2020年4月30日木曜日

「AI・IoT技術の時代にふさわしい 特許制度の検討に向けて」


 特許庁は、産業構造審議会知的財産分科会(産構審)で、「AI・IoT技術の時代にふさわしい 特許制度の検討に向けて」を一つの議題として検討を行っている。
2020年4月2日に行われた特許制度小委員会の配布資料に、掲題についての方向性のまとめがあった。
https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/tokkyo_shoi/document/37-shiryou/03.pdf

 AI技術の保護の在り方、ビジネスモデルの多様化への対応、データ保護の在り方等、特許制度の課題や検討の方向性等が示されている。ビジネスモデルの多様化に関しては、いわゆる「プラットフォーム型ビジネス」の損害額の認定が論点として挙げられている。確かに、特許発明と関係性の薄いサービスへの課金や広告収入で収益をあげている場合には、クレームドラフティングで何とかできる範囲を超えているように思う。それでも、発明としてはやや関連の薄い構成を含むことになったとしても、できる手は打っておいたほうが良いのかもしれない、と考えさせられた。

2020年4月26日日曜日

[US]アリス最高裁判決後の審査状況


 米国特許庁は、特許の保護適格性に関するアリス最高裁判決後の審査の状況について統計データを発表した。統計は、アリス判決に関連するソフトウェアの技術分野と、それ以外の分野における101条のファーストオフィスアクション(FOA)の数によって分析がされている。
https://www.uspto.gov/ip-policy/economic-research
 これによれば、2014年のアリス判決後は、アリス関連の技術分野では、特許保護適格性に関するFOAが増加したが、2019年のガイドライン以降は、特許保護適格性に関するFOAは急激に減少している。

※2019年のガイドライン
 ガイドラインでは、特許の保護適格性の判断のフローのステップに、発明が法上の発明の例外(数学的概念、人間の活動、精神的プロセス等)に言及している場合でも、全体として実用的応用に統合されていれば、保護適格性があることを示した。


2020年4月20日月曜日

IoT普及へ特許制限を検討 利用差し止めに条件 ~日本経済新聞~

4月20日の記事によれば、特許庁は、IoT関連機器への貢献がわずかな技術に限り、利用差し止めを認めない方向で検討を始めた。その理由は、特許権を持つ企業が権利侵害を次々と訴えると、IoTの利活用が進まなくなるとのこと。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58243610Z10C20A4NN1000/

 日本における特許侵害訴訟の件数は200件程度であり、米中に比べると桁違いに少なく、果たして、特許権を持つ企業が次々と訴えるという事態が起こるのか疑問ではある。2021年の特許法改正を目指すとのことなので、遠い話ではない。どのような制度になるのか興味深い。

2020年4月16日木曜日

情報管理方法事件(知財高裁 令和2年3月11日)

 
 特許無効審判に対する審決取消訴訟であり、新規性が問題となった。対象特許は、ウェブ広告の効果を見るため、どの広告を見て電話をかけてきたのかを管理するペイ・パー・コール方式に関する発明である。この場合、同じ広告であっても、どの提供サイトを見て電話を掛けたかを管理するためには、提供サイトごとに異なる電話番号を有しなければいけないという課題があるため、本件特許では、広告に動的に電話番号を割り当て、電話番号を再利用する。再利用のタイミングは、所定期間、電話番号が表示されないか、または、架電がされないことである。このタイミングに関し、本件特許では、「前記ウェブサーバに向けて前記識別情報が送出されてから一定期間が満了した場合に」と規定されている。
 これに対し、甲1発明は、同じくペイ・パー・コール方式を開示しており、その中に、以下の記載がある。
「[0078] また,本発明の一実施形態は番号を再利用することによって,必要とされる番号の総数を更に減らす。例えば,固有の番号が表示されてからある一定時間が経過した場合,システムは自動的にその番号を『クリーン』と見なして再利用し,番号のプールに戻すことができる。」

 原告は、「固有の番号が表示されてからある一定時間」とあるから、固有の番号がユーザ端末に表示されることが一定時間の始期であり、本件特許の「前記識別情報が送出されてから」とは相違すると主張した。
 裁判所は、甲1において、「表示」は、ユーザ端末等の画面のみに情報を映すという意味に限定されないと述べると共に、「かえって,甲1発明において,『表示』をユーザ端末等に電話番号が表示された時点と解すると,通信エラー等で電話番号が送出されたがユーザ端末等に表示されなかった場合には,『一定期間』が進行しないことになり,甲1発明の上記の課題が解決されないことになる。 」と述べて、原告の主張を採用しなかった。

 裁判所が判示するとおり、甲1の技術的意義を考えれば、一定期間の始期が、現にユーザ端末に表示されることまでを要するはずはなく、甲1の記載の言葉尻を捉えた原告の主張には無理があると言わざるを得ない。

 
 

2020年4月13日月曜日

ホストクラブ来店勧誘方法事件(知財高裁 令和2年3月17日)

ホストクラブ来店勧誘方法事件(知財高裁 令和2年3月17日)


 拒絶審決に対する審決取消訴訟である。対象特許出願は、ホストクラブへの来店の敷居を下げるために仮想現実動画ファイルをスマートホンに送信する技術であり、「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイル」の中から選択されたファイルを送信して再生することを特徴としている。
 これに対し、引例は、広告代理店による販促支援に係る、テーマパークの事前体験などが想定されたサービスなどの疑似体験による販促の方法である。
 特許庁は、メンタルケアを行う複数の動画ファイルの部分は相違点としつつも、対象出願における「メンタルケア」の文言は広範かつ抽象的であるから、およそ体験型のサービスはメンタルケア的な側面を有すると主張すると共に、コマンドボタンに動画の内容を表記することは周知技術であるから、動画の内容としてサービスの「メンタルケア的な側面」を捉えた表示を行うことも、周知技術の採用に当たって、広告代理店とサービスの提供者との間の取決めに即して、適宜決定すべきことであると主張した。
 これに対し、裁判所は、本件出願における「メンタルケア」について明細書の記載を参照して、「本件補正発明の「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイル」との記載は、「潜在顧客」がホストクラブに行く動機付けとなる「心理状態」にそれぞれ対応した「ホストとの会話により顧客をリラックスさせたり」、「ストレスを解消させたり」、「癒したりする」などの異なる「メンタルケア」を行うべく、「ホストクラブに入店してホストから接客のサービスを受け、店を出るまでの状況」をそれぞれ撮影した「複数の異なる仮想現実動画」のファイルであることを意味するものと理解される。 」と解釈した。
 その上で、裁判所は、引例には、潜在顧客が疑似体験したいサービスを自由に選択できるようにすることや、当該サービスのメンタルケア的な側面を仮想現実動画のタイトル等として表記した複数のボタンを設けることの記載はなく、かかる示唆もないとして、引用発明を「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」に適用した場合に、販促支援の内容は、販促支援をする広告代理店とこれを受ける広告主との間の取決めに即したものとなるとしても、「仮想現実動画」を、「心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なる」ものにすることが必然とはいえないと判断した。 

 この判決で結論が覆ったのは、「メンタルケア」の文言を、特許庁は広範かつ抽象的と理解したのに対し、裁判所は明細書に即して解釈を行ったからである。進歩性判断の場面においても、明細書の記載を参酌して発明を理解することが大事である。

2020年4月10日金曜日

令和元年意匠法改正


意匠法改正のポイントは関連意匠や存続期間など多岐にわたるが、ICTとの関係では、物品を離れた「画像」が意匠法上の意匠に該当することになったことが挙げられる。改正前は、画像は、物品の部分としての画像であることが必要であったが、改正法では、画像自体を意匠法による保護対象とすることができるようになった。情報処理で用いられる画像を意匠として保護することができる可能性がある。
条文では「機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるもの」と規定されている。具体例を見れば分かりやすいので、審査基準より具体例を抜粋する。

なお、画像自体が保護対象になったといっても、画像の具体的な用途を「意匠に係る物品」の欄にて明確に特定する必要がある。

2020年4月3日金曜日

アプリケーション生成支援システム事件(知財高裁 令和元年9月19日)

拒絶審決に対する審決取消訴訟である。対象の特許は、前記携帯通信端末において実行されるアプリケーションの生成を支援するシステムに関する発明である。引用発明との相違点は、簡単にいえば、本願発明が、携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるアプリケーションであるのに対し、引用発明で生成されるアプリケーションは、ネイティブ機能を実行させるものではない点である。

引用発明は、CMS(コンテンツマネジメントシステム)で構築されるアプリケーションがウェブサイトとして構築されるという課題に対し、同等の機能を有するネイティブアプリケーションを容易に生成できるようにしたものである。

裁判所は、引用発明のこの課題に着目し、(被告が主張する周知技術が存在したとしても)動作を行わないウェブアプリケーションの表示内容を表示するネイティブアプリケーションを生成しようとする場合、携帯通信端末の動きに伴う動作を行うようにすることはないと判断した。引用発明の課題に着目して引例どうしの組合せについて動機付けがないという判断をするのは一つの公式である。

なお、裁判所は、阻害事由があるとも述べている。引用発明は、簡易にネイティブアプリケーションを生成することを課題としているから、新たにソースを書くような面倒なことはしないというものであり、もしソースを書こうと思えば書くこともできるから、技術的には阻害されていないのではないかと思われる。


[裁判例]【補足】システムを装置に変えることは容易か(令和3年(行ケ)10027号)

 2022年12月29日の投稿で、タイトル記載の裁判例(審決取消訴訟)でシステムを装置に変えることに進歩性が認められたことを報告した。その中で、同日に出された侵害訴訟の判決では、同じ引例を理由に、新規性なしと判断されたことに非常に驚いたとコメントした。  この件について、今月号の...