例4は、赤外線カメラの画像に基づいて、建物内の結露のリスクのある領域をユーザに示す発明である。例1~例3はいずれも進歩性のない事例であったが、この例は進歩性がある事例である。
「請求項1
建物内の表面について結露のリスクが高まっている領域を決定するコンピュータ実装方法であって、以下のステップを含む、コンピュータ実装方法:
(a)赤外線(IR)カメラを制御して、表面の温度分布の画像を撮影するステップ;
(b)過去24時間に渡って建物内で測定された空気温度および相対空気湿度の平均値を受け取るステップ;
(c)前記平均空気温度及び平均相対空気湿度に基づいて、前記表面に結露する危険性がある結露温度を計算するステップ;
(d)画像上の各点における温度を、前記算出された結露温度と比較するステップ;
(e)計算された結露温度より低い温度を有する画像ポイントを、表面上の結露のリスクが増大した領域として特定するステップ;
(f)ステップ(e)で特定された画像ポイントを特定の色で着色することによって画像を修正し、結露のリスクが高まっている領域をユーザに示すステップ。」
ステップ(a)は明らかに技術的であるが、数学的なステップであるステップ(b)~(e)が技術的か否かが、最初に検討されている。
「したがって、アルゴリズムや数学的なステップ、および情報の提示に関するステップが、発明の文脈において、技術的効果の発生に寄与し、それによって発明の技術的性質に貢献するかどうかを評価する必要がある。
上記のアルゴリズムおよび数学的ステップ(b)~(e)は、物理的特性の測定値(IR画像、測定された空気温度および時間経過による相対空気湿度)から、存在する現実の物体(表面)の物理的状態(結露)を予測するために使用されるので、技術的目的に役立つ技術的効果に貢献するものである。これは,表面上の結露のリスクに関する出力情報をどのように使用するかに関係なく適用される(G-II, 3.3,特に小項目 "技術的用途 "を参照されたい)。したがって、ステップ(b)~(e)は発明の技術的性質にも寄与する。」
物理的な測定値から物理的状態を予測しているので、技術的効果に貢献し、技術的性質に寄与する。
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例4の発明に最も近い先行技術は、次の文献D1である。
「文献D1には、表面に結露が生じる危険性を判断するために、表面を監視する方法が開示されている。結露のリスクは、表面上の1点についてIRパイロメータを介して得られた温度測定値と、実際の周囲空気温度および相対空気湿度に基づいて計算された結露温度との差に基づいて決定される。そして、その差の数値を、当該地点の結露の可能性を示す指標としてユーザーに提示する。」
請求項1の主題とD1との相違点は、以下の通りである。
「(1)赤外線カメラが使用されている(表面の1点の温度しかとらえないD1の赤外線パイロメーターの代わりに);
(2)過去24時間に渡って建物内部で測定された空気温度と相対空気湿度の平均値を受信し;
(3)平均気温と平均相対湿度に基づいて結露温度を計算し、表面のIR画像上の各点の温度と比較する;
(4)計算された結露温度より低い温度を持つ画像点を、表面上の結露のリスクが高い領域として識別する;
(5)結露の危険性が高い箇所を色で表示する。
以上のように、(1)~(4)の特徴は、クレーム対象の技術的性質に貢献するものであり、技術的課題の設定に際して考慮されるべきものである。これらの特徴は、(一点ではなく)すべての表面領域を考慮し、日中の温度変化を考慮する結果、結露の危険性についてより正確で信頼性の高い予測を行うという技術的効果をもたらす。」
その一方で、(5)の特徴は、利用者の主観的選好に依存するので、技術的効果をもたらさないとされた。
上記の分析から、課題-解決アプローチによって客観的な技術的課題は、「表面上の結露のリスクをより正確かつ信頼性の高い方法で判断する方法」と定式化された。
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「自明性 :表面上の温度測定値を得るために赤外線カメラを使用することは、発明行為を行うことなく、サーモグラフィの分野における通常の技術開発であると考えることができる。IR カメラは、本件の有効な出願日において周知であった。IRカメラを使用することは、当業者が表面の温度分布を得るために、IRパイロメータを使用して監視対象表面の複数の点の温度を測定することに代わる、簡単な方法である。
しかしながら、D1は、表面上の温度分布を考慮し(単一点での温度とは対照的に)、空気温度の平均値を計算し、過去24時間にわたって建物内で測定された相対空気湿度を考慮に入れることを示唆していない。また、結露のリスクを予測するために、時間の経過とともに建物内部で現実的に発生する可能性のある異なる条件を考慮することを示唆するものでもない。
特徴(1)〜(4)によって定義される客観的な技術的課題の技術的解決を示唆する他の先行技術がないと仮定すると、請求項1の主題は進歩性を有する。」
上に下線を引いたところは、例1と対比して非常に異なる部分である。例1を振り返ってみると、
(1)ユーザは、(単一商品のみではなく)2つ以上の商品を選択して購入することができる。
(2)2つ以上の製品を購入するための「最適なショッピングツアー」がユーザーに提供される。
という2つの相違点は、客観的な技術的課題を把握する際に、満たすべき制約として組み込まれてしまっていた。
これに対し、例4では、特徴(1)〜(4)は、客観的な技術的課題として評価されている。
この違いは、例4においては、数学的なステップであるステップ(b)~(e)が「技術的目的に役立つ技術的効果に貢献するものである。」ためと考えられる。例1では、相違点(1)(2)は、「技術的な目的はなく、これらの相違点から技術的な効果を見出すことはできない。」と判断されていた。
つまり、相違点にかかるアルゴリズムが「技術的目的に役立つ技術的効果に貢献するか」という点がポイントだと思う。
この点について、ガイドラインの備考も次のように記載している。
「備考 :この例は、G-VII,5.4第2段落で扱った状況を示している。すなわち、単独では非技術的であるが、請求項に係る発明の文脈において、技術的目的に資する技術的効果の発生に貢献する特徴(アルゴリズム/数学的ステップである特徴(b)〜(e))である。当該特徴は、発明の技術的性質に貢献するものであるため、進歩性の存在を裏付けることができる。」
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