ラベル 欧州 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 欧州 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2022年11月26日土曜日

[EP]UIは技術的事項か(T0077/14)

 タッチスクリーン画像スクロールの特許についての2015年の審決である。特許で規定している動きは、審決が下記のようにまとめている。表中にlong touchとshort touchがあるが、long touchは、t1より長くt2より短い時間のタッチ、short touchは、t1より短いタッチである。


c 画面にタッチして指を移動し、離す動き → スクロール開始
d,f スクロール開始後に画面タッチまたはスクロール停止 → スクロール停止
e スクロール開始後にタッチなし → 徐々に減速
g 画面にタッチし、動きがありから動きなしとなり指を離す → 待機
h 画面にタッチし、動きなく指を離す → アイテムの選択

 最も近い先行文献D7には、構成d~fが開示されている。

 原審では、「特徴的な機能は、相乗的な技術的効果をもたらすものではなく、本発明にとって不可欠な実際のデータスクロールの手順そのものに関するものではなく、むしろ、「ある方向と速度でデータスクロールするコマンドとスクロールを停止するコマンドを起動するという『意味を帰属』させる(マッピング)ためのジェスチャーの選択」という問題に関するものである。」とし、相違点に係る構成は、技術的ではないと判断された。

 審決は、次のように、客観的技術的課題を認定した。

「特に最も重要なことは、タッチスクリーン装置の3つの異なるスクロール関連機能、すなわちスクロールの開始(特徴cに関連)、スクロールの中断(特徴gによる「待機」状態に対応)、データアイテムの選択(特徴hに関連)を実装レベルで適切に認識し区別することを実際に可能にすることである。) これは、特に、異なる時間間隔(すなわち、独立請求項の特徴cおよびgに関するt1<Δt<t2または特徴h)に関するΔt<t2)の観点から、タッチ接触持続時間を含む物理パラメータを追加することによって達成される。・・・審判部は、それによって、明確な順序(シーケンスセンシティブ)タッチイベントの数および実現可能なジェスチャーベースの機能の数を大幅に拡張することができると考える。」

「以上のことから、本独立請求項1及び10が解決しようとする客観的技術課題は、"D7に示されるようなタッチパネル装置におけるスクロールベースのデータリスト検索の文脈において、認識可能なジェスチャーベースの機能の数をいかに拡張するか "として定式化することが可能である。」
 
 その上で、時間に関する閾値を検出する実装することは自明であるとしつつも、それだけでは、D7から対象発明に想到しないと判断した。

「むしろ、特徴cによるジェスチャーに基づくスクロールの開始を定義し適用するための所定の時間間隔の追加の検出、および特徴gとhによるスクロール操作に直接または間接的に関連する追加のジェスチャーと機能のマッピングを実際に組み込むことは、異なるジェスチャーとその結果の機能の間の単なる差別化を概念的なレベルで可能にすることを超えていると判断する。
 特に、D7とD5には、検出可能なタッチイベントの組み合わせの数、つまり実現可能なジェスチャーベースの出力機能の幅を著しく拡大するような明確な奨励は一切ない。また、すでに関与している物理的なタッチ検出パラメータに加え、明確なタッチ持続時間間隔を活用するための指針もない。このことは、D10で定義された標準化されたユーザビリティ原則に照らしても同様である。検出すべき物理パラメータの数を拡張することによって生じる実装の複雑さ及び困難さ(例えば、ジェスチャー認識速度、衝突解決、較正、ノイズ耐性に関する)の増加を考慮すると、特にD7の出版時(すなわち1998年)には、当業者はむしろ請求された解決策から遠ざかるだろうと審判部は考える。したがって、D7から出発し、請求項1に対する補正を考慮すると、その特徴的な機能は、タッチスクリーンインターフェース設計の分野の当業者が、状況に応じて、本願発明の後知恵の恩恵を受けずに、本願優先日において必然的に選択するであろう直接的な実施策とは考えられない。」

[コメント]
 本件発明は、タッチ画面のスクロールに関して、この場合はスクロール開始、この場合はスクロール停止ということを規定しているにすぎないので、技術的ではないという気がするが、最も近い先行文献D7との差分として、タッチしている時間間隔というファクターが入っているので、その部分を技術的事項として拾い上げた事例と整理することができる。ここを技術的事項と捉えることができるように技術的課題を設定しているような印象はある。
 なお、審決の最後のところ、阻害事由を述べているが、この基準が本願優先日ではなく先行文献D7の出版時であるところは、これで合っているのだろうか?

2022年11月10日木曜日

「欧州におけるコンピュータ実装発明」(パテント2021年2月号より)

 欧州におけるコンピュータ実装発明(CII)の特許適格性や進歩性についての論文である。特許適格性のハードルが非常に低いことや、技術的特徴と非技術的特徴の両方を含む混合型クレームの判断の仕方については、おなじみの話のように感じた。
 
 個人的には、この論文での学びは、進歩性をクリアするためには、非技術的な課題を明細書に書くべきではないということであった。そのこころは、「明細書が技術的効果と非技術的効果を潜在的に進歩性を備える構成に関連付けている場合、非技術的効果はこの潜在的に進歩性を備える構成を非技術的にする。簡単に言えば、非技術的効果は技術的効果を打ち負かす。」ということである。
 どうしても非技術的効果に言及したい場合には、出願の全体的な背景に関連させて非技術的効果について漠然と言及する、あるいは、進歩性の議論に用いることができない既知の構成に関連させて非技術的効果に言及する、ということが考えられるそうである。
 
 ソフトウェア関連発明の場合、最終的には、非技術的効果を狙ったものも多く、日本の明細書では、普通に効果として記載しているように思う。しかし、欧州では、それを正直に書いてしまうと厳しいようなので、欧州向けには明細書を変える必要があるのかもしれない。
 
 

 

2022年8月23日火曜日

[EP]ゲームルールか技術的事項かPart4(T0060/98)

 Gameaccount(T1543/06)の中で、進歩性が認められた例として引用された審決である。対象は、スロットマシンに係る発明で、特徴は、シンボルが揃ったときの当選価値の判断の仕方にある。(下の図は、基礎出願より抜粋)

  


 具体的には、シンボルは代替可能なシンボル(いわゆるワイルドシンボル)を含んでいる。上の図では、「Angel」「Devil」は、ほかのシンボルの代替として使用でき、例えば、「7-Bar」「7-Bar」「Angel」というシンボルが並べば、「7-Bar」「7-Bar」「7-Bar」の当選とみなされる。
 ここで、「Angel」はランクアップシンボル、「Devil」はランクダウンシンボルである。「Angel」を1つ含む場合は、例えば、「7-Bar」「7-Bar」「7-Bar」よりも1ランクアップの「Devil」「Devil」「Devil」と同じ当選価値となり、「Angel」を2つ含む場合は、「7-Bar」「7-Bar」「7-Bar」よりも2ランクアップの「Angel」「Angel」「Angel」と同じ当選価値となる。

 クレームは以下のとおりである。
「当選ライン(A,B,C)に沿って停止表示される複数のキャラクタを備え、前記キャラクタは、異なるキャラクタとして使用可能な少なくとも1つの置換可能キャラクタを含み、前記置換可能キャラクタの置換により、前記当選ラインに沿って停止表示されるキャラクタの組み合わせを前記置換可能キャラクタを含まない同等の当選組み合わせの当選価値と異なる当選組み合わせとし得るゲーム機であって
 前記当選ライン(A、B、C)に沿って停止した前記キャラクタの組合せを当選テーブルと比較して、当選の有無を判定するステップと 
 前記当選テーブルが、異なるキャラクタとして使用された場合に置換可能なキャラクタを含まないキャラクタの組合せをランク付けした値で構成されている点(上の右図)、及び、
 前記置換可能なキャラクタは、ランクアップ又はランクダウンのキャラクタであり、ランクアップのキャラクタを置換してキャラクタの組合せを入賞組合せとした場合、ランクアップのキャラクタを含まない同等の組合せよりも上位となり、これにより、上位の当選組合せに対して当選価値を増加させ、ランクダウンのキャラクタを置換してキャラクタの組合せを当選組合せとした場合、ランクダウンのキャラクタを含まない同等の組合せよりも下位となり、より低い当選組合せに対して当選価値を減少させる。」

 従来技術として、「ダブル」、「トリプル」、「+10」、「+20」などの代替可能なシンボルは知られていた。「ダブル」を含む場合には当選価値を2倍に、「+10」を含む場合には当選価値を+10する。
 しかし、これらは、当選テーブルにおいてランクアップ、ランクダウンをさせるものではない点が、本件発明と相違している。
 
 審判部は、上記の相違について、進歩性の評価は、非技術的ゲーム開発者から渡された非技術的概念に基づいてゲーム機の開発を任された技術専門家の立場から行わなければならず、ゲームのルールにある改善は進歩性に寄与しないと判断した。
 ただし、請求項の解決手段は、演算操作を省略できる程度にゲーム機を簡素化するものであるから、先行文献の教示と比較して技術的な改善をもたらすものであるとし、進歩性を認めた。

→進歩性あり

[コメント]
 整理が難しい事例である。
 当選テーブルを参照して当選価値を決定することはルールであって非技術的事項であるから進歩性には寄与しない。このルールが制約として与えられたときに開発者が何をするか、が進歩性の評価基準である。ここまでは審決もそう言っている。なお、このルールは、おそらくプレイヤも知っているものと思う。
 本発明は、与えられたゲームルールにしたがって実装しただけのような気がする。ゲームルールを実装した結果、演算操作が簡素になったというのは、与えられたゲームルールが簡素だったからではないのか?
 演算操作を省略できることがゲームルールの変更によるものであるとしても、ときに有効な主張になるのかもしれない。

[EP]ゲームのルールか技術的事項かPart3(T1543/06)

 先に紹介した2件の審決例を含む20件以上の審決で引用されている審決である。
 発明の内容は、ランダムに生成された数字に基づいて手が打たれるゲーム(例えば、双六)に関する。完全にランダムだと運ゲーであるが、この発明ではプレイヤスキルの要素を持たせるため、あらかじめ数字のシーケンスを与え、その中から、第1回目の動き、第2回目の動き、・・・を選択させる(一例として使った数字をシーケンスの中から削除していく)ようにした。
 請求項1は次のとおりである。

「1. ユーザーが手を打つ(makes move)ゲームまたは他のアプリケーションを実行するためのシステムであって、該システムは、
 プロセッサと
 インジケータを表示するためのモニタであって、該インジケータは複数の数字を表示する、モニタとを備え、プロセッサは以下のように構成される:
 入力デバイスからのユーザー入力に従って、1または複数の数字に対応するゲーム内のポジションの数だけ駒を進めること、
 前記インジケータを所定の回数だけ作動させて、前記複数の移動番号の第1のシーケンスを決定するように、前記インジケータを制御すること、および
 前記前進は、前記第1のシーケンスの第1の手番に対応する数の位置だけ前進することと、前記シーケンスの第2の手番に対応する数の位置だけ前進すること。」

[出願人の主張]
 本発明の貢献は、固定またはスクロールされた数字のセットを提示するインジケータによるグラフィカルユーザーインターフェースの提供に存在し、これは、ゲームを行うプロセスの効率に影響を与え、また、ゲームにある程度のスキル、予測性、洗練性、興味を付加する効果を有する。

[審判部の判断] →進歩性なし
「本発明の中心的な考え方は、ゲームプレイにおいて手番を生成し使用する方法、すなわちプレーヤに事前に提供されるグループに関するものである。これは、例えば、ゲームに付属するゲームルールのシート(「各プレイヤーは6個のサイコロを投げ、順番に、すべての番号がなくなるまで、サイコロの目の数だけ自分の駒を動かす」)に記載されているように、実際には(ボード)ゲームをプレイする典型的な指示として読むことができる。」

 審判部はまず本発明の中心的な考え方がゲームルールのシートに記載されている指示と同視できるものであるとした。そして、物理的手段であるプロセッサは、ゲームルールを実行するだけであると判断した。

「また、ゲーム規則と技術的実装の間には識別可能な相乗効果も存在しない。特許請求の範囲(および明細書)には、プロセッサがこれらの機能を実行するために具体的にどのように構成されるか、または、モニタがどのように指標を表示するかについての詳細は記載されていない。被告が「ゲームをプレイするプロセスの効率に影響を与え、さらに熟練度、予測可能性、洗練度、興味を付加する」と特定した効果は、ゲームの非技術的領域で重要となり得るゲームの関心事と要因に完全に関連しており、いずれにしてもルールの中心概念から流れているものである。これらは、モニターに固定された、あるいはスクロールされた一連の数字を表示した結果ではない。」

 クレームは、プロセッサの構成をゲームのルールにしたがった実行内容を特定する形で発明を規定しているが、本質は、ゲームルールのシートに記載された指示と同じであり、効果もゲームルール自体によって生み出されるものである。
 ゲームルールのシートに記載されているような内容は、当然、プレイヤが知っているから、本件についても、“クレームで特定されたルールをプレイヤが知っているかどうか”という判断基準があてはまると言える。


 

2022年8月19日金曜日

[EP]ゲームのルールか技術的事項かPart2(T0414/12)

 ダイス、トランプ、スロットマシーンリール等の模擬ランダム化装置を含む電子ゲームの発明についての審決である。特徴は、複数のスポーツイベントから選択されたスポーツイベントの1つ以上の結果に基づいて、ベットの結果を決定することにある。
 クレームから、プロセッサ手段の特徴を記載すると以下のとおりである。

(a)前記ベットを受信したことに応答して、受信したスポーツイベント情報に基づいて、複数のスポーツイベントからスポーツイベントを選択する1つ又は複数のアルゴリズムを実行する
(b)選択されたスポーツイベントにベットを割り当てる
(c) 選択されたスポーツイベントの1つ以上のイベント結果を受信する
(d) 前記少なくとも1つの入力値を、前記受け取ったイベント結果に基づいて少なくとも部分的に決定し、ベットの結果が少なくとも部分的には前記選択されたスポーツイベントの受信されたイベント結果に基づくようにする
(e)前記メモリ手段(52)は、前記ゲームのためのルールを決定する入力値の複数のセットを記憶するために動作可能であり、かつ
(f)前記プロセッサ手段(50)は、前記複数の入力値決定規則のセットを選択し、前記選択された規則のセットを利用することによって、前記1つまたは複数の入力値を決定するために動作可能である。

(最も近い先行資料との相違)
 ゲームの「チャンス」入力値を生成する「模擬ランダム化装置」としての乱数発生器を用いてベッティングゲームを行うよう動作可能なメモリ手段とプロセッサ手段とを含む公知の電子ゲーム装置が、最も近い先行技術として考えられることは議論の余地がないところである。当業者、すなわち、ソフトウェア工学の技術を有するゲームシステム開発者にとって、このような著名な装置は、発明のステップを評価するための良い出発点となるものである。
 このような著名な先行技術のシステムに関して、請求項1のシステムは、模擬乱数化装置の値を決定する方法のみが異なる。これは請求項の特徴である特徴(a)~(f)に定義されている。

(本発明の本質)
 プレイヤは「ゲーム結果が固定されていないこと、ゲームに勝つチャンスがあること」(7 ページ 27 行目から 28 行目)を知ることができる。このように、プレイヤは単に偶然のゲームに賭けているのではなく、表面上は偶然のゲームであるものを仲介して、スポーツイベントの結果に賭けているのである。重要なのは、プレイヤはそれを承知の上で行っていることである。このことから、審判部は、請求項に係る発明の基本的な核心思想は、実際には、スポーツイベントへの賭けとチャンスゲームを組み合わせた、いわば賭博場とゲームカジノを一緒にした新しいハイブリッドベッティング方式であると結論付けている。

(進歩性) →進歩性なし
 請求項1の特徴(a)~(f)は、それぞれベッティングスキームの異なる側面の明白な実装であり、当業者が著名な電子ゲーム装置でスキーム全体を実施すれば、すべて明白な態様に従うことになる。
 本発明では、スポーツイベントの結果に対してベットを行うので、改ざんの影響を受けにくいという効果があるが、これは、ゲームルールの特定の実装方法から生じる技術的効果ではなく、むしろベッティングゲームが変更されたことの直接的な結果である。非技術的なソリューションにすぎない。

 前述した任天堂のケース(T12/08)との違いは、プレイヤがルールを知っているかどうかということである。任天堂のケースでは出現確率のアルゴリズムを知らないのに対し、本件ではスポーツイベントの結果に依存することを知っている。そこが、非技術的なゲームのルールかどうかの判断の分かれ目になっている。

 

[EP]ゲームのルールか技術的事項か(T12/08)

 ガイドラインで引用されている2009年の審決である。対象は、ポケモンGOに関係する任天堂の出願である。発明のポイントは、キャラクタをマップ上に出現させるか否かの確率を時間に依存して変化させる構成にある。
 キャラクタの出現確率を時間依存にすることは、ゲームのルールなのか、技術的事項なのか。

 EPにおいて、技術的事項と非技術的事項とを含む発明の進歩性判断は、非技術的事項についてはそれがいくら画期的であっても、非技術的事項は、制約条件として設定し、その制約条件を満たすために技術的事項として何をしたか、が問題となる。
 例えば、ショッピングツアーを提供する発明の例(2022/4/7投稿)では、2つ以上の商品を選択したときに最適なショッピングツアーを提供することは非技術的事項であり、2つの商品を購入する最適ルートを提供するという仕様(=制約条件)がビジネス部門から与えられたとき、技術的にそれを実現することが自明であったかどうかが問題となった。
 
 キャラクタの登場確率を時間依存で変える、ということはゲームルールであって、非技術的なのであろうか?
 審判部の判断はNOであり、技術的事項であるとの判断であった。その理由を見ていきたい。

→進歩性あり

「出現確率を時間依存にするこれらの相違は、機械が生成する偶然の出会いの予測可能性を低下させる効果がある(提出された説明の 5 ページ 23 行から 6 ページ 22 行を参照のこと)。この効果は、ゲーム文脈の中でプレーヤの興味を引き、その娯楽価値を高めるのに役立つ偶然の出会いそれ自体の一般的な(非技術的な)目的を超えるものである。異なる特徴によって対処される問題は、それに応じて、より予測しにくい方法で出会いを生成するように、ゲーム装置またはゲームプログラムをどのように修正するかとして定式化することができる。

 制約条件は、より予測しにくい方法で出会いを生成する、である。そして、制約条件を満たすために出現確率を時間依存にすることは技術的事項である。

 ゲームルールについて以下のように述べている(翻訳がやや変かもしれない)。
「「ゲームルール」は、一般に受け入れられているより古典的な意味(EPC 策定時に策定者が理解したであろう意味)で、「ゲームの文脈(そのようなものとして)でのみ意味を持つ行為、慣習、条件に関してプレイヤ間(またはプレイヤとの間)で合意された規制の枠組みが純粋に精神的、抽象的な構成要素であること」の一部を形成する、と審判部は解釈している(T336/07, 理由3.3.1 参照)。」

 ゲームルールは、ゲームの枠組みの中で、プレイヤ間またはプレイヤと合意されるものである。これに対して、出現確率を時間依存にすることはプレイヤに同意されるものではあり得ない(これを同意してしまっては、出現確率がバレてしまう)。よって、ゲームのルールではないと述べている。
 また、わかりやすいアナロジーとして次の例を挙げている。
「類似の例として、サイコロを振ることはそれ自体ゲームルールではなく、(よく知られているとしても)数字をランダムに発生させる技術的な方法と手段(サイコロ)であり、ヘビとはしごゲームでサイコロで出た目によってボード上の駒を動かすことは明らかにゲームルールに対応するものである。」

 この審決からすると、ゲームルールかどうかを見分ける一つの判断材料としては、それが、ゲームの枠組みの中でプレイヤと合意されるものであるかどうか、ということである。




 
 

 
 

2022年7月14日木曜日

[EP]ゲームについての進歩性判断[T0928/03]

 古い審決であるが、審査ガイドラインでも言及されている重要な審決である。

(概要)
 出願人はコナミで、ゲームでアクティブプレイヤキャラクタを表示する技術に関する。まずは、基礎出願の記載を参照して発明の概要について説明する。
 遊技者が操作するプレイヤは、ボールを支配するプレイヤP1で、その識別を容易にするべく、CPU1は、ボールをキープしているプレイヤP1を監視し、特定する監視機能と、このプレイヤP1の足元のフィールド面にリング状のガイドG1を表示するガイド表示機能と、プレイヤP1の進行方向、乃至は足元に対するボールの方向に向けられる矢印で示すガイドG2を、ガイドG1とは異なる色で表示する方向ガイド表示機能とを備えて、方向の容易な認識を可能にしている。
 側近の味方のプレイヤP2、すなわち、基本的には、パスが可能なプレイヤP2には足元から4方向に放射状に延びるガイドG3が、CPU1の持つ第2のガイド表示機能によって、ガイドG1と同色で表示さ れている。この第2のガイド表示機能は、更に、プレイヤP2が画面から外れて、ガイドG3が見えなくなった場合にも、その方向に沿った画面の端に、その一部を表示させるようにして、プレーヤP1のパスすべき方向を 好適に案内するようになされている。 


まとめると、プレイヤキャラクタに表示されるガイドは、以下のとおりである。。
・ガイドG1(環状)・・プレーヤP1(操作対象)の足元
・ガイドG2(矢印)・・プレーヤP1の進行方向
・ガイドG3(放射状)・・側近の味方プレーヤP2の足元
 ※ガイドG3は、プレーヤP2が画面から外れても画面の端に一部を表示

(請求項)
1. モニター画面(13)に表示された複数のプレイヤキャラクタ(P1、P2、P3)をそれぞれ有する数チームが単一のゲーム媒体(b)で互いに競争するタイプのビデオゲームシステムで使用するための案内表示装置であって、前記チームの少なくとも1つがコントローラ(8)を介してゲームプレイヤの制御下にある前記案内表示装置であって、
 前記ゲーム媒体(b)を保持するプレイヤキャラクタ(P1)を特定するための監視手段と、
 前記監視手段により特定されたプレイヤキャラクタ(P1,P2,P3)に付随し、前記監視手段により特定されたプレイヤキャラクタ(P1)により前記ゲーム媒体(b)が保持されていることを示すガイドマーク(G1,G2)を表示するガイド表示手段と、を備え、
 [a]前記ガイドマーク(G1,G2)は、リング状であり、前記プレイヤキャラクタ(P1,P2,P3)の周囲のフィールド面(f)の画像上で、前記プレイヤキャラクタ(P1,P2,P3)の足付近の位置で表示され、
 [b]前記ガイド表示手段は、前記ゲーム媒体(b)を保持している前記プレイヤキャラクタ(P1)と同じチームに所属し、前記ゲーム媒体(b)を保持している前記プレイヤキャラクタ(P1)から最も容易に前記ゲーム媒体(b)を渡すことができる他のプレイヤキャラクタ(P2)に付随するパスガイドマーク(G3)をさらに表示し、
 [c] 前記ガイド表示手段は、前記プレイヤキャラクタ(P1)が前記ゲーム媒体(b)を渡す方向を適切に示すために、前記別のプレイヤキャラクタ(P2)と前記パスガイドマーク(G3)が前記モニタ画面の表示領域から出たときにも前記表示領域の端部に前記パスガイドマーク(G3)の一部が表示されるように前記別のプレイヤキャラクタ(P2)に同行して前記パスガイドマークを表示することを特徴とする、方法。

(主引例)
主引例には、プレイヤキャラクタの頭上に、どのプレイヤがボールのコントロールを獲得したかを示す三角形のコントロールマーク「m」が示されている。

(審判部の判断要旨)
 以下の説明で、ユーザによって制御されるプレイヤキャラクタをアクティブプレイヤキャラクタという。
 主引例は、請求項の構成[a]~[c]を開示していない。

[a]リング状のガイドマークをアクティブプレイヤキャラクタの足元に表示する構成について
 主引例のガイドマークmが他のプレイヤキャラクタによって隠ぺいされる問題は、必然的に発生するものであり、自明である。ガイドマークの視認性を維持するためにサイズを大きくすることは当然であり、特徴[a]による技術的貢献は進歩性を伴うものではない。

[b]アクティブプレイヤ(第1の関心点)に加え、パスを最も渡しやすい他のプレイヤキャラクタ(第2の関心点)にパスガイドマークを表示する構成
 サッカーのようなチームゲームをプレイするルールに鑑みると、明白な追加的関心点は、達成すべきゲームおよび目標の枠組みにおいてアクティブプレイヤキャラクタが最も容易にボールをパスすることができるチームメイトである。様々な注目点が選手のキャラクタを表していることは、ゲームの非技術的なルールに起因するものであり、したがって、非自明性の認定を裏付けることはできない。

[c]上記他のプレイヤキャラクタとパスガイドマークが画面の外に外れたときに、パスガイドマークの一部を画面の端に表示する構成
 チームメイトの位置をユーザーが知るべきであるという事実は、ゲームルールの直接的な帰結とみなすことができるが、そのような位置をどのように知らせるかという技術的実現は、ゲームルールとは関係がない。
 構成[c]による技術的貢献は、画像の拡大部分(ユーザーがズームした可能性がある)を表示することと、表示領域より大きい関心領域の概観を維持することの相反する技術的要件に対処するものである。
 相反するディスプレイ要件を処理する様々な妥協案が知られているが、本願の特徴[c]が提供する解決策は、モニタ画面の端部にある単純なガイドマーク(最小限の周辺ディスプレイ表面を占有する)の助けを借りてディスプレイ機能を拡大し、画像の拡大部分を見るときにユーザーが方向を知ることを可能にするものである。


(コメント)
 ゲームにはルールがある。この例のサッカーゲームでは、チームメイトでパスをし、ボールをゴールに運ぶのがルールである。このルール自体は非技術的な事項である。
 非技術的事項に着目したときに当業者ならだれでもやるようなこと、つまり、パスをしやすい他のプレイヤキャラクタにガイドマークを表示することは、非自明性の認定の裏付けにならない(構成[b])。
 他のプレイヤキャラクタが画面外に出てしまったときにパスコースを知らせたいという制約条件が与えられたときに、これをどうやって実現するかということにつき、工夫があれば、進歩性が認められる。本事案では、その工夫というのが、モニタ画面の端部にガイドマークの一部を表示することであった。
 
 この審決からの学びとしては、ゲームのルール自体は技術的貢献ではない。ゲームルールから導かれる直接的な技術的事項(目立たせるべきキャラクタにマークを付す)は非自明性の認定を裏付けない。ゲームルールによって与えられる制約条件を解決する技術的手段が自明ではなく、効果のある解決手段を提供した場合、非自明性を裏付けになる。


2022年4月18日月曜日

[EP]技術的特徴と非技術的特徴からなるクレーム (審査ガイドライン)例1~5まとめ

 例1~例5の概要は以下のとおり。

発明概要

判断

1

ユーザが購入したい2つ以上の商品を選択すると、ユーザの現在位置に基づき、商品を購入するのに最適なルートを提示する発明

ユーザに2つの商品を選択させ、その2つの商品を購入する最適ルートを提供するというビジネス上のアイデアは技術的課題を設定する際には、満たすべき制約として与えられる。

その制約を満たすために技術的に何をしたか、という問題になる。進歩性なし。

2

貨物輸送のオファーとデマンドをユーザの現在位置に基づいてマッチングする発明

請求項の構成要件において、技術的な構成要素が主体となっていないため、ビジネス方法と技術的特徴が分離された。GPS端末を使った受注管理という全く違う先行技術を元に進歩性なし。

3

放送メディアを送信する際に、データ接続の最大レートで伝送を行うのではなく、ユーザが契約したデータレートで伝送するシステムの発明

最大レートより低いデータレートで送信するのは、顧客がその価格モデルに従ってデータレートのサービスレベルを選択することを可能にするという商業目的である。技術的課題を設定する際に、制約として与えられる。進歩性なし。

4

赤外線カメラの画像に基づいて、建物内の結露のリスクのある領域をユーザに示す発明

先行技術との相違点は、赤外線カメラを使ったこと、過去の平均温度・湿度を用いて結露温度を計算したこと。

相違点は、技術的効果に貢献する。技術的課題は、表面上の結露のリスクをより正確かつ信頼性の高い方法で判断する方法である。進歩性あり。

5

被処理物をコーティングする方法に関し、溶射コーティングプロセスのパラメータを自動調整する発明

先行技術との相違点は、ニューラルネットワークかニューロファジーコントローラか。

相違点に起因する効果がなく、代替解決策の提供にすぎない。進歩性なし。


上記の例から分かる注意点としては、次のようになる。

・相違点が、ビジネス上のアイデア、商業目的をアルゴリズム化したもの。
 →例1,例3 ビジネスアイデアは要求仕様として与えられる。進歩性なしとなり勝ち。
 →例2 書き方が悪いと、技術的側面として残るのは、コンピュータやGPSだけ。

・相違点が、技術的効果に貢献する。→例4 進歩性ある可能性(副引例との関係)

・相違点に起因する技術的効果なし。→例5 進歩性なし。寄せ集め。


2022年4月14日木曜日

[EP]技術的特徴と非技術的特徴からなるクレーム (審査ガイドライン)例5

 例5は、被処理物をコーティングする方法に関し、溶射コーティングプロセスのパラメータを自動調整する発明である。

「請求項1
溶射法を用いて被処理物をコーティングする方法であって、該方法は、以下を含むことを特徴とする、溶射法:
(a)スプレージェットを用いて、溶射によってワークピースに材料を塗布する;
(b)溶射ジェット中の粒子の特性を検出し、その特性を実測値として供給することにより、溶射プロセスをリアルタイムで監視する;
(c)実測値と目標値を比較する;実測値が目標値から乖離している場合,
(d)溶射コーティングプロセスのプロセスパラメータをニューラルネットワークに基づくコントローラによって自動的に調整し、前記コントローラは、ニューラルネットワークとファジー論理ルールとを組み合わせ、それによってニューロファジーコントローラの入力変数と出力変数の間に統計的関係をマッピングするニューロファジーコントローラである。 」

 この発明に最も近い文献D1は、「溶射ジェットを用いてワークピースに材料を塗布し、前記溶射ジェット中の粒子の特性の偏差を検出し、ニューラルネットワーク解析の結果に基づいてプロセスパラメータを自動的に調整することによる溶射プロセスの制御方法を開示している。」
 例5の発明とD1との違いは、D1ではニューラルネットワークを用いているのに対し、例5の発明では、ニューラルネットワークとファジー論理ルールとを組み合わせたニューロファジーコントローラを用いる点である。

 人工知能に関連する計算モデルやアルゴリズムは、それ自体、抽象的な数学的性質を持っているが、相違点にかかる特徴は、技術的目的に資する技術的効果の発生に寄与し、それによって発明の技術的性質に貢献するから、進歩性の評価において考慮される。これは、例4の場合と同じである。

 課題ー解決アプローチの客観的な技術的課題、および自明性の判断は、次のとおり。

「ステップ(iii)(c):客観的な技術的課題は、客観的に立証された事実に基づき、請求項の技術的特徴に直接的かつ因果的に関連する技術的効果から導き出されるものでなければならない。
 本件では、溶射プロセスへの具体的な適応に関する詳細な説明もなく、ニューラルネットワーク解析とファジーロジックの結果を組み合わせてパラメータを算出するという事実だけでは、プロセスパラメータの異なる調整以上の技術的効果を信頼性高く保証することはできない。特に、請求項1の特徴の組合せにより、コーティング特性または溶射方法の品質が向上することを認める証拠は見いだせない。このような証拠がない場合、客観的な技術的課題は、D1において既に解決されている溶射プロセスを制御するプロセスパラメータの調整という問題に対する代替的な解決策を提供することである。

「自明性:D1の教示から出発し、上記の目的技術的課題を課された制御工学の分野の当業者(G-VII、3)は、プロセスの制御パラメータを決定するための代替的解決策を探すであろう。
 第2の先行技術文献D2は、制御工学の技術分野において、ニューロ・ファジー制御器を提供するニューラルネットワークとファジー論理ルールの組み合わせを開示している。この先行技術から、本願の出願日において、ニューロファジーコントローラは、制御工学の分野でよく知られ、適用されていることが明らかになった。したがって、本解決は自明な代替案であると考えられ、請求項1の主題は進歩性がない。」

 相違点にかかるニューロファジーコントローラは公知技術であり、例5では、ニューラルネットワークに代えて、単にニューロファジーコントローラを使ったというだけであり、進歩性が認められないのは、至極当たり前に思われる。なぜなら、溶射コーティングプロセスのパラメータを自動調整にニューロファジーコントローラを用いたことによる技術的効果がなければ、公知技術の寄せ集めにすぎないので。
 
 ところで、この例における客観的な技術的課題を「代替的な解決策を提供すること」としているのは、進歩性なしという結論に結び付ける、うまい問題設定だと思った。
 例4では、「表面上の結露のリスクをより正確かつ信頼性の高い方法で判断する方法」という定式化を行っており、単に代替策ということではなく、正確かつ信頼性の高いというところまで技術的課題と設定しているため、この技術的課題の技術的解決を示唆する他の先行技術がなければ進歩性ありという結論になる。一方、例5では「代替的な解決策」を技術的課題としているため、ニューロファジーコントローラが知られていれば進歩性が否定されるという寸法である。
 公知技術を適用しただけで特段の効果が見えなければ、それは寄せ集めにすぎず進歩性なしという結論は普通だと思っていたので、そこまで分析的に考えたことはなかったが、客観的な技術的課題という考え方を介在させるとすれば、そういう課題(代替的な解決策の提供)を設定することになるのだろう。

[EP]技術的特徴と非技術的特徴からなるクレーム (審査ガイドライン)例4

  例4は、赤外線カメラの画像に基づいて、建物内の結露のリスクのある領域をユーザに示す発明である。例1~例3はいずれも進歩性のない事例であったが、この例は進歩性がある事例である。

「請求項1
建物内の表面について結露のリスクが高まっている領域を決定するコンピュータ実装方法であって、以下のステップを含む、コンピュータ実装方法:
(a)赤外線(IR)カメラを制御して、表面の温度分布の画像を撮影するステップ;
(b)過去24時間に渡って建物内で測定された空気温度および相対空気湿度の平均値を受け取るステップ;
(c)前記平均空気温度及び平均相対空気湿度に基づいて、前記表面に結露する危険性がある結露温度を計算するステップ;
(d)画像上の各点における温度を、前記算出された結露温度と比較するステップ;
(e)計算された結露温度より低い温度を有する画像ポイントを、表面上の結露のリスクが増大した領域として特定するステップ;
(f)ステップ(e)で特定された画像ポイントを特定の色で着色することによって画像を修正し、結露のリスクが高まっている領域をユーザに示すステップ。」

 ステップ(a)は明らかに技術的であるが、数学的なステップであるステップ(b)~(e)が技術的か否かが、最初に検討されている。

「したがって、アルゴリズムや数学的なステップ、および情報の提示に関するステップが、発明の文脈において、技術的効果の発生に寄与し、それによって発明の技術的性質に貢献するかどうかを評価する必要がある。
 上記のアルゴリズムおよび数学的ステップ(b)~(e)は、物理的特性の測定値(IR画像、測定された空気温度および時間経過による相対空気湿度)から、存在する現実の物体(表面)の物理的状態(結露)を予測するために使用されるので、技術的目的に役立つ技術的効果に貢献するものである。これは,表面上の結露のリスクに関する出力情報をどのように使用するかに関係なく適用される(G-II, 3.3,特に小項目 "技術的用途 "を参照されたい)。したがって、ステップ(b)~(e)は発明の技術的性質にも寄与する。」

 物理的な測定値から物理的状態を予測しているので、技術的効果に貢献し、技術的性質に寄与する。

ーーー
 例4の発明に最も近い先行技術は、次の文献D1である。
「文献D1には、表面に結露が生じる危険性を判断するために、表面を監視する方法が開示されている。結露のリスクは、表面上の1点についてIRパイロメータを介して得られた温度測定値と、実際の周囲空気温度および相対空気湿度に基づいて計算された結露温度との差に基づいて決定される。そして、その差の数値を、当該地点の結露の可能性を示す指標としてユーザーに提示する。」

 請求項1の主題とD1との相違点は、以下の通りである。
「(1)赤外線カメラが使用されている(表面の1点の温度しかとらえないD1の赤外線パイロメーターの代わりに);
(2)過去24時間に渡って建物内部で測定された空気温度と相対空気湿度の平均値を受信し;
(3)平均気温と平均相対湿度に基づいて結露温度を計算し、表面のIR画像上の各点の温度と比較する;
(4)計算された結露温度より低い温度を持つ画像点を、表面上の結露のリスクが高い領域として識別する;
(5)結露の危険性が高い箇所を色で表示する。

 以上のように、(1)~(4)の特徴は、クレーム対象の技術的性質に貢献するものであり、技術的課題の設定に際して考慮されるべきものである。これらの特徴は、(一点ではなく)すべての表面領域を考慮し、日中の温度変化を考慮する結果、結露の危険性についてより正確で信頼性の高い予測を行うという技術的効果をもたらす。」

 その一方で、(5)の特徴は、利用者の主観的選好に依存するので、技術的効果をもたらさないとされた。

 上記の分析から、課題-解決アプローチによって客観的な技術的課題は、「表面上の結露のリスクをより正確かつ信頼性の高い方法で判断する方法」と定式化された。

ーーー
「自明性 :表面上の温度測定値を得るために赤外線カメラを使用することは、発明行為を行うことなく、サーモグラフィの分野における通常の技術開発であると考えることができる。IR カメラは、本件の有効な出願日において周知であった。IRカメラを使用することは、当業者が表面の温度分布を得るために、IRパイロメータを使用して監視対象表面の複数の点の温度を測定することに代わる、簡単な方法である。
 しかしながら、D1は、表面上の温度分布を考慮し(単一点での温度とは対照的に)、空気温度の平均値を計算し、過去24時間にわたって建物内で測定された相対空気湿度を考慮に入れることを示唆していない。また、結露のリスクを予測するために、時間の経過とともに建物内部で現実的に発生する可能性のある異なる条件を考慮することを示唆するものでもない。
 特徴(1)〜(4)によって定義される客観的な技術的課題の技術的解決を示唆する他の先行技術がないと仮定すると、請求項1の主題は進歩性を有する。」

 上に下線を引いたところは、例1と対比して非常に異なる部分である。例1を振り返ってみると、
(1)ユーザは、(単一商品のみではなく)2つ以上の商品を選択して購入することができる。
(2)2つ以上の製品を購入するための「最適なショッピングツアー」がユーザーに提供される。
という2つの相違点は、客観的な技術的課題を把握する際に、満たすべき制約として組み込まれてしまっていた。
 これに対し、例4では、特徴(1)〜(4)は、客観的な技術的課題として評価されている。
 この違いは、例4においては、数学的なステップであるステップ(b)~(e)が「技術的目的に役立つ技術的効果に貢献するものである。」ためと考えられる。例1では、相違点(1)(2)は、「技術的な目的はなく、これらの相違点から技術的な効果を見出すことはできない。」と判断されていた。
 つまり、相違点にかかるアルゴリズムが「技術的目的に役立つ技術的効果に貢献するか」という点がポイントだと思う。

 この点について、ガイドラインの備考も次のように記載している。

「備考 :この例は、G-VII,5.4第2段落で扱った状況を示している。すなわち、単独では非技術的であるが、請求項に係る発明の文脈において、技術的目的に資する技術的効果の発生に貢献する特徴(アルゴリズム/数学的ステップである特徴(b)〜(e))である。当該特徴は、発明の技術的性質に貢献するものであるため、進歩性の存在を裏付けることができる。」

2022年4月11日月曜日

[EP]技術的特徴と非技術的特徴からなるクレーム (審査ガイドライン)例3

 例3は、放送メディアを送信する際に、データ接続の最大レートで伝送を行うのではなく、ユーザが契約したデータレートで伝送するシステムの発明である。

「請求項1 
 データ接続を介して遠隔端末に放送メディアチャンネルを送信するためのシステムであって、前記システムは以下を含む:
(a)遠隔端末の識別子と、前記遠隔端末へのデータ接続の利用可能なデータレートの表示とを記憶する手段であって、前記利用可能なデータレートは、前記遠隔端末へのデータ接続の最大データレートよりも低いことを特徴とする記憶手段;
(b)前記データ接続の利用可能なデータレートの表示に基づいて、データを送信するレートを決定する手段;
(c)前記決定されたレートで前記遠隔端末にデータを送信する手段。」

 最も近い先行文献D1は、加入者のセットトップボックスにxDSL接続でビデオを放送するシステムを開示しており、このシステムは、コンピュータ用に記憶された最大データ速度で加入者のコンピュータにビデオを送信する。

 容易に分かるように、相違点は次のとおりである。
「ステップ(iii):請求項1記載の主題とD1との相違点は、以下の通りである:
(1) 遠隔端末へのデータ接続の利用可能なデータレートの表示を記憶し、前記利用可能なデータレートは、遠隔端末へのデータ接続の最大データレートより低いこと;
(2) 前記利用可能データレートを使用して、前記遠隔端末にデータを送信するレートを決定する(D1のように前記遠隔端末に対して記憶された最大データレートでデータを送信するのではない)。」

 課題ー解決アプローチでは、客観的な技術的課題に基づき、上記の相違点は次のように定式化される。

「遠隔端末へのデータ接続のために最大データレートより低い「利用可能なデータレート」を使用することによって果たされる目的は、請求項からは明らかではない。したがって、明細書の関連する開示内容が考慮される。本明細書では、顧客が複数のサービスレベルから選択することを可能にする価格モデルが提供され、各サービスレベルは、異なる価格を有する利用可能なデータレートのオプションに対応すると説明されている。ユーザは、支払額を少なくするために、接続可能な最大データレートよりも低い利用可能データレートを選択することができる。したがって、遠隔端末への接続に最大データレートより低い利用可能なデータレートを使用することは、顧客がその価格モデルに従ってデータレートのサービスレベルを選択することを可能にするという目的に対応している。これは技術的な目的ではなく、財政的、管理的又は商業的な性質の目的であるため、第52条(2)(c)のビジネスを行うためのスキーム、規則及び方法の除外に該当する。 したがって、満たすべき制約として、客観的な技術的課題の定式化に含まれる可能性がある。

 利用可能なデータ速度を記憶し、データ送信速度を決定するためにそれを使用する機能は、この非技術的な目的を実施するという技術的効果を有する。」

 データ伝送に際して、最大データレートではなく、敢えて低いデータレートでの伝送を可能にするのは面白い考え方と思うが、これは商業的な目的であるため、このような考え方は評価の特許性の評価対象とはならない。評価の対象となるのは、次の事項である。

「ステップ(iii)(c):したがって、客観的な技術的課題は、顧客がデータレートのサービスレベルを選択することを可能にする価格モデルをD1のシステムにどのように実装するかということに定式化される。

自明性:この価格設定モデルに従ってデータ・レート・サービス・レベルの選択を実施するという課題を考えると、加入者が購入したデータ・レート(すなわち請求項1の「利用可能データ・レート」)、これは加入者のコンピュータ(すなわち請求項1の「遠隔端末」)へのデータ接続の最大データ・レートより低いか等しくしかあり得ない、を各加入者について記憶し、加入者にデータを送信するための速度をシステムで決定するために使用することは、当業者に明らかであるだろう。したがって、法52条(2)及び56条の意味における発明的進歩は含まれない。」

 上記のように、サービスレベルを選択可能な価格モデルの技術的な実装部分のみが相違点として評価される。
 サービスレベルを選択可能にしようとするならば(=与えられた制約を満たすためには)、最大データ・レートより低くするしかあり得ない、という理由で、文献D1から自明であると判断されてしまった。
 
 請求項と文献D1との相違点は、最大レートでデータ伝送するか否かである。
 日本の感覚では、最大レートでデータ伝送する文献D1から、低いレートでデータ伝送する構成とするのが容易かどうかということが問題になるので、それなりに有望な感じがする(少なくとも副引例は必須であろう)。しかし、課題ー解決アプローチにおける定式化では、データレートのサービスレベルを選択可能にするためには(商業目的を達成するためには)当業者ならどうしたか? という制約まで(日本流にいえば動機付けと言っても良いと思う)が定式化されてしまうので、簡単に自明という結論になってしまう。
 





2022年4月8日金曜日

[EP]技術的特徴と非技術的特徴からなるクレーム (審査ガイドライン)例2

 第2の例は、貨物輸送のオファーとデマンドをユーザの現在位置に基づいてマッチングするソフトウェア関連発明である。

「 請求項1 
貨物輸送の分野においてオファーと要求を仲介するためのコンピュータで実装された方法であって、以下のステップを含む、方法:
(a)位置及び時間データを含む、ユーザーからの輸送オファー/デマンドを受信するステップ;
(b)ユーザが装備しているGPS端末からユーザの現在位置情報を受信するステップ;
(c)新たなオファー/デマンド要求の受信後、新たな要求に応じることができるまだ満たされていない以前のオファー/デマンドがあるかどうかを確認するステップ;
(d)存在する場合、両ユーザの現在位置が最も近いものを選択するステップと
(e)そうでない場合、新しい要求を保存する。」

 課題ー解決アプローチのステップ(ⅰ)は、発明の技術的性質に貢献する特徴を発明の文脈で達成される技術的効果に基づいて決定することであった。
 例2においては、発明の技術的性質に貢献する特徴について次のように判断される。

「ステップ(i):請求項の方法の根底には、次のビジネス方法がある。
 貨物輸送の分野におけるオファーとデマンドを仲介する方法であって、以下を含む:
 位置と時間のデータを含む、ユーザーからの輸送のオファー/デマンドを受け取ること;
 利用者の現在位置に関する情報を受信するステップと 
 新しいオファー/デマンドの受信後、新しい要求に応じることができるまだ満たされていない以前のオファー/デマンドがあるかどうかを確認する;
 もしある場合、両ユーザーの現在位置が最も近いものを選択する;
 それ以外の場合は、新しいリクエストを保存する。

 このようなビジネス方法は、それ自体非技術的であり、法52条(2)(c)及び(3)の下で除外される。オファーとデマンドを仲介することは、典型的なビジネス活動である。利用者の地理的位置を利用することは、輸送仲介業者が、非技術的でビジネス上の考慮のみに基づくビジネス方法の一部として指定することができる種類の基準である。このビジネス方法は、発明の文脈ではいかなる技術的目的も果たさず、したがって、その技術的性質に貢献するものでもない。
 したがって、このビジネス方法の技術的実施に関連する特徴のみを、本発明の技術的性質に貢献する特徴として特定することができる。
 ビジネス方法ステップは、コンピュータによって実行される。
 GPS 端末から現在位置情報を受信する。

 上記のとおり、例2の発明の技術的特徴は、下線を引いた2点だけであり、ビジネス方法自体はすべて捨象されてしまった。
 その結果、サーバーコンピュータがGPS端末から位置情報を受信する受注管理方法を開示している文献D1に基づいて、「ビジネス方法ステップを実行するためにD1の方法を適応させることは、簡単であり、ルーチンのプログラミングのみを必要とする。したがって、法52条(1)及び56条にいう進歩性はない。」と一蹴されてしまうことになる。
 
 例1の携帯端末でのショッピングを容易にする方法と例2の貨物輸送のマッチングを行う方法は、いずれもソフトウェア関連発明であるが、例1はサーバーコンピュータと携帯端末からなる分散システムと判断されたのに対し、例2は本質的にビジネス方法というように判断が分かれた。
 これは、例2においては、各ステップの主体が特定されていないことが原因ではないかと思われる。ガイドラインの備考においても次のように述べている。

「備考:この例では、ステップ(i)の最初の分析から、クレームされた方法の根底には、オファーとデマンドを仲介する方法があり、それがビジネス方法であることは明らかであった。ビジネス方法を定義する特徴は、そのコンピュータによる実装の技術的特徴から容易に分離可能であった。

 日本では、各ステップの主体が特定されていないと、発明が明確でないとされ、記載要件違反となるが、欧州では進歩性の判断において技術的特徴から分離されて、簡単に進歩性を否定されてしまうことになる。

2022年4月7日木曜日

[EP]技術的特徴と非技術的特徴からなるクレーム (審査ガイドライン)例1

 第1の例は、ユーザが購入したい2つ以上の商品を選択すると、ユーザの現在位置に基づき、商品を購入するのに最適なルートを提示するソフトウェア関連発明である。

「請求項1 
携帯端末でのショッピングを容易にする方法であって 
(a)ユーザが購入したい商品を2つ以上選択するステップと
(b)前記携帯端末は、前記選択された商品データおよび前記端末の位置情報をサーバに送信し、
(c)サーバーは、業者のデータベースにアクセスし、選択された製品の少なくとも1つを提供する業者を特定し、
(d)サーバーは、端末の位置と特定された業者とに基づいて、以前のリクエストに対して決定された最適なショッピングツアーが格納されているキャッシュメモリにアクセスして、選択された商品を購入するための最適なショッピングツアーを決定し、
(e)前記サーバは、前記最適なショッピングツアーを前記携帯端末に送信して表示させる。」

 この発明に最も近い先行技術は、1つの商品を選択するとその商品を販売する業者の情報を提供する方法である。
「ユーザーが1つの商品を選択し、サーバーがデータベースからユーザーに最も近い選択された商品を販売している業者を決定し、この情報を携帯端末に送信する携帯端末でのショッピングを容易にする方法を開示している文献D1が最も近い先行技術として選択される。」

 この先行技術D1との相違点は、課題ー解決アプローチによって次のように特定される。
「ステップ(iii):請求項1の主題とD1との相違点は、以下の通りである。
(1)ユーザは、(単一商品のみではなく)2つ以上の商品を選択して購入することができる。
(2)2つ以上の製品を購入するための「最適なショッピングツアー」がユーザーに提供される。
(3)最適なショッピングツアーは、サーバーが、過去のリクエストに対して決定された最適なショッピングツアーが格納されているキャッシュメモリにアクセスして決定する。

 相違点(1)及び(2)は、その商品を売っているお店の順番を決めるという、ビジネスの基本的な考え方の変更である。技術的な目的はなく、これらの相違点から技術的な効果を見出すことはできない。したがって、これらの機能は D1 に対して技術的な貢献を構成しない。
 一方、相違点(3)は、相違点(1)及び(2)の技術的実現に関連するものであり、キャッシュメモリに格納された過去の要求にアクセスすることにより、最適な買い物ツアーを迅速に決定できるという技術的効果を有するので、技術的貢献をするものである。
 ステップ(iii)(c):客観的な技術課題は、当業者が技術分野の専門家としての立場から定式化するものである(G-VII,3)。このような者は、ビジネスに関する専門知識を有しているとは認められない。本件では、当業者は、解決すべき技術的課題の定式化の一環として、(要求仕様書という現実的な状況で)ビジネス関連の特徴(1)、(2)に関する知識を得る情報技術の専門家と定義することができる。このように、満たすべき制約として与えられる相違点 (1)及び (2) によって定義される非技術的なビジネス概念を、技術的に効率よく実現するために、D1 の方法をどのように変更するかということが、客観的な技術課題として定式化される。

 この例では、ユーザに2つの商品を選択させ、その2つの商品を購入する最適ルートを提供するというビジネス上のアイデアは、特許性の議論においては評価の対象外である。2つの商品を購入する最適ルートを提供するという仕様がビジネス部門から与えられたときに、文献D1の技術を変更して実現することが自明であったかどうかが問題となる。その結果、次のように判断されると説明されている。

「第2の文書D2は、訪問すべき場所のセットをリストアップして旅行計画を決定する旅行計画システムを開示し、この技術的問題に対処している:D2のシステムは、この目的のために、以前のクエリの結果を格納するキャッシュ・メモリにアクセスする。したがって、当業者は、D2の教示を考慮し、最適な買い物ツアーの決定の技術的に効率的な実施、すなわち相違点(3)を提供するように、D1のサーバをD2で提案されているようにキャッシュメモリにアクセスし使用するよう適合させたと考えられる。」

 日本の審査では、その2つの商品を購入する最適ルートを提供するというアイデアが新しければ、例えばD2の旅行計画をヒントにショッピングツアーに基づいて対象の発明に想到し得たかどうか、が進歩性判断の材料になるであろう。これは、実務上の大きな違いである。

2022年4月6日水曜日

[EP] 技術的特徴と非技術的特徴からなるクレーム (審査ガイドライン)

EPの審査ガイドラインは、技術的特徴と非技術的特徴からなるクレーム(以下「混合型発明」という)の進歩性の考え方について規定している。
PartG-Patentability/ Chapter VII-Inventive step/ 5.Problem-solution approach/ 5.4 Claims comprising technical and non-technical features 
(https://www.epo.org/law-practice/legal-texts/html/guidelines/e/g_vii_5_4.htm)

※翻訳は筆者による
「コンピュータで実装された発明によく見られるように、クレーム中に技術的特徴と非技術的特徴が混在することは適法である。非技術的特徴がクレームの主題の主要な部分を形成することさえある。しかし、法52条1項、2項、3項に照らすと、法56条の進歩性が存在するために、技術的課題に対する非自明な技術的解決策を必要とする(T 641/00, T 1784/06)。

 このような混合型発明の進歩性を評価する際には、発明の技術的性質に貢献するすべての特徴が考慮される。これらの特徴には、単独では非技術的であるが、発明の文脈上、技術的目的に資する技術的効果の発生に寄与し、それによって発明の技術的特徴に貢献する特徴も含まれる。しかし、発明の技術的性質に貢献しない特徴は、進歩性の存在を裏付けることはできない(「COMVIKアプローチ」、T 641/00, G 1/19) 。このような状況は、例えば、特徴が非技術的な課題の解決にのみ貢献する場合、例えば、特許性から除外される分野の課題の解決にのみ貢献する場合に生じ得る(G-II,3及びサブセクションを参照)。

 問題解決アプローチは、発明の技術的性質に寄与しない特徴に基づいて進歩性が認められることがないように、また、寄与するすべての特徴が適切に識別され、評価において考慮されるように、混合型発明に対して適用される。このため、クレームが非技術分野で達成されるべき目的に言及している場合、この目的は、解決すべき技術的課題の枠組みの一部として、特に満たされなければならない制約として、合法的に客観的な技術的課題の定式化に現れることができる(T 641/00;下記ステップ(iii)(c)及び G-VII, 5.4.1 を参照)。

 以下のステップは、COMVIKアプローチによる混合型発明への問題解決アプローチの適用を概説する。
(i)発明の技術的性質に貢献する特徴は、発明の文脈で達成される技術的効果に基づいて決定される(G-II,3.1~3.7参照)。
(ii)ステップ(i)で特定した発明の技術的性質に貢献する特徴に着目して、最も近い先行技術として適切な出発点を選択する(G-VII, 5.1参照)。
(iii)最も近い先行技術との相違点を特定する。これらの相違点から、技術的貢献をする特徴としない特徴を識別するために、請求項全体との関係において、これらの相違点の技術的効果が判断される。
 (a)相違点がない場合(非技術的な相違点もない場合)、法54条に基づく拒絶理由が提起される。
 (b)相違点に技術的な貢献がない場合、法 56条に基づく拒絶理由が提起される。拒絶理由は、先行技術に対する技術的貢献がない場合、請求項の主題は進歩性を有しない、というものである。
 (c)相違点に技術的貢献をする特徴が含まれる場合は、次のようになる。
 客観的な技術的課題は、これらの特徴によって達成される技術的効果に基づいて定式化される。さらに、相違点が技術的貢献のない特徴を含む場合、これらの特徴又は発明によって達成された非技術的効果は、当業者に「与えられた」ものの一部として、特に満たさなければならない制約として、客観的技術課題の定式化に用いることができる(G-VII, 5.4.1 参照)。
 客観的技術的課題に対するクレームされた技術的解決策が当業者にとって自明である場合、法56条の下での拒絶理由が提起される。」


 混合型発明に対する基本的な考え方は、「技術的性質に貢献しない特徴は、進歩性の存在を裏付けることができない」であり、進歩性の審査においては技術的側面だけが評価の対象となる。
 課題ー解決アプローチにおいて、最も近い先行技術との相違点に技術的貢献のない特徴を含む場合、その特徴と非技術的効果は、当業者に与えられる「満たさなければならない制約」として、客観的な技術的課題に組み込まれる。進歩性を判断するに際しては、要求仕様が「与えられた」当業者が、技術的課題を技術的に解決することが自明かどうかが判断の基準となる。
 したがって、非技術的な部分がいかに画期的でも、その画期的な部分は、客観的技術的課題として与えられてしまうため、その部分は何ら評価されない。このことは、ガイドラインが列挙している事例を見るといっそう理解できる(つづく)。



2021年6月23日水曜日

[EP]英国の標準必須特許訴訟最高裁判決 (知財管理より)

  知財管理2021年3月号に掲載されている石新智規先生の論説より、2020年8月26日に出された最高裁判決のポイントをメモしておく。以下、Unwired Planet International Ltd 他 v. Huawei Technology Co Ltd 他を「第1事件」、Huawei Technology Co Ltd, ZTE Corporation 他 v. Conversant Wireless Licensing SARLを「第2事件」という。

・英国の裁判所が英国特許だけでなく、グローバルライセンスをFRANDとしてその内容を判断することは許される(第1事件)。
・・特許権は属地主義であり、侵害判断は各国が行うが、FRAND条件はETSIのIPRポリシーに基づき、特許ファミリー全体に効果を持つから。
・・実務的には、グローバルライセンスは珍しくない。
・・各国で訴訟提起するのはコストがかかり困難である。
・ただし、英国以外で特許が無効、または非侵害になった場合には、既払い分について返還させたりロイヤリティ料率を減額する等の調整を行う(Huaweiは、そのような権利を有する)。

・中国の裁判所はグローバルでFRAND条件を判断する権限がないので、中国で審理するより英国の裁判所で審理する方が合理的である(第2事件)。
・中国の裁判所の審理を待ってもFRAND条件の審理・判断は期待できないので、中国裁判所の審理を待つ必要もない。

 特許権者にとって非常に有利な判決であると感じられる。
 なぜなら、特許権者は、英国で裁判を行って勝てば、全世界でのライセンス料を得られる。もし英国で負けても、属地主義により他国で勝つことは可能である。逆に、実施者は、英国で負けてしまうと、一旦、全世界でのライセンス料をとられ、各国で勝って、ライセンス料を取り返していかなければならないからである。


2021年6月18日金曜日

[EP]AI関連発明の開示要件(審決T0161/18)

 2020512日に出された審決(T0161/18)において、AI関連発明の開示要件について重要な判断がなされた。この事件の対象となった特許は、心拍出量を決定する方法(Method for determining cardiac output)である。対象はドイツ語で記載されているので、特許の内容については、ファミリーの米国特許を参考にしている。

(発明の内容)
 発明の内容は、末梢領域における動脈血圧曲線から心拍出量を求める方法であって、動脈血圧曲線から中心血圧に変換し求め、中心血圧から心拍出量を計算する。動脈血圧から中心血圧に変換する過程で、学習によって得られた重み係数を持つ人工ニューラルネットワークを用いるというものである。

(EPO審判部の審決)※開示要件のみ
 どのような入力データが本発明による人工ニューラルネットワークの学習に適しているか、あるいは、技術的課題の解決に適した少なくともつのデータセットが開示されておらず、このため、(当業者は過度な負担を強いられることなく、)人工ニューラルネットワークを実施することができない。

 これは、例えば、発明者が実施してうまくいった実験結果を明細書において開示せよということなのだろう。確かに、ニューラルネットワークはブラックボックスなので、ニューラルネットワークを使って良い結果が出ることやその条件の開示がある程度は必要なのかもしれない。

2021年3月16日火曜日

[EP]審査ガイドライン2021年改訂

 ICTの関係では、データベース管理システムに関するセクションがガイドラインに追加された(G-Ⅱ.3.6.4)。内容的には、コンピュータプログラムに関する特許の考え方と同じ考え方であり、特別目新しいものではないと思われるが、掲載されている例を紹介する。

 
(発明の技術的特徴として考慮される例)
・データベース管理システムの内部機能の特徴を規定すること
・構造化されたクエリの実行を必要とされるコンピュータリソース(CPU、メインメモリ、ハードディスク等)に関して最適化すること

(発明の技術的特徴とはならない例)
・保存される認知情報のみで定義されるデータ構造
・言語分析をコンピュータで自動的に行えるように、言語的考察を数学的モデルに変換すること
・ある用語が別の用語と意味が似ている確率を共起頻度の分析により計算する数学的モデル

(参考URL)
https://www.epo.org/law-practice/legal-texts/html/guidelines/e/g_ii_3_6_4.htm


2020年6月12日金曜日

[EP]ゲーム方法等の審査ガイドライン

 EPCの審査ガイドラインでは、G3.5.2において、ゲーム方法等の審査について記載している。

パートG 特許性

章 発明

3 除外されるリスト

3.5 精神的活動、ゲーム、ビジネスのためのスキーム、ルール及び方法

3.5.2 ゲームのためのスキーム、ルール及び方法

 ガイドラインは、EPOのホームページに記載されているので、そちらを参照していただくとして、内容をかいつまんで紹介する。

 まず、原則として、ゲームルール自体は、どんなにオリジナリティがあっても進歩性を生まない。EPOの審査においては、非技術的な要素は考慮されないからである。逆に、ゲームルールを特定する技術的手段を特定していれば技術的特徴を有する。

 ゲーム実装による進歩性は、エンジニアやゲームプログラマ等の当業者の視点で評価する。非技術的手段を言い換えるだけ(ゲームトークンの数を監視するための「勝利計算手段)、または、要約するだけ(「ゲームトークン」の代わりに「オブジェクト」)では、非技術的要素であり、進歩性に関係しないと記載されている。こうした観点で、クレームの構成要件をチェックすると良いかもしれない。

 日本の実務と異なることとして、日本では、発明の効果として娯楽性や興趣性に言及した明細書が見られるが、ガイドラインでは、娯楽性や興趣性は技術的効果ではないと明記されている。例えば、ゲームスコアや腕前のレーティングを計算する方法を構成要件とし、これにより娯楽性が向上すると記載しても、技術的要素とは考慮されない。


方法発明の間接侵害が否定された例(令和6年(ワ)第70583号)

  液晶キーボードのキーの背景画像を着せ替える方法に関する特許を有する原告らが、文字入力キーボードアプリ「Simeji」を製造販売するバイドゥ株式会社を訴えた事件である(東京地裁民事第46部・令和8年4月15日判決)。実際に本件各発明に係る方法を使用するのは、被告製品をインストー...