2023年10月16日月曜日

[米国]IPRにおけるクレーム解釈、Claim Preclusionの法理

備忘メモ: 日本ライセンス協会のワーキンググループでの学び

・IPRにおけるクレーム解釈
 IPRが請求されるとPTABは、請求人の主張が認められる合理的な可能性があるかどうかを判断し、可能性ありの場合に審理開始の決定を行う(米国特許法314条(a))。
 この際のクレーム解釈と異なるクレーム解釈で最終判断をする場合には、PTABは当事者に反論の機会を与えなければならない。
Axonics, Inc. v. Medtronic Inc., Nos. 2022-1532, 1533 (Aug. 7, 2023)

・Claim Preclusionの法理
 前の訴訟の内容は蒸し返してはいけないという法理。
 Claim Preclusionに該当するための要件
 ①同一当事者またはその利害関係人が先の訴訟に関与していた
 ②先の訴訟が後の訴訟と同一請求である
 ③先の訴訟が本案に関する終局判決によって終結した

 ②の要件に関し、先の訴訟で主張できたのに主張しなかった場合にもClaim Preclusionの要件に該当する。日本の裁判実務とはだいぶ異なる。
 例えば、先の訴訟の時点ですでに訴訟物と同等の別の製品が販売されていることを知っていたのに訴訟物に加えていなかった場合、Claim Preclusionの法理により後続訴訟は排除される。

 



2023年10月3日火曜日

[裁判例]永久磁石の樹脂封止方法事件(令和3年(行ケ)10152号)

 特許が有効であるとした無効審判の審決に対する審決取消訴訟である。無効理由は、分割要件違反を前提とする新規性・進歩性欠如、分割要件を前提としない進歩性欠如、補正要件違反、サポート要件違反、明確性違反と多岐にわたるが、特許庁はすべての理由が成り立たないとした。裁判所はサポート要件についてのみ判断した。
 特許は、複数の鉄心片が積層された回転子積層鉄心に形成された複数の磁石孔に永久磁石を挿入し樹脂で封止する方法に関する発明である。

【請求項1】 (符号は筆者が追加した)
 複数枚の鉄心片が積層された回転子積層鉄心(12)の複数の磁石挿入孔にそれぞれ永久磁石を挿入し、前記各磁石挿入孔(13)に前記永久磁石(14)を樹脂封止する方法において、 
 前記回転子積層鉄心(12)を、上型(21)及び下型(17)の間に配置して、前記上型(21)及び前記下型(17)同士が当接することなく、前記下型(17)及び前記上型(21)で前記回転子積層鉄心(12)を押圧し、前記回転子積層鉄心(12)の前記磁石挿入孔(13)に前記永久磁石(14)を樹脂封止(15)することを特徴とする回転子積層鉄心への永久磁石の樹脂封止方法。 


(裁判所の判断)
 裁判所は、まず、大合議事件(平成17年(行ケ)10042号)の判示に倣って以下のように一般論を述べた。
「(1) 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。」

 裁判所は、本事案について以下のように判断した。
「 (4) 本件発明についてのサポート要件の検討 
ア 従来技術の問題2を解決するための手段として、本件発明1は、前記2(2)アのとおり、回転子積層鉄心を押圧する際の上型及び下型に対する回転子積層鉄心の配置及び上型と下型との位置関係又は状態を特定する発明であるのに対し、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明は、前記2(3)ウのとおり「回転子積層鉄心12の下面25が当接する矩形板状のトレイ部26と、トレイ部26の中心部に立設され、回転子積層鉄心12の軸孔11に嵌入する直径固定型で棒状のガイド部材27とを有している搬送トレイ16にセットされた回転子積層鉄心12を下型17上に搬送し」、「搬送トレイ16を回転子積層鉄心12と共に、下型17から取り外し、回転子積層鉄心12が搬送トレイ16から取り外される」ものであるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によると、搬送トレイを不可欠の構成としているものと解される。そうすると、本件発明1には、回転子積層鉄心を搭載する搬送トレイを含む構成の発明だけでなく、この搬送トレイを含まない構成の発明も含まれており、搬送トレイを構成に含まない特許請求の範囲の記載を前提にした場合、上記発明の詳細な説明の記載から、当業者が、積層鉄心を下型の有底穴部に嵌挿し、加熱後、積層鉄心を下型の有底穴部から取り出す作業は、人手又は機械によっても、時間を要するもので、作業性が極めて悪いこと(従来技術の問題2)を解決して、生産性及び作業性に優れており、安価に作業ができる永久磁石の樹脂封止方法を提供するという本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。


 裁判所が言っていることは、発明の詳細な説明によれば、作業性が悪いという課題を解決するためには、搬送トレイが必須であるにもかかわらず、特許請求の範囲からは搬送トレイの構成が省かれているため、請求項に係る発明は課題を解決することができない、ということである。つまり、本件は、審査基準でサポート要件違反の類型として挙げられている「請求項において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになる場合」である。
 このような場合、請求項の構成では課題を解決できないので、「特許請求の範囲に記載された発明が、・・当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のもの」ではないと判断されることになる。






[裁判例]【補足】システムを装置に変えることは容易か(令和3年(行ケ)10027号)

 2022年12月29日の投稿で、タイトル記載の裁判例(審決取消訴訟)でシステムを装置に変えることに進歩性が認められたことを報告した。その中で、同日に出された侵害訴訟の判決では、同じ引例を理由に、新規性なしと判断されたことに非常に驚いたとコメントした。  この件について、今月号の...