2026年1月5日月曜日

[裁判例]均等論の第1要件(本質的部分)について判断された例( 令和5年(ワ)70738)

 ワインセラーの霜取り制御に関する特許を有するさくら製作所株式会社がデバイスタイルマーケティングを訴えた裁判である。
 問題となった特許は以下の構成を有する。
【請求項1】
A コンプレッサーを使用した冷却方式を採用し、冷却サイクルによって冷却器に付着した霜を溶かす霜取り機能を有するワインセラーにおいて、 
B 前記冷却器の近傍に配置され、冷却器周辺温度を検知する温度センサーと、 
C 前記冷却器に付着した霜を溶かすために冷却器周辺温度を上昇させる加温ヒーターと、 
D 所定のタイミングに達した場合に、前記コンプレッサーを停止するとともに前記温度センサーにより検知された冷却器周辺温度をチェックし、当該冷却器周辺温度に基づいて前記加温ヒーターを起動するか否かを判断する制御部と、を備え、 
E1 前記制御部は、前記所定のタイミングで前記温度センサーにより検知された冷却器周辺温度が、前記冷却器に霜が付着する可能性のある温度と
して規定された「第1の温度」以下の場合に、前記加温ヒーターを起動し、 
E2 前記加温ヒーターを起動した後の冷却器周辺温度が「第2の温度(「第1の温度」<「第2の温度」)」に達した場合に、前記加温ヒーターを停止し、 
E3 さらに、前記加温ヒーターを停止した後の冷却器周辺温度が「第3の温度(「第2の温度」<「第3の温度」)」に達した場合に、前記コンプレッサーを再起動する、 
F ことを特徴とするワインセラー。 

 要するに、第1の温度以下になったらヒーターを起動し、第2の温度になったらヒーターを止め、第3の温度になったらコンプレッサーを再起動して再冷却するという制御を行う。
 複数回の実験によれば、被告のイ号製品は再冷却に関して、コンプレッサーを再起動したときの温度の方が低く(第2の温度>第3の温度)、ロ号製品はコンプレッサーを再起動する温度がまちまちであることから、構成要件E3を充足しないと判断された。
 そこで、構成要件E3の相違にかかわらず均等論による侵害が認められるかが判断された。

[裁判所の判断]
⑶ 第1要件の充足性 
 均等の第1要件にいう特許発明の本質的部分とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解され、第1要件、すなわち対象製品との相違部分が非本質的部分であるかどうかを判断する際には、上記のとおりの特許発明の本質的部分を対象製品が共通に備えているかどうかを判断し、これを備えていると認められる場合には、相違部分は本質的部分ではないというべきである。 
  前記1⑵に認定した本件発明の技術的意義に照らせば、本件発明は、霜取り制御の従来技術をワインセラーに適用した場合の、無駄な霜取り運転動作及び冷却器に付着した露の再霜化による冷却器に付着する霜の増殖という課題を解決するため、制御部が、冷却器に霜が付着する可能性のある温度として規定された「第1の温度」以下の場合に、前記加温ヒーターを起動し、加温ヒーターを起動した後の冷却器周辺温度が「第2の温度(「第1の温度」<「第2の温度」)」に達した場合に、加温ヒーターを停止し、さらに、加温ヒーターを停止した後の冷却器周辺温度が「第3の温度(「第2の温度」<「第3の温度」)」に達した場合に、前記コンプレッサーを再起動する構成を解決手段とし、これにより、無駄な霜取り運転動作を回避し、また、冷却器に残存する水滴を減らして冷却器を再冷却したときの霜の増殖を回避するという効果が得られるものである。 
  以上のとおりの本件発明の課題及び解決手段とその効果に照らすと、本件発明の本質的部分(特許請求の範囲に記載された構成のうち従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分)は、制御部が、冷却器に霜が付着する可能性のある温度として規定された「第1の温度」以下の場合に加温ヒーターを起動し、加温ヒーターを起動した後の冷却器周辺温度が「第2の温度(「第1の温度」<「第2の温度」)」に達した場合に、加温ヒーターを停止、加温ヒーターを停止した後の冷却器周辺温度が「第3の温度(「第2の温度」<「第3の温度」)」に達した場合に、前記コンプレッサーを再起動するという構成を採用することにより、無駄な霜取り運転動作を回避し、また、冷却器に残存する水滴を減らして冷却器を再冷却したときの霜の増殖を回避することを可能とした点にあると解するのが相当である。 
 そうすると、被告製品は、本件発明の本質的部分を共通に備えているとはいえず、前記⑵の相違部分が非本質的部分であるとはいえないから、均等の第1要件を充足しない。 
 ⑷ これに対し、原告は、被告製品のコンプレッサーの保護機能の結果、加温ヒーターが停止した後の露の滴下時間を確保するという本件発明と同一の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏するから、第1要件を充足すると主張する。 
  しかしながら、被告製品において、コンプレッサーの保護機能によって加温ヒーターが停止した後に露の滴下時間が確保され、冷却器に残存する水滴を減らすという本件発明と同様の結果が得られるとしても、被告製品が、本件発明の本質的部分を共通に備えていないことに変わりはないから、原告の主張は採用することができない。 

(コメント)
 明細書の課題には以下のとおり記載されている。
「しかしながら、冷却器に霜が付着しない程度の庫内温度設定で動作可能なワインセラーには、上記従来の霜取り制御を一律に適用することは効率的ではない。すなわち、無駄な霜取り運転動作を回避する観点から上記従来の霜取り制御には改善の余地がある。そのため、高湿度を保持するワインセラーにおいては、従来のように霜取りヒーターを利用して霜を露にするだけでは冷却器に露が付着した状態での再霜化が繰り返されることになり、残存する露による霜に新たな霜が付着して結果的に冷却器に付着する霜が増殖してしまう、という問題があった。」(段落【0005】【0006】)

 本発明では第3の温度(>第2の温度)になったところで冷却を行うという構成は、ヒータによって加温して霜を溶かしてもすぐに冷却すると再霜化してしまうという上記課題に関係している。本判決は、第3の温度での制御のみならず、第1の温度、第2の温度、第3の温度で行う一連の制御を本質的部分とし、被告製品は本質的部分を備えていないとした。

 ところで裁判所は、被告製品が本件発明と同様の結果が得られるとしても本質的部分を共通に備えていないことに変わりはないと判示しているが、本質的部分説に立っているのであろうか。平成28年3月25日の大合議事件で示された判断の手法とはやや異なるような気がする(2020年7月21日の投稿参照)。
 ただし、構成要件E1~E3の制御は出願過程における補正により当初の請求項2の構成を請求項1に導入したものであり、かつ意見書では第3の温度が引例に記載されていないと主張しているので、こうした経過から見て均等不成立という結論には変わりはないと思う。

2026年1月4日日曜日

[裁判例]ふるさと納税の返礼が売買取引ではないとされた例(令和7年(ネ)10046)

 取引管理システムについての特許を有する株式会社キーソフトがふるさと納税に係る返礼品についてのサービスを提供する株式会社サンカクキカクを訴えた裁判の控訴審である。
 対象となった特許は、段階的な複数の取引者間での商品の取引の伝票管理を簡易にすることを目的とする取引管理システムであり以下の構成を有する。

【請求項1】
A 下流取引者からの発注を受け、前記下流取引者を特定するための情報と、前記発注された商品を特定するための情報とに基づき、前記下流取引者から中間取引者へ宛てた第1の発注情報を作成する手段と、 
B 前記中間取引者から上流取引者へ宛てた第2の発注情報を、前記第1の発注情報に基づき前記第1の発注情報の作成と連動して自動的に作成する手段とを含む、 
C 前記下流取引者のコンピュータ、前記中間取引者のコンピュータ、複数の前記上流取引者のコンピュータのそれぞれに、ネットワークを介して接続される取引管理システム。 

 「上流」および「下流」とは、商品の流れに対応し、商品は上流取引者から下流取引者の方向に流通される。発明は、下流取引者から発注があると自動的に上流の取引者に対して発注をする。控訴人(原告)は、下流取引者が寄附者、中間取引者が地方自治体、上流取引者が返礼品を発送する事業体というあてはめをしている。

[裁判所の判断]
 当裁判所も、本件発明における「中間取引者」とは、商品受取者である「下流取引者」及び商品発送者である「上流取引者」という各末端取引者の中間に介在し、「下流取引者」から対象商品の売買について発注を受け、それを踏まえて「上流取引者」に当該商品の売買について発注を行う者を意味するところ、被告システムにおいて、地方団体は、寄附者から特定の商品の売買について発注を受ける者に当たらず、また、これを踏まえて事業者に対して商品の売買についての発注を行う者にも当たらないと判断する。 

 控訴人は、本発明における取引は有償無償を問わないとか、被告システムでは実質的な対価関係が認められるといった主張を試みたが、以下のように排斥された。

[裁判所の判断]
イ 当審における控訴人らの追加的及び補充的主張に対する判断 
(ア) これに対し、控訴人らは、本件発明における「中間取引者」とは、有償無償を問わず「下流取引者」から商品の発注を受ける者をいうとし、この発注行為には、売買契約の申込みの意思表示のみならず、贈与や寄附といった無償行為に係る申込みの意思表示も含まれる旨主張する。 
  しかしながら、本判決で補正の上引用する原判決「事実及び理由」第4の2(1)アのとおり、本件明細書【0008】【0009】【0045】に、「下流取引者」への販売につき、販売価格が設定されることなどが記載されており、他に、贈与や寄附といった無償行為を対象とすると読める記載は存在しない。加えて、本件発明が解決しようとする課題は、前記2(2)で述べたとおり、段階的な複数の取引者間での伝票管理を容易にすることにあるから、本件発明は、商品の対価として金銭のやり取りを伴う取引を対象としていると考えるのが自然である。 
 したがって、控訴人らの上記主張は採用できない。 

(イ) また、控訴人らは、仮に「中間取引者」が「下流取引者」から受ける発注が、売買契約(ないし少なくとも他の有償取引)に係る申込みの意思表示に限られるとしても、ふるさと納税の寄附と返礼品の間には、実質的な対価関係が認められるから有償契約に当たると主張し、ふるさと納税一般において御礼(返礼)の内容が寄附金額に応じて一律に定められていること(甲19)、総務省が地方団体に対し返礼品の返礼割合を3割以下とするように求めていること(甲16)等の事実を挙げる。 
  しかしながら、ふるさと納税制度において、地方団体による寄附者に対する物品の提供は、寄附者に対するいわば御礼(返礼)として行われるものであり、その性質が寄附金と対価関係を有しない無償行為にとどまることは、本判決で補正の上引用する原判決「事実及び理由」第4の2(1)イのとおりである。加えて、ふるさと納税制度を利用して寄附をする者は、地方団体に供与する経済的利益の全額を寄附金控除の対象となる寄附金と認識しているのであり、その全部又は一部を返礼品の対価として支払っていると認識しているとは認められないから(乙1)、控訴人らの主張する事実によって、無償行為である寄附行為としての法的性質が変容するとは評価できない。 
 したがって、控訴人らの上記主張には理由がない。 

(ウ) さらに、控訴人らは、被告システムにおいて、寄附者は地方団体に対して返礼品の発注を行い、当該発注情報に基づき、自動的に事業者に対してメールが送信されるのであるから、被告システムは地方団体の事業者への発注行為を代替しているとみるべきであり、「上流取引者」に当該商品の売買について発注を行う者に該当する旨主張する。 
 しかしながら、本判決で補正の上引用する原判決「事実及び理由」第4の2(1)イのとおり、被告システムにおいては、地方団体が、寄附者からの発注情報を受領した上で、これを踏まえて事業者に対して通知を行う過程は存在しないのであるから、地方団体は、「下流取引者」からの発注を踏まえて「上流取引者」に当該品の売買について発注を行う者には当たらない。 
 したがって、控訴人らの上記主張には理由がない。 

(コメント)
 ふるさと納税の返礼が売買に当たらないことに加え、上記引用の(ウ)の事実があったことは、非侵害に大きく影響したと思われる。
 
 

2026年1月3日土曜日

[裁判例]「アプリケーションで提供されるサービス」の解釈(令和5年(ワ)70425)

  S.RIDE株式会社が、GO株式会社を相手取り、同社アプリ(GoPay)が特許を侵害するとして提訴した事案である。対象となった請求項8は以下の構成を備えている。下線は、争点となった要件である。

A:コンピュータに、所定のアプリケーションを記憶し、 
B:前記アプリケーションで提供されるサービスに関する情報を管理し、 
C:他の装置から受信した前記サービスを登録するためのデータを取得し、
D:取得された前記データに基づき、前記アプリケーションの処理により前記サービスを登録し、 
E:登録された前記サービスに関する情報を生成し、 
F:前記アプリケーションによりコマンドが処理されることで生成される前記サービスに関する情報の表示を制御するステップを含む処理を実行させるためのプログラム。

 従来は、新しい携帯電話機に切り替えたときに、元の携帯電話機で提供されていたサービスをUICC(Universal Integrated Circuit Card)に記憶しておき、UICCを用いて移行することが考えられるが、複数のサービスを提供する総合アプリの場合には、移行対象の個別サービスの内容までは確認できなかったという課題に鑑みてなされたものである。
 これに対し、GoPayでは、機種変更後の端末で機種変更前と同じ支払い方法一覧が表示されるというのが、原告の主張である(下記図は判決文より抜粋)。



[裁判所の判断]
⑴ 「前記アプリケーションで提供されるサービス」の意義 
 本件発明の構成要件Bは、「前記アプリケーションで提供されるサービスに関する情報を管理し」と規定しているところ、本件発明の構成要件は、その他に「アプリケーション」と「サービス」の内容及び関係を規定するものではない。そして、本件明細書等、「アプリケーション」と「サービス」の内容及び関係につき、「アプリケーション103は、例えば、クレジットカードの機能を実現するサービスを提供するためのアプリケーションである。」(【0012】)、「アプリケーション105は、総合サービスを提供するためのアプリケーションであり、サービス106-1、サービス106-2、サービス106-3を提供する。例えば、サービス106-1は、クレジットの機能を実現するサービスであり、サービス106-2は、トランスポート系のサービスを提供するサービスであり、サービス106-3は、クーポンを提供するサービスである。」(【0014】)、「第3アプリケーション256は、総合サービスを提供するためのアプリケーションである。後述するように、第3アプリケーション256は、クレジットの機能を実現するサービス、トランスポート系のサービス、クーポンを提供するサービスなど、複数のサービスを提供するためのアプリケーションである。」(【0030】)と記載されていることが認められる。
 本件発明の構成要件の上記規定及び本件明細書等の上記記載によれば、構成要件Bにいう「アプリケーション」は、複数のサービスを提供するものであり、構成要件Bにいう「前記アプリケーションで提供されるサービス」は、機能を実現するものである以上、アプリケーション自体がクレジット機能、クーポン機能その他の機能そのものを提供するものに限られると解するのが相当である。 
⑵ 被告プログラムの充足性 
 前記前提事実に加え、証拠(甲5ないし10、14)及び弁論の全趣旨によれば、被告プログラムは、GoPayというタクシー料金の決済機能を備えており、GoPayは、d払いと連携することによって初めてd払いを利用することができるようになること、他方、d払いは、訴外ドコモが提供する決済機能であり、タクシーを利用した際にその利用したタクシー料金に限り利用することができるにとどまり、これ以外の場面では決済手段として使用することができないこと、以上の事実が認められる。 
 上記認定事実によれば、被告プログラムにおけるd払いは、タクシー料金の個別の支払ごとにその都度利用されるにとどまるものであるから、被告プログラム自体がd払いという決済機能そのものを提供するものとはいえない。
 したがって、被告プログラムは、本件発明の構成要件Bにいう「前記アプリケーションで提供されるサービス」を充足するものとはいえない。

(コメント)
 裁判所は、「アプリケーションで提供されるサービス」の意義を特許請求の範囲および明細書の記載に基づいて解釈し、被告プログラムが連携するd払いは被告プログラムが提供するサービスではないと判断した。
 原告は、「サービス」の提供主体と「アプリケーション」の提供主体とが法的に同一主体でなければならないという限定はないとの主張もしたが、裁判所は、「本件発明の構成要件は、「アプリケーション」と「サービス」の内容及び関係を一義的に規定するものではないから、本件明細書等を参酌しない限り、その関係等が明らかにならない」として、原告の主張を退けた。
 d払いというサービスはd払いアプリが提供するものなので、提供主体がどうこうといったとしても、GoPayで提供されるというには無理があると思う。

 




2025年11月2日日曜日

除くクレーム(令和6年(行ケ)第10081号)

 1 除くクレームについて

 特許実務において、引用文献と差別化を図るために、構成要件の一部を除くことが行われることがある。新たな技術的事項を導入しないものである場合には構成要件の一部を除くことが認められるが(ソルダーレジスト大合議事件(平成18年(行ケ)第10563号))、逆に言えば、先行技術と技術的思想が共通する場合は、「除くクレーム」による補正をしても、進歩性の要件を満たすことは困難である。

 以上のことから、除くクレームが有効なのは先行技術とは技術的思想が異なるがたまたま衝突する部分があるという場合であり、化学以外の分野ではなかなかそういう例はないのではないかと思っていた。ところが、「除くクレームの限界についての検討」(パテント2025 Vol.78 No.7)によれば、除くクレームは思った以上に活用され、進歩性欠如の拒絶理由を解消していることが分かった。



2 裁判例

 除くクレームを用いた発明について判断した裁判例を紹介する。「愛玩動物マッチングシステム」という名称の発明について、拒絶審決に対する審決取消しを求めた事件である。

 特許請求の範囲は以下のとおりである。

【請求項1】

 譲受人がインターネットを介して愛玩動物を閲覧する閲覧手段と、

譲受人が引き渡し場所(動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く)及び日時を予約する予約手段と、

 引き渡し場所(動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く)までの愛玩動物の輸送を手配する輸送調整手段とを有し、

 譲受人が指定した引き渡し場所(動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く)及び日時に基づいて、愛玩動物の健康診断を手配する健康診断調整手段をさらに備える

 ことを特徴とする愛玩動物マッチングシステム。

 

(原告の主張)

 引用文献1は、犬や猫等の動物の譲渡を行いやすくする譲渡支援システムの発明を開示している。引用文献1では、生体販売業界の現状として、ブリーダーによる直接販売には、①対面販売違反の疑い、②飼育に対する十分な説明が困難、アフターフォローが不十分、などの問題があることが指摘されており(【0019】~【0024】)、引用発明は、既存の生体流通経路を利用せず、ブリーダーからの直販スタイルでありながら、生体を引き渡す場所を動物病院(獣医師)とすることで現状の課題を解決する一つの方策を提示したい、との発明者の思いから発明の着想に至ったものである(【0025】)との記載がある。

 このような記載があることから、原告は、引用発明は、適切な情報を新規飼主に伝達し、かかりつけ病院と生体情報を紐付けて、生体管理の徹底とマイクロチップ番号の適切な登録等を行うことを可能にすることで、上記②及び③の問題を解決する効果をもたらすものであり、このような効果をもたらすためには、動物の引き渡し場所を獣医師又は動物病院とすることが必須となると主張している。これに対し、本願発明は、「(動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く)」と規定されている。引用発明において動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除くことには阻害要因があり、新規性・進歩性を有しているというのが原告のロジックである。


(裁判所の判断)

イ 引用文献1の【0006】は、「発明が解決しようとする課題」として、里親希望者が譲渡する動物を登録した動物病院までその動物を引き取りに行かねばならず、これがマッチングの成立を阻む要因となっていたことを挙げているが、この要因の除去は、引き渡しの場所を「譲渡する動物を登録した動物病院」以外の場所に変更することによっても可能であるといえる。また、【0006】には、動物の個体管理の技術が動物と譲受希望者とのマッチングに活用されていなかったことも、発明が解決しようとする課題として挙げるが、この課題の解決は引き渡し場所とは関係がない。したがって、引用文献1の【0006】の記載から、引用発明の動物の引き渡し場所が動物病院又は獣医師が立ち会う場所に限られるとはいえない。

 

イ そこで、予約手段における「引き渡し場所」に関する相違が、本件審決認定の相違点1で述べられるとおり、本願発明では「動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く」ものであるのに対し、引用発明では「動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く」ものでないことにあることを前提に、その点の容易想到性について検討する。

・・・また、引用発明において、引き渡し場所を、特段限定のない引き渡し場所から、「動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く」引き渡し場所に変更することによって、システムの大きな設計変更が必要になるとは認められない。

 そして、本願明細書等には、引き渡し場所から「動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く」ことによって得られる効果について何ら記載されておらず(前記1⑶イ)、本願発明において、引き渡し場所から「動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く」ものとした構成によって得られる効果が、当業者が予測することのできる範囲を超えた顕著なものであるとは認められない

 したがって、引用発明の、特段の限定のない引き渡し場所を、「動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く」場所に変更することは、当業者であれば容易に想到し得たものである。そうすると、本件審決の、予約手段における「引き渡し場所」についての容易想到性の判断に誤りはない。

 

(コメント)

 除くクレームが有効なのは、引用発明の本質的な構成を除く場合である。つまり、本質的な構成を備えないようにすることは阻害要因があるので、引用発明から容易想到ではないということになる。本裁判例では、引用発明は、動物病院及び獣医師が立ち会う場所で引き渡しを行うことが必須ではないと認定され、進歩性が否定された。引用発明の認定で勝負がついたのであり、除くクレーム自体が否定されたわけではない。

  なお、本裁判例で興味深かったのは、引用発明の認定において引用発明の着想に至った経緯を、引用発明の構成から分離して検討している点である。

「引用文献1の【0025】には、「本願の発明者らは、・・・生体を引き渡す場を動物病院(獣医師)とすることで現状の課題を解決する一つの方策を提示したい、という思いから本願発明の着想に至った。」との記載があるが、一つの方策を提示する着想に至るまでの発明者の心情に関して記載したものにすぎず、引用文献1に記載された発明の具体的な構成を特定した記載とは認められないから、【0025】の記載から、引用発明における動物の引き渡し場所が動物病院又は獣医師が立ち会う場所に限られるとは解されない。」




2025年8月15日金曜日

「特許審査におけるAIの活用」(パテント2025年9月号より)

 2017年度の人工知能技術の活用に向けたアクション・プランの公表以降に、特許庁が行ってきたAI活用に関する様々な実証事業についての報告である。

具体的には、以下のタスクを実施したとのことである。
・機械分類付与タスク
 特許文献にFI、Fターム等の分類を付与する。
・類似文章のランキングタスク
 審査対象の発明をクエリとして、類似候補文章群を類似性の近い順にランキングして並べる。
・特許文献の要約タスク
 特許文献を要約し、読みやすさと内容の正確さを評価する。
・他庁のドシエ情報の要約タスク
 日欧で出願され且つヨーロッパ特許庁で審査が完了している案件について、サーチレポートや日本の拒絶理由通知書、意見書、補正書を要約し、読みやすさと正確性を評価する。
・表の構造化タスク
 画像中の表をison形式の構造化データにする。また、構造化データにキャプションを付ける。

 特許庁がこれまで取り組んできたことは分かるが、特許審査の中心である特許調査に対してのタスクがないのは残念であった。特許調査に使えそうなAIの登場は最近のことなのでそれも仕方がないこととは思う一方で、報告書を作成できそうなタスクを選定しているような気もした。
 次は、特許調査に挑んだ結果報告を期待したい。

2025年6月30日月曜日

[米国]条件付き制限事項のあるクレーム解釈 (MPEP2111.04 Ⅱ)

  米国における特許審査では、クレームは「最も広範な合理的解釈(BRI: Broadest Reasonable Interpretation)」のもとで解釈される。クレームが条件付き制限事項を含む場合のBRIについてMPEP2111.04 Ⅱに解説がある。

 例えば、方法クレームが「第一の条件が満たされた場合にステップAを、第二の条件が満たされた場合にステップBを実行する」(step A if a first condition happens and step B if a second condition happens)と規定していたとする。
 第一の条件または第二の条件が発生しなくてもクレームされた発明を実施できるのであれば、クレームのBRIにおいてステップAおよびステップBはいずれも必須ではない。すなわち、引例にステップAかステップBのいずれかが開示されていれば、新規性が否定される。
 これに対し、システムクレームでは同様の構成を含んでいても、ステップAを処理する手段、ステップBを処理する手段は必須の構成として判断される。なぜなら、機能が実際に実行されるか否かにかかわらず、当該機能を実行する構造が常に存在していなければならないからである。
 以上の解釈は、Ex parte Schulhauserが先例となっている。

 さて、実際にはいずれも必須であるステップAとステップBを含む方法クレームに対し、この基準に基づくオフィスアクションが出された場合にはどうすればよいか。

 MPEPでは、条件付き制限事項を含んでいれば常に上記のように判断されるわけではないと記載されている。具体的には、クレームが第一の条件が発生することを前提としているならばステップAは必須と解釈されるし、第一の条件および第二の条件のいずれもが発生することを要するのであればステップAおよびステップBは必須と解釈される。
 Ex parte Schulhauserの方法クレームがそうであったように、方法クレームにおいてif節を使うと、いずれかが実行されればよい選択的なステップと判断される可能性がある。そこで対策としては、if節の表現を使わないことが考えられる(if節を使わないで表現できるということは本質的には条件付き制限事項ではないともいえる)。

2025年4月27日日曜日

装置クレームとシステムクレーム(KSIニュースレター)


次の3例を考える。
・装置クレーム  「AとBとCを備える装置」
・システムクレーム1 「AとBとCを備えるシステム」
・システムクレーム2 「サーバが A とBとを備え、端末がCを備えるシステム。」

(権利範囲の観点)
装置クレームとシステムクレームは権利範囲が異なる。
対象製品が装置の場合、装置クレームとシステムクレーム1で結論が異なり得る(平成21年( ワ) 第35184号)。

(特許性の観点)
装置の構成要件を分散配置しただけなら進歩性はないと考えられる(平成30年(行ケ)第10091号)。
ただし、何でもかんでも進歩性なしとはならない可能性がある。装置クレームについて、「当該処理をユーザ端末のみで 行うことが、提供するサービスの内容いかんにかかわ らず適宜選択可能な事項であるとはいえない。」(令和3年(行ケ)10027号)


[裁判例]均等論の第1要件(本質的部分)について判断された例( 令和5年(ワ)70738)

 ワインセラーの霜取り制御に関する特許を有するさくら製作所株式会社がデバイスタイルマーケティングを訴えた裁判である。  問題となった特許は以下の構成を有する。 【請求項1】 A コンプレッサーを使用した冷却方式を採用し、冷却サイクルによって冷却器に付着した霜を溶かす霜取り機能を有...