液晶キーボードのキーの背景画像を着せ替える方法に関する特許を有する原告らが、文字入力キーボードアプリ「Simeji」を製造販売するバイドゥ株式会社を訴えた事件である(東京地裁民事第46部・令和8年4月15日判決)。実際に本件各発明に係る方法を使用するのは、被告製品をインストールしたスマートフォン等を操作する利用者であったため、被告によるアプリの製造販売について、特許法101条4号及び5号の間接侵害の成否が争われた。
問題となった特許(特許第6446634号)は以下の構成を有する。
1A 液晶画面におけるローマ字入力のキーボード部又は日本語入力のテンキーによるキーボード部内に表示されている
1B 1個又は複数個のキーを選択し、
1C 模様を含む画像又は図柄である画素材を取り込み、
1D 該選択された各キー毎に同一の該取り込まれた画素材を背景画として貼付けることを特徴とする、
1E 液晶キーボードの背景の画像を着せ替える方法。
2A 該画素材は、貼付け前に拡大縮小、移動、または変形による編集がなされる
2B 請求項2に記載の液晶キーボードの背景の画像を着せ替える方法。
要するに、キーを選び、画像を取り込み、選んだ各キーの背景に同じ画像を貼り付ける、という「方法」のクレームである。
被告製品は、スマートフォン及びタブレット用の文字入力キーボードアプリであり、平成30年4月19日から令和3年12月頃まで、テンキーのボタンの背景画像を着せ替える機能を搭載していた。実際に着せ替えの操作を行うのは、被告製品をインストールしたスマートフォン等を用いる利用者(ユーザー)である。そこで原告らは、被告によるアプリの製造販売が101条4号(のみ品)及び5号(不可欠品)の間接侵害に当たると主張した。
[裁判所の判断]
1 争点2(間接侵害の成否)について
⑴ 原告らは、スマートフォン等にインストールされるアプリケーションである被告製品の製造販売が、特許法101条4号及び5号の間接侵害に当たると主張する。
そこで検討するに、特許法101条4号及び5号は、その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物についてこれを生産、譲渡等する行為を特許権侵害とみなすものであり、特許発明に係る方法を実施することが可能である物の生産に用いられる物を生産、譲渡等する行為を特許権侵害とみなすものではないものと解される(平成17年知財高裁特別部判決参照)。
前提事実⑸イのとおり、被告製品の利用者(ユーザー)は、被告製品をスマートフォン等にインストールし、当該スマートフォン等でアプリケーションを起動して、別紙被告製品操作・動作説明書記載のとおり動作させていたのであるから、その物自体を利用して本件各発明に係る方法を実施することが可能である物は被告製品をインストールしたスマートフォン等であって、被告製品は、そのようなスマートフォン等の生産に用いられる物である。そうすると、被告製品の製造販売が同条4号及び5号の間接侵害に当たるということはできない。
⑵ これに対し、原告らは、被告製品の製造販売が特許法101条4号及び5号の間接侵害に当たることの根拠として、①特許出願において物の発明と方法の発明の選択は、出願者が任意に行うものであり、プログラムに係る発明を方法の発明として特許出願した場合にもその保護を図る必要があること、②プログラムが同条2号の「その物の生産に用いる物」に当たると解するのに、同条5号の「その方法の使用に用いる物」に当たらないと解するのは、均衡を失すること、③スマートフォン等とプログラムの関係は、単なる物と部品という関係とは異なるから、プログラムを動作させることで使用される方法の発明について、同号の「物」にプログラムが含まれると解しても、発明の方法を実施する機能を備えるプログラムに限定されるため、間接侵害の成立範囲は不当に広がらないこと、④同条4号は、「その方法の使用にのみ用いる物」と「のみ」による限定がされており、間接侵害の成立範囲が不当に広がることもないことなどを主張する。
しかしながら、上記①②について、物の発明についての間接侵害(同条1号及び2号)と、方法の発明についての間接侵害(同条4号及び5号)は、それぞれ「物の生産」又は「方法の使用」という実施行為との関係で間接侵害の成立範囲を規定し、プログラムが「用いる物」に当たるか否かは、実施行為との関係で決まるのであるから、物の発明と方法の発明で間接侵害の成立範囲が異なることがあるのは当然である。そして、プログラムは物の発明として特許法における保護対象となり得る(同法2条3項1号、4項)のであるから、原告会社において、物の発明としてではなく、あえて方法の発明として本件各発明に係る特許を取得した以上、被告製品の製造販売について間接侵害が成立しないと解したからといって、同法による保護に欠けるものとはいえない。
また、上記③④について、同条4号の「その方法の使用に…用いる物」及び同条5号の「その方法の使用に用いる物」が、その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物を意味し、そのような物の生産に用いられる物を含まないと解すべきであるのは前記⑴のとおりであり、被告の主張する点は、被告製品の製造販売が特許法101条4号及び5号の間接侵害に当たらないとの前記⑴の判断を左右するものではない。
[コメント]
参照されている平成17年知財高裁特別部判決は一太郎事件(平成17年(ネ)第10040号)である。同判決は、「Y製品をインストールしたパソコン」は「その方法の使用に用いる物…であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当するが、Yの行為は「当該パソコンの生産に用いられるY製品について製造、譲渡等を行うものにすぎない」として間接侵害を否定した。本判決は、その枠組みをパソコンからスマートフォンに置き換えてそのまま適用したものである。
もっとも、一太郎事件で問題となったのは当時の101条4号、すなわち平成18年改正後の現5号(不可欠品)である。原告らは、一太郎事件の判断は「のみ」の限定がなく「その物がその発明の実施に用いられること」という主観的要件を含む不可欠品の規定に基づくものだから、「のみ」の限定がある現4号には妥当しないと主張していた。本判決はこの区別を採らず、4号・5号の「用いる物」を同一に解している。「その物自体を利用して方法を実施することが可能である物」か否かという線引きは、条文上の「のみ」の有無とは別の次元の問題である、という整理であろう。
参考になるのは、傍論的に述べられた「あえて方法の発明として本件各発明に係る特許を取得した以上、…同法による保護に欠けるものとはいえない」という一節である。プログラムは2条3項1号・4項により物の発明として保護され得るのだから、方法クレームしか取っていないのは出願人の選択の結果である、というわけである。ソフトウェア関連発明について、プログラムクレーム・記録媒体クレーム・システムクレームを併せて取得しておくことの意味が、改めて確認されたことになる。逆に言えば、方法クレームのみで、実施主体がエンドユーザーとなるタイプのアプリを差し止めるのは、現行法の解釈上かなり難しい。権利化段階でのクレームカテゴリの設計が重要である。

