2021年8月21日土曜日

[均等論]導光板事件(知財高裁 令和元年7月10日)

 嶋田プレシジョンがAmazonのKindleが特許を侵害しているとして訴えた事件である。原審、控訴審ともに均等不成立と判断されたが、第1要件の判断過程が異なる点が面白い。
 発明は、液晶のバックライト等に用いられ、光源からの光を均一に照射するための導光板に関する。従来は、裏面に多面プリズム33で構成されていたが(下の左図)、本件特許は裏面に回折格子3で構成されている(下の右図)。

【請求項1】
A 透明な板状体の少なくとも一端面から入射する光源からの光を,上記板状体の裏面に設けられた回折格子によって板状体の表面側へ回折させる導光板であって, 
B 上記回折格子の断面形状または単位幅における格子部幅/非格子部幅の比の 少なくとも1つが,上記導光板の表面における輝度が増大し,かつ均一化されるよ うに変化せしめられていることを特徴とする 
C 導光板。

 これに対し、被告製品において光源からの光を均一にしているのは、ディスプレイ側に設けられたライドガイドが微細構造体を有しているためである。微細構造体はライトガイドの「表面」に設けられており、「裏面」ではない点が相違点であるとされた。

(裁判所の判断)
イ 本件における第1要件の成否 
 本件発明に係る特許請求の範囲及び明細書の記載は,前記(1⑵のアイ)のとおりであり,要するに,本件発明は,液晶表示装置に用いられる平面照光装置に関し, 導光板の下面に多数の多面プリズムを設ける従来技術の下では,乱反射が起きて上面に向かう光量が減り,照光面である上面に極端な明暗のコントラストが生じるなどの問題があったところ,液晶表示装置を均一にかつ高い輝度で照らすという課題を解決するため,導光板である板状体の両面のうち,照光面とは反対側の面に回折格子を設け,この回折格子の回折機能によって,導光板である板状体に入射した光が照光面の側において均一にかつ高い輝度を発揮するようにしたものである。 
 そして,照光面とは反対側の面に回折格子を設けるようにしたのは,本件明細書の記載(前記1⑵イの(エ)(オ)(カ))によれば,本件発明においては,透明な板状体からなる導光板の両面のうち照光の効果を生じさせるのとは反対の面(裏面)に,光の入射角と臨界角をもとに適切に決められた間隔で,回折格子(刻線溝)が加工されており,これにより,導光板の一端面から裏面に向けて入射した光は,上記回折格子によって導光板の表面(照光の効果を生じさせる面)に向かって回折され,導 光板の表面がこれに直交する高強度の出射光と導光板内に導かれる全反射光によっ て極めて明るく照らされるようにしたからであり,以上が本件発明における回折機能の機序であるものと認められる。 
 このような機序が本件発明の技術的思想を構成していることからすれば,照光面とは反対側の面に回折格子を設けるようにしたこと,すなわち本件発明のうち板状体の裏面に回折格子を設けるとの部分は,本件発明における本質的部分であるというべきである。

 このように回折格子は裏面にあるからこそ、本件発明の効果を奏する、という発明の機序に基づき、「裏面に回折格子を設ける」が本質的部分であると判断された。

 なお、原審では、大合議事件の判示に従って、従来技術に対する貢献が小さいため、本質的部分は、請求項とほぼ同義であるとして第1要件を判断しており、判断の仕方を変えている点は興味深い。
 さらに面白いことに、原審が、従来技術と言っているのは、29条の2が適用される、いわゆる拡大先願発明であったことである。そのこころは、先願が公開される前に出願された後願であっても、先願と内容が同一である以上、新しい技術を公開するものではないから特許を与えないという29条の2の趣旨から、拡大先願発明も従来技術として参酌すべきというものである。
 しかも、原審は、この29条の2の文献では、本件発明は無効にできないと判断している。無効にすることができない文献であっても、均等論における貢献の程度が小さい、と判断することは可能ということを述べている。そもそも、無効にできてしまえば、均等を論ずる必要もないのであるから、それはそうかもしれない。8月15日に投稿した情報端末サービスシステム事件もそのような判断をしていると思われる。

平成31年(ネ)第10010号

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