2022年4月11日月曜日

[EP]技術的特徴と非技術的特徴からなるクレーム (審査ガイドライン)例3

 例3は、放送メディアを送信する際に、データ接続の最大レートで伝送を行うのではなく、ユーザが契約したデータレートで伝送するシステムの発明である。

「請求項1 
 データ接続を介して遠隔端末に放送メディアチャンネルを送信するためのシステムであって、前記システムは以下を含む:
(a)遠隔端末の識別子と、前記遠隔端末へのデータ接続の利用可能なデータレートの表示とを記憶する手段であって、前記利用可能なデータレートは、前記遠隔端末へのデータ接続の最大データレートよりも低いことを特徴とする記憶手段;
(b)前記データ接続の利用可能なデータレートの表示に基づいて、データを送信するレートを決定する手段;
(c)前記決定されたレートで前記遠隔端末にデータを送信する手段。」

 最も近い先行文献D1は、加入者のセットトップボックスにxDSL接続でビデオを放送するシステムを開示しており、このシステムは、コンピュータ用に記憶された最大データ速度で加入者のコンピュータにビデオを送信する。

 容易に分かるように、相違点は次のとおりである。
「ステップ(iii):請求項1記載の主題とD1との相違点は、以下の通りである:
(1) 遠隔端末へのデータ接続の利用可能なデータレートの表示を記憶し、前記利用可能なデータレートは、遠隔端末へのデータ接続の最大データレートより低いこと;
(2) 前記利用可能データレートを使用して、前記遠隔端末にデータを送信するレートを決定する(D1のように前記遠隔端末に対して記憶された最大データレートでデータを送信するのではない)。」

 課題ー解決アプローチでは、客観的な技術的課題に基づき、上記の相違点は次のように定式化される。

「遠隔端末へのデータ接続のために最大データレートより低い「利用可能なデータレート」を使用することによって果たされる目的は、請求項からは明らかではない。したがって、明細書の関連する開示内容が考慮される。本明細書では、顧客が複数のサービスレベルから選択することを可能にする価格モデルが提供され、各サービスレベルは、異なる価格を有する利用可能なデータレートのオプションに対応すると説明されている。ユーザは、支払額を少なくするために、接続可能な最大データレートよりも低い利用可能データレートを選択することができる。したがって、遠隔端末への接続に最大データレートより低い利用可能なデータレートを使用することは、顧客がその価格モデルに従ってデータレートのサービスレベルを選択することを可能にするという目的に対応している。これは技術的な目的ではなく、財政的、管理的又は商業的な性質の目的であるため、第52条(2)(c)のビジネスを行うためのスキーム、規則及び方法の除外に該当する。 したがって、満たすべき制約として、客観的な技術的課題の定式化に含まれる可能性がある。

 利用可能なデータ速度を記憶し、データ送信速度を決定するためにそれを使用する機能は、この非技術的な目的を実施するという技術的効果を有する。」

 データ伝送に際して、最大データレートではなく、敢えて低いデータレートでの伝送を可能にするのは面白い考え方と思うが、これは商業的な目的であるため、このような考え方は評価の特許性の評価対象とはならない。評価の対象となるのは、次の事項である。

「ステップ(iii)(c):したがって、客観的な技術的課題は、顧客がデータレートのサービスレベルを選択することを可能にする価格モデルをD1のシステムにどのように実装するかということに定式化される。

自明性:この価格設定モデルに従ってデータ・レート・サービス・レベルの選択を実施するという課題を考えると、加入者が購入したデータ・レート(すなわち請求項1の「利用可能データ・レート」)、これは加入者のコンピュータ(すなわち請求項1の「遠隔端末」)へのデータ接続の最大データ・レートより低いか等しくしかあり得ない、を各加入者について記憶し、加入者にデータを送信するための速度をシステムで決定するために使用することは、当業者に明らかであるだろう。したがって、法52条(2)及び56条の意味における発明的進歩は含まれない。」

 上記のように、サービスレベルを選択可能な価格モデルの技術的な実装部分のみが相違点として評価される。
 サービスレベルを選択可能にしようとするならば(=与えられた制約を満たすためには)、最大データ・レートより低くするしかあり得ない、という理由で、文献D1から自明であると判断されてしまった。
 
 請求項と文献D1との相違点は、最大レートでデータ伝送するか否かである。
 日本の感覚では、最大レートでデータ伝送する文献D1から、低いレートでデータ伝送する構成とするのが容易かどうかということが問題になるので、それなりに有望な感じがする(少なくとも副引例は必須であろう)。しかし、課題ー解決アプローチにおける定式化では、データレートのサービスレベルを選択可能にするためには(商業目的を達成するためには)当業者ならどうしたか? という制約まで(日本流にいえば動機付けと言っても良いと思う)が定式化されてしまうので、簡単に自明という結論になってしまう。
 





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