2021年4月2日金曜日

[裁判例]携帯情報通信装置(東京地裁令和3年1月15日) 損害論

  前日の投稿のとおり、原告の主張が認められ、被告によるスマホの製造・販売は本件発明の実施に該当すると判断された。
 原告は、実施料相当額(特許法102条3項)に基づく損害賠償を主張した。実施料相当額は、被告製品の売上高に実施料率を乗じて算定されるのが一般的である。

 裁判所は、まず、実施料率を考慮する基準について、次のとおり述べた。
「①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,
②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,
③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,
④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情
を総合考慮するのが相当である。」
その上で、本件について次のように判断した。

①「本件発明を含め,原告による特許発明の実施許諾の実績はない。また,業界における実施料の相場等として,本件報告書及び前記「実施料率 〔第5版〕」における平均値等の記載を採用することも相当ではない。このような状況に照らせば,本件発明に関し,業界における実施料の相場等を示すものとしては,被告が締結した被告製品に関する特許の実施許諾契約の内容を参考とするのが相当である。
そして,被告従業員の前記陳述書においては,被告各製品に関連する標準必須特許以外のライセンス契約において,パテントファミリー単位での特許権1件あたりのライセンス料率が●(省略)●%であり,そのうち,ランニング方式での契約をとるC社との契約においてはライセンス料率の平均が約●(省略)●%であったこと,また,被告が,平成22年頃,被告各製品の販売に関連し,画像処理・外部出力関連の標準規格の特許ライセンス料を含む使用許諾料として支払っていた額は1台当たり合計●(省略)●米ドルであったことが説明されている(別紙5「被告各製品の販売状況」記載の売上合計を販売台数合計で除して算出
した,被告各製品1台当たりの売上高は約●(省略)●円である。)。」

②「本件発明が被告各製品にとって代替不可能なものとは認められず」

③「本件発明を実施することによる被告の利益の程度も明らかではないこと,」

④「原告と被告との間に競業関係がなく,原告は,特許発明について自社での実施はしておらず,他社に実施許諾をして実施料を得ることを営業方針としているものの,これまで保有する特許発明について,実施許諾契約の締結に至ったことはない」

            ↓↓

「本件発明について,被告各製品の製造,販売に対して受けるべき実施料率は0.01%と認めるのが相当である。」

 ①の事情のところ、閲覧制限されているので、具体的な数値がわからないが、被告が締結した被告製品に関する特許の実施許諾契約における実施料率が非常に低廉であったものと推定される。
 なお、①のところで、報告書における平均値等の記載を採用することは相当でないと述べているが、その理由として次のように判示している。

「また,本件報告書では,「電気」の製品分野である,エレクトロニクス業界のライセンス交渉実態及びロイヤルティ決定手順について,次のような記載がされている。 
 規格技術に関する特許に係るパテントプールの例では,地デジの通信規格技術について,特許300件ほどのパテントプールが形成され,地デジTV一台あたり,200円の特許料が徴収されていること,MPEG2ビデオ圧縮技術について,特許100件ほどのパテントプールが形成され,DVDなどの製品1台あたり,2米ドルの特許料が徴収されていること。 
 デバイス等の製品は,数百から数千の要素技術で成り立っており,一つのデバイスが関連する特許は膨大な量となり,1件あたりのロイヤルティ料率を定めると100%を超えてしまうため,デバイスに関する特許は,各社が保有する特許群の中で代表的な特許を選抜
し,クロスライセンスによる交渉を行うことが主流であり,交渉によって得られたロイヤルティの差がロイヤルティ料率又は一時金として設定され,その相場は1%未満となること。」 
「b 前記aのとおり,本件報告書及び前記「実施料率〔第5版〕」には,電気等の分野の実施料率の平均値等の記載があるものの,本件報告書では,エレクトロニクス業界のライセンス交渉実態について,一つのデバイスが関連する特許が膨大な量となることから,実施料率の定めに特徴がある旨の記載がされており,そこで例示されている実施料率は,上記の平均値を大幅に下回るものである。 
 このような事情は携帯電話機(スマートフォン)である被告各製品にも当てはまるものと考えられるから,被告各製品に関して,業界における実施料の相場等として上記の平均値等の記載を採用するのは相当とはいえない。」
 

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