2021年4月29日木曜日

[US]IPRの審理開始について

 米国の当事者系レビュー制度(IPR)の審理を開始するかどうかは、長官の裁量によることが、米国特許法314条(a)に規定されている。

「長官が,第 311 条に基づいて提出された請願及び第 313 条に基づいて提出された応答におい て提示されている情報により,請願において異議申立されているクレームの少なくとも 1 に 関して請願人が勝訴すると思われる合理的な見込みがあることが証明されていると決定する場合を除き,長官は,当事者系再審査の開始を許可することができない。 」
(特許庁/外国知的財産情報より)

 この規定は、請願に理由がありそうかどうか、ということを言っているが、それだけではないようである。IPRの対象の特許に関し、侵害訴訟が並行しているときには、IPRが開始されない場合がある。
 Apple Inc. v. Fintiv, Inc. IPR 2020-00019の事件において、IPRの開始についてPTABが考慮すべき事項が6つ示されている(Finitiv基準)。そのうちの一つが、PTABによる決定期限と裁判所の公判日の近さである。IPRの提起が遅れると、審理を開始してもらえない可能性があるので要注意である。
 なお、UnifiedPatentの記事(下記URL参照)によると、228件もの請願が審理を開始してもらえず、そのうちの62%がFinitiv基準によるものだそうである。


2021年4月16日金曜日

[記事]利益相反について

(ポイント) 以下は、原審(令和2年(ラ)10004)の判決文からの情報も含む。

・利益相反に関する最高裁判決である。関係条文は次のとおり。
[弁護士法]
第二十五条 弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件

[弁護士職務基本規程]
第五十七条 所属弁護士は、他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む)が、第二十七条又は第二十八条の規定により職務を行い 得ない事件については、職務を行ってはならない。ただし、職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。

・事実関係
 塩野義製薬 vs 米ギリアドサイエンシズの特許侵害訴訟の関係である。塩野義製薬で上記訴訟の準備に深く関わったC弁護士が、ギリアドの代理人A弁護士,B弁護士の事務所に転職した。なお、C弁護士は、1か月余りで退職した。
 なお、ギリアドの主張としては、C弁護士に秘密漏洩なきことを誓約させるほか、A弁護士,B弁護士とC弁護士との間で十分な情報遮断措置をとっていたから、弁護士職務基本規程57条に定める「職務の公正を保ち得る事由がある」というものである。

・原審(知財高裁)
 「職務の公正を保ち得る事由」の意義は、「依頼者の信頼が損なわれるおそれがなく,かつ,先に他の所属弁護士(所属 弁護士であった場合を含む。)を信頼して協議又は依頼をした当事者にと って所属弁護士の職務の公正らしさが保持されているものと認められる事由をいうものと解するのが相当である。」とした上で、本件訴訟は利害の対立が大きい事件であり、C弁護士が訴訟準備の中心的役割を担っていたことや、C弁護士の転職と時期を同じくして事件の代理人がD弁護士からA弁護士らに代わったことからすると、塩野義にとって、「A弁護士らが基本事件の相手方の訴訟代理人として職務を行うことについて,その職務の公正らしさに対する強い疑念を生じさせるものであるものと認められる。」として、塩野義の主張を認めた。

・最高裁の判断
 同僚に利益相反を抱える弁護士がいたとしても、これを「具体的に禁止する法律は見当たらない」として、排除の申立て自体ができないと判断した。

 「具体的に禁止する法律は見当たらない」というのは、弁護士職務基本規程には同僚についての禁止規定があるが、弁護士法には規定がないということなのだろう。つまり、日弁連の会規にしたがって罰せられることはあっても、裁判で強制的に排除することはできないということと理解される。
 記事によれば、「いかなる条件で関与が禁止、容認されるのかを具体的な規則で規律することは日弁連に託された喫緊の課題の一つだ」とする補足意見をつけたとあるので、最高裁は利益相反についてきちんとしたルールが必要と考えているようである。

(参考URL)

2021年4月12日月曜日

[記事]Microsoftが音声認識技術のニュアンスを買収

 (ポイント)
・ニュアンスは、音声認識技術を手掛ける米国企業。Siriの基礎技術の開発で知られる。
・ニュアンスは、音声認識で2700の特許を保有。
・Microsoftとニュアンスは、医療分野のAI活用で1年半にわたり協業してきた。
・Microsoftは買収により、ヘルスケア分野のクラウドサービス強化が狙い。
・買収の規模は、197億ドル。
・反トラスト法に抵触するかの審査はこれから。

(出典)

2021年4月11日日曜日

[記事]特許権の差止制限については引き続き検討

  2020年4月に「IoT普及へ特許制限を検討」という記事を取り上げたが、産構審の特許制度小委員会の中間とりまとめ(2020年7月10日)を見ると、引き続き検討ということになっている。

 差止請求権の行使は権利濫用の範囲内で制限されるべきことについては、意見の一致を見たが、どのような場合に権利濫用になるかはケースバイケースでの判断が適当であることや、差止請求権の制限の明文化が特許権を弱めるというメッセージにつながったり、権利濫用の考慮要素を狭めるということが考慮された。

(産構審資料)


2021年4月10日土曜日

[AI関連発明]情報処理装置(特許6722929)

 (登録例)
 発明は、帳票の画像からテキストデータを読み取る学習モデルを生成するためのデータセットを生成し、当該データセットを用いて機械学習を行う装置に関する。

【請求項1】
  文字情報を含む画像データから前記文字情報を読み取り、読み取った前記文字情報の前記画像データにおける位置について推定するための学習モデルに関する機械学習を行う情報処理装置であって、
  前記画像データを取得する画像データ取得部と、
  前記画像データに含まれる前記文字情報の位置を識別し、読取項目として認識する読取項目認識部と、
  読取項目における前記文字情報の文字認識を行い、テキストデータを生成するテキストデータ生成部と、
  前記テキストデータと、あらかじめ記憶されている前記画像データに含まれる前記文字情報を示す正解テキストデータとを読取項目ごとに比較し、一致しているか否かの判定を行い、一致していると判定された前記テキストデータを前記画像データ単位で抽出する正解データ抽出部と、
  抽出された前記テキストデータと、抽出された前記テキストデータの基になる前記画像データにおける読取項目の位置とに基づいて機械学習を行い、前記学習モデルの生成または更新を行う学習部と、を備え、
  前記正解データ抽出部は、前記テキストデータと前記正解テキストデータとを比較して前記テキストデータの合致度を算出し、算出した合致度が所定の閾値以上の場合、前記テキストデータと前記正解テキストデータとが一致していると判定する、情報処理装置。

 発明のポイントは、画像データをOCRで読み取り、その読取りの精度が高かった正解データのセット(画像データとテキストデータ)のみを学習に用いる点である。
 出願人は、意見書において、引用文献1は、「OCR処理に成功した場合、失敗した場合のいずれも機械学習を行うことで、文書帳票の書式の統計的な情報を反映させ、過学習を防止するものです。」と述べ、「一致している帳票のテキストデータのみを機械学習の対象とするために抽出する構成を付加することは、その目的に反するものであり、阻害要因を有します。」と主張した。
 
 補正に関していうと、画像データ単位で正解データを抽出するという構成を加えた。引用文献1に記載の画像処理装置は、「項目単位で一致/不一致の判定を行い、一致していない場合には、確認画面をモニタに出力し、作業者の入力により確認を行う構成」であることから、画像単位では正解データを抽出しないということを言いたいようである。
 
 本件は、発明の目的の違いに起因する構成の違いを請求項に反映させることにより、特許査定を得た例と言える。
 

2021年4月9日金曜日

[記事]ドコモの5G必須特許シェア ~日経新聞~

(ポイント)
・ドコモの5G必須特許シェアは11.4%で世界3位
・1位はサムスン、2位はクアルコム
・2020年11月時点の特許の分析結果(サイバー総研調査)

(出典)
 

[AI関連発明]画像処理装置(特許6696095)

 (登録例)
【請求項1】(出願当初)  ニューラルネットワークにより入力画像を処理し、前記ニューラルネットワークの出力に基づいて、前記入力画像における部分領域毎に異なるホワイトバランス調整値を算出する算出部を備える画像処理装置。

 この発明は、予め学習済みのニューラルネットワークを用いて、部分領域毎に異なるホワイトバランス調整値を求め、求めたホワイトバランス調整値を使ってホワイトバランス調整を行う画像処理装置である。
 出願当初の請求項は、上記のように、ニューラルネットワークを使って部分領域毎のホワイトバランス調整値を求めるというだけしか規定していなかった。これに対して、進歩性なしの拒絶理由通知が出された(明確性違反も出ているが割愛)。
 引用文献1には、撮像装置で得られた画像を子画面に分割し、子画面ごとの色温度のヒストグラムから、子画面をグループ分けした各グループのホワイトバランス調整値を求めることが記載されている。他方、引用文献2には、予め学習させたニューラルネットワークに撮影画像を入力し、光源種を出力することが記載されている。引用文献1に係る発明に引用文献2に記載されたニューラルネットワークの技術を適用することで、本願発明に容易に想到し得るとされた。
 このように、ニューラルネットワークで処理するか否かという点だけが相違点の場合には、同一技術分野でニューラルネットワークが使われていることを示されて、組み合わせによって進歩性を否定される。
 
 本件は、請求項1に、進歩性の拒絶理由が発見されなかった請求項2の特徴を加えることで、特許査定を得ている。
 
【請求項1】(特許クレーム)
  ニューラルネットワークにより入力画像を処理し、前記ニューラルネットワークの出力に基づいて、前記入力画像における部分領域毎に異なるホワイトバランス調整値を算出する算出部を備え
  前記算出部は、前記ニューラルネットワークにより前記入力画像を処理することによって前記入力画像に含まれる複数の画素のそれぞれに対応する複数のフィルタを生成し、前記入力画像に前記複数のフィルタを適用して得られた画像と前記入力画像とに基づいて、前記入力画像における前記部分領域毎に異なるホワイトバランス調整値を算出し、
  前記ニューラルネットワークは、
    前記入力画像を入力とし、前記複数のフィルタのフィルタ係数を出力し、
    既知の照明光下で撮像されることによって得られた画像と、前記既知の照明光下で撮像されることによって得られた画像に前記既知の照明光に基づくホワイトバランス補正を施した画像とを用いた機械学習により構築されている画像処理装置。

 

2021年4月8日木曜日

[裁判例]撮像装置事件(令和3年3月30日)

 本件は、異議申立の取消決定に対する審決取消訴訟である。対象となる特許は、ロール方向の傾きを表示する撮像装置の発明である。


 図に示すようにロール角を示すゲージを表示することで、撮像装置の傾きを正確に把握でき、操作性を向上させることができる。
 これに対し、取消決定の理由となった証拠(甲1)は、電子的に撮影した画像の天地方向が統一されていると画像の管理に便利であるということを背景とし、水平に置かれた撮像対象の天地方向を正確に算出する画像撮像装置の発明である。
 甲1に記載された発明では、画像撮像装置の傾斜角度を測定する傾斜度測定手段を備えている。下の図では、平面に沿ったD301,D303方向の重力加速度センサを備え、当該センサで測定した重力加速度の重力gに対する割合から、平面の傾斜度を求める。


 上記と直交する方向の重力加速度を検出する別の重力加速度センサを備え、2つの重力加速度センサの測定結果から、次のように撮像装置の天地方向を求める。(なお、撮像装置の天地方向を求めるのは、対象物を撮像する準備である。)
【0087】
  天地方向データDT40は、画像撮像装置1000の天地方向を示すデータである。天地方向算出手段222は、第1軸と水平面とが成す第1傾斜度が所定の閾値(たとえば、10度)以上であれば、第1軸の方向が天地方向と判断する。また、天地方向算出手段222は、第2軸と水平面とが成す第2傾斜度が所定の閾値以上であれば、第2軸の方向が天地方向と判断する。
 
 取消決定では、甲1のこの構成が、「ロール方向の傾きとピッチ方向の傾きを検出する傾き検出部と,」(構成要件1C)に該当すると判断されたが、裁判所は、この判断は誤りであるとした。

(裁判所の判断)
「・・・甲1で測定される第1傾斜度及び第2傾斜度は,光軸が水平面と平行である場合を除き,撮像装置を光軸まわりに回転させる方向の傾きの角度とは異なるものである。
 そして,甲1発明における「天地方向の判定」をする天地方向算出手段222は,傾斜度測定部250が算出した重力加速度の方向および大きさに基づいて判定するものである(【0079】,【0087】,【0088】,【0107】)。 
 そうすると,甲1発明で測定される第1傾斜度及び第2傾斜度は,撮像装置の分野における技術常識であるところの「ロール方向の傾き」とは異なるものであり,第1傾斜度及び第2傾斜度に基づいて判定される「天地方向」は,本件発明1の「ロール方向の傾き」とは異なるものといえるから,甲1発明は,「ロール方向の傾き」を検出するものであるとも,表示するものであるともいえない。」

 甲1には、下図も掲載されており、撮像装置が傾いている場合には、傾きを是正するように注意を促すことが記載されている。一見するとロール角を求めているようであるが、下図の「右に30°回転」がロール角と一致するのは、光軸が水平面と平行な場合だけである、ということである。


 



2021年4月7日水曜日

[裁判例]学習用具事件(大阪地裁令和3年3月25日)

 七田式で知られる株式会社しちだ・教育研究所が、「歌って覚えるゴロゴロイメージ都道府県」というDVD-ROMが、被告が保有する学習用具の特許を侵害しないことの確認を求めた差止請求権不存在確認請求事件である。
 対象の特許の内容は以下のとおりである。

A コンピューターを備え,対応する語句が存在する原画の形態を該語句と結びつけて憶えるための学習用具であり, 
B 前記コンピューターが, 
 B1 前記原画,該原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並びに,該原画及び第一の関連画に似た若し くは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画,から成る組画の画像データが,複数個記録された組画記録媒体と, 
 B2 前記組画記録媒体に記録された複数個の組画の画像データから,一の組画の画像データを選択する画像選択手段と, 
 B3 前記選択された組画の画像データにより,前記第一の関連画,前記第二の 関連画,及び前記原画の順に表示する画像表示手段と, 
 B4 前記関連画及び原画に対応する語句の音声データが記録された音声記録媒体と, 
 B5 前記音声記録媒体から,前記語句の音声データを選択する音声選択手段と, 
 B6 前記選択された語句の音声データを再生する音声再生手段と,を含み, 
C 前記画像表示手段が,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原 画を,対応する語句の再生と同期して表示する
D 学習用具。 

 「第一の関連画」「第ニの関連画」と言われてもピンとこないが、次のような画像である。

 例えば都道府県の形状を連想させる画像を用意し、画像に対応する語句と共に頭に入れることで、その形状を記憶させやすくするというものである。
 原告が販売する「歌って覚える~」の広告動画を見たところ、都道府県の形状をとても覚えやすい優れもの、だが、一見して侵害しているように思え、不存在確認訴訟を起こした原告の真意を図りかねた。
 
 裁判所は、構成要件B2の画像選択手段以外は、構成要件を充足していると判断した。画像選択手段については、二つ以上の組画の画像データを同時に選択することしかできない構成は、構成要件B2を充足しないという解釈を示した上で、原告製品は個々の都道府県単位で組画を選択することができないから、文言上は、構成要件を充足しないと判断した。
 しかし、対象特許の本質的部分は、「組画の1単位として,原画,該原画の輪郭に似た 若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並 びに該原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画から成る組画を組画記録媒体に記録する点,画像表示手段に表示するに際し,前記第一の関連画,前記第二の関連 画,及び前記原画の順に表示する点,第一の関連画に対応する語句,第二の関連画に対応する語句,原画に対応する語句から成る語句の音声データを,音声記録媒体に記録し,音声再生手段で再生し,前記画像表示手段が前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画を対応する語句の再生と同期して表示する点」であるとし、均等論による侵害を認めた。

(参考URL)
 

2021年4月6日火曜日

[記事]パナソニックが特許侵害で提訴 ~4月6日~

 (ポイント)
・マグナ・インターナショナル(加)を米国とドイツで提訴
・対象特許は、先進運転支援システム(ADAS)に関する特許
・対象製品は、マグナの自動運転システム「ICONレーダー」に使う「レーダー・オン・チップ」

(出典)


2021年4月5日月曜日

[記事]特許庁が漫画でAI・IoTの審査基準を解説


 審査基準に触れたことがない人には難しい内容を何とかわかりやすく親しみやすいものにしようという苦労がうかがい知れる。拍手!

[AI関連発明]スクリーニング方法(特開2019-16359)

 (拒絶例6)
【請求項1】  コンピュータ端末が、インターネットを介してデータベースにアクセスする工程と、  該データベースからデータをダウンロードして該コンピュータ端末に保存する工程と、  ディープラーニングにより、正しい答えを出せるように学習させた人工知能を搭載した コンピュータに、少なくとも1つのマイクロアレイデータを含む、前記コンピュータ端末が該ダウンロードしたデータをアップロードして読みこませる工程と、  該人工知能を搭載したコンピュータに、該コンピュータ端末が質問を送信する工程と、  該人工知能を搭載したコンピュータからの該質問に対する解を該コンピュータ端末が受信する工程と を有することを特徴とする、医薬候補物質をスクリーニングする方法。

 本発明で使用できるデータベースは、生物学、生命科学、医学、歯学、薬学、化学、物理学、数学、統計学、の論文、テキストブック、専門書、及び、辞書等であり、要するに、IBMのWATSONのように大量の質問と答をインプットして学習させ、そのコンピュータに質問を送信して解を得るというものである。本明細書にも、WATOSONを好適に使用できるとある。
 拒絶理由通知書では主引例としてWATSONによるがん治療薬の候補タンパク質を見つける方法の発明が引用された。
 上記の補正後クレームと引例との相違点として、以下が認定された。
<相違点1>
 請求項1に係る発明では、データベースからデータをダウンロードして保存し、該データを、人工知能を搭載したコンピュータに読み込ませ、該人工知能を搭載したコンピュータに質問を行い該質問に対する解を受信するのにコンピュータ端末を用いるのに対して、引用文献1に記載された発明では、それが明示されない点。
<相違点2>
 請求項1に係る発明では、人工知能を搭載したコンピュータに読み込ませるデータが少なくとも1つのマイクロアレイデータを含むのに対して、引用文献1に記載された発明では、それが明示されない点。

<相違点1>に関しては、設計事項にすぎないとされた。これは当然であろう。
<相違点2>に関しては、創薬や医療のためにDNAマイクロアレイを用いた遺伝子情報(
マイクロアレイデータに相当)を用いることが極めて有用であることは、本願出願時において周知であり、主引例に周知技術を採用して相違点2に係る構成とすることは当業者が容易になし得たとされた。

 ダウンロードしたデータに、マイクロアレイデータを含む、としか特定しておらず、マイクロアレイデータを含むことが発明にどう寄与しているのか記載されていなから、マイクロアレイデータが周知である以上、容易想到であるという結論は妥当である。


2021年4月4日日曜日

[AI関連発明]人工知能モジュール開発方法(特開2019-003603)

 (拒絶例5)
【請求項1】
  1)解析目的を選択させるステップと、
  2)前記解析目的に必要なデータを登録させるステップと、
  3)前記解析目的を達成する目標を設定させるステップと、
  4)前記登録されたデータを用いて前記解析目的及び前記目標に適合する学習の実行を指示させるステップと、
  5)前記学習の結果として求められた人工知能モジュールを確認させるステップと、
  6)前記確認された人工知能モジュールを含む学習結果を他の装置に組み込むことを指示させるステップと
  をを順次実行する人工知能モジュール開発方法。
  
  



 引用文献1には、画像認識システムの画面において、認識対象の画像(本願の「データ」に相当する)の選択、画像に対するタグ(本願の「目標」に相当する)の付与、学習ボタンのクリックを受け付け、学習後の認識エンジンを用いた認識結果の確認を行うことが記載されている。引用文献1には、1)解析目的を選択させるステップはない。
 引用文献2には、ニューラルネット構築支援システムが、ニューラルネットの利用目的の入力をユーザから受け付け、当該利用目的に応じた学習を行うことが記載されている。

 出願人は、請求項1に「順次実行する」という要件を追加して、各ステップの時系列を特定した上で、引用文献2に記載された発明は、データを入力し、その後、利用目的を入力するものであるから、本願発明と構成が異なると主張した。

 これに対し、審査官は次のように述べて拒絶した。
 本願出願時の技術常識に照らせば、データと利用目的との間に、その入力順に依存した関係はなく、学習処理の開始までに両者が入力されるものであれば、各々の入力画面の表示順をどのような順番にするかは、画面設計上の選択事項にすぎないので、引用文献2に記載された発明の、利用目的を入力する手順を、引用文献1に記載された発明の、画像の選択を行う手順の前に追加するようにすることも、当業者にとって容易であるので、出願人の上記主 張も採用することができない。
 本件は、引用文献どうしを単純に組み合わせると、出願発明とは表示の順番が異なるだけであったため設計事項とされた。

 なお、ステップ3)の目標の設定が、目的があることを前提としてそれに応じた目標を設定するというような請求項の文言にすれば話が違ったような気もするが、「前記解析目的を達成する目標を設定させる」というだけでは、目的を達成するように人間が考えた目標を設定しているだけとも解され、設計事項と言われても仕方がない。
 順番が異なるという相違点だけでは、進歩性が認められなかった例である。




2021年4月3日土曜日

[記事]理研・富士通、量子で結集 ~日本経済新聞 4月2日~

(ポイント)
・4月1日に、理化学研究所が富士通と連携して「量子コンピュータ研究センター」を設立。
・量子コンピュータのハードウェア開発に取り組む。
・物質を極低温に冷やす超電導方式を開発の軸に。
・1990年~2020年の量子コンピュータ(ハード)の公開特許数は、米国勢が上位を占める。

(出典)

[AI関連発明]デプス画像にラベルを付与するプログラム(特許6719168)

 (登録例27)
 教師データを作成するプログラムに関する発明である。教師データに対するラベルの付与を人手で行うことは大変である。本発明は、3Dモデルに予めラベルを付与しておき、3Dモデルを仮想カメラで撮影してデプス画像を生成し、生成したデプス画像にラベルを付与するというものである。

【請求項1】
  正弦波の位相のずれを用いたTOF(Time Of Flight)型の実用デプスカメラによって撮影されたデプス(depth)画像にラベルを付与(Annotation)する機械学習エンジンにおける教師データを生成するようにコンピュータを機能させるプログラムであって、
  3D(three-Dimensional)モデルに、ラベルが予め付与されており、
  3DCG(3D Computer Graphics)ソフトウェアを用いて、3次元空間上に、3Dモデルと、当該3Dモデルを撮影する仮想カメラとを配置する仮想配置手段と、
  1視点の仮想カメラから、当該3Dモデルを異なるタイミングで撮影した複数の仮想画像を生成するレンダリング手段と、
  生成された複数の仮想画像から、正弦波の位相のずれに基づいて仮想カメラからのデプス画像を作成するデプス画像作成手段と、
  作成されたデプス画像に、当該3Dモデルのラベルを付与するアノテーション手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項2】
  視差による三角測量を用いたステレオ型の実用デプスカメラによって撮影されたデプス画像にラベルを付与する機械学習エンジンにおける教師データを生成するようにコンピュータを機能させるプログラムであって、
  3Dモデルに、ラベルが予め付与されており、
  3DCGソフトウェアを用いて、3次元空間上に、3Dモデルと、当該3Dモデルを撮
影する仮想カメラとを配置する仮想配置手段と、
  2視点の仮想カメラそれぞれから、当該3Dモデルを撮影した複数の仮想画像を生成するレンダリング手段と、
  生成された複数の仮想画像から、ステレオ視差原理に基づいて仮想カメラからデプス画像を作成するデプス画像作成手段と、
  作成されたデプス画像に、当該3Dモデルのラベルを付与するアノテーション手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。

 審査の過程では、出願当初の請求項1等に対して引用文献1が示された。引用文献1には、「仮想カメラ24から物体を見た様子を表す、深さ情報に関連付けられた二次元画像28が学習データとして用いられてもよい。」との記載があり、単に、仮想カメラでデプス画像を撮影し、教師データを生成するというだけでは、進歩性がないと判断された。

 出願人は拒絶理由の発見されていない請求項8,9に限定して特許を取得した。請求項1では、正弦波の位置ずれを用いたカメラで異なるタイミングで撮影したデプス画像を生成すること、請求項2では2視点カメラで撮影した仮想画像のステレオ視差原理を用いてデプス画像を生成すること、が具体的に規定された。
 本件は、教師データの具体的な生成方法を特定することで、特許査定を得た例である。

 

2021年4月2日金曜日

[裁判例]携帯情報通信装置(東京地裁令和3年1月15日) 損害論

  前日の投稿のとおり、原告の主張が認められ、被告によるスマホの製造・販売は本件発明の実施に該当すると判断された。
 原告は、実施料相当額(特許法102条3項)に基づく損害賠償を主張した。実施料相当額は、被告製品の売上高に実施料率を乗じて算定されるのが一般的である。

 裁判所は、まず、実施料率を考慮する基準について、次のとおり述べた。
「①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,
②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,
③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,
④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情
を総合考慮するのが相当である。」
その上で、本件について次のように判断した。

①「本件発明を含め,原告による特許発明の実施許諾の実績はない。また,業界における実施料の相場等として,本件報告書及び前記「実施料率 〔第5版〕」における平均値等の記載を採用することも相当ではない。このような状況に照らせば,本件発明に関し,業界における実施料の相場等を示すものとしては,被告が締結した被告製品に関する特許の実施許諾契約の内容を参考とするのが相当である。
そして,被告従業員の前記陳述書においては,被告各製品に関連する標準必須特許以外のライセンス契約において,パテントファミリー単位での特許権1件あたりのライセンス料率が●(省略)●%であり,そのうち,ランニング方式での契約をとるC社との契約においてはライセンス料率の平均が約●(省略)●%であったこと,また,被告が,平成22年頃,被告各製品の販売に関連し,画像処理・外部出力関連の標準規格の特許ライセンス料を含む使用許諾料として支払っていた額は1台当たり合計●(省略)●米ドルであったことが説明されている(別紙5「被告各製品の販売状況」記載の売上合計を販売台数合計で除して算出
した,被告各製品1台当たりの売上高は約●(省略)●円である。)。」

②「本件発明が被告各製品にとって代替不可能なものとは認められず」

③「本件発明を実施することによる被告の利益の程度も明らかではないこと,」

④「原告と被告との間に競業関係がなく,原告は,特許発明について自社での実施はしておらず,他社に実施許諾をして実施料を得ることを営業方針としているものの,これまで保有する特許発明について,実施許諾契約の締結に至ったことはない」

            ↓↓

「本件発明について,被告各製品の製造,販売に対して受けるべき実施料率は0.01%と認めるのが相当である。」

 ①の事情のところ、閲覧制限されているので、具体的な数値がわからないが、被告が締結した被告製品に関する特許の実施許諾契約における実施料率が非常に低廉であったものと推定される。
 なお、①のところで、報告書における平均値等の記載を採用することは相当でないと述べているが、その理由として次のように判示している。

「また,本件報告書では,「電気」の製品分野である,エレクトロニクス業界のライセンス交渉実態及びロイヤルティ決定手順について,次のような記載がされている。 
 規格技術に関する特許に係るパテントプールの例では,地デジの通信規格技術について,特許300件ほどのパテントプールが形成され,地デジTV一台あたり,200円の特許料が徴収されていること,MPEG2ビデオ圧縮技術について,特許100件ほどのパテントプールが形成され,DVDなどの製品1台あたり,2米ドルの特許料が徴収されていること。 
 デバイス等の製品は,数百から数千の要素技術で成り立っており,一つのデバイスが関連する特許は膨大な量となり,1件あたりのロイヤルティ料率を定めると100%を超えてしまうため,デバイスに関する特許は,各社が保有する特許群の中で代表的な特許を選抜
し,クロスライセンスによる交渉を行うことが主流であり,交渉によって得られたロイヤルティの差がロイヤルティ料率又は一時金として設定され,その相場は1%未満となること。」 
「b 前記aのとおり,本件報告書及び前記「実施料率〔第5版〕」には,電気等の分野の実施料率の平均値等の記載があるものの,本件報告書では,エレクトロニクス業界のライセンス交渉実態について,一つのデバイスが関連する特許が膨大な量となることから,実施料率の定めに特徴がある旨の記載がされており,そこで例示されている実施料率は,上記の平均値を大幅に下回るものである。 
 このような事情は携帯電話機(スマートフォン)である被告各製品にも当てはまるものと考えられるから,被告各製品に関して,業界における実施料の相場等として上記の平均値等の記載を採用するのは相当とはいえない。」
 

2021年4月1日木曜日

[裁判例]携帯情報通信装置(東京地裁令和3年1月15日) 侵害論

  原告DAPリアライズが、被告シャープがスマートフォンを製造販売する行為が特許権侵害であるとして訴えた事件である(平成30年(ワ)第36690号)。

 スマートフォンは付属のディスプレイに画像を表示するほか、外部の大画面のディスプレイに画像を出力することができる。発明は、スマートフォンがもともと持っている付属表示データ生成手段とは別個の表示データ生成手段を使用することなく若干の機能追加だけで、外部ディスプレイ向けの表示データを生成するのが特徴である。
 具体的には、単一のVRAMを用い、付属のディスプレイに表示する際は、付属のディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度のビットマップを読み出し、外部ディスプレイに画像データを送信する際には、付属のディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度のビットマップを読み出す点である(下記構成要件H)

(構成要件H)
 前記グラフィックコントローラは,前記携帯情報通信装置が「本来解像度がディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を処理して画像を表示する場合に,
 前記単一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し,「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し,該デジタル表示信号を前記ディスプレイ制御手段に送信する機能と,
 前記単一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し,「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し,該デジタル表示信号を前記インターフェース手段に送信する機能と,
 
 被告の非侵害の主張は、明細書の記載に基づくクレーム解釈を前提としている。
 明細書には、
「「適切に処理する」とは,ディスプレイ手段,又は,データ処理手段及びディスプレイ手段が,表示信号等に含まれている画素ごとの論理的な色情報を,ディスプレイ手段の画面を構成する物理的な画素の色表示として過不足なく現実化することを意味しており,より具体的には, 物理的な現実化にあたって画素を間引いて表示画像の解像度を小さくしたり,画素を補間して表示画像の解像度を大きくしたりしないことを意味している。

との記載がある。この記載に基づいて、被告は、データ処理手段が行う「必要な処理」(構成要件D)は、間引きや補完をしないことであるとし、非侵害を主張したが、裁判所は被告の主張を採用しなかった。
 
 実は被告の主張には伏線がある。シャープらを被告として争われた別件訴訟において、本件とファミリの特許について上記のようなクレーム解釈に基づき、非侵害と判断された。(余談になるが、当該別件訴訟には、自分も代理人として関与していた。)
 この点について、裁判所は以下のとおり述べた。

「c 別件判決における判断との関係について
 証拠(乙4)及び弁論の全趣旨によれば,別件判決においては,別件発明の構成要件Iに「前記データ処理手段は,前記画像データファイルの本来解像度が前記ディスプレイパネルAの画面解像度より大きい場合でも,前記画像データファイルをリアルタイムで処理すること によって,及び/又は,前記データファイルを前記記憶手段に一旦格納し,その後読み出した上で処理することによって,前記画像データファイルの本来画像の全体画像のデジタル表示信号を生成する機能を有する」とあるところ,そこでの「処理する」は別件特許に係る明細書の「適切に処理する」(本件明細書の【0032】と同じ記載。)をいうとの判断がされたことが認められる。 
 しかしながら,別件発明の構成要件Iにおける「データ処理手段」 は,上記のとおり,「画像データファイル」を「処理する」ことによって「前記画像データファイルの本来画像の全体画像のデジタル表示信号を生成する」と規定されているものであるのに対して,本件発明の構成要件Dの「中央演算回路」の処理については,前記aのとおり, 「処理」の結果として生成されるものが「本来画像の全体画像」である旨の規定はない。
 したがって,別件発明の構成要件Iにおける「処理する」の解釈は, 本件発明の構成要件Dにおける「処理する」の解釈を左右するものではない。」

 整理すると、別件では、クレームに「本来画像」という文言があるために、明細書の記載に基づいてクレームが狭く解釈されたが、本件では本来画像という文言がないので、別件と同じクレーム解釈が成り立たなかった。



[裁判例]【補足】システムを装置に変えることは容易か(令和3年(行ケ)10027号)

 2022年12月29日の投稿で、タイトル記載の裁判例(審決取消訴訟)でシステムを装置に変えることに進歩性が認められたことを報告した。その中で、同日に出された侵害訴訟の判決では、同じ引例を理由に、新規性なしと判断されたことに非常に驚いたとコメントした。  この件について、今月号の...