2022年8月19日金曜日

[EP]ゲームのルールか技術的事項か(T12/08)

 ガイドラインで引用されている2009年の審決である。対象は、ポケモンGOに関係する任天堂の出願である。発明のポイントは、キャラクタをマップ上に出現させるか否かの確率を時間に依存して変化させる構成にある。
 キャラクタの出現確率を時間依存にすることは、ゲームのルールなのか、技術的事項なのか。

 EPにおいて、技術的事項と非技術的事項とを含む発明の進歩性判断は、非技術的事項についてはそれがいくら画期的であっても、非技術的事項は、制約条件として設定し、その制約条件を満たすために技術的事項として何をしたか、が問題となる。
 例えば、ショッピングツアーを提供する発明の例(2022/4/7投稿)では、2つ以上の商品を選択したときに最適なショッピングツアーを提供することは非技術的事項であり、2つの商品を購入する最適ルートを提供するという仕様(=制約条件)がビジネス部門から与えられたとき、技術的にそれを実現することが自明であったかどうかが問題となった。
 
 キャラクタの登場確率を時間依存で変える、ということはゲームルールであって、非技術的なのであろうか?
 審判部の判断はNOであり、技術的事項であるとの判断であった。その理由を見ていきたい。

→進歩性あり

「出現確率を時間依存にするこれらの相違は、機械が生成する偶然の出会いの予測可能性を低下させる効果がある(提出された説明の 5 ページ 23 行から 6 ページ 22 行を参照のこと)。この効果は、ゲーム文脈の中でプレーヤの興味を引き、その娯楽価値を高めるのに役立つ偶然の出会いそれ自体の一般的な(非技術的な)目的を超えるものである。異なる特徴によって対処される問題は、それに応じて、より予測しにくい方法で出会いを生成するように、ゲーム装置またはゲームプログラムをどのように修正するかとして定式化することができる。

 制約条件は、より予測しにくい方法で出会いを生成する、である。そして、制約条件を満たすために出現確率を時間依存にすることは技術的事項である。

 ゲームルールについて以下のように述べている(翻訳がやや変かもしれない)。
「「ゲームルール」は、一般に受け入れられているより古典的な意味(EPC 策定時に策定者が理解したであろう意味)で、「ゲームの文脈(そのようなものとして)でのみ意味を持つ行為、慣習、条件に関してプレイヤ間(またはプレイヤとの間)で合意された規制の枠組みが純粋に精神的、抽象的な構成要素であること」の一部を形成する、と審判部は解釈している(T336/07, 理由3.3.1 参照)。」

 ゲームルールは、ゲームの枠組みの中で、プレイヤ間またはプレイヤと合意されるものである。これに対して、出現確率を時間依存にすることはプレイヤに同意されるものではあり得ない(これを同意してしまっては、出現確率がバレてしまう)。よって、ゲームのルールではないと述べている。
 また、わかりやすいアナロジーとして次の例を挙げている。
「類似の例として、サイコロを振ることはそれ自体ゲームルールではなく、(よく知られているとしても)数字をランダムに発生させる技術的な方法と手段(サイコロ)であり、ヘビとはしごゲームでサイコロで出た目によってボード上の駒を動かすことは明らかにゲームルールに対応するものである。」

 この審決からすると、ゲームルールかどうかを見分ける一つの判断材料としては、それが、ゲームの枠組みの中でプレイヤと合意されるものであるかどうか、ということである。




 
 

 
 

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