ワインセラーの霜取り制御に関する特許を有するさくら製作所株式会社がデバイスタイルマーケティングを訴えた裁判である。
問題となった特許は以下の構成を有する。
【請求項1】
A コンプレッサーを使用した冷却方式を採用し、冷却サイクルによって冷却器に付着した霜を溶かす霜取り機能を有するワインセラーにおいて、
B 前記冷却器の近傍に配置され、冷却器周辺温度を検知する温度センサーと、
C 前記冷却器に付着した霜を溶かすために冷却器周辺温度を上昇させる加温ヒーターと、
D 所定のタイミングに達した場合に、前記コンプレッサーを停止するとともに前記温度センサーにより検知された冷却器周辺温度をチェックし、当該冷却器周辺温度に基づいて前記加温ヒーターを起動するか否かを判断する制御部と、を備え、
E1 前記制御部は、前記所定のタイミングで前記温度センサーにより検知された冷却器周辺温度が、前記冷却器に霜が付着する可能性のある温度と
して規定された「第1の温度」以下の場合に、前記加温ヒーターを起動し、
E2 前記加温ヒーターを起動した後の冷却器周辺温度が「第2の温度(「第1の温度」<「第2の温度」)」に達した場合に、前記加温ヒーターを停止し、
E3 さらに、前記加温ヒーターを停止した後の冷却器周辺温度が「第3の温度(「第2の温度」<「第3の温度」)」に達した場合に、前記コンプレッサーを再起動する、
F ことを特徴とするワインセラー。
要するに、第1の温度以下になったらヒーターを起動し、第2の温度になったらヒーターを止め、第3の温度になったらコンプレッサーを再起動して再冷却するという制御を行う。
複数回の実験によれば、被告のイ号製品は再冷却に関して、コンプレッサーを再起動したときの温度の方が低く(第2の温度>第3の温度)、ロ号製品はコンプレッサーを再起動する温度がまちまちであることから、構成要件E3を充足しないと判断された。
そこで、構成要件E3の相違にかかわらず均等論による侵害が認められるかが判断された。
[裁判所の判断]
⑶ 第1要件の充足性
均等の第1要件にいう特許発明の本質的部分とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解され、第1要件、すなわち対象製品との相違部分が非本質的部分であるかどうかを判断する際には、上記のとおりの特許発明の本質的部分を対象製品が共通に備えているかどうかを判断し、これを備えていると認められる場合には、相違部分は本質的部分ではないというべきである。
前記1⑵に認定した本件発明の技術的意義に照らせば、本件発明は、霜取り制御の従来技術をワインセラーに適用した場合の、無駄な霜取り運転動作及び冷却器に付着した露の再霜化による冷却器に付着する霜の増殖という課題を解決するため、制御部が、冷却器に霜が付着する可能性のある温度として規定された「第1の温度」以下の場合に、前記加温ヒーターを起動し、加温ヒーターを起動した後の冷却器周辺温度が「第2の温度(「第1の温度」<「第2の温度」)」に達した場合に、加温ヒーターを停止し、さらに、加温ヒーターを停止した後の冷却器周辺温度が「第3の温度(「第2の温度」<「第3の温度」)」に達した場合に、前記コンプレッサーを再起動する構成を解決手段とし、これにより、無駄な霜取り運転動作を回避し、また、冷却器に残存する水滴を減らして冷却器を再冷却したときの霜の増殖を回避するという効果が得られるものである。
以上のとおりの本件発明の課題及び解決手段とその効果に照らすと、本件発明の本質的部分(特許請求の範囲に記載された構成のうち従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分)は、制御部が、冷却器に霜が付着する可能性のある温度として規定された「第1の温度」以下の場合に加温ヒーターを起動し、加温ヒーターを起動した後の冷却器周辺温度が「第2の温度(「第1の温度」<「第2の温度」)」に達した場合に、加温ヒーターを停止、加温ヒーターを停止した後の冷却器周辺温度が「第3の温度(「第2の温度」<「第3の温度」)」に達した場合に、前記コンプレッサーを再起動するという構成を採用することにより、無駄な霜取り運転動作を回避し、また、冷却器に残存する水滴を減らして冷却器を再冷却したときの霜の増殖を回避することを可能とした点にあると解するのが相当である。
そうすると、被告製品は、本件発明の本質的部分を共通に備えているとはいえず、前記⑵の相違部分が非本質的部分であるとはいえないから、均等の第1要件を充足しない。
⑷ これに対し、原告は、被告製品のコンプレッサーの保護機能の結果、加温ヒーターが停止した後の露の滴下時間を確保するという本件発明と同一の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏するから、第1要件を充足すると主張する。
しかしながら、被告製品において、コンプレッサーの保護機能によって加温ヒーターが停止した後に露の滴下時間が確保され、冷却器に残存する水滴を減らすという本件発明と同様の結果が得られるとしても、被告製品が、本件発明の本質的部分を共通に備えていないことに変わりはないから、原告の主張は採用することができない。
(コメント)
明細書の課題には以下のとおり記載されている。
「しかしながら、冷却器に霜が付着しない程度の庫内温度設定で動作可能なワインセラーには、上記従来の霜取り制御を一律に適用することは効率的ではない。すなわち、無駄な霜取り運転動作を回避する観点から上記従来の霜取り制御には改善の余地がある。そのため、高湿度を保持するワインセラーにおいては、従来のように霜取りヒーターを利用して霜を露にするだけでは冷却器に露が付着した状態での再霜化が繰り返されることになり、残存する露による霜に新たな霜が付着して結果的に冷却器に付着する霜が増殖してしまう、という問題があった。」(段落【0005】【0006】)
本発明では第3の温度(>第2の温度)になったところで冷却を行うという構成は、ヒータによって加温して霜を溶かしてもすぐに冷却すると再霜化してしまうという上記課題に関係している。本判決は、第3の温度での制御のみならず、第1の温度、第2の温度、第3の温度で行う一連の制御を本質的部分とし、被告製品は本質的部分を備えていないとした。
ところで裁判所は、被告製品が本件発明と同様の結果が得られるとしても本質的部分を共通に備えていないことに変わりはないと判示しているが、本質的部分説に立っているのであろうか。平成28年3月25日の大合議事件で示された判断の手法とはやや異なるような気がする(2020年7月21日の投稿参照)。
ただし、構成要件E1~E3の制御は出願過程における補正により当初の請求項2の構成を請求項1に導入したものであり、かつ意見書では第3の温度が引例に記載されていないと主張しているので、こうした経過から見て均等不成立という結論には変わりはないと思う。
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