2021年8月22日日曜日

[均等論]骨の固定手段装置(知財高裁 平成29年12月5日)

  骨の断片の固定のための固定手段装置の特許を有する個人が株式会社ホムズ技研を訴えた事件の控訴審である。発明は、大腿骨頸部の骨折における骨の断片の固定のための大釘に関するものである。下の図に示すように、スリーブの内部に湾曲したピンを備えている。
【請求項1】
A 骨折における骨の断片を固定するための固定手段としての装置であって, 
B 固定手段(1)は大腿骨頚部の骨折(4)における骨断片(2,3) を固定するための大腿骨頚部用の大釘であり, 
C 前記固定手段(1)は作動可能位置(B)にピン(7)を挿入するために後部が開口したスリーブ(5)を備え, 
D 前記スリーブ(5)は2つの対向する壁面(8,9),すなわち側面開口部(10)を有する第1縦方向壁面(8)と案内面(12)が 斜め前方向に前記側面開口部(10)の先端部(13)まで延在する第2縦方向壁面(9)とにより細長い空間(6)が画定され, 
E 前記案内面(12)は,前記ピン(7)が,前記スリーブ(5)に 対して前進方向に移動される際に,前記ピン(7)の湾曲前端部(7 f)を案内して,前記ピン(7)の前記湾曲前端部(7f)が前記側 面開口部(10)を介して出口に押出されるように形成された装置に おいて, 
F 前記湾曲前端部(7f)に一番近接する前記ピン(7)は前方部 (7a)を含み,前記ピン(7)が前記スリーブ(5)の作動可能位置(B)に存在する際に前記前方部(7a)は,前記前方部(7a) の縦方向に直線状であり,また前記ピンの後方部(7e)から斜め前方向に方向づけられて前記湾曲前端部(7f)に至り,前記案内面 (12)に近接する前記第2壁面(9)の前方部(9a)まで延在する 
G ことを特徴とする装置。 

 上記引用中で下線部を引いた箇所が被告製品との相違点である。被告製品は、ピンが湾曲していない。
(裁判所の判断)
 (イ) また,本件明細書【0002】,【0003】及び【0006】には,本件各発明は,特許文献1(甲20)及び特許文献2(乙9の1)に記載された従来の固定手段では,ピンが作動可能位置から移動してしまうことで側面開口部を通る 出口を見つけられずにスリーブ内部で変形する危険性や,周囲の骨物質に移動する ピンの前端部の部分が有利に曲がった状態へ変形しない危険性があったことから, 特許請求の範囲請求項1記載の構成を採用することで,①ピンが作動可能位置を離れ意図しない動作をすることを防ぎ(第1の作用効果),及び/又は,②ピンの端部において骨の断片の安定した固定が得られ,かつ,骨の断片を貫通するピンが減るような有利な湾曲状態を得られるようにした(第2の作用効果)ものであること が記載されている。そして,特許請求の範囲請求項1記載の構成のうち,構成要件Fを除く構成は,従来技術である乙9発明に開示されていると認められるから(乙9の1・2),本件発明は,構成要件Fに規定された構成を採用することにより, 第1の作用効果及び第2の作用効果(本件各作用効果)を奏すると解される。 
 ・・・
 一方,本件発明1において,第1の作用効果を奏するのは,ピン7がスリーブ5の作動可能位置Bに存在する際に,ピン7の前方部7aが,ピンの後方部7eから第2壁面9に向かって斜め前方向に延びて湾曲前端部7fに至り,案内面12に近 接する第2壁面9の前方部9aに至ることで(本件明細書【0012】,【図1】), ピン7の前方部7aと第2壁面9との間の遊びがなくなり,ピン7の第2壁面に向かう方向の移動が抑制されることによるものと認められる。また,第2の作用効果を得られるのは,第1の作用効果によって,ピンが作動開始位置からずれにくい結果,ピンの湾曲前端部7fが案内面12に沿って押し出されて,意図した湾曲が得られることによるものと認められる。 

 この裁判例では、構成要件Fの相違点に係る要件は、従来技術と相違する構成であること、および、作用効果を奏するための構成であることから、本質的部分であると判断した。


平成29年(ネ)第10066号

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