2021年9月20日月曜日

[記事]中国での侵害訴訟事情


[要点]
・中国での知財訴訟件数が右肩上がり(2020年は40万件以上。多くは著作権。)
・特許侵害訴訟は、3万件弱。
・2021年6月から施行の改正法で、懲罰的損害賠償制度(~5倍)、立証容易化(書類提出命令の明文化)がなされた。
・5GやAIは中国が国を挙げて技術開発を行っている分野であり、今後、訴訟が増える可能性あり。

2021年9月16日木曜日

[記事]6G特許シェア

[ポイント]
・6Gは2030年頃の商用化が見込まれる。
・特許出願のシェアは、中国45%、米国35%、日本10%。
・中国はインフラ系が強く、米国はソフト系に強い。
・ファーウェイは、6G特許取得に動いている。8月社内会議の議事録。
・日本は「アイオン」構想を6Gの標準にしたい。

※「アイオン(IOWN)」構想
・・・Innovative Optical and Wireless Network。オールフォトニクス・ネットワーク、デジタルツインコンピューティング、コグニティブ・ファウンデーションの3要素でスマートな社会を実現する構想

2021年9月15日水曜日

特許法の改正/施行期日

 特許法等の改正の施行期日が閣議決定された。

【デジタル化等の手続の整備】
 ・審判口頭審理のオンライン化 (令和3年10月1日)
 ・印紙予納廃止・料金支払方法の拡充 (令和3年10月1日)
  ※窓口でのクレジットカード支払い等 (令和4年4月1日)
 ・意匠国際出願手続のデジタル化 (令和3年10月1日)
  ※商標国際出願手続については別途決定 
 ・災害等の理由による手続期間徒過後の割増料金免除 (令和3年10月1日) 
【デジタル化等の進展に伴う企業行動の変化に対応した権利保護の見直し】
 ・訂正審判等における通常実施権者の承諾要件の見直し (令和4年4月1日)
【知的財産制度の基盤強化】
 ・特許権侵害訴訟における第三者意見募集制度の導入 (令和4年4月1日)
 ・特許料等の料金体系の見直し (令和4年4月1日)
 ・弁理士制度の見直し (令和4年4月1日)


 

2021年9月11日土曜日

[記事]Apple vs. Epic (アプリ手数料)


 (ポイント)
・Apple vs. Epic の判決が9月10日に出された。
・アプリ開発者にアップル以外の課金方法に誘導することを禁ずる規約は、反競争的な行為にあたる。(Epicはこの規約に違反して独自の課金方法を提供したため、Appストアから締め出されていた。)
・アップルは、反トラスト法にいう独占企業とは認められない。

 なお、判決はまだ確定していない。



2021年9月8日水曜日

無効審判と異議申立 2020年実績を更新

  特許行政年次報告書2021年版を受け、無効審判と異議申立の比較データを更新。



 異議申立の取消率は昨年とほぼ同じ。
 無効審判の無効率がかなり上がっている。昨年の投稿で、無効審判の無効率が下がってきていると書いたが、考えてみると、計算対象となっている無効審判の総数が100件台と母集団が少ないので、年によって若干のブレがあるのは自然であり、2015年~2020年の数字はその範囲内と思われる。
 対して、異議申立の方は母集団が1000件台であり、取消率の変動が小さいのはそのためかもしれない。
 両制度を比較すると、若干、無効審判の方が無効率が高いということが言える。




2021年9月7日火曜日

特許行政年次報告書2021年版


・特許査定率は?
 2019年の実績は、日本と米国は75%程度、韓国(7割弱)、欧州(6割強)がこれに続く。衝撃的に低いのが中国であり、なんと44.3%! 
 中国は特許査定率の定義を公表していないので、他国と同じ土俵で見てよいのかは分からないが、中国の過去の査定率と比べても2017年の56.4%から2年連続で下がっている。

・特許の最終処分までの期間は?
 日本と韓国が最速で14~15カ月。米国と中国は20カ月強。欧州は28カ月。日本特許庁は優秀ですね。

・意匠の最終処分までの期間は?
 約7カ月。ここ数年横ばい。

・商標の最終処分までの期間は?
 約11カ月。2016年~2020年まで年々遅くなっている。
 なお、商標は、約6か月で最初の審査結果通知を行う「ファストトラック審査」がある。指定商品・指定役務を「類似商品・役務審査基準」に掲載の商品・役務のみとすることで自動的にファストトラック審査の対象となる。

・拒絶査定不服審判をしたら、拒絶査定が覆る可能性は?
 2020年の審理結果によれば、請求成立の確率は、5332/(5332+2310)≒0.7。
 これは審決に至った件数であり、前置審査もあるので、審判請求して特許査定が得られる可能性はもっと高いのではないか。
 2020年の前置報告と前置登録のそれぞれの件数は、6159件、8719件なので、前置審査で登録になる確率は、8719/(8719+6159)≒0.59。
 総合すると、審判請求と同時に補正をした場合は、前置審査で登録か、前置報告の上で登録になればよいから、0.59+0.41×0.7=0.877。ただし、補正をしないで審判した場合と、前置審査でダメだったものが審判にかかった場合とでは成功率は違うと思われるので、こんなに高い確率にはならず、7割5分くらいだろうか。





2021年9月4日土曜日

[商標]マツモトキヨシ事件(知財高裁令和3年8月30日)

  マツモトキヨシの音商標の出願が拒絶審決を受けたことに対する審決取消訴訟である。
 商標法4条1項8号は、他人の氏名等を含む商標は、その他人の承諾を得なければ登録できないことを規定している。
 特許庁は、「マツモトキヨシ」の音商標は、「松本清」、「松本潔」、「松本清司」等の人の氏名として 客観的に把握されることを否定することはできないとして、出願を拒絶した。

(裁判所の判断)
 また,同号(注:4条1項8号のこと)は,出願人の商標登録を受ける利益と他人の氏名,名称等に 係る人格的利益の調整を図る趣旨の規定であり,音商標を構成する音と同一の称呼の氏名の者が存在するとしても,当該音が一般に人の氏名を指し 示すものとして認識されない場合にまで,他人の氏名に係る人格的利益を 常に優先させることを規定したものと解することはできない。 
 そうすると,音商標を構成する音と同一の称呼の氏名の者が存在するとしても,取引の実情に照らし,商標登録出願時において,音商標に接した者が,普通は,音商標を構成する音から人の氏名を連想,想起するものと認められないときは,当該音は一般に人の氏名を指し示すものとして認識されるものといえないから,当該音商標は,同号の「他人の氏名」を含む商標に当たるものと認めることはできないというべきである。

 以上のように4条1項8号の規定の解釈について述べた上で、次のように判示した。

(裁判所の判断)
 前記アの取引の実情の下においては,本願商標の登録出願当時(出願日平成29年1月30日),本願商標に接した者が,本願商標の構成中の「マツモトキヨシ」という言語的要素からなる音から,通常,容易に 連想,想起するのは,ドラッグストアの店名としての「マツモトキヨシ」, 企業名としての株式会社マツモトキヨシ,原告又は原告のグループ会社 であって,普通は,「マツモトキヨシ」と読まれる「松本清」,「松本 潔」,「松本清司」等の人の氏名を連想,想起するものと認められない から,当該音は一般に人の氏名を指し示すものとして認識されるものと はいえない。 
 したがって,本願商標は,商標法4条1項8号の「他人の氏名」を含む商標に当たるものと認めることはできないというべきである。 

 特許庁は、これまでに「マツモトキヨシ」を含む商標の登録を認めている。音商標に関して出願を拒絶することとしたのは、事実認定として、音商標としての「マツモトキヨシ」の周知性は、4条1項8号の判断において、他人の氏名を連想、想起させないほどではないということであったと思う。つまり、4条1項8号の規定の解釈は裁判所と同じであるが、事実認定が異なっていた。

令和2年(行ケ)第10126号 

2021年9月3日金曜日

[記事]特許の価値と収益貢献

 日本経済新聞2021年9月3日 やさしい経済学より

 特許取得の企業収益に対する貢献についての記事である。
 特許のライセンス料をとれれば、その特許がどのくらいの貢献があるかわかりやすいが、特許は公開されているので、通常は、第三者は特許を回避する方向に動くため、ライセンス料を取ることは容易ではない。特許を回避するために第三者に使わせたコストが、特許を保有する会社の利益という見方もできるが、これを測ることは不可能である。

 記事では、特許が登録された時点で企業の株価が反応したかどうかによって特許の価値を測る研究が紹介されている。指標としては客観的であり、面白い。
 米国の研究では、多くの特許の価値はゼロだが、一部の特許は非常に高い収益をもたらす。中位数で見ると、登録1件あたり3億円。
 日本の研究では、特許取得のプレスリリースが株価に与える影響を調べており、特許の価値は650億円程度。ただし、これは医薬品特許を分析対象としているためと考えられる。
 
 登録された特許を見てその権利範囲を理解できる人はそう多くないと思う。そうすると、特許取得したことが企業価値に良い影響を与えそうだ、という期待で上記の金額が形成されてるような気がする。そういう期待が生まれる業界かどうか、ということが株価の上記金額を決める一番のポイントかもしれない。

[裁判例]【補足】システムを装置に変えることは容易か(令和3年(行ケ)10027号)

 2022年12月29日の投稿で、タイトル記載の裁判例(審決取消訴訟)でシステムを装置に変えることに進歩性が認められたことを報告した。その中で、同日に出された侵害訴訟の判決では、同じ引例を理由に、新規性なしと判断されたことに非常に驚いたとコメントした。  この件について、今月号の...