2022年7月14日木曜日

[EP]ゲームについての進歩性判断[T0928/03]

 古い審決であるが、審査ガイドラインでも言及されている重要な審決である。

(概要)
 出願人はコナミで、ゲームでアクティブプレイヤキャラクタを表示する技術に関する。まずは、基礎出願の記載を参照して発明の概要について説明する。
 遊技者が操作するプレイヤは、ボールを支配するプレイヤP1で、その識別を容易にするべく、CPU1は、ボールをキープしているプレイヤP1を監視し、特定する監視機能と、このプレイヤP1の足元のフィールド面にリング状のガイドG1を表示するガイド表示機能と、プレイヤP1の進行方向、乃至は足元に対するボールの方向に向けられる矢印で示すガイドG2を、ガイドG1とは異なる色で表示する方向ガイド表示機能とを備えて、方向の容易な認識を可能にしている。
 側近の味方のプレイヤP2、すなわち、基本的には、パスが可能なプレイヤP2には足元から4方向に放射状に延びるガイドG3が、CPU1の持つ第2のガイド表示機能によって、ガイドG1と同色で表示さ れている。この第2のガイド表示機能は、更に、プレイヤP2が画面から外れて、ガイドG3が見えなくなった場合にも、その方向に沿った画面の端に、その一部を表示させるようにして、プレーヤP1のパスすべき方向を 好適に案内するようになされている。 


まとめると、プレイヤキャラクタに表示されるガイドは、以下のとおりである。。
・ガイドG1(環状)・・プレーヤP1(操作対象)の足元
・ガイドG2(矢印)・・プレーヤP1の進行方向
・ガイドG3(放射状)・・側近の味方プレーヤP2の足元
 ※ガイドG3は、プレーヤP2が画面から外れても画面の端に一部を表示

(請求項)
1. モニター画面(13)に表示された複数のプレイヤキャラクタ(P1、P2、P3)をそれぞれ有する数チームが単一のゲーム媒体(b)で互いに競争するタイプのビデオゲームシステムで使用するための案内表示装置であって、前記チームの少なくとも1つがコントローラ(8)を介してゲームプレイヤの制御下にある前記案内表示装置であって、
 前記ゲーム媒体(b)を保持するプレイヤキャラクタ(P1)を特定するための監視手段と、
 前記監視手段により特定されたプレイヤキャラクタ(P1,P2,P3)に付随し、前記監視手段により特定されたプレイヤキャラクタ(P1)により前記ゲーム媒体(b)が保持されていることを示すガイドマーク(G1,G2)を表示するガイド表示手段と、を備え、
 [a]前記ガイドマーク(G1,G2)は、リング状であり、前記プレイヤキャラクタ(P1,P2,P3)の周囲のフィールド面(f)の画像上で、前記プレイヤキャラクタ(P1,P2,P3)の足付近の位置で表示され、
 [b]前記ガイド表示手段は、前記ゲーム媒体(b)を保持している前記プレイヤキャラクタ(P1)と同じチームに所属し、前記ゲーム媒体(b)を保持している前記プレイヤキャラクタ(P1)から最も容易に前記ゲーム媒体(b)を渡すことができる他のプレイヤキャラクタ(P2)に付随するパスガイドマーク(G3)をさらに表示し、
 [c] 前記ガイド表示手段は、前記プレイヤキャラクタ(P1)が前記ゲーム媒体(b)を渡す方向を適切に示すために、前記別のプレイヤキャラクタ(P2)と前記パスガイドマーク(G3)が前記モニタ画面の表示領域から出たときにも前記表示領域の端部に前記パスガイドマーク(G3)の一部が表示されるように前記別のプレイヤキャラクタ(P2)に同行して前記パスガイドマークを表示することを特徴とする、方法。

(主引例)
主引例には、プレイヤキャラクタの頭上に、どのプレイヤがボールのコントロールを獲得したかを示す三角形のコントロールマーク「m」が示されている。

(審判部の判断要旨)
 以下の説明で、ユーザによって制御されるプレイヤキャラクタをアクティブプレイヤキャラクタという。
 主引例は、請求項の構成[a]~[c]を開示していない。

[a]リング状のガイドマークをアクティブプレイヤキャラクタの足元に表示する構成について
 主引例のガイドマークmが他のプレイヤキャラクタによって隠ぺいされる問題は、必然的に発生するものであり、自明である。ガイドマークの視認性を維持するためにサイズを大きくすることは当然であり、特徴[a]による技術的貢献は進歩性を伴うものではない。

[b]アクティブプレイヤ(第1の関心点)に加え、パスを最も渡しやすい他のプレイヤキャラクタ(第2の関心点)にパスガイドマークを表示する構成
 サッカーのようなチームゲームをプレイするルールに鑑みると、明白な追加的関心点は、達成すべきゲームおよび目標の枠組みにおいてアクティブプレイヤキャラクタが最も容易にボールをパスすることができるチームメイトである。様々な注目点が選手のキャラクタを表していることは、ゲームの非技術的なルールに起因するものであり、したがって、非自明性の認定を裏付けることはできない。

[c]上記他のプレイヤキャラクタとパスガイドマークが画面の外に外れたときに、パスガイドマークの一部を画面の端に表示する構成
 チームメイトの位置をユーザーが知るべきであるという事実は、ゲームルールの直接的な帰結とみなすことができるが、そのような位置をどのように知らせるかという技術的実現は、ゲームルールとは関係がない。
 構成[c]による技術的貢献は、画像の拡大部分(ユーザーがズームした可能性がある)を表示することと、表示領域より大きい関心領域の概観を維持することの相反する技術的要件に対処するものである。
 相反するディスプレイ要件を処理する様々な妥協案が知られているが、本願の特徴[c]が提供する解決策は、モニタ画面の端部にある単純なガイドマーク(最小限の周辺ディスプレイ表面を占有する)の助けを借りてディスプレイ機能を拡大し、画像の拡大部分を見るときにユーザーが方向を知ることを可能にするものである。


(コメント)
 ゲームにはルールがある。この例のサッカーゲームでは、チームメイトでパスをし、ボールをゴールに運ぶのがルールである。このルール自体は非技術的な事項である。
 非技術的事項に着目したときに当業者ならだれでもやるようなこと、つまり、パスをしやすい他のプレイヤキャラクタにガイドマークを表示することは、非自明性の認定の裏付けにならない(構成[b])。
 他のプレイヤキャラクタが画面外に出てしまったときにパスコースを知らせたいという制約条件が与えられたときに、これをどうやって実現するかということにつき、工夫があれば、進歩性が認められる。本事案では、その工夫というのが、モニタ画面の端部にガイドマークの一部を表示することであった。
 
 この審決からの学びとしては、ゲームのルール自体は技術的貢献ではない。ゲームルールから導かれる直接的な技術的事項(目立たせるべきキャラクタにマークを付す)は非自明性の認定を裏付けない。ゲームルールによって与えられる制約条件を解決する技術的手段が自明ではなく、効果のある解決手段を提供した場合、非自明性を裏付けになる。


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