2026年10月16日金曜日

[裁判例]ツムツム事件控訴審(令和7年(ネ)第10082号)

  株式会社セガが、「LINE:ディズニーツムツム」を提供するLINEヤフー株式会社に対し、2件の特許権の侵害を理由に損害賠償(一部請求として1億円)を求めた事件の控訴審である(令和8年8月31日判決、原審は令和7年9月11日判決)。控訴は棄却された。ただし、本件特許2については、原審が否定した構成要件充足を控訴審は認めており、結論は同じでも理由は変わっている。

 1 本件特許1(特許第6143141号)について
 問題となった請求項1は以下の構成を有する。

1A 購入手続きを行なうことでユーザーに付与される第1の仮想アイテム、および、ゲームの実行によりユーザーに付与される第2の仮想アイテムを区別なく利用可能なゲームを実行するゲームシステムであって、
1B 前記ユーザーに対応付けて、前記第1の仮想アイテムの数量と、前記第2の仮想アイテムの数量とをそれぞれ記憶する手段と、
1C 前記ユーザーが前記第1の仮想アイテムおよび前記第2の仮想アイテムの両方を保有している場合、第2の仮想アイテムに優先して第1の仮想アイテムを消費させる手段と、
1D を備えたことを特徴とするゲームシステム。

  要するに、課金で得たアイテムとゲームで得たアイテムを別々にカウントし、課金アイテムを先に消費させることで、無料アイテムだけで遊び続けられて収益が上がらないという課題を解決するものである。
 被告ゲームのルビーには、有料ルビーと無料ルビーがある。ルビーを購入すると購入金額に応じて有料ルビーが付与され、高額の購入ではボーナスとして無料ルビーも付与される(例えば70個購入で有料65個+無料5個)。ゲームをプレイすると無料ルビー(ゲーム実行ルビー)が付与される。有料ルビーは優先して消費される。ただし、システムが管理・表示するのは有料ルビーと無料ルビーの総量であり、無料ルビーのうちボーナス分とゲーム実行分の内訳を記憶しているとの立証はなかった。
 争点は、購入時のボーナスとして付与される無料ルビーが第1・第2のいずれの仮想アイテムに当たるかである。原告は、本件発明1の作用効果(課金アイテムを先に消費させて収益向上を図る)からすれば、経済的側面から判断すべきであり、ボーナス分は課金対象外なので「第2の仮想アイテム」に当たると主張した。
 
[裁判所の判断]
 前記の特許請求の範囲及び本件明細書1の記載に加え、「数量」は「個数、分量」の意味を有する用語であることを考慮すると、「第1の仮想アイテムの数量」の意義は、「購入手続を行うことでユーザに付与される遊技価値アイテムの個数、分量」と、「第2の仮想アイテムの数量」のそれは、「ゲームの実行によりユーザに付与される遊技価値アイテムの個数、分量」とそれぞれ解釈するのが相当である。
 原告は、「第1の仮想アイテム」及び「第2の仮想アイテム」の意義は、「第1の仮想アイテム」の優先消費により収益向上を図りやすいといえるかという経済的側面から判断されるべきである旨の主張をし、他方、被告は、「数量」の意義は、その技術的意義にかんがみると「総量」と解釈すべきである旨の主張をするが、「第1の仮想アイテムの数量」及び「第2の仮想アイテムの数量」の意義は前記のとおりであり、いずれも採用することができない。
(中略)
 被告ゲームシステムは、「第1の仮想アイテム」である購入ルビー(無料ルビー)及び「第2の仮想アイテム」であるゲーム実行ルビーを合算した数量を、無料ルビーの総量として表示する構成であり、「第2の仮想アイテムの数量」を記憶する手段を備えないことは、前記のとおりである。
 
 控訴審で原告は均等侵害も予備的に主張したが、第1要件で否定された。

[裁判所の判断]
 本件発明1における、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分は、購入手続を行うことでユーザに付与される遊技価値アイテム(「第1の仮想アイテム」)と、ゲームの実行によりユーザに付与される遊技価値アイテム(「第2の仮想アイテム」)を区別なく利用可能なゲームを実行するゲームシステムにおいて、「第1の仮想アイテム」の数量と、「第2の仮想アイテム」の数量とをそれぞれ記憶する手段を備えることにより(構成要件1B)、ユーザが「第1の仮想アイテム」及び「第2の仮想アイテム」の両方を保有している場合に、「第2の仮想アイテム」に優先して「第1の仮想アイテム」を消費させる手段を備えたこと(構成要件1C)にあると解される。
 これに対し、被告ゲームシステムは、(中略)「第1の仮想アイテム」の数量と、「第2の仮想アイテム」の数量とをそれぞれ記憶する手段を備える構成でも、したがって、「第2の仮想アイテム」に優先して「第1の仮想アイテム」を消費させる手段を備えた構成でもない。
 
2 本件特許2(特許第5622184号)について
 本件特許2(訂正後の請求項2)は、プレイヤが金銭の支払いに基づき獲得したゲームアイテムデータが既存のものと同一種類であれば、そのデータを「累計獲得数に応じて変更する」ゲームプログラムである(構成要件2B)。ツムツムで同じツムを重ねて引くとスキルレベルが上がる仕組みが問題とされた。
 原審は、被告ゲームではスキルチケットの使用回数もスキルレベルの変更に関与するため、累計獲得数以外の数値を含むとして2Bの充足を否定していた。これに対し控訴審は、「応じて」の語義から「累計獲得数の変化に見合うように変更すること」と解釈し、スキルチケットの構成が付加されていても充足は否定されないと判断した(被告ゲームの具体的構成は閲覧制限で伏せられている)。そのほか、「ゲームアイテムデータ」は有体物に係るデータに限られない、「金銭の支払いに基づき」は「金銭の支払に起因して」の意味であり、購入したルビーを交換したコインやメダルが介在しても充足する、とされ、全構成要件の充足が認められた。
 しかし、乙6発明(野球つくONLINE2)および乙39発明(ガンダムタクティクスオンライン)に周知技術を適用して容易想到であるとして、無効の判断が維持された。乙39文献はクローズドβテストを紹介するウェブ記事であり、同一パイロットの重複によるパラメータ向上は「正式リリース版で採用予定」とアナウンスされていたにすぎなかった。原告は、βテストに実装された構成で認定すべきであると主張したが、退けられた。

 [裁判所の判断]
 この点、特許法29条1項3号に規定する「頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明」は、当業者が特許出願時の技術水準に基づいて容易に発明をすることができたか否かを判断する基礎となるべきものであるから、当該刊行物等において、これに接した当業者が、特許出願時の技術水準に基づいて、その技術的事項を実施し得る程度に技術的思想が開示されているのであれば、特許を受けようとする発明は、同号に規定する「頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明」に該当するというべきである。
 これを本件についてみると、乙39文献は、「クローズドβテスト」に係るゲームを紹介するウェブサイトの記事であるところ、同記事には、(中略)「βテスト」では実装されていないものの、パイロットユニットについては、同一パイロットを複数持っている場合、基本パラメータを向上させることなどが記載されていて、これに接した当業者は、正式リリース版においては、上記の構成を備えるものと理解するものといえる。

 (コメント)
 本判決は、以下のように示唆に富んでいる。

・「有償か無償か」ではなく「入手の経路」で定義したクレーム
 本件特許1について、控訴審は原審の判断を修正している(「数量」の意義を「総量」から「個数、分量」に改めた点が目立つ)が、非侵害の結論も、それを導く決め手も原審と変わっていない。決め手は、購入時のボーナスとして付与される無料ルビーを、構成要件1Aの文言どおり「購入手続きを行なうことでユーザーに付与される」第1の仮想アイテムとした点である。そうすると、被告システムが「無料ルビー」として表示しているのは第1の仮想アイテムの一部(ボーナス分)と第2の仮想アイテム(ゲーム実行ルビー)を合算した数量であって、その内訳を記憶していることの立証もないから、1Bの「それぞれ記憶する」も、1Cの「優先して消費」も満たさないことになる。
 これに対し原告は、課金対象か否かで切り直し、有料ルビーが第1、購入ルビー(無料ルビー)とゲーム実行ルビーを合わせたものが第2であると主張した。発明の作用効果からすれば理解できなくもない。しかし、請求項は第1・第2の仮想アイテムを「付与の契機」(購入手続きかゲームの実行か)で定義しているのであって、「有償か無償か」で定義しているわけではない。文言と異なる基準で読み替えることが認められなかったのは当然であろう。本件の実施形態(課金メダルMc・無料メダルMf)からすれば、「課金対象のアイテム」と「課金対象外のアイテム」という書き方もあり得たと思う。クレームで用語を定義するときには、どの性質で区別するのか等、いくつかの切り口を意識する必要がある、という教訓である。

 ・付加的構成があっても充足は否定されない
 本件特許2の構成要件2B(「同一種類であると判断された前記ゲームアイテムデータを、…前記プレイヤによる累計獲得数に応じて変更する」)について、原審と控訴審の判断が分かれた。問題は、「累計獲得数に応じて」といえるために、累計獲得数以外の要素が変更に関与していてはならないか、である。
 原審は、関与してはならないと解した。「累計獲得数」は同一種類データに係る累計獲得数以外の数値を含まないとしたうえで、被告ゲームではスキルチケットの使用回数も関与する以上、チケットを一度も使わないユーザーについても充足しないとした。これに対し控訴審は、「応じて(応ずる)」が「物事の状態・変化に見合うようにする」という意味であることから、累計獲得数の変化に見合うように変更していれば足りるとし、スキルチケットにより「スキルレベル」を増加させる構成をも備えるからといって充足性は否定されない、とした。「遊戯者に一定の満足感を提供する」という本件発明2の作用効果も減殺されない、という判断である。
 被告ゲームの具体的な処理は伏せ字のため正確には分からない。ただ、原告の主張からすると、チケットが重複獲得の代わりになる仕組みのようである。
 原審の解釈は、請求項にない「のみ」を読み込み、「累計獲得数のみに応じて」と書いてあるかのように読むものであり、文言を離れた限定解釈であったと思う。原審は、本件明細書2に累計獲得数以外の数値を含む旨の記載や示唆がないことを理由に挙げるが、それは限定を加える理由にはならない。構成要件をすべて備えていれば、付加的な構成があっても侵害を免れないのが原則である。その付加によって発明の作用効果が損なわれるかを確認して充足を認めた控訴審の判断の方が、妥当であろう。
 もっとも、付加的構成が常に無視されるわけではない。請求項の文言が排他的な意味を含む場合や、付加によって発明の作用効果が失われる場合には、充足が否定され得る。本件で控訴審が作用効果の検討を加えているのは、その確認であると理解できる。

 ・未実装機能の告知記事も先行技術になり得る
 本件特許2は、控訴審で充足が認められたのに無効で負けるという結果になった。
 原審が「念のため」無効判断を示していたことが、控訴審でも結論を支えた形である。乙39については、未実装の機能の「アナウンス」でも、当業者が実施し得る程度に開示されていれば公知発明の認定に用いることができるとされた。ゲームのように、βテストや事前告知で仕様が先に公開される分野では、自社・他社を問わず、こうした告知記事が先行技術になり得ることに注意が必要である。

2026年10月14日水曜日

[裁判例]補正前の請求項を対象に審理判断した審決が取り消された例(令和8年(行ケ)第10016号)

  「転がり軸受」に関する特許出願(特願2020-186871)の拒絶査定不服審判において、請求不成立とした審決の取消しを求めた事件である(知財高裁第2部・令和8年9月9日判決)。審判段階で請求項1が補正されていたにもかかわらず、審決が一貫して補正前の請求項1の文言を引用して判断していたことから、審理対象の誤りを理由として審決が取り消された。
  本件補正後の請求項1は以下のとおりである。
 【請求項1】
 少なくとも外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有する外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に介在する複数の玉により構成される転がり軸受において、前記内輪と前記外輪の少なくとも一方の材質をアルミニウム合金、またはマグネシウム合金とし、前記玉の動作時の公転と自転比率を変えることにより保持器を使用しないで負荷を受ける玉同士を非接触とする自律分散式転がり軸受の構成とし、前記玉と前記軌道との摩擦と摩擦熱を低減せしめることにより、前記軸受動作時の前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度を、前記内輪軌道及び前記外輪軌道の強度低下温度未満としたことを特徴とする転がり軸受。
 
 本件補正前は、末尾部分が「前記軸受停止時に対する前記軸受動作時の前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度上昇値を、…強度低下温度未満とした」となっていた。つまり、本件補正は、軌道の「温度上昇値」を強度低下温度未満とする規定から、軌道の「温度」そのものを強度低下温度未満とする規定に改めたものである。
 
 審決は、①「自律分散式転がり軸受」の意義が不明であり、構成A(公転と自転比率を変えて玉同士を非接触とする構成)と構成B(軌道温度を強度低下温度未満とする構成)との関係も多義的であるとして明確性違反、②実施可能要件違反、③引用発明1(登録実用新案第3059736号)に引用文献2(原告自身の特許出願に係る特開2007-177993号)の技術的事項を適用して容易想到であるとして進歩性欠如、と判断した。
 これに対し被告(特許庁長官)は、訴訟において、審決が構成Bを補正前の文言で記載していた点に誤りがあることを認めつつ、明確性・進歩性の判断の要点は補正後の文言で読んでも同じであり、結論に影響しないと主張した。
 
[裁判所の判断]
 本件審決の審理判断の対象について検討するに、本件審決の「理由」欄の「第2 本願発明」には、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1は前記第2の3⑵のとおりであると記載される一方で、「第4 当審における判断」には、本願発明の明確性につき、…と、また、本願発明の進歩性につき、…と、さらに、審判請求人(原告)の主張につき、…と、一貫して本件補正による補正前の請求項1が記載され、本件補正による補正前の請求項1に係る発明を対象として審理判断がされている。
 そうすると、本件審決には、本件補正による補正後の請求項1に係る発明を対象として、その明確性、実施可能要件、進歩性等につき審理判断すべきであるのに、本件補正による補正前の請求項1に係る発明を対象として、これらを審理判断した手続上の瑕疵が存在するといわざるを得ない。
 そして、審理判断の対象を異にする以上、これが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであり、本件審決は取り消されるべきである。
 
(コメント)
 審決の「本願発明」の項には補正後の請求項が正しく記載されていたが、判断部分では明確性、相違点の認定、技術的意義の検討、請求人の主張への応答のいずれにおいても補正前の文言が引用されていた。補正前の文言を引き写したまま判断部分を書いてしまったものと推測される。
 注目されるのは、被告が「誤りはあるが結論に影響しない」と主張したのに対し、裁判所がその当否、すなわち補正後の文言で読んでも明確性欠如・進歩性欠如の結論が維持されるかどうかに立ち入らなかった点である。裁判所は、審理判断の対象を異にする以上、結論への影響は「明らか」であるとして、いわば形式的に取り消した。単なる誤記として処理できる場合もあるが、本件では判断部分全体が補正前の発明を前提としていたため、審理対象自体を取り違えたものと評価されたのであろう。
 実質的に見ても、「停止時に対する温度上昇値」と「動作時の温度」とでは、雰囲気温度を含むかどうかで意味が異なる。補正後の構成Bは、使用環境によっては構成Aを採用しても当然には満たされないとも考えられ、構成Aに付随する作用効果にすぎないとする審決の論理がそのまま妥当するとは限らない。被告のいう「要点は同じ」も直ちには言い切れなかったように思う。

2026年8月18日火曜日

方法発明の間接侵害が否定された例(令和6年(ワ)第70583号)

  液晶キーボードのキーの背景画像を着せ替える方法に関する特許を有する原告らが、文字入力キーボードアプリ「Simeji」を製造販売するバイドゥ株式会社を訴えた事件である(東京地裁民事第46部・令和8年4月15日判決)。実際に本件各発明に係る方法を使用するのは、被告製品をインストールしたスマートフォン等を操作する利用者であったため、被告によるアプリの製造販売について、特許法101条4号及び5号の間接侵害の成否が争われた。

問題となった特許(特許第6446634号)は以下の構成を有する。

 【請求項2】(本件発明1)

1A 液晶画面におけるローマ字入力のキーボード部又は日本語入力のテンキーによるキーボード部内に表示されている

1B 1個又は複数個のキーを選択し、

1C 模様を含む画像又は図柄である画素材を取り込み、

1D 該選択された各キー毎に同一の該取り込まれた画素材を背景画として貼付けることを特徴とする、

1E 液晶キーボードの背景の画像を着せ替える方法。

 【請求項3】(本件発明2)

2A 該画素材は、貼付け前に拡大縮小、移動、または変形による編集がなされる

2B 請求項2に記載の液晶キーボードの背景の画像を着せ替える方法。




 要するに、キーを選び、画像を取り込み、選んだ各キーの背景に同じ画像を貼り付ける、という「方法」のクレームである。

  被告製品は、スマートフォン及びタブレット用の文字入力キーボードアプリであり、平成30年4月19日から令和3年12月頃まで、テンキーのボタンの背景画像を着せ替える機能を搭載していた。実際に着せ替えの操作を行うのは、被告製品をインストールしたスマートフォン等を用いる利用者(ユーザー)である。そこで原告らは、被告によるアプリの製造販売が101条4号(のみ品)及び5号(不可欠品)の間接侵害に当たると主張した。

[裁判所の判断]

1 争点2(間接侵害の成否)について

⑴ 原告らは、スマートフォン等にインストールされるアプリケーションである被告製品の製造販売が、特許法101条4号及び5号の間接侵害に当たると主張する。

 そこで検討するに、特許法101条4号及び5号は、その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物についてこれを生産、譲渡等する行為を特許権侵害とみなすものであり、特許発明に係る方法を実施することが可能である物の生産に用いられる物を生産、譲渡等する行為を特許権侵害とみなすものではないものと解される(平成17年知財高裁特別部判決参照)。

 前提事実⑸イのとおり、被告製品の利用者(ユーザー)は、被告製品をスマートフォン等にインストールし、当該スマートフォン等でアプリケーションを起動して、別紙被告製品操作・動作説明書記載のとおり動作させていたのであるから、その物自体を利用して本件各発明に係る方法を実施することが可能である物は被告製品をインストールしたスマートフォン等であって、被告製品は、そのようなスマートフォン等の生産に用いられる物である。そうすると、被告製品の製造販売が同条4号及び5号の間接侵害に当たるということはできない。

⑵ これに対し、原告らは、被告製品の製造販売が特許法101条4号及び5号の間接侵害に当たることの根拠として、①特許出願において物の発明と方法の発明の選択は、出願者が任意に行うものであり、プログラムに係る発明を方法の発明として特許出願した場合にもその保護を図る必要があること、②プログラムが同条2号の「その物の生産に用いる物」に当たると解するのに、同条5号の「その方法の使用に用いる物」に当たらないと解するのは、均衡を失すること、③スマートフォン等とプログラムの関係は、単なる物と部品という関係とは異なるから、プログラムを動作させることで使用される方法の発明について、同号の「物」にプログラムが含まれると解しても、発明の方法を実施する機能を備えるプログラムに限定されるため、間接侵害の成立範囲は不当に広がらないこと、④同条4号は、「その方法の使用にのみ用いる物」と「のみ」による限定がされており、間接侵害の成立範囲が不当に広がることもないことなどを主張する。

 しかしながら、上記①②について、物の発明についての間接侵害(同条1号及び2号)と、方法の発明についての間接侵害(同条4号及び5号)は、それぞれ「物の生産」又は「方法の使用」という実施行為との関係で間接侵害の成立範囲を規定し、プログラムが「用いる物」に当たるか否かは、実施行為との関係で決まるのであるから、物の発明と方法の発明で間接侵害の成立範囲が異なることがあるのは当然である。そして、プログラムは物の発明として特許法における保護対象となり得る(同法2条3項1号、4項)のであるから、原告会社において、物の発明としてではなく、あえて方法の発明として本件各発明に係る特許を取得した以上、被告製品の製造販売について間接侵害が成立しないと解したからといって、同法による保護に欠けるものとはいえない。

 また、上記③④について、同条4号の「その方法の使用に…用いる物」及び同条5号の「その方法の使用に用いる物」が、その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物を意味し、そのような物の生産に用いられる物を含まないと解すべきであるのは前記⑴のとおりであり、被告の主張する点は、被告製品の製造販売が特許法101条4号及び5号の間接侵害に当たらないとの前記⑴の判断を左右するものではない。


[コメント]

 参照されている平成17年知財高裁特別部判決は一太郎事件(平成17年(ネ)第10040号)である。同判決は、「Y製品をインストールしたパソコン」は「その方法の使用に用いる物…であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当するが、Yの行為は「当該パソコンの生産に用いられるY製品について製造、譲渡等を行うものにすぎない」として間接侵害を否定した。本判決は、その枠組みをパソコンからスマートフォンに置き換えてそのまま適用したものである。

 もっとも、一太郎事件で問題となったのは当時の101条4号、すなわち平成18年改正後の現5号(不可欠品)である。原告らは、一太郎事件の判断は「のみ」の限定がなく「その物がその発明の実施に用いられること」という主観的要件を含む不可欠品の規定に基づくものだから、「のみ」の限定がある現4号には妥当しないと主張していた。本判決はこの区別を採らず、4号・5号の「用いる物」を同一に解している。「その物自体を利用して方法を実施することが可能である物」か否かという線引きは、条文上の「のみ」の有無とは別の次元の問題である、という整理であろう。

 参考になるのは、傍論的に述べられた「あえて方法の発明として本件各発明に係る特許を取得した以上、…同法による保護に欠けるものとはいえない」という一節である。プログラムは2条3項1号・4項により物の発明として保護され得るのだから、方法クレームしか取っていないのは出願人の選択の結果である、というわけである。ソフトウェア関連発明について、プログラムクレーム・記録媒体クレーム・システムクレームを併せて取得しておくことの意味が、改めて確認されたことになる。逆に言えば、方法クレームのみで、実施主体がエンドユーザーとなるタイプのアプリを差し止めるのは、現行法の解釈上かなり難しい。権利化段階でのクレームカテゴリの設計が重要である。


2026年1月5日月曜日

[裁判例]均等論の第1要件(本質的部分)について判断された例( 令和5年(ワ)70738)

 ワインセラーの霜取り制御に関する特許を有するさくら製作所株式会社がデバイスタイルマーケティングを訴えた裁判である。
 問題となった特許は以下の構成を有する。
【請求項1】
A コンプレッサーを使用した冷却方式を採用し、冷却サイクルによって冷却器に付着した霜を溶かす霜取り機能を有するワインセラーにおいて、 
B 前記冷却器の近傍に配置され、冷却器周辺温度を検知する温度センサーと、 
C 前記冷却器に付着した霜を溶かすために冷却器周辺温度を上昇させる加温ヒーターと、 
D 所定のタイミングに達した場合に、前記コンプレッサーを停止するとともに前記温度センサーにより検知された冷却器周辺温度をチェックし、当該冷却器周辺温度に基づいて前記加温ヒーターを起動するか否かを判断する制御部と、を備え、 
E1 前記制御部は、前記所定のタイミングで前記温度センサーにより検知された冷却器周辺温度が、前記冷却器に霜が付着する可能性のある温度と
して規定された「第1の温度」以下の場合に、前記加温ヒーターを起動し、 
E2 前記加温ヒーターを起動した後の冷却器周辺温度が「第2の温度(「第1の温度」<「第2の温度」)」に達した場合に、前記加温ヒーターを停止し、 
E3 さらに、前記加温ヒーターを停止した後の冷却器周辺温度が「第3の温度(「第2の温度」<「第3の温度」)」に達した場合に、前記コンプレッサーを再起動する、 
F ことを特徴とするワインセラー。 

 要するに、第1の温度以下になったらヒーターを起動し、第2の温度になったらヒーターを止め、第3の温度になったらコンプレッサーを再起動して再冷却するという制御を行う。
 複数回の実験によれば、被告のイ号製品は再冷却に関して、コンプレッサーを再起動したときの温度の方が低く(第2の温度>第3の温度)、ロ号製品はコンプレッサーを再起動する温度がまちまちであることから、構成要件E3を充足しないと判断された。
 そこで、構成要件E3の相違にかかわらず均等論による侵害が認められるかが判断された。

[裁判所の判断]
⑶ 第1要件の充足性 
 均等の第1要件にいう特許発明の本質的部分とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解され、第1要件、すなわち対象製品との相違部分が非本質的部分であるかどうかを判断する際には、上記のとおりの特許発明の本質的部分を対象製品が共通に備えているかどうかを判断し、これを備えていると認められる場合には、相違部分は本質的部分ではないというべきである。 
  前記1⑵に認定した本件発明の技術的意義に照らせば、本件発明は、霜取り制御の従来技術をワインセラーに適用した場合の、無駄な霜取り運転動作及び冷却器に付着した露の再霜化による冷却器に付着する霜の増殖という課題を解決するため、制御部が、冷却器に霜が付着する可能性のある温度として規定された「第1の温度」以下の場合に、前記加温ヒーターを起動し、加温ヒーターを起動した後の冷却器周辺温度が「第2の温度(「第1の温度」<「第2の温度」)」に達した場合に、加温ヒーターを停止し、さらに、加温ヒーターを停止した後の冷却器周辺温度が「第3の温度(「第2の温度」<「第3の温度」)」に達した場合に、前記コンプレッサーを再起動する構成を解決手段とし、これにより、無駄な霜取り運転動作を回避し、また、冷却器に残存する水滴を減らして冷却器を再冷却したときの霜の増殖を回避するという効果が得られるものである。 
  以上のとおりの本件発明の課題及び解決手段とその効果に照らすと、本件発明の本質的部分(特許請求の範囲に記載された構成のうち従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分)は、制御部が、冷却器に霜が付着する可能性のある温度として規定された「第1の温度」以下の場合に加温ヒーターを起動し、加温ヒーターを起動した後の冷却器周辺温度が「第2の温度(「第1の温度」<「第2の温度」)」に達した場合に、加温ヒーターを停止、加温ヒーターを停止した後の冷却器周辺温度が「第3の温度(「第2の温度」<「第3の温度」)」に達した場合に、前記コンプレッサーを再起動するという構成を採用することにより、無駄な霜取り運転動作を回避し、また、冷却器に残存する水滴を減らして冷却器を再冷却したときの霜の増殖を回避することを可能とした点にあると解するのが相当である。 
 そうすると、被告製品は、本件発明の本質的部分を共通に備えているとはいえず、前記⑵の相違部分が非本質的部分であるとはいえないから、均等の第1要件を充足しない。 
 ⑷ これに対し、原告は、被告製品のコンプレッサーの保護機能の結果、加温ヒーターが停止した後の露の滴下時間を確保するという本件発明と同一の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏するから、第1要件を充足すると主張する。 
  しかしながら、被告製品において、コンプレッサーの保護機能によって加温ヒーターが停止した後に露の滴下時間が確保され、冷却器に残存する水滴を減らすという本件発明と同様の結果が得られるとしても、被告製品が、本件発明の本質的部分を共通に備えていないことに変わりはないから、原告の主張は採用することができない。 

(コメント)
 明細書の課題には以下のとおり記載されている。
「しかしながら、冷却器に霜が付着しない程度の庫内温度設定で動作可能なワインセラーには、上記従来の霜取り制御を一律に適用することは効率的ではない。すなわち、無駄な霜取り運転動作を回避する観点から上記従来の霜取り制御には改善の余地がある。そのため、高湿度を保持するワインセラーにおいては、従来のように霜取りヒーターを利用して霜を露にするだけでは冷却器に露が付着した状態での再霜化が繰り返されることになり、残存する露による霜に新たな霜が付着して結果的に冷却器に付着する霜が増殖してしまう、という問題があった。」(段落【0005】【0006】)

 本発明では第3の温度(>第2の温度)になったところで冷却を行うという構成は、ヒータによって加温して霜を溶かしてもすぐに冷却すると再霜化してしまうという上記課題に関係している。本判決は、第3の温度での制御のみならず、第1の温度、第2の温度、第3の温度で行う一連の制御を本質的部分とし、被告製品は本質的部分を備えていないとした。

 ところで裁判所は、被告製品が本件発明と同様の結果が得られるとしても本質的部分を共通に備えていないことに変わりはないと判示しているが、本質的部分説に立っているのであろうか。平成28年3月25日の大合議事件で示された判断の手法とはやや異なるような気がする(2020年7月21日の投稿参照)。
 ただし、構成要件E1~E3の制御は出願過程における補正により当初の請求項2の構成を請求項1に導入したものであり、かつ意見書では第3の温度が引例に記載されていないと主張しているので、こうした経過から見て均等不成立という結論には変わりはないと思う。

2026年1月4日日曜日

[裁判例]ふるさと納税の返礼が売買取引ではないとされた例(令和7年(ネ)10046)

 取引管理システムについての特許を有する株式会社キーソフトがふるさと納税に係る返礼品についてのサービスを提供する株式会社サンカクキカクを訴えた裁判の控訴審である。
 対象となった特許は、段階的な複数の取引者間での商品の取引の伝票管理を簡易にすることを目的とする取引管理システムであり以下の構成を有する。

【請求項1】
A 下流取引者からの発注を受け、前記下流取引者を特定するための情報と、前記発注された商品を特定するための情報とに基づき、前記下流取引者から中間取引者へ宛てた第1の発注情報を作成する手段と、 
B 前記中間取引者から上流取引者へ宛てた第2の発注情報を、前記第1の発注情報に基づき前記第1の発注情報の作成と連動して自動的に作成する手段とを含む、 
C 前記下流取引者のコンピュータ、前記中間取引者のコンピュータ、複数の前記上流取引者のコンピュータのそれぞれに、ネットワークを介して接続される取引管理システム。 

 「上流」および「下流」とは、商品の流れに対応し、商品は上流取引者から下流取引者の方向に流通される。発明は、下流取引者から発注があると自動的に上流の取引者に対して発注をする。控訴人(原告)は、下流取引者が寄附者、中間取引者が地方自治体、上流取引者が返礼品を発送する事業体というあてはめをしている。

[裁判所の判断]
 当裁判所も、本件発明における「中間取引者」とは、商品受取者である「下流取引者」及び商品発送者である「上流取引者」という各末端取引者の中間に介在し、「下流取引者」から対象商品の売買について発注を受け、それを踏まえて「上流取引者」に当該商品の売買について発注を行う者を意味するところ、被告システムにおいて、地方団体は、寄附者から特定の商品の売買について発注を受ける者に当たらず、また、これを踏まえて事業者に対して商品の売買についての発注を行う者にも当たらないと判断する。 

 控訴人は、本発明における取引は有償無償を問わないとか、被告システムでは実質的な対価関係が認められるといった主張を試みたが、以下のように排斥された。

[裁判所の判断]
イ 当審における控訴人らの追加的及び補充的主張に対する判断 
(ア) これに対し、控訴人らは、本件発明における「中間取引者」とは、有償無償を問わず「下流取引者」から商品の発注を受ける者をいうとし、この発注行為には、売買契約の申込みの意思表示のみならず、贈与や寄附といった無償行為に係る申込みの意思表示も含まれる旨主張する。 
  しかしながら、本判決で補正の上引用する原判決「事実及び理由」第4の2(1)アのとおり、本件明細書【0008】【0009】【0045】に、「下流取引者」への販売につき、販売価格が設定されることなどが記載されており、他に、贈与や寄附といった無償行為を対象とすると読める記載は存在しない。加えて、本件発明が解決しようとする課題は、前記2(2)で述べたとおり、段階的な複数の取引者間での伝票管理を容易にすることにあるから、本件発明は、商品の対価として金銭のやり取りを伴う取引を対象としていると考えるのが自然である。 
 したがって、控訴人らの上記主張は採用できない。 

(イ) また、控訴人らは、仮に「中間取引者」が「下流取引者」から受ける発注が、売買契約(ないし少なくとも他の有償取引)に係る申込みの意思表示に限られるとしても、ふるさと納税の寄附と返礼品の間には、実質的な対価関係が認められるから有償契約に当たると主張し、ふるさと納税一般において御礼(返礼)の内容が寄附金額に応じて一律に定められていること(甲19)、総務省が地方団体に対し返礼品の返礼割合を3割以下とするように求めていること(甲16)等の事実を挙げる。 
  しかしながら、ふるさと納税制度において、地方団体による寄附者に対する物品の提供は、寄附者に対するいわば御礼(返礼)として行われるものであり、その性質が寄附金と対価関係を有しない無償行為にとどまることは、本判決で補正の上引用する原判決「事実及び理由」第4の2(1)イのとおりである。加えて、ふるさと納税制度を利用して寄附をする者は、地方団体に供与する経済的利益の全額を寄附金控除の対象となる寄附金と認識しているのであり、その全部又は一部を返礼品の対価として支払っていると認識しているとは認められないから(乙1)、控訴人らの主張する事実によって、無償行為である寄附行為としての法的性質が変容するとは評価できない。 
 したがって、控訴人らの上記主張には理由がない。 

(ウ) さらに、控訴人らは、被告システムにおいて、寄附者は地方団体に対して返礼品の発注を行い、当該発注情報に基づき、自動的に事業者に対してメールが送信されるのであるから、被告システムは地方団体の事業者への発注行為を代替しているとみるべきであり、「上流取引者」に当該商品の売買について発注を行う者に該当する旨主張する。 
 しかしながら、本判決で補正の上引用する原判決「事実及び理由」第4の2(1)イのとおり、被告システムにおいては、地方団体が、寄附者からの発注情報を受領した上で、これを踏まえて事業者に対して通知を行う過程は存在しないのであるから、地方団体は、「下流取引者」からの発注を踏まえて「上流取引者」に当該品の売買について発注を行う者には当たらない。 
 したがって、控訴人らの上記主張には理由がない。 

(コメント)
 ふるさと納税の返礼が売買に当たらないことに加え、上記引用の(ウ)の事実があったことは、非侵害に大きく影響したと思われる。
 
 

2026年1月3日土曜日

[裁判例]「アプリケーションで提供されるサービス」の解釈(令和5年(ワ)70425)

  S.RIDE株式会社が、GO株式会社を相手取り、同社アプリ(GoPay)が特許を侵害するとして提訴した事案である。対象となった請求項8は以下の構成を備えている。下線は、争点となった要件である。

A:コンピュータに、所定のアプリケーションを記憶し、 
B:前記アプリケーションで提供されるサービスに関する情報を管理し、 
C:他の装置から受信した前記サービスを登録するためのデータを取得し、
D:取得された前記データに基づき、前記アプリケーションの処理により前記サービスを登録し、 
E:登録された前記サービスに関する情報を生成し、 
F:前記アプリケーションによりコマンドが処理されることで生成される前記サービスに関する情報の表示を制御するステップを含む処理を実行させるためのプログラム。

 従来は、新しい携帯電話機に切り替えたときに、元の携帯電話機で提供されていたサービスをUICC(Universal Integrated Circuit Card)に記憶しておき、UICCを用いて移行することが考えられるが、複数のサービスを提供する総合アプリの場合には、移行対象の個別サービスの内容までは確認できなかったという課題に鑑みてなされたものである。
 これに対し、GoPayでは、機種変更後の端末で機種変更前と同じ支払い方法一覧が表示されるというのが、原告の主張である(下記図は判決文より抜粋)。



[裁判所の判断]
⑴ 「前記アプリケーションで提供されるサービス」の意義 
 本件発明の構成要件Bは、「前記アプリケーションで提供されるサービスに関する情報を管理し」と規定しているところ、本件発明の構成要件は、その他に「アプリケーション」と「サービス」の内容及び関係を規定するものではない。そして、本件明細書等、「アプリケーション」と「サービス」の内容及び関係につき、「アプリケーション103は、例えば、クレジットカードの機能を実現するサービスを提供するためのアプリケーションである。」(【0012】)、「アプリケーション105は、総合サービスを提供するためのアプリケーションであり、サービス106-1、サービス106-2、サービス106-3を提供する。例えば、サービス106-1は、クレジットの機能を実現するサービスであり、サービス106-2は、トランスポート系のサービスを提供するサービスであり、サービス106-3は、クーポンを提供するサービスである。」(【0014】)、「第3アプリケーション256は、総合サービスを提供するためのアプリケーションである。後述するように、第3アプリケーション256は、クレジットの機能を実現するサービス、トランスポート系のサービス、クーポンを提供するサービスなど、複数のサービスを提供するためのアプリケーションである。」(【0030】)と記載されていることが認められる。
 本件発明の構成要件の上記規定及び本件明細書等の上記記載によれば、構成要件Bにいう「アプリケーション」は、複数のサービスを提供するものであり、構成要件Bにいう「前記アプリケーションで提供されるサービス」は、機能を実現するものである以上、アプリケーション自体がクレジット機能、クーポン機能その他の機能そのものを提供するものに限られると解するのが相当である。 
⑵ 被告プログラムの充足性 
 前記前提事実に加え、証拠(甲5ないし10、14)及び弁論の全趣旨によれば、被告プログラムは、GoPayというタクシー料金の決済機能を備えており、GoPayは、d払いと連携することによって初めてd払いを利用することができるようになること、他方、d払いは、訴外ドコモが提供する決済機能であり、タクシーを利用した際にその利用したタクシー料金に限り利用することができるにとどまり、これ以外の場面では決済手段として使用することができないこと、以上の事実が認められる。 
 上記認定事実によれば、被告プログラムにおけるd払いは、タクシー料金の個別の支払ごとにその都度利用されるにとどまるものであるから、被告プログラム自体がd払いという決済機能そのものを提供するものとはいえない。
 したがって、被告プログラムは、本件発明の構成要件Bにいう「前記アプリケーションで提供されるサービス」を充足するものとはいえない。

(コメント)
 裁判所は、「アプリケーションで提供されるサービス」の意義を特許請求の範囲および明細書の記載に基づいて解釈し、被告プログラムが連携するd払いは被告プログラムが提供するサービスではないと判断した。
 原告は、「サービス」の提供主体と「アプリケーション」の提供主体とが法的に同一主体でなければならないという限定はないとの主張もしたが、裁判所は、「本件発明の構成要件は、「アプリケーション」と「サービス」の内容及び関係を一義的に規定するものではないから、本件明細書等を参酌しない限り、その関係等が明らかにならない」として、原告の主張を退けた。
 d払いというサービスはd払いアプリが提供するものなので、提供主体がどうこうといったとしても、GoPayで提供されるというには無理があると思う。

 




2025年11月2日日曜日

除くクレーム(令和6年(行ケ)第10081号)

 1 除くクレームについて

 特許実務において、引用文献と差別化を図るために、構成要件の一部を除くことが行われることがある。新たな技術的事項を導入しないものである場合には構成要件の一部を除くことが認められるが(ソルダーレジスト大合議事件(平成18年(行ケ)第10563号))、逆に言えば、先行技術と技術的思想が共通する場合は、「除くクレーム」による補正をしても、進歩性の要件を満たすことは困難である。

 以上のことから、除くクレームが有効なのは先行技術とは技術的思想が異なるがたまたま衝突する部分があるという場合であり、化学以外の分野ではなかなかそういう例はないのではないかと思っていた。ところが、「除くクレームの限界についての検討」(パテント2025 Vol.78 No.7)によれば、除くクレームは思った以上に活用され、進歩性欠如の拒絶理由を解消していることが分かった。



2 裁判例

 除くクレームを用いた発明について判断した裁判例を紹介する。「愛玩動物マッチングシステム」という名称の発明について、拒絶審決に対する審決取消しを求めた事件である。

 特許請求の範囲は以下のとおりである。

【請求項1】

 譲受人がインターネットを介して愛玩動物を閲覧する閲覧手段と、

譲受人が引き渡し場所(動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く)及び日時を予約する予約手段と、

 引き渡し場所(動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く)までの愛玩動物の輸送を手配する輸送調整手段とを有し、

 譲受人が指定した引き渡し場所(動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く)及び日時に基づいて、愛玩動物の健康診断を手配する健康診断調整手段をさらに備える

 ことを特徴とする愛玩動物マッチングシステム。

 

(原告の主張)

 引用文献1は、犬や猫等の動物の譲渡を行いやすくする譲渡支援システムの発明を開示している。引用文献1では、生体販売業界の現状として、ブリーダーによる直接販売には、①対面販売違反の疑い、②飼育に対する十分な説明が困難、③アフターフォローが不十分、などの問題があることが指摘されており(【0019】~【0024】)、引用発明は、既存の生体流通経路を利用せず、ブリーダーからの直販スタイルでありながら、生体を引き渡す場所を動物病院(獣医師)とすることで現状の課題を解決する一つの方策を提示したい、との発明者の思いから発明の着想に至ったものである(【0025】)との記載がある。

 このような記載があることから、原告は、引用発明は、適切な情報を新規飼主に伝達し、かかりつけ病院と生体情報を紐付けて、生体管理の徹底とマイクロチップ番号の適切な登録等を行うことを可能にすることで、上記②及び③の問題を解決する効果をもたらすものであり、このような効果をもたらすためには、動物の引き渡し場所を獣医師又は動物病院とすることが必須となると主張している。これに対し、本願発明は、「(動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く)」と規定されている。引用発明において動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除くことには阻害要因があり、新規性・進歩性を有しているというのが原告のロジックである。


(裁判所の判断)

イ 引用文献1の【0006】は、「発明が解決しようとする課題」として、里親希望者が譲渡する動物を登録した動物病院までその動物を引き取りに行かねばならず、これがマッチングの成立を阻む要因となっていたことを挙げているが、この要因の除去は、引き渡しの場所を「譲渡する動物を登録した動物病院」以外の場所に変更することによっても可能であるといえる。また、【0006】には、動物の個体管理の技術が動物と譲受希望者とのマッチングに活用されていなかったことも、発明が解決しようとする課題として挙げるが、この課題の解決は引き渡し場所とは関係がない。したがって、引用文献1の【0006】の記載から、引用発明の動物の引き渡し場所が動物病院又は獣医師が立ち会う場所に限られるとはいえない。

 

イ そこで、予約手段における「引き渡し場所」に関する相違が、本件審決認定の相違点1で述べられるとおり、本願発明では「動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く」ものであるのに対し、引用発明では「動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く」ものでないことにあることを前提に、その点の容易想到性について検討する。

・・・また、引用発明において、引き渡し場所を、特段限定のない引き渡し場所から、「動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く」引き渡し場所に変更することによって、システムの大きな設計変更が必要になるとは認められない。

 そして、本願明細書等には、引き渡し場所から「動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く」ことによって得られる効果について何ら記載されておらず(前記1⑶イ)、本願発明において、引き渡し場所から「動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く」ものとした構成によって得られる効果が、当業者が予測することのできる範囲を超えた顕著なものであるとは認められない。

 したがって、引用発明の、特段の限定のない引き渡し場所を、「動物病院及び獣医師が立ち会う場所を除く」場所に変更することは、当業者であれば容易に想到し得たものである。そうすると、本件審決の、予約手段における「引き渡し場所」についての容易想到性の判断に誤りはない。

 

(コメント)

 除くクレームが有効なのは、引用発明の本質的な構成を除く場合である。つまり、本質的な構成を備えないようにすることは阻害要因があるので、引用発明から容易想到ではないということになる。本裁判例では、引用発明は、動物病院及び獣医師が立ち会う場所で引き渡しを行うことが必須ではないと認定され、進歩性が否定された。引用発明の認定で勝負がついたのであり、除くクレーム自体が否定されたわけではない。

  なお、本裁判例で興味深かったのは、引用発明の認定において引用発明の着想に至った経緯を、引用発明の構成から分離して検討している点である。

「引用文献1の【0025】には、「本願の発明者らは、・・・生体を引き渡す場を動物病院(獣医師)とすることで現状の課題を解決する一つの方策を提示したい、という思いから本願発明の着想に至った。」との記載があるが、一つの方策を提示する着想に至るまでの発明者の心情に関して記載したものにすぎず、引用文献1に記載された発明の具体的な構成を特定した記載とは認められないから、【0025】の記載から、引用発明における動物の引き渡し場所が動物病院又は獣医師が立ち会う場所に限られるとは解されない。」




[裁判例]ツムツム事件控訴審(令和7年(ネ)第10082号)

  株式会社セガが、「LINE:ディズニーツムツム」を提供するLINEヤフー株式会社に対し、2件の特許権の侵害を理由に損害賠償(一部請求として1億円)を求めた事件の控訴審である(令和8年8月31日判決、原審は令和7年9月11日判決)。控訴は棄却された。ただし、本件特許2については...