本件は、異議申立の取消決定に対する審決取消訴訟である。対象となる特許は、ロール方向の傾きを表示する撮像装置の発明である。
これに対し、取消決定の理由となった証拠(甲1)は、電子的に撮影した画像の天地方向が統一されていると画像の管理に便利であるということを背景とし、水平に置かれた撮像対象の天地方向を正確に算出する画像撮像装置の発明である。
甲1に記載された発明では、画像撮像装置の傾斜角度を測定する傾斜度測定手段を備えている。下の図では、平面に沿ったD301,D303方向の重力加速度センサを備え、当該センサで測定した重力加速度の重力gに対する割合から、平面の傾斜度を求める。
「【0087】
天地方向データDT40は、画像撮像装置1000の天地方向を示すデータである。天地方向算出手段222は、第1軸と水平面とが成す第1傾斜度が所定の閾値(たとえば、10度)以上であれば、第1軸の方向が天地方向と判断する。また、天地方向算出手段222は、第2軸と水平面とが成す第2傾斜度が所定の閾値以上であれば、第2軸の方向が天地方向と判断する。」
取消決定では、甲1のこの構成が、「ロール方向の傾きとピッチ方向の傾きを検出する傾き検出部と,」(構成要件1C)に該当すると判断されたが、裁判所は、この判断は誤りであるとした。
(裁判所の判断)
「・・・甲1で測定される第1傾斜度及び第2傾斜度は,光軸が水平面と平行である場合を除き,撮像装置を光軸まわりに回転させる方向の傾きの角度とは異なるものである。
そして,甲1発明における「天地方向の判定」をする天地方向算出手段222は,傾斜度測定部250が算出した重力加速度の方向および大きさに基づいて判定するものである(【0079】,【0087】,【0088】,【0107】)。
そうすると,甲1発明で測定される第1傾斜度及び第2傾斜度は,撮像装置の分野における技術常識であるところの「ロール方向の傾き」とは異なるものであり,第1傾斜度及び第2傾斜度に基づいて判定される「天地方向」は,本件発明1の「ロール方向の傾き」とは異なるものといえるから,甲1発明は,「ロール方向の傾き」を検出するものであるとも,表示するものであるともいえない。」
甲1には、下図も掲載されており、撮像装置が傾いている場合には、傾きを是正するように注意を促すことが記載されている。一見するとロール角を求めているようであるが、下図の「右に30°回転」がロール角と一致するのは、光軸が水平面と平行な場合だけである、ということである。
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