Gameaccount(T1543/06)の中で、進歩性が認められた例として引用された審決である。対象は、スロットマシンに係る発明で、特徴は、シンボルが揃ったときの当選価値の判断の仕方にある。(下の図は、基礎出願より抜粋)
ここで、「Angel」はランクアップシンボル、「Devil」はランクダウンシンボルである。「Angel」を1つ含む場合は、例えば、「7-Bar」「7-Bar」「7-Bar」よりも1ランクアップの「Devil」「Devil」「Devil」と同じ当選価値となり、「Angel」を2つ含む場合は、「7-Bar」「7-Bar」「7-Bar」よりも2ランクアップの「Angel」「Angel」「Angel」と同じ当選価値となる。
クレームは以下のとおりである。
「当選ライン(A,B,C)に沿って停止表示される複数のキャラクタを備え、前記キャラクタは、異なるキャラクタとして使用可能な少なくとも1つの置換可能キャラクタを含み、前記置換可能キャラクタの置換により、前記当選ラインに沿って停止表示されるキャラクタの組み合わせを前記置換可能キャラクタを含まない同等の当選組み合わせの当選価値と異なる当選組み合わせとし得るゲーム機であって
前記当選ライン(A、B、C)に沿って停止した前記キャラクタの組合せを当選テーブルと比較して、当選の有無を判定するステップと
前記当選テーブルが、異なるキャラクタとして使用された場合に置換可能なキャラクタを含まないキャラクタの組合せをランク付けした値で構成されている点(上の右図)、及び、
前記置換可能なキャラクタは、ランクアップ又はランクダウンのキャラクタであり、ランクアップのキャラクタを置換してキャラクタの組合せを入賞組合せとした場合、ランクアップのキャラクタを含まない同等の組合せよりも上位となり、これにより、上位の当選組合せに対して当選価値を増加させ、ランクダウンのキャラクタを置換してキャラクタの組合せを当選組合せとした場合、ランクダウンのキャラクタを含まない同等の組合せよりも下位となり、より低い当選組合せに対して当選価値を減少させる。」
従来技術として、「ダブル」、「トリプル」、「+10」、「+20」などの代替可能なシンボルは知られていた。「ダブル」を含む場合には当選価値を2倍に、「+10」を含む場合には当選価値を+10する。
しかし、これらは、当選テーブルにおいてランクアップ、ランクダウンをさせるものではない点が、本件発明と相違している。
審判部は、上記の相違について、進歩性の評価は、非技術的ゲーム開発者から渡された非技術的概念に基づいてゲーム機の開発を任された技術専門家の立場から行わなければならず、ゲームのルールにある改善は進歩性に寄与しないと判断した。
ただし、請求項の解決手段は、演算操作を省略できる程度にゲーム機を簡素化するものであるから、先行文献の教示と比較して技術的な改善をもたらすものであるとし、進歩性を認めた。
→進歩性あり
[コメント]
整理が難しい事例である。
当選テーブルを参照して当選価値を決定することはルールであって非技術的事項であるから進歩性には寄与しない。このルールが制約として与えられたときに開発者が何をするか、が進歩性の評価基準である。ここまでは審決もそう言っている。なお、このルールは、おそらくプレイヤも知っているものと思う。
本発明は、与えられたゲームルールにしたがって実装しただけのような気がする。ゲームルールを実装した結果、演算操作が簡素になったというのは、与えられたゲームルールが簡素だったからではないのか?
演算操作を省略できることがゲームルールの変更によるものであるとしても、ときに有効な主張になるのかもしれない。
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