(ポイント) 以下は、原審(令和2年(ラ)10004)の判決文からの情報も含む。
・利益相反に関する最高裁判決である。関係条文は次のとおり。
[弁護士法]
第二十五条 弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
[弁護士職務基本規程]
第五十七条 所属弁護士は、他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む)が、第二十七条又は第二十八条の規定により職務を行い 得ない事件については、職務を行ってはならない。ただし、職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。
・事実関係
塩野義製薬 vs 米ギリアドサイエンシズの特許侵害訴訟の関係である。塩野義製薬で上記訴訟の準備に深く関わったC弁護士が、ギリアドの代理人A弁護士,B弁護士の事務所に転職した。なお、C弁護士は、1か月余りで退職した。
なお、ギリアドの主張としては、C弁護士に秘密漏洩なきことを誓約させるほか、A弁護士,B弁護士とC弁護士との間で十分な情報遮断措置をとっていたから、弁護士職務基本規程57条に定める「職務の公正を保ち得る事由がある」というものである。
・原審(知財高裁)
「職務の公正を保ち得る事由」の意義は、「依頼者の信頼が損なわれるおそれがなく,かつ,先に他の所属弁護士(所属
弁護士であった場合を含む。)を信頼して協議又は依頼をした当事者にと
って所属弁護士の職務の公正らしさが保持されているものと認められる事由をいうものと解するのが相当である。」とした上で、本件訴訟は利害の対立が大きい事件であり、C弁護士が訴訟準備の中心的役割を担っていたことや、C弁護士の転職と時期を同じくして事件の代理人がD弁護士からA弁護士らに代わったことからすると、塩野義にとって、「A弁護士らが基本事件の相手方の訴訟代理人として職務を行うことについて,その職務の公正らしさに対する強い疑念を生じさせるものであるものと認められる。」として、塩野義の主張を認めた。
・最高裁の判断
同僚に利益相反を抱える弁護士がいたとしても、これを「具体的に禁止する法律は見当たらない」として、排除の申立て自体ができないと判断した。
「具体的に禁止する法律は見当たらない」というのは、弁護士職務基本規程には同僚についての禁止規定があるが、弁護士法には規定がないということなのだろう。つまり、日弁連の会規にしたがって罰せられることはあっても、裁判で強制的に排除することはできないということと理解される。
記事によれば、「いかなる条件で関与が禁止、容認されるのかを具体的な規則で規律することは日弁連に託された喫緊の課題の一つだ」とする補足意見をつけたとあるので、最高裁は利益相反についてきちんとしたルールが必要と考えているようである。
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