2026年8月18日火曜日

方法発明の間接侵害が否定された例(令和6年(ワ)第70583号)

  液晶キーボードのキーの背景画像を着せ替える方法に関する特許を有する原告らが、文字入力キーボードアプリ「Simeji」を製造販売するバイドゥ株式会社を訴えた事件である(東京地裁民事第46部・令和8年4月15日判決)。実際に本件各発明に係る方法を使用するのは、被告製品をインストールしたスマートフォン等を操作する利用者であったため、被告によるアプリの製造販売について、特許法101条4号及び5号の間接侵害の成否が争われた。

問題となった特許(特許第6446634号)は以下の構成を有する。

 【請求項2】(本件発明1)

1A 液晶画面におけるローマ字入力のキーボード部又は日本語入力のテンキーによるキーボード部内に表示されている

1B 1個又は複数個のキーを選択し、

1C 模様を含む画像又は図柄である画素材を取り込み、

1D 該選択された各キー毎に同一の該取り込まれた画素材を背景画として貼付けることを特徴とする、

1E 液晶キーボードの背景の画像を着せ替える方法。

 【請求項3】(本件発明2)

2A 該画素材は、貼付け前に拡大縮小、移動、または変形による編集がなされる

2B 請求項2に記載の液晶キーボードの背景の画像を着せ替える方法。




 要するに、キーを選び、画像を取り込み、選んだ各キーの背景に同じ画像を貼り付ける、という「方法」のクレームである。

  被告製品は、スマートフォン及びタブレット用の文字入力キーボードアプリであり、平成30年4月19日から令和3年12月頃まで、テンキーのボタンの背景画像を着せ替える機能を搭載していた。実際に着せ替えの操作を行うのは、被告製品をインストールしたスマートフォン等を用いる利用者(ユーザー)である。そこで原告らは、被告によるアプリの製造販売が101条4号(のみ品)及び5号(不可欠品)の間接侵害に当たると主張した。

[裁判所の判断]

1 争点2(間接侵害の成否)について

 原告らは、スマートフォン等にインストールされるアプリケーションである被告製品の製造販売が、特許法101条4号及び5号の間接侵害に当たると主張する。

 そこで検討するに、特許法101条4号及び5号は、その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物についてこれを生産、譲渡等する行為を特許権侵害とみなすものであり、特許発明に係る方法を実施することが可能である物の生産に用いられる物を生産、譲渡等する行為を特許権侵害とみなすものではないものと解される(平成17年知財高裁特別部判決参照)。

 前提事実イのとおり、被告製品の利用者(ユーザー)は、被告製品をスマートフォン等にインストールし、当該スマートフォン等でアプリケーションを起動して、別紙被告製品操作・動作説明書記載のとおり動作させていたのであるから、その物自体を利用して本件各発明に係る方法を実施することが可能である物は被告製品をインストールしたスマートフォン等であって、被告製品は、そのようなスマートフォン等の生産に用いられる物である。そうすると、被告製品の製造販売が同条4号及び5号の間接侵害に当たるということはできない。

 これに対し、原告らは、被告製品の製造販売が特許法101条4号及び5号の間接侵害に当たることの根拠として、特許出願において物の発明と方法の発明の選択は、出願者が任意に行うものであり、プログラムに係る発明を方法の発明として特許出願した場合にもその保護を図る必要があること、プログラムが同条2号の「その物の生産に用いる物」に当たると解するのに、同条5号の「その方法の使用に用いる物」に当たらないと解するのは、均衡を失すること、スマートフォン等とプログラムの関係は、単なる物と部品という関係とは異なるから、プログラムを動作させることで使用される方法の発明について、同号の「物」にプログラムが含まれると解しても、発明の方法を実施する機能を備えるプログラムに限定されるため、間接侵害の成立範囲は不当に広がらないこと、同条4号は、「その方法の使用にのみ用いる物」と「のみ」による限定がされており、間接侵害の成立範囲が不当に広がることもないことなどを主張する。

 しかしながら、上記①②について、物の発明についての間接侵害(同条1号及び2号)と、方法の発明についての間接侵害(同条4号及び5号)は、それぞれ「物の生産」又は「方法の使用」という実施行為との関係で間接侵害の成立範囲を規定し、プログラムが「用いる物」に当たるか否かは、実施行為との関係で決まるのであるから、物の発明と方法の発明で間接侵害の成立範囲が異なることがあるのは当然である。そして、プログラムは物の発明として特許法における保護対象となり得る(同法2条3項1号、4項)のであるから、原告会社において、物の発明としてではなく、あえて方法の発明として本件各発明に係る特許を取得した以上、被告製品の製造販売について間接侵害が成立しないと解したからといって、同法による保護に欠けるものとはいえない。

 また、上記③④について、同条4号の「その方法の使用に用いる物」及び同条5号の「その方法の使用に用いる物」が、その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物を意味し、そのような物の生産に用いられる物を含まないと解すべきであるのは前記のとおりであり、被告の主張する点は、被告製品の製造販売が特許法101条4号及び5号の間接侵害に当たらないとの前記の判断を左右するものではない。


[コメント]

 参照されている平成17年知財高裁特別部判決は一太郎事件(平成17年(ネ)第10040号)である。同判決は、「Y製品をインストールしたパソコン」は「その方法の使用に用いる物であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当するが、Yの行為は「当該パソコンの生産に用いられるY製品について製造、譲渡等を行うものにすぎない」として間接侵害を否定した。本判決は、その枠組みをパソコンからスマートフォンに置き換えてそのまま適用したものである。

 もっとも、一太郎事件で問題となったのは当時の101条4号、すなわち平成18年改正後の現5号(不可欠品)である。原告らは、一太郎事件の判断は「のみ」の限定がなく「その物がその発明の実施に用いられること」という主観的要件を含む不可欠品の規定に基づくものだから、「のみ」の限定がある現4号には妥当しないと主張していた。本判決はこの区別を採らず、4号・5号の「用いる物」を同一に解している。「その物自体を利用して方法を実施することが可能である物」か否かという線引きは、条文上の「のみ」の有無とは別の次元の問題である、という整理であろう。

 参考になるのは、傍論的に述べられた「あえて方法の発明として本件各発明に係る特許を取得した以上、同法による保護に欠けるものとはいえない」という一節である。プログラムは2条3項1号・4項により物の発明として保護され得るのだから、方法クレームしか取っていないのは出願人の選択の結果である、というわけである。ソフトウェア関連発明について、プログラムクレーム・記録媒体クレーム・システムクレームを併せて取得しておくことの意味が、改めて確認されたことになる。逆に言えば、方法クレームのみで、実施主体がエンドユーザーとなるタイプのアプリを差し止めるのは、現行法の解釈上かなり難しい。権利化段階でのクレームカテゴリの設計が重要である。


2026年1月5日月曜日

[裁判例]均等論の第1要件(本質的部分)について判断された例( 令和5年(ワ)70738)

 ワインセラーの霜取り制御に関する特許を有するさくら製作所株式会社がデバイスタイルマーケティングを訴えた裁判である。
 問題となった特許は以下の構成を有する。
【請求項1】
A コンプレッサーを使用した冷却方式を採用し、冷却サイクルによって冷却器に付着した霜を溶かす霜取り機能を有するワインセラーにおいて、 
B 前記冷却器の近傍に配置され、冷却器周辺温度を検知する温度センサーと、 
C 前記冷却器に付着した霜を溶かすために冷却器周辺温度を上昇させる加温ヒーターと、 
D 所定のタイミングに達した場合に、前記コンプレッサーを停止するとともに前記温度センサーにより検知された冷却器周辺温度をチェックし、当該冷却器周辺温度に基づいて前記加温ヒーターを起動するか否かを判断する制御部と、を備え、 
E1 前記制御部は、前記所定のタイミングで前記温度センサーにより検知された冷却器周辺温度が、前記冷却器に霜が付着する可能性のある温度と
して規定された「第1の温度」以下の場合に、前記加温ヒーターを起動し、 
E2 前記加温ヒーターを起動した後の冷却器周辺温度が「第2の温度(「第1の温度」<「第2の温度」)」に達した場合に、前記加温ヒーターを停止し、 
E3 さらに、前記加温ヒーターを停止した後の冷却器周辺温度が「第3の温度(「第2の温度」<「第3の温度」)」に達した場合に、前記コンプレッサーを再起動する、 
F ことを特徴とするワインセラー。 

 要するに、第1の温度以下になったらヒーターを起動し、第2の温度になったらヒーターを止め、第3の温度になったらコンプレッサーを再起動して再冷却するという制御を行う。
 複数回の実験によれば、被告のイ号製品は再冷却に関して、コンプレッサーを再起動したときの温度の方が低く(第2の温度>第3の温度)、ロ号製品はコンプレッサーを再起動する温度がまちまちであることから、構成要件E3を充足しないと判断された。
 そこで、構成要件E3の相違にかかわらず均等論による侵害が認められるかが判断された。

[裁判所の判断]
⑶ 第1要件の充足性 
 均等の第1要件にいう特許発明の本質的部分とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解され、第1要件、すなわち対象製品との相違部分が非本質的部分であるかどうかを判断する際には、上記のとおりの特許発明の本質的部分を対象製品が共通に備えているかどうかを判断し、これを備えていると認められる場合には、相違部分は本質的部分ではないというべきである。 
  前記1⑵に認定した本件発明の技術的意義に照らせば、本件発明は、霜取り制御の従来技術をワインセラーに適用した場合の、無駄な霜取り運転動作及び冷却器に付着した露の再霜化による冷却器に付着する霜の増殖という課題を解決するため、制御部が、冷却器に霜が付着する可能性のある温度として規定された「第1の温度」以下の場合に、前記加温ヒーターを起動し、加温ヒーターを起動した後の冷却器周辺温度が「第2の温度(「第1の温度」<「第2の温度」)」に達した場合に、加温ヒーターを停止し、さらに、加温ヒーターを停止した後の冷却器周辺温度が「第3の温度(「第2の温度」<「第3の温度」)」に達した場合に、前記コンプレッサーを再起動する構成を解決手段とし、これにより、無駄な霜取り運転動作を回避し、また、冷却器に残存する水滴を減らして冷却器を再冷却したときの霜の増殖を回避するという効果が得られるものである。 
  以上のとおりの本件発明の課題及び解決手段とその効果に照らすと、本件発明の本質的部分(特許請求の範囲に記載された構成のうち従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分)は、制御部が、冷却器に霜が付着する可能性のある温度として規定された「第1の温度」以下の場合に加温ヒーターを起動し、加温ヒーターを起動した後の冷却器周辺温度が「第2の温度(「第1の温度」<「第2の温度」)」に達した場合に、加温ヒーターを停止、加温ヒーターを停止した後の冷却器周辺温度が「第3の温度(「第2の温度」<「第3の温度」)」に達した場合に、前記コンプレッサーを再起動するという構成を採用することにより、無駄な霜取り運転動作を回避し、また、冷却器に残存する水滴を減らして冷却器を再冷却したときの霜の増殖を回避することを可能とした点にあると解するのが相当である。 
 そうすると、被告製品は、本件発明の本質的部分を共通に備えているとはいえず、前記⑵の相違部分が非本質的部分であるとはいえないから、均等の第1要件を充足しない。 
 ⑷ これに対し、原告は、被告製品のコンプレッサーの保護機能の結果、加温ヒーターが停止した後の露の滴下時間を確保するという本件発明と同一の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏するから、第1要件を充足すると主張する。 
  しかしながら、被告製品において、コンプレッサーの保護機能によって加温ヒーターが停止した後に露の滴下時間が確保され、冷却器に残存する水滴を減らすという本件発明と同様の結果が得られるとしても、被告製品が、本件発明の本質的部分を共通に備えていないことに変わりはないから、原告の主張は採用することができない。 

(コメント)
 明細書の課題には以下のとおり記載されている。
「しかしながら、冷却器に霜が付着しない程度の庫内温度設定で動作可能なワインセラーには、上記従来の霜取り制御を一律に適用することは効率的ではない。すなわち、無駄な霜取り運転動作を回避する観点から上記従来の霜取り制御には改善の余地がある。そのため、高湿度を保持するワインセラーにおいては、従来のように霜取りヒーターを利用して霜を露にするだけでは冷却器に露が付着した状態での再霜化が繰り返されることになり、残存する露による霜に新たな霜が付着して結果的に冷却器に付着する霜が増殖してしまう、という問題があった。」(段落【0005】【0006】)

 本発明では第3の温度(>第2の温度)になったところで冷却を行うという構成は、ヒータによって加温して霜を溶かしてもすぐに冷却すると再霜化してしまうという上記課題に関係している。本判決は、第3の温度での制御のみならず、第1の温度、第2の温度、第3の温度で行う一連の制御を本質的部分とし、被告製品は本質的部分を備えていないとした。

 ところで裁判所は、被告製品が本件発明と同様の結果が得られるとしても本質的部分を共通に備えていないことに変わりはないと判示しているが、本質的部分説に立っているのであろうか。平成28年3月25日の大合議事件で示された判断の手法とはやや異なるような気がする(2020年7月21日の投稿参照)。
 ただし、構成要件E1~E3の制御は出願過程における補正により当初の請求項2の構成を請求項1に導入したものであり、かつ意見書では第3の温度が引例に記載されていないと主張しているので、こうした経過から見て均等不成立という結論には変わりはないと思う。

2026年1月4日日曜日

[裁判例]ふるさと納税の返礼が売買取引ではないとされた例(令和7年(ネ)10046)

 取引管理システムについての特許を有する株式会社キーソフトがふるさと納税に係る返礼品についてのサービスを提供する株式会社サンカクキカクを訴えた裁判の控訴審である。
 対象となった特許は、段階的な複数の取引者間での商品の取引の伝票管理を簡易にすることを目的とする取引管理システムであり以下の構成を有する。

【請求項1】
A 下流取引者からの発注を受け、前記下流取引者を特定するための情報と、前記発注された商品を特定するための情報とに基づき、前記下流取引者から中間取引者へ宛てた第1の発注情報を作成する手段と、 
B 前記中間取引者から上流取引者へ宛てた第2の発注情報を、前記第1の発注情報に基づき前記第1の発注情報の作成と連動して自動的に作成する手段とを含む、 
C 前記下流取引者のコンピュータ、前記中間取引者のコンピュータ、複数の前記上流取引者のコンピュータのそれぞれに、ネットワークを介して接続される取引管理システム。 

 「上流」および「下流」とは、商品の流れに対応し、商品は上流取引者から下流取引者の方向に流通される。発明は、下流取引者から発注があると自動的に上流の取引者に対して発注をする。控訴人(原告)は、下流取引者が寄附者、中間取引者が地方自治体、上流取引者が返礼品を発送する事業体というあてはめをしている。

[裁判所の判断]
 当裁判所も、本件発明における「中間取引者」とは、商品受取者である「下流取引者」及び商品発送者である「上流取引者」という各末端取引者の中間に介在し、「下流取引者」から対象商品の売買について発注を受け、それを踏まえて「上流取引者」に当該商品の売買について発注を行う者を意味するところ、被告システムにおいて、地方団体は、寄附者から特定の商品の売買について発注を受ける者に当たらず、また、これを踏まえて事業者に対して商品の売買についての発注を行う者にも当たらないと判断する。 

 控訴人は、本発明における取引は有償無償を問わないとか、被告システムでは実質的な対価関係が認められるといった主張を試みたが、以下のように排斥された。

[裁判所の判断]
イ 当審における控訴人らの追加的及び補充的主張に対する判断 
(ア) これに対し、控訴人らは、本件発明における「中間取引者」とは、有償無償を問わず「下流取引者」から商品の発注を受ける者をいうとし、この発注行為には、売買契約の申込みの意思表示のみならず、贈与や寄附といった無償行為に係る申込みの意思表示も含まれる旨主張する。 
  しかしながら、本判決で補正の上引用する原判決「事実及び理由」第4の2(1)アのとおり、本件明細書【0008】【0009】【0045】に、「下流取引者」への販売につき、販売価格が設定されることなどが記載されており、他に、贈与や寄附といった無償行為を対象とすると読める記載は存在しない。加えて、本件発明が解決しようとする課題は、前記2(2)で述べたとおり、段階的な複数の取引者間での伝票管理を容易にすることにあるから、本件発明は、商品の対価として金銭のやり取りを伴う取引を対象としていると考えるのが自然である。 
 したがって、控訴人らの上記主張は採用できない。 

(イ) また、控訴人らは、仮に「中間取引者」が「下流取引者」から受ける発注が、売買契約(ないし少なくとも他の有償取引)に係る申込みの意思表示に限られるとしても、ふるさと納税の寄附と返礼品の間には、実質的な対価関係が認められるから有償契約に当たると主張し、ふるさと納税一般において御礼(返礼)の内容が寄附金額に応じて一律に定められていること(甲19)、総務省が地方団体に対し返礼品の返礼割合を3割以下とするように求めていること(甲16)等の事実を挙げる。 
  しかしながら、ふるさと納税制度において、地方団体による寄附者に対する物品の提供は、寄附者に対するいわば御礼(返礼)として行われるものであり、その性質が寄附金と対価関係を有しない無償行為にとどまることは、本判決で補正の上引用する原判決「事実及び理由」第4の2(1)イのとおりである。加えて、ふるさと納税制度を利用して寄附をする者は、地方団体に供与する経済的利益の全額を寄附金控除の対象となる寄附金と認識しているのであり、その全部又は一部を返礼品の対価として支払っていると認識しているとは認められないから(乙1)、控訴人らの主張する事実によって、無償行為である寄附行為としての法的性質が変容するとは評価できない。 
 したがって、控訴人らの上記主張には理由がない。 

(ウ) さらに、控訴人らは、被告システムにおいて、寄附者は地方団体に対して返礼品の発注を行い、当該発注情報に基づき、自動的に事業者に対してメールが送信されるのであるから、被告システムは地方団体の事業者への発注行為を代替しているとみるべきであり、「上流取引者」に当該商品の売買について発注を行う者に該当する旨主張する。 
 しかしながら、本判決で補正の上引用する原判決「事実及び理由」第4の2(1)イのとおり、被告システムにおいては、地方団体が、寄附者からの発注情報を受領した上で、これを踏まえて事業者に対して通知を行う過程は存在しないのであるから、地方団体は、「下流取引者」からの発注を踏まえて「上流取引者」に当該品の売買について発注を行う者には当たらない。 
 したがって、控訴人らの上記主張には理由がない。 

(コメント)
 ふるさと納税の返礼が売買に当たらないことに加え、上記引用の(ウ)の事実があったことは、非侵害に大きく影響したと思われる。
 
 

2026年1月3日土曜日

[裁判例]「アプリケーションで提供されるサービス」の解釈(令和5年(ワ)70425)

  S.RIDE株式会社が、GO株式会社を相手取り、同社アプリ(GoPay)が特許を侵害するとして提訴した事案である。対象となった請求項8は以下の構成を備えている。下線は、争点となった要件である。

A:コンピュータに、所定のアプリケーションを記憶し、 
B:前記アプリケーションで提供されるサービスに関する情報を管理し、 
C:他の装置から受信した前記サービスを登録するためのデータを取得し、
D:取得された前記データに基づき、前記アプリケーションの処理により前記サービスを登録し、 
E:登録された前記サービスに関する情報を生成し、 
F:前記アプリケーションによりコマンドが処理されることで生成される前記サービスに関する情報の表示を制御するステップを含む処理を実行させるためのプログラム。

 従来は、新しい携帯電話機に切り替えたときに、元の携帯電話機で提供されていたサービスをUICC(Universal Integrated Circuit Card)に記憶しておき、UICCを用いて移行することが考えられるが、複数のサービスを提供する総合アプリの場合には、移行対象の個別サービスの内容までは確認できなかったという課題に鑑みてなされたものである。
 これに対し、GoPayでは、機種変更後の端末で機種変更前と同じ支払い方法一覧が表示されるというのが、原告の主張である(下記図は判決文より抜粋)。



[裁判所の判断]
⑴ 「前記アプリケーションで提供されるサービス」の意義 
 本件発明の構成要件Bは、「前記アプリケーションで提供されるサービスに関する情報を管理し」と規定しているところ、本件発明の構成要件は、その他に「アプリケーション」と「サービス」の内容及び関係を規定するものではない。そして、本件明細書等、「アプリケーション」と「サービス」の内容及び関係につき、「アプリケーション103は、例えば、クレジットカードの機能を実現するサービスを提供するためのアプリケーションである。」(【0012】)、「アプリケーション105は、総合サービスを提供するためのアプリケーションであり、サービス106-1、サービス106-2、サービス106-3を提供する。例えば、サービス106-1は、クレジットの機能を実現するサービスであり、サービス106-2は、トランスポート系のサービスを提供するサービスであり、サービス106-3は、クーポンを提供するサービスである。」(【0014】)、「第3アプリケーション256は、総合サービスを提供するためのアプリケーションである。後述するように、第3アプリケーション256は、クレジットの機能を実現するサービス、トランスポート系のサービス、クーポンを提供するサービスなど、複数のサービスを提供するためのアプリケーションである。」(【0030】)と記載されていることが認められる。
 本件発明の構成要件の上記規定及び本件明細書等の上記記載によれば、構成要件Bにいう「アプリケーション」は、複数のサービスを提供するものであり、構成要件Bにいう「前記アプリケーションで提供されるサービス」は、機能を実現するものである以上、アプリケーション自体がクレジット機能、クーポン機能その他の機能そのものを提供するものに限られると解するのが相当である。 
⑵ 被告プログラムの充足性 
 前記前提事実に加え、証拠(甲5ないし10、14)及び弁論の全趣旨によれば、被告プログラムは、GoPayというタクシー料金の決済機能を備えており、GoPayは、d払いと連携することによって初めてd払いを利用することができるようになること、他方、d払いは、訴外ドコモが提供する決済機能であり、タクシーを利用した際にその利用したタクシー料金に限り利用することができるにとどまり、これ以外の場面では決済手段として使用することができないこと、以上の事実が認められる。 
 上記認定事実によれば、被告プログラムにおけるd払いは、タクシー料金の個別の支払ごとにその都度利用されるにとどまるものであるから、被告プログラム自体がd払いという決済機能そのものを提供するものとはいえない。
 したがって、被告プログラムは、本件発明の構成要件Bにいう「前記アプリケーションで提供されるサービス」を充足するものとはいえない。

(コメント)
 裁判所は、「アプリケーションで提供されるサービス」の意義を特許請求の範囲および明細書の記載に基づいて解釈し、被告プログラムが連携するd払いは被告プログラムが提供するサービスではないと判断した。
 原告は、「サービス」の提供主体と「アプリケーション」の提供主体とが法的に同一主体でなければならないという限定はないとの主張もしたが、裁判所は、「本件発明の構成要件は、「アプリケーション」と「サービス」の内容及び関係を一義的に規定するものではないから、本件明細書等を参酌しない限り、その関係等が明らかにならない」として、原告の主張を退けた。
 d払いというサービスはd払いアプリが提供するものなので、提供主体がどうこうといったとしても、GoPayで提供されるというには無理があると思う。

 




方法発明の間接侵害が否定された例(令和6年(ワ)第70583号)

  液晶キーボードのキーの背景画像を着せ替える方法に関する特許を有する原告らが、文字入力キーボードアプリ「Simeji」を製造販売するバイドゥ株式会社を訴えた事件である(東京地裁民事第46部・令和8年4月15日判決)。実際に本件各発明に係る方法を使用するのは、被告製品をインストー...