原告DAPリアライズが、被告シャープがスマートフォンを製造販売する行為が特許権侵害であるとして訴えた事件である(平成30年(ワ)第36690号)。
スマートフォンは付属のディスプレイに画像を表示するほか、外部の大画面のディスプレイに画像を出力することができる。発明は、スマートフォンがもともと持っている付属表示データ生成手段とは別個の表示データ生成手段を使用することなく若干の機能追加だけで、外部ディスプレイ向けの表示データを生成するのが特徴である。
具体的には、単一のVRAMを用い、付属のディスプレイに表示する際は、付属のディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度のビットマップを読み出し、外部ディスプレイに画像データを送信する際には、付属のディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度のビットマップを読み出す点である(下記構成要件H)
(構成要件H)
前記グラフィックコントローラは,前記携帯情報通信装置が「本来解像度がディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を処理して画像を表示する場合に,
前記単一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し,「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し,該デジタル表示信号を前記ディスプレイ制御手段に送信する機能と,
前記単一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し,「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し,該デジタル表示信号を前記インターフェース手段に送信する機能と,
被告の非侵害の主張は、明細書の記載に基づくクレーム解釈を前提としている。
明細書には、
「「適切に処理する」とは,ディスプレイ手段,又は,データ処理手段及びディスプレイ手段が,表示信号等に含まれている画素ごとの論理的な色情報を,ディスプレイ手段の画面を構成する物理的な画素の色表示として過不足なく現実化することを意味しており,より具体的には,
物理的な現実化にあたって画素を間引いて表示画像の解像度を小さくしたり,画素を補間して表示画像の解像度を大きくしたりしないことを意味している。
」
との記載がある。この記載に基づいて、被告は、データ処理手段が行う「必要な処理」(構成要件D)は、間引きや補完をしないことであるとし、非侵害を主張したが、裁判所は被告の主張を採用しなかった。
実は被告の主張には伏線がある。シャープらを被告として争われた別件訴訟において、本件とファミリの特許について上記のようなクレーム解釈に基づき、非侵害と判断された。(余談になるが、当該別件訴訟には、自分も代理人として関与していた。)
この点について、裁判所は以下のとおり述べた。
「c 別件判決における判断との関係について
証拠(乙4)及び弁論の全趣旨によれば,別件判決においては,別件発明の構成要件Iに「前記データ処理手段は,前記画像データファイルの本来解像度が前記ディスプレイパネルAの画面解像度より大きい場合でも,前記画像データファイルをリアルタイムで処理すること
によって,及び/又は,前記データファイルを前記記憶手段に一旦格納し,その後読み出した上で処理することによって,前記画像データファイルの本来画像の全体画像のデジタル表示信号を生成する機能を有する」とあるところ,そこでの「処理する」は別件特許に係る明細書の「適切に処理する」(本件明細書の【0032】と同じ記載。)をいうとの判断がされたことが認められる。
しかしながら,別件発明の構成要件Iにおける「データ処理手段」
は,上記のとおり,「画像データファイル」を「処理する」ことによって「前記画像データファイルの本来画像の全体画像のデジタル表示信号を生成する」と規定されているものであるのに対して,本件発明の構成要件Dの「中央演算回路」の処理については,前記aのとおり,
「処理」の結果として生成されるものが「本来画像の全体画像」である旨の規定はない。
したがって,別件発明の構成要件Iにおける「処理する」の解釈は,
本件発明の構成要件Dにおける「処理する」の解釈を左右するものではない。」
整理すると、別件では、クレームに「本来画像」という文言があるために、明細書の記載に基づいてクレームが狭く解釈されたが、本件では本来画像という文言がないので、別件と同じクレーム解釈が成り立たなかった。
(参考URL) 090208_hanrei.pdf (courts.go.jp)
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