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2022年7月13日水曜日

[審査基準]学習済みモデルの発明該当性

 審査基準では、学習済みモデルが発明に該当する事例(事例2-14、下記請求項)が挙げられている。app_z_ai-jirei.pdf (jpo.go.jp)

【請求項1】
 宿泊施設の評判に関するテキストデータに基づいて、宿泊施設の評判を定量化した値を出力するよう、コンピュータを機能させるための学習済みモデルであって、 
 第1のニューラルネットワークと、前記第1のニューラルネットワークからの出力が入力されるように結合された第2のニューラルネットワークとから構成され、
 前記第1 のニューラルネットワークが、少なくとも1つの中間層のニューロン数が入力層のニューロン数よりも小さく且つ入力層と出力層の ニューロン数が互いに同一であり各入力層への入力値と各入力層に対応する各出力層からの出力値とが等しくなるように重み付け係数が学習された特徴抽出用ニューラルネットワークのうちの入力層から中間層までで構成されたものであり、
 前記第2のニューラルネットワークの重み付け係数が、前記第1のニューラルネットワークの重み付け係数を変更することなく、学習されたものであり、
 前記第1のニューラルネットワークの入力層に入力された、宿泊施設 の評判に関するテキストデータから得られる特定の単語の出現頻度に対し、前記第1及び第2のニューラルネットワークにおける前記学習済みの重み付け係数に基づく演算を行い、前記第2のニューラルネットワークの出力層から宿泊施設の評判を定量化した値を出力するよう、コンピュータを機能させるための学習済みモデル。

 この請求項の成り立ちとしては、「・・学習されたものであり、」までが、学習済みモデルの構造および学習のさせ方を規定しており、それ以降が学習済みモデルの利用について規定している。


 さて、上記の例にならって、“学習済みモデルの構造”+「・・するよう、コンピュータを機能させるための学習済みモデル」と記載すれば、学習済みモデルの発明該当性は認められるのであろうか?
 答えはNOである。

 審査基準によれば、上記請求項の記載に加えて発明の詳細な説明の記載(★)も参酌すれば、当該請求項 1 の末尾が「モデル」であっても「プログラム」であることが明確であること、をもって発明該当性を認めるとしている。

★審査基準の例では、発明の詳細に以下の記載がある。
[発明の詳細な説明]
 本発明の学習済みモデルは、人工知能ソフトウエアの一部であるプログラムモジュールとしての利用が想定される。 ・・・
 本発明の学習済みモデルは、CPU及びメモリを備えるコンピュータにて用いられる。具体的には、コンピュータのCPUが、メモリに記憶された学習済みモデルからの指令に従って、第1のニューラルネットワークの入力層に入力された入力データ(宿泊施設の評判に関するテキストデータから、例えば形態素解析して、得られる特定の単語の出現頻度)に対し、第1及び第2のニューラルネットワークにおける学習済みの重み付け係数と応答関数等に基づく演算を行い、第2のニューラルネットワークの出力層から結果(評判を定量化した値)を出力するよう動作する。

 上記の請求項の記載だけだと、
①ニューラルネットワークの重み付け係数(パラメータセット)という解釈と、
②ニューラルネットワークの重み付け係数(パラメータセット)+CPUへの指令(=プログラム)という解釈、
の両方が可能であり、①の場合には、単なる情報の提示に該当するため、発明該当性が認められない。

 下記の説明資料の73頁右下を参照されたい。
「(*)請求項1に係る学習済みモデルは、ニューラルネットワークの重み付け係数(パラメータ セット)のみで構成されるものではなく、「プログラム」である」
との記載があり、学習済みモデルという記載であってもプログラムであるから発明該当性ありとしている。
 
 学習済みモデルでも発明該当性が認められるというと、コンピュータを機能させるために用いるパラメータセットだけでも発明になるようにも聞こえるが、実際にはプログラムであることを明確に求めている。
 上記①の学習済みモデルが発明になるかのような言い方をしているのは、やや理解に苦しむところである。学習済みモデルと書いてあってもプログラムだからOKというのではなく、学習済みモデルを含むプログラムと書きなさいと言った方が直接的でスッキリする。



2020年6月4日木曜日

[審査]AI関連発明の進歩性

 AI関連発明の記載要件に続いて、進歩性についても特許庁が示している事例を、2例、紹介する。

(例1)
【請求項 1】
 情報処理装置によりニューラルネットワークを実現するダムの水力発電量推定システムであって、
 入力層と出力層とを備え、前記入力層の入力データを基準時刻より過去の時刻から当該基準時刻までの所定期間の上流域の降水量、上流河川の流量及びダムへの流入量とし、前記出力層の出力データを前記基準時刻より未来の水力発電量とするニューラルネットワークと、
 前記入力データ及び前記出力データの実績値を教師データとして前記ニューラルネットワークを学習させる機械学習部と、
 前記機械学習部にて学習させたニューラルネットワークに現在時刻を基準時刻として前記入力データを入力し、現在時刻が基準時刻である出力データに基づいて未来の水力発電量の推定値を求める推定部と、
 により構成されたことを特徴とする水力発電量推定システム。
 【請求項 2】
 請求項 1に係る水力発電量推定システムであって、
 前記入力層の入力データに、さらに、前記基準時刻より過去の時刻から当該基準時刻までの所定期間の上流域の気温を含むこと、を特徴とする水力発電量推定システム。

 引用発明として、上流域の降水量、上流河川の流量及びダムへの流入量を説明変数、未来の水力発電量を目的変数として重回帰分析によってダムの水力発電量を推定するシステムが存在した。
 請求項1と引用発明との違いは、回帰モデルを行うかニューラルネットワークを用いた機械学習を用いるかという点であるが、回帰モデルに代えてニューラルネットワークを用いることは、当業者が容易に想到し得るから、請求項1は進歩性を有しない。
 請求項2は、入力データに上流域の気温を含むことにより、雪解け水による流入量増加の影響にも対応できる発明である。上流域の気温を変数として用いることは従来知られていなかったから、進歩性を有する。
 なお、本件は、発明のポイントは、上流域の気温という新しい変数を見出したことにあり、回帰モデルを用いて発電量を推定するシステムであったとしても進歩性を有すると考えられ、もっとプリミティブにテーブルを参照するようなシステムであったとしても進歩性を有する可能性がある。

(例2)
【請求項 1】
 回答者と質問者の会話に係る音声情報を取得する音声情報取得手段と、
 前記音声情報の音声分析を行って、前記質問者の発話区間と、前記回答者の発話区間とを特定する音声分析手段と、
 前記質問者の発話区間及び前記回答者の発話区間の音声情報を音声認識によりそれぞれテキスト化して文字列を出力する音声認識手段と、
 前記質問者の発話区間の音声認識結果から、質問者の質問種別を特定する質問内容特定手段と、
 学習済みのニューラルネットワークに対して、前記質問者の質問種別と、該質問種別に対応する前記回答者の発話区間の文字列とを関連付けて入力し、前記回答者の認知症レベルを計算する認知症レベル計算手段と、
  を備え、
 前記ニューラルネットワークは、前記回答者の発話区間の文字列が対応する前記質問者の質問種別に関連付けて入力された際に、推定認知症レベルを出力するように、教師データを用いた機械学習処理が施された、
 認知症レベル推定装置。

 従来は、質問と回答の問答を入力、認知症レベルの診断結果を出力としたニューラルネットワークを用いた認知症レベル推定装置が知られていたところ、請求項1の発明では、単に質問を用いるのではなく、質問から特定した質問種別(食事、天気、家族等)を用いる点が相違する。そして、この構成により、認知症レベルを高精度に推定できる。
 ニューラルネットワークにおいて、入力データに前処理を施すことは常套手段であるが、この発明のように、質問から質問種別を特定してこれを入力データとして用いることは知られておらず、技術常識でもないから、進歩性を有する。

 以上のように、AI関連発明の進歩性の判断としては、単に、ニューラルネットワークを適用した、というだけでは進歩性はないが、新しい変数を用いたとか、入力データの前処理を行ったという工夫があれば、進歩性が認められる可能性があると言える。
 

2020年5月22日金曜日

[審査]AI関連発明の記載要件

 特許明細書の記載要件は、特許を認められるための要件の一つである。特許は、発明を公開する代償として与えられるものであるから、明細書によって適切に発明を公開する必要がある。具体的には、明細書を読んだ者が発明を実施することができるように記載することが求められ(実施可能要件)、また、そのように記載した範囲において特許を請求することが認められる(サポート要件)。
 特許庁は、AI関連技術について具体的な事例を示しているので、2例、紹介する。

(例1)
 体重推定システムの例。発明者が顔のフェイスライン角度とBMIとに有意な相関関係があることを見出し、明細書に顔のフェイスライン角度とBMIの相関関係を示すグラフを記載している。その上で、以下の特許請求の範囲を記載している。

【請求項 1】
 人物の顔の形状を表現する特徴量と身長及び体重の実測値を教師データとして用い、 人物の顔の形状を表現する特徴量及び身長から、当該人物の体重を推定する推定モデルを機械学習により生成するモデル生成手段と、
 人物の顔画像と身長の入力を受け付ける受付手段と、
 前記受付手段が受け付けた前記人物の顔画像を解析して前記人物の顔の形状を表現する特徴量を取得する特徴量取得手段と、
 前記モデル生成手段により生成された推定モデルを用いて、前記特徴量取得手段が取得した前記人物の顔の形状を表現する特徴量と前記受付手段が受け付けた身長から体重の推定値を出力する処理手段と、 
 を備える体重推定システム。 
【請求項 2】
 前記顔の形状を表現する特徴量は、フェイスライン角度であることを特徴とする、請求項1に記載の体重推定システム。 

 明細書において、フェイスライン角度とBMIとの相関関係について説明されているので、この相関関係と汎用の機械学習アルゴリズムを用いることで、発明を実施することができる。ただし、明細書には、顔の形状の特徴量(一般)と体重との関係は記載されていないから、請求項1はサポート要件を満たさない。
 なお、本件は、請求項に「機械学習」という文言が見られ、AI関連技術の発明の例として説明されているが、推定モデルの作成にAIを使ったというだけであり、発明としてはAIとの関係は薄い。すなわち、「機械学習」でなくても回帰モデルやテーブル等であったとしても、記載要件を満たすための記載の仕方は同じである。発明の元になる知見を統計データで示し、その知見に基づく発明を特許として請求するというものであり、推定モデルを作成する方法は機械学習であるか否かに依らない。

(例2)
 アレルギー発症率を予測する発明の例。 ヒトにおけるアレルギー発症率が既知である複数の物質をヒト X 細胞に添加する。明細書には、このときのヒト X細胞の楕円形度、凹凸度、及び扁平率の形状変化の組合せと、既知のアレルギー発症率とを教師データとして、人工知能モデルの学習を行うことが記載されている。また、明細書には、人工知能モデルを用いて求めた予測スコアと実際のアレルギー発症率との差が小さかったことを示す実験結果が示されている。その上で、以下の特許請求の範囲を記載している。

【請求項 1】
 ヒトにおけるアレルギー発症率が既知である複数の物質を個別に培養液に添加した ヒトX 細胞の形状変化を示すデータ群と、前記既存物質ごとのヒトにおける既知のアレルギー発症率スコアリングデータとを学習データとして人工知能モデルに入力し、 人工知能モデルに学習させる工程と、 
 被験物質を培養液に添加したヒトX細胞において測定されたヒトX細胞の形状変化を示すデータ群を取得する工程と、
 学習済みの前記人工知能モデルに対して、被験物質を培養液に添加したヒトX 細胞において測定されたヒトX細胞の形状変化を示す前記データ群を入力する工程と、
 学習済みの前記人工知能モデルにヒトにおけるアレルギー発症率スコアリングデータを算出させる工程とを含む、 ヒトにおける被験物質のアレルギー発症率の予測方法。
【請求項 2】 
 ヒトX細胞の形状変化を示すデータ群が、ヒトX細胞の楕円形度、凹凸度、及び扁平率の形状変化の組合せであり、アレルギーが接触性皮膚炎である、請求項1に記載の予測方法。

 明細書において、人工知能モデルを用いた予測スコアと実際の発症率との差が小さいことを実験によって示しているので、明細書は、アレルギー発症率を予測できることを当業者が認識できるように記載されているといえ、実施可能要件を満たす。ただし、明細書には、ヒトX 細胞の形状変化(一般)とアレルギー発症率との関係は記載されていないから、請求項1はサポート要件を満たさない。
 本件の場合は、事前に統計データがあったわけではなく、人工知能モデルを用いて予測を行って精度が高いことを確認して初めて、課題を解決できることが分かる。そのことを明細書に記載することにより、発明が実施可能であることを示すものであり、AI関連技術に特有の明細書の記載の仕方であるといえる。
 

2020年5月7日木曜日

[審査]ソフトウェア関連発明の請求項

 特許庁が公表している特許・実用新案審査ハンドブックは、請求項や明細書の記載の仕方や審査の考え方を非常に詳細に記載している。その中から、ソフトウェア関連発明が発明に該当すると判断されるための請求項の記載について、一部を紹介する。
 ソフトウェア関連発明が発明(=自然法則を利用した技術的思想の創作)に該当すると判断されるための基本的な考え方は、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働することによって、使用目的に応じた特有の情報処理装置又はその動作方法が構築されることである。 
  具体例を見てみる。次の例は、いずれも入力された文書の要約を作成する発明である。

(例1)
 文書データを入力する入力手段、入力された文書データを処理する処理手段、処理された文書データを出力する出力手段を備えたコンピュータにおいて、上記処理手段によって入力された文書の要約を作成するコンピュータ。
(例2)
 複数の文書からなる文書群のうち、特定の一の対象文書の要約を作成するコンピュータであって、
 前記対象文書を解析することで、当該文書を構成する一以上の文を抽出するととも に、各文に含まれる一以上の単語を抽出し、 前記抽出された各単語について、前記対象文書中に出現する頻度(TF)及び前記文書群に含まれる全文書中に出現する頻度の逆数(IDF)に基づくTF-IDF値を算出し、 各文に含まれる複数の単語の前記TF-IDF値の合計を各文の文重要度として算出し、
 前記対象文書から、前記文重要度の高い順に文を所定数選択し、選択した文を配して要約を作成するコンピュータ。

 例1は発明に該当せず、例2は発明に該当する。例1は、要約作成という使用目的に応じた特有の演算又は加工を実現するための具体的手段又は具体的手順が記載されているとはいえない。これに対し、例2は、入力された文書データの要約を作成するための、特有の情報の演算又は加工が具体的に記載されているからである。
 例2には、ハードウェアの構成は、コンピュータしかないが、ソフトウェアとハードウェアが協働しているといえるのであろうか。これに対し、審査ハンドブックは次のように解説をしている。
 請求項にはハードウエア資源として「コンピュータ」のみが記載されているが、「コンピュータ」が通常有するCPU、メモリ、記憶手段、入出力手段等のハードウエア資源とソフトウエアとが協働した具体的手段又は具体的手順によって、使用目的に応じた特有の情報の演算又は加工が実現されることは、出願時の技術常識を参酌すれば当業者にとって明らかである。
 要するに、例1のようにやりたいことだけを記載してもダメだが、構成要件を特定するという通常の実務にしたがって情報処理を記載すれば発明該当性を満たす。
 

除くクレーム(令和6年(行ケ)第10081号)

 1 除くクレームについて  特許実務において、引用文献と差別化を図るために、構成要件の一部を除くことが行われることがある。新たな技術的事項を導入しないものである場合には構成要件の一部を除くことが認められるが(ソルダーレジスト大合議事件(平成18年(行ケ)第10563号))、...