2021年8月16日月曜日

[均等論]振動機能付き椅子事件(知財高裁平成28年6月29日)

 本件は、均等論について判示した大合議事件のわずか3カ月後に判決が言い渡された事件であるにもかかわらず、大合議事件の判示にしたがった判断がなされた事件である。
 発明の対象は、典型的には揺動可能な乳幼児用の椅子である。明細書によれば、従来は、下記の左図のように1つの点を中心に回転する椅子が知られていた。しかし、従来の構成は、①弧形状の鉄心を用いているので、ソレノイドとの間に距離が生じるという問題点、②着座位置により座席の重心位置が異なった場合、基点を中心とした回転モーメントが増大するという問題点があった。
 
 本発明は上記①②を解決する構成として、上記右図に示すように、離間して設けられた2つのロッドが揺動する構成を採用した。
 請求項1の構成は以下のとおりである。被告製品との相違点と認定されたのは下線を引いた要件である。
【請求項1】
A ベースと,該ベースに対して揺動可能に設けられた座席と,を備えた揺動機能付き椅子であって,
B 前記座席に支持された磁性材料の部材と,
C 前記座席の静止時における磁性材料の部材位置とは異なる位置に,前記磁性材料の部材に近接して前記ベースに固定され,電磁力により前記磁性材料の部材を揺動方向に吸引するソレノイドと,
D 該ソレノイドを所定のタイミングで励磁することで前記座席の揺動動作を制御する揺動制御手段と,を備え,
E 前記磁性材料の部材とソレノイドとは離間した状態で揺動する揺動機能付き椅子において,
F´ 前記ベースには,少なくとも2つのロッドが互いに前記座席の揺動方向に離間した位置で揺動可能に設けられ,この2つのロッドに前記座席が揺動方向に対して離間された2つの異なる位置で支持され,
G 前記磁性材料の部材は,所定の間隔で対向配置された2つの磁性材料の部材で構成され,
H 前記ソレノイドは前記座席の揺動静止時における前記2つの磁性材料の部材間の中点位置近傍で前記ベースに固定され,
I 前記ソレノイドは,巻線軸に沿った貫通穴を有し,前記巻線軸を前記座席の揺動方向に対して平行に前記ベースに固定され,
J 前記2つの磁性材料の部材は,前記座席に固定された直線形状のシャフトに固定され,
K 前記シャフトは,前記貫通穴に挿入されていることを特徴とする
L 揺動機能付き椅子。

 被告製品は、揺動可能な2点で支持する構成だがロッド方式ではない。



 本発明の本質的部分について、以下のとおり判示した。
(裁判所の判断)
(イ) 本件発明の貢献の程度
・・そして,本件明細書の記載及び上記各周知技術によれば,本件発明は,座席を連続して揺動させることが可能な乳幼児用の椅子等であって,揺動制御手段としてソ レノイドを採用し,座席支持機構としてロッド1点支持方式を採用するものに,従来技術である,ロッド2点支持方式という座席支持機構,及び,直線状のシャフトをソレノイドに挿入するという構成を適用したものということができる。また,従来技術であるロッド2点支持方式は,座席を連続して揺動させることが可能な乳幼児用の椅子等に従来から存在した座席支持機構であるから,座席を連続して揺動させることが可能な乳幼児用の椅子等であれば,揺動制御手段としてソレノイドを採用するものであっても,座席支持機構自体にロッド2点支持方式を組み合わせることは,さほど困難なこととはいえない。 したがって,本件発明の貢献の程度は,座席支持機構としてロッド1点方式ではなく,ロッド2点支持方式を採用するという点においては,それ程大きくないと評価することができるから,本件発明の本質的部分は,座席支持機構に関する限度に おいては,特許請求の範囲の請求項1の記載とほぼ同義となる。 
オ 本件発明の本質的部分
 (ア) 以上によれば,座席を連続して揺動させることが可能な乳幼児用の椅子等であって,揺動制御手段としてソレノイドを有するものにおいて,座席支持機構としてロッド2点支持方式を採用したことは,本件発明の本質的部分(特許請求の範囲のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分)であると認められる。 

平成28年(ネ)10007号

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