2021年8月10日火曜日

[裁判例]デジタル・アート配信制御方法事件(知財高裁令和3年7月29日)

 「インターネットを介したデジタル・アート配信および鑑賞の制御ならびに画像形成のためのシステムおよび方法」という発明の特許出願の拒絶審決に対する審決取消訴訟である。
 発明は、ディスプレイ装置にデジタル・コンテンツを記憶させる方法であって、サービス管理システムを有するサービス・クラウドが記憶・管理しているデジタル・コンテンツ・アイテムをディスプレイ装置に供給するものであり、このサービスにまつわる種々の機能が請求項に盛り込まれている。
 本件発明と引用発明の相違点は4つあるが、判断の誤りが指摘された相違点は次の2つである。

(相違点1) 本願発明8は「前記供給エンジンにより供給を受けた,前記1つまたは複数のデ ィスプレイ装置の動作状態および性能レベルを反映したデータを,前記サービス・ クラウドのサービス管理システムにより収集する」構成(構成H)を有するのに対して,引用発明はそのような構成を有しない点。
(相違点2) 本願発明8は「認証されたデジタル・コンテンツ・アイテムを,前記サービス・ クラウドの外部の創作地点から,インターネットを介して,前記1つまたは複数のディスプレイ装置へと,前記サービス・クラウドの外部コンテンツ・ゲートウェイにより転送する」構成(構成J)を有するのに対して,引用発明はそのような構成を有しない点。

 裁判所は、上記相違点について次のように判断した。
(2) 相違点1に係る容易想到性の判断の誤りについて 
 甲2の記載(・・略・・)からすると,甲2技術は,ファイルの効率的な配信のための技術であって,そこで取得される品質情報は,クライアント計算機の性能や動作状態,あるいは回線状態などに関するものと認められる。したがって,甲2技術における「受信品質の指標・・・および受信性能の指標を含む品質情報」に,ディスプレイ装置の品質等の情報が含まれているとまでは認められず,その点に係る技術常識等を認めるべき他の証拠もない。

(3) 相違点2に係る容易想到性の判断の誤りについて
 甲3技術がピアツーピアシステムに係るものである(構成i)の に対し,引用発明は,コンテンツの取込み,自動パブリッシング,配信及び格納並びに収益化等の複合的なタスクが実行可能であるもので,それ自体が主体的にコン テンツの取込みや配信等を行う方法であるものと解されるから,甲3技術と引用発明とは,少なからず技術分野を異にするものというべきである。この点,「送信クライアント,受信クライアント及びサーバとの間でデータ送受信を行う方法」という 広い技術分野に属することから直ちに,それらの関係性等を一切考慮することなく, 引用発明に甲3技術を適用することを容易に想到することができるものとは認め難い。 
 そして,甲3に,他に,甲3技術を引用発明に適用する動機付けや示唆となる記載があるとも認め難い。

 相違点1については甲2の認定誤りを指摘している。要するに、甲2に「品質情報」という記載があるが、中身は本件発明とは異なるから、引用発明と甲2を組み合わせても本願発明に想到しないということである。
 相違点2については、動機付けの判断の誤りを指摘している。ASPが運営する引用発明とピアツーピアでは技術分野が異なるから、それらを考慮せずに組み合わせることは誤りである。

令和2年(行ケ)第10134号

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