によるものであるといえるから,上記利益の額のうち,他方の共有者の共有持分権の侵害に係る損害額に相当する部分については,一方の共有者の受けた損害額との間に相当因果関係はないものと認められ,この限度で同条2項による推定は覆滅されるものと解するのが相当である。 

以上を総合すると,特許権が他の共有者との共有であること及び他の共有者が特許発明の実施により利益を受けていることは,同項による推定の覆滅事由となり得るものであり,侵害者が,特許権が他の共有者との共有であることを主張立証したときは,同項による推定は他の共有者の共有持分割合による同条3項に基づく実施料相当額の損害額の限度で覆滅され,また,侵害者が,他の共有者が特許発明を実施していることを主張立証したときは,同条2項による推定は他の共有者の実施の程度(共有者間の実施による利益額の比)に応じて按分した損害額の限度で覆滅されるものと解するのが相当である。 」

 以上のように、訴訟を提起していない共有者が存在している場合には、その共有者が受けた損害については、102条2項の推定は覆滅される。それがどの程度かというのは、共有者が実施しているかどうかで異なり、実施していなければ(実施料相当額×持分割合)が覆滅され、実施している場合には共有者間の利益額の比による。

[裁判例]【補足】システムを装置に変えることは容易か(令和3年(行ケ)10027号)

 2022年12月29日の投稿で、タイトル記載の裁判例(審決取消訴訟)でシステムを装置に変えることに進歩性が認められたことを報告した。その中で、同日に出された侵害訴訟の判決では、同じ引例を理由に、新規性なしと判断されたことに非常に驚いたとコメントした。  この件について、今月号の...