2023年6月30日金曜日

[裁判例]国内外にまたがるシステムの「生産」について(令和4年(ネ)第10046号)

 本事件は、ニコニコ動画等のサービスを提供する株式会社ドワンゴ(以下、「原告」という)と米国法人であるFC2,INC.(以下、「被告」という)との間で争われた侵害訴訟であり、知財高裁の大合議で取り上げられた事件である。
 原告は、特許第6526304号(発明の名称「コメント配信システム」)を保有している。被告は、動画を再生して閲覧している各ユーザが、その動画に対してコメントを付与することができるサービス(「FC2 動画」「FC2 SayMove」「FC2 ひまわり動画」)を提供している。
 原審は、被告の各システムは本件特許に係る発明の全ての構成要件を充足し、その技術的範囲に属すると判断した。しかしながら、被告各システムの構成要素であるサーバが米国内に存在することから、日本国内に存在するユーザ端末のみでは、本件特許に係る発明の全ての構成要件を充足しないとして、原告の請求が棄却された。

 本事件では、構成要素の一つであるサーバが国外にあるが、特許権の侵害が認められるかが論点である。より具体的には、被告各システムが新たに作り出されるに当たって被告がした行為が、本件各発明の実施行為としての「生産」(特許法2条3項1号)に該当し、本件特許権を侵害するものといえるかが論点である。

 本件については、KSIニュースレターに詳しく記載したので、そちらをご参照いただければ非常に幸いである。

 ここでは、個人的に、最大のポイントと考えられるところを述べたい。
 素朴に考えれば、サーバは国外にあるのだから、国外にあるサーバを含むシステムの生産は、国内における生産行為とは言えないように思う。被告システムの生産とは何か、という問題設定が、この判決のポイントのように感じる。知財高裁は、以下のように設定した。

(知財高裁の判断)
(イ) 被告サービス1のFLASH版における被告システム1を新たに作り出す行為について 
a 被告サービス1のFLASH版においては、訂正して引用した原判決の第4の5⑴ウ(ア)のとおり、ユーザが、国内のユーザ端末のブラウザにおいて、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページを指定する(②)と、それに伴い、被控訴人FC2のウェブ5 サーバが上記ウェブページのHTMLファイル及びSWFファイルをユーザ端末に送信し(③)、ユーザ端末が受信した、これらのファイルはブラウザのキャッシュに保存され、ユーザ端末のFLASHが、ブラウザのキャッシュにあるSWFファイルを読み込み(④)、その後、ユーザが、ユーザ端末において、ブラウザ上に表示されたウェブページにおける当該動画の再生ボタンを押す(⑤)と、上記SWFファイルに格納された命令に従って、FLASHが、ブラウザに対し動画ファイル及びコメントファイルを取得するよう指示し、ブラウザが、その指示に従って、被控訴人FC2の動画配信用サーバに対し動画ファイルのリクエストを行うとともに、被控訴人FC2のコメント配信用サーバに対しコメントファイルのリクエストを行い(⑥)、上記リクエストに応じて、被控訴人FC2の動画配信用サーバが動画ファイルを、被控訴人FC2のコメント配信用サーバがコメントファイルを、それぞれユーザ端末に送信し(⑦)、ユーザ端末が、上記動画ファイル及びコメントファイルを受信する(⑧)ことにより、ユーザ端末が、受信した上記動画ファイル及びコメントファイルに基づいて、ブラウザにおいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能となる。このように、ユーザ端末が上記動画ファイル及びコメントファイルを受信した時点(⑧)において、被控訴人FC2の動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバとユーザ端末はインターネットを利用したネットワークを介して接続されており、ユーザ端末のブラウザにおいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能となるから、ユーザ端末が上記各ファイルを受信した時点で、本件発明1の全ての構成要件を充足する機能を備えた被告システム1が新たに作り出されたものということができる(以下、被告システム1を新たに作り出す上記行為を「本件生産1の1」という。)。 

 知財高裁は、被告システムにおける生産とは、被告システムを新たに作り出す行為、より具体的には、ユーザ端末に必要なファイルをダウンロードすることであると捉えた。その上で、必要なファイルをダウンロードする行為が国内で行われたと評価できるかを検討している。
 被告は「被告各システムについては、プログラムの作成、サーバへの蔵置は海外で行われており、システムの「大部分」が日本国内で作り出されていないことは、明らかである。 」と主張しており、プログラムの作成が海外で行われたと思われる。
 しかし、知財高裁は、プログラムの作成よりも、被告システムを最終的に完成させるために、ユーザ端末に必要なファイルをダウンロードする行為に着目している。この問題設定が、今回の判決の結論を導く鍵であったように思う。
 

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