ICT特許ノート
2026年10月16日金曜日
[裁判例]ツムツム事件控訴審(令和7年(ネ)第10082号)
2026年10月14日水曜日
[裁判例]補正前の請求項を対象に審理判断した審決が取り消された例(令和8年(行ケ)第10016号)
少なくとも外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有する外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に介在する複数の玉により構成される転がり軸受において、前記内輪と前記外輪の少なくとも一方の材質をアルミニウム合金、またはマグネシウム合金とし、前記玉の動作時の公転と自転比率を変えることにより保持器を使用しないで負荷を受ける玉同士を非接触とする自律分散式転がり軸受の構成とし、前記玉と前記軌道との摩擦と摩擦熱を低減せしめることにより、前記軸受動作時の前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度を、前記内輪軌道及び前記外輪軌道の強度低下温度未満としたことを特徴とする転がり軸受。
これに対し被告(特許庁長官)は、訴訟において、審決が構成Bを補正前の文言で記載していた点に誤りがあることを認めつつ、明確性・進歩性の判断の要点は補正後の文言で読んでも同じであり、結論に影響しないと主張した。
本件審決の審理判断の対象について検討するに、本件審決の「理由」欄の「第2 本願発明」には、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1は前記第2の3⑵のとおりであると記載される一方で、「第4 当審における判断」には、本願発明の明確性につき、…と、また、本願発明の進歩性につき、…と、さらに、審判請求人(原告)の主張につき、…と、一貫して本件補正による補正前の請求項1が記載され、本件補正による補正前の請求項1に係る発明を対象として審理判断がされている。
そうすると、本件審決には、本件補正による補正後の請求項1に係る発明を対象として、その明確性、実施可能要件、進歩性等につき審理判断すべきであるのに、本件補正による補正前の請求項1に係る発明を対象として、これらを審理判断した手続上の瑕疵が存在するといわざるを得ない。
そして、審理判断の対象を異にする以上、これが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであり、本件審決は取り消されるべきである。
審決の「本願発明」の項には補正後の請求項が正しく記載されていたが、判断部分では明確性、相違点の認定、技術的意義の検討、請求人の主張への応答のいずれにおいても補正前の文言が引用されていた。補正前の文言を引き写したまま判断部分を書いてしまったものと推測される。
注目されるのは、被告が「誤りはあるが結論に影響しない」と主張したのに対し、裁判所がその当否、すなわち補正後の文言で読んでも明確性欠如・進歩性欠如の結論が維持されるかどうかに立ち入らなかった点である。裁判所は、審理判断の対象を異にする以上、結論への影響は「明らか」であるとして、いわば形式的に取り消した。単なる誤記として処理できる場合もあるが、本件では判断部分全体が補正前の発明を前提としていたため、審理対象自体を取り違えたものと評価されたのであろう。
実質的に見ても、「停止時に対する温度上昇値」と「動作時の温度」とでは、雰囲気温度を含むかどうかで意味が異なる。補正後の構成Bは、使用環境によっては構成Aを採用しても当然には満たされないとも考えられ、構成Aに付随する作用効果にすぎないとする審決の論理がそのまま妥当するとは限らない。被告のいう「要点は同じ」も直ちには言い切れなかったように思う。
2026年8月18日火曜日
方法発明の間接侵害が否定された例(令和6年(ワ)第70583号)
液晶キーボードのキーの背景画像を着せ替える方法に関する特許を有する原告らが、文字入力キーボードアプリ「Simeji」を製造販売するバイドゥ株式会社を訴えた事件である(東京地裁民事第46部・令和8年4月15日判決)。実際に本件各発明に係る方法を使用するのは、被告製品をインストールしたスマートフォン等を操作する利用者であったため、被告によるアプリの製造販売について、特許法101条4号及び5号の間接侵害の成否が争われた。
問題となった特許(特許第6446634号)は以下の構成を有する。
1A 液晶画面におけるローマ字入力のキーボード部又は日本語入力のテンキーによるキーボード部内に表示されている
1B 1個又は複数個のキーを選択し、
1C 模様を含む画像又は図柄である画素材を取り込み、
1D 該選択された各キー毎に同一の該取り込まれた画素材を背景画として貼付けることを特徴とする、
1E 液晶キーボードの背景の画像を着せ替える方法。
2A 該画素材は、貼付け前に拡大縮小、移動、または変形による編集がなされる
2B 請求項2に記載の液晶キーボードの背景の画像を着せ替える方法。
要するに、キーを選び、画像を取り込み、選んだ各キーの背景に同じ画像を貼り付ける、という「方法」のクレームである。
被告製品は、スマートフォン及びタブレット用の文字入力キーボードアプリであり、平成30年4月19日から令和3年12月頃まで、テンキーのボタンの背景画像を着せ替える機能を搭載していた。実際に着せ替えの操作を行うのは、被告製品をインストールしたスマートフォン等を用いる利用者(ユーザー)である。そこで原告らは、被告によるアプリの製造販売が101条4号(のみ品)及び5号(不可欠品)の間接侵害に当たると主張した。
[裁判所の判断]
1 争点2(間接侵害の成否)について
⑴ 原告らは、スマートフォン等にインストールされるアプリケーションである被告製品の製造販売が、特許法101条4号及び5号の間接侵害に当たると主張する。
そこで検討するに、特許法101条4号及び5号は、その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物についてこれを生産、譲渡等する行為を特許権侵害とみなすものであり、特許発明に係る方法を実施することが可能である物の生産に用いられる物を生産、譲渡等する行為を特許権侵害とみなすものではないものと解される(平成17年知財高裁特別部判決参照)。
前提事実⑸イのとおり、被告製品の利用者(ユーザー)は、被告製品をスマートフォン等にインストールし、当該スマートフォン等でアプリケーションを起動して、別紙被告製品操作・動作説明書記載のとおり動作させていたのであるから、その物自体を利用して本件各発明に係る方法を実施することが可能である物は被告製品をインストールしたスマートフォン等であって、被告製品は、そのようなスマートフォン等の生産に用いられる物である。そうすると、被告製品の製造販売が同条4号及び5号の間接侵害に当たるということはできない。
⑵ これに対し、原告らは、被告製品の製造販売が特許法101条4号及び5号の間接侵害に当たることの根拠として、①特許出願において物の発明と方法の発明の選択は、出願者が任意に行うものであり、プログラムに係る発明を方法の発明として特許出願した場合にもその保護を図る必要があること、②プログラムが同条2号の「その物の生産に用いる物」に当たると解するのに、同条5号の「その方法の使用に用いる物」に当たらないと解するのは、均衡を失すること、③スマートフォン等とプログラムの関係は、単なる物と部品という関係とは異なるから、プログラムを動作させることで使用される方法の発明について、同号の「物」にプログラムが含まれると解しても、発明の方法を実施する機能を備えるプログラムに限定されるため、間接侵害の成立範囲は不当に広がらないこと、④同条4号は、「その方法の使用にのみ用いる物」と「のみ」による限定がされており、間接侵害の成立範囲が不当に広がることもないことなどを主張する。
しかしながら、上記①②について、物の発明についての間接侵害(同条1号及び2号)と、方法の発明についての間接侵害(同条4号及び5号)は、それぞれ「物の生産」又は「方法の使用」という実施行為との関係で間接侵害の成立範囲を規定し、プログラムが「用いる物」に当たるか否かは、実施行為との関係で決まるのであるから、物の発明と方法の発明で間接侵害の成立範囲が異なることがあるのは当然である。そして、プログラムは物の発明として特許法における保護対象となり得る(同法2条3項1号、4項)のであるから、原告会社において、物の発明としてではなく、あえて方法の発明として本件各発明に係る特許を取得した以上、被告製品の製造販売について間接侵害が成立しないと解したからといって、同法による保護に欠けるものとはいえない。
また、上記③④について、同条4号の「その方法の使用に…用いる物」及び同条5号の「その方法の使用に用いる物」が、その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物を意味し、そのような物の生産に用いられる物を含まないと解すべきであるのは前記⑴のとおりであり、被告の主張する点は、被告製品の製造販売が特許法101条4号及び5号の間接侵害に当たらないとの前記⑴の判断を左右するものではない。
[コメント]
参照されている平成17年知財高裁特別部判決は一太郎事件(平成17年(ネ)第10040号)である。同判決は、「Y製品をインストールしたパソコン」は「その方法の使用に用いる物…であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当するが、Yの行為は「当該パソコンの生産に用いられるY製品について製造、譲渡等を行うものにすぎない」として間接侵害を否定した。本判決は、その枠組みをパソコンからスマートフォンに置き換えてそのまま適用したものである。
もっとも、一太郎事件で問題となったのは当時の101条4号、すなわち平成18年改正後の現5号(不可欠品)である。原告らは、一太郎事件の判断は「のみ」の限定がなく「その物がその発明の実施に用いられること」という主観的要件を含む不可欠品の規定に基づくものだから、「のみ」の限定がある現4号には妥当しないと主張していた。本判決はこの区別を採らず、4号・5号の「用いる物」を同一に解している。「その物自体を利用して方法を実施することが可能である物」か否かという線引きは、条文上の「のみ」の有無とは別の次元の問題である、という整理であろう。
参考になるのは、傍論的に述べられた「あえて方法の発明として本件各発明に係る特許を取得した以上、…同法による保護に欠けるものとはいえない」という一節である。プログラムは2条3項1号・4項により物の発明として保護され得るのだから、方法クレームしか取っていないのは出願人の選択の結果である、というわけである。ソフトウェア関連発明について、プログラムクレーム・記録媒体クレーム・システムクレームを併せて取得しておくことの意味が、改めて確認されたことになる。逆に言えば、方法クレームのみで、実施主体がエンドユーザーとなるタイプのアプリを差し止めるのは、現行法の解釈上かなり難しい。権利化段階でのクレームカテゴリの設計が重要である。
2026年1月5日月曜日
[裁判例]均等論の第1要件(本質的部分)について判断された例( 令和5年(ワ)70738)
2026年1月4日日曜日
[裁判例]ふるさと納税の返礼が売買取引ではないとされた例(令和7年(ネ)10046)
2026年1月3日土曜日
[裁判例]「アプリケーションで提供されるサービス」の解釈(令和5年(ワ)70425)
[裁判所の判断]
2025年11月2日日曜日
除くクレーム(令和6年(行ケ)第10081号)
1 除くクレームについて
特許実務において、引用文献と差別化を図るために、構成要件の一部を除くことが行われることがある。新たな技術的事項を導入しないものである場合には構成要件の一部を除くことが認められるが(ソルダーレジスト大合議事件(平成18年(行ケ)第10563号))、逆に言えば、先行技術と技術的思想が共通する場合は、「除くクレーム」による補正をしても、進歩性の要件を満たすことは困難である。
除くクレームを用いた発明について判断した裁判例を紹介する。「愛玩動物マッチングシステム」という名称の発明について、拒絶審決に対する審決取消しを求めた事件である。
【請求項1】
譲受人がインターネットを介して愛玩動物を閲覧する閲覧手段と、
譲受人が引き渡し場所(動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く)及び日時を予約する予約手段と、
引き渡し場所(動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く)までの愛玩動物の輸送を手配する輸送調整手段とを有し、
譲受人が指定した引き渡し場所(動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く)及び日時に基づいて、愛玩動物の健康診断を手配する健康診断調整手段をさらに備える
ことを特徴とする愛玩動物マッチングシステム。
(原告の主張)
引用文献1は、犬や猫等の動物の譲渡を行いやすくする譲渡支援システムの発明を開示している。引用文献1では、生体販売業界の現状として、ブリーダーによる直接販売には、①対面販売違反の疑い、②飼育に対する十分な説明が困難、③アフターフォローが不十分、などの問題があることが指摘されており(【0019】~【0024】)、引用発明は、既存の生体流通経路を利用せず、ブリーダーからの直販スタイルでありながら、生体を引き渡す場所を動物病院(獣医師)とすることで現状の課題を解決する一つの方策を提示したい、との発明者の思いから発明の着想に至ったものである(【0025】)との記載がある。
このような記載があることから、原告は、引用発明は、適切な情報を新規飼主に伝達し、かかりつけ病院と生体情報を紐付けて、生体管理の徹底とマイクロチップ番号の適切な登録等を行うことを可能にすることで、上記②及び③の問題を解決する効果をもたらすものであり、このような効果をもたらすためには、動物の引き渡し場所を獣医師又は動物病院とすることが必須となると主張している。これに対し、本願発明は、「(動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く)」と規定されている。引用発明において動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除くことには阻害要因があり、新規性・進歩性を有しているというのが原告のロジックである。
(裁判所の判断)
イ 引用文献1の【0006】は、「発明が解決しようとする課題」として、里親希望者が譲渡する動物を登録した動物病院までその動物を引き取りに行かねばならず、これがマッチングの成立を阻む要因となっていたことを挙げているが、この要因の除去は、引き渡しの場所を「譲渡する動物を登録した動物病院」以外の場所に変更することによっても可能であるといえる。また、【0006】には、動物の個体管理の技術が動物と譲受希望者とのマッチングに活用されていなかったことも、発明が解決しようとする課題として挙げるが、この課題の解決は引き渡し場所とは関係がない。したがって、引用文献1の【0006】の記載から、引用発明の動物の引き渡し場所が動物病院又は獣医師が立ち会う場所に限られるとはいえない。
イ そこで、予約手段における「引き渡し場所」に関する相違が、本件審決認定の相違点1で述べられるとおり、本願発明では「動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く」ものであるのに対し、引用発明では「動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く」ものでないことにあることを前提に、その点の容易想到性について検討する。
・・・また、引用発明において、引き渡し場所を、特段限定のない引き渡し場所から、「動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く」引き渡し場所に変更することによって、システムの大きな設計変更が必要になるとは認められない。
そして、本願明細書等には、引き渡し場所から「動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く」ことによって得られる効果について何ら記載されておらず(前記1⑶イ)、本願発明において、引き渡し場所から「動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く」ものとした構成によって得られる効果が、当業者が予測することのできる範囲を超えた顕著なものであるとは認められない。
したがって、引用発明の、特段の限定のない引き渡し場所を、「動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く」場所に変更することは、当業者であれば容易に想到し得たものである。そうすると、本件審決の、予約手段における「引き渡し場所」についての容易想到性の判断に誤りはない。
(コメント)
除くクレームが有効なのは、引用発明の本質的な構成を除く場合である。つまり、本質的な構成を備えないようにすることは阻害要因があるので、引用発明から容易想到ではないということになる。本裁判例では、引用発明は、動物病院及び獣医師が立ち会う場所で引き渡しを行うことが必須ではないと認定され、進歩性が否定された。引用発明の認定で勝負がついたのであり、除くクレーム自体が否定されたわけではない。
なお、本裁判例で興味深かったのは、引用発明の認定において引用発明の着想に至った経緯を、引用発明の構成から分離して検討している点である。
「引用文献1の【0025】には、「本願の発明者らは、・・・生体を引き渡す場を動物病院(獣医師)とすることで現状の課題を解決する一つの方策を提示したい、という思いから本願発明の着想に至った。」との記載があるが、一つの方策を提示する着想に至るまでの発明者の心情に関して記載したものにすぎず、引用文献1に記載された発明の具体的な構成を特定した記載とは認められないから、【0025】の記載から、引用発明における動物の引き渡し場所が動物病院又は獣医師が立ち会う場所に限られるとは解されない。」
[裁判例]ツムツム事件控訴審(令和7年(ネ)第10082号)
株式会社セガが、「LINE:ディズニーツムツム」を提供するLINEヤフー株式会社に対し、2件の特許権の侵害を理由に損害賠償(一部請求として1億円)を求めた事件の控訴審である(令和8年8月31日判決、原審は令和7年9月11日判決)。控訴は棄却された。ただし、本件特許2については...
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ワインセラーの霜取り制御に関する特許を有するさくら製作所株式会社がデバイスタイルマーケティングを訴えた裁判である。 問題となった特許は以下の構成を有する。 【請求項1】 A コンプレッサーを使用した冷却方式を採用し、冷却サイクルによって冷却器に付着した霜を溶かす霜取り機能を有...
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1 除くクレームについて 特許実務において、引用文献と差別化を図るために、構成要件の一部を除くことが行われることがある。新たな技術的事項を導入しないものである場合には構成要件の一部を除くことが認められるが(ソルダーレジスト大合議事件(平成18年(行ケ)第10563号))、...
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取引管理システムについての特許を有する株式会社キーソフトがふるさと納税に係る返礼品についてのサービスを提供する株式会社サンカクキカクを訴えた裁判の控訴審である。 対象となった特許は、段階的な複数の取引者間での商品の取引の伝票管理を簡易にすることを目的とする取引管理システムであ...


