2021年8月17日火曜日

[均等論]美容器事件(知財高裁令和3年3月8日)

  美容器に関する特許を保有する株式会社MTGが株式会社ファイブスターを訴えた事件の控訴審である。オリジナルの被告製品は文言侵害であり、新被告製品が均等侵害かどうか争われた。
 明細書によれば従来の美容器はハンドルを中心線に沿って上下又は左右に分割した構成を有していた(下の左図)。これに対し、本件発明は、表面から内方に窪んだ凹部にハンドルカバーが覆われた構成を備えている(下の右図)。これにより、、ハンドルの成形精度や強度を高く維持することができるとともに、組み立て作業性の向上が図られるという効果がある。

 

 請求項1は、以下のとおりである。
【請求項1】
A 棒状のハンドル本体と,該ハンドル本体の表面から内方に窪んだ凹部 と,上記ハンドル本体との結合部分が露出しない状態で上記凹部を覆うように上記ハンドル本体に取り付けられたハンドルカバーとからなるハンドルと, 
B 上記ハンドル本体の長手方向の一端に一体的に形成された一対の分枝部と, 
C 該一対の分枝部のそれぞれに形成されているとともに,上記凹部に連通する軸孔と, 
D 該軸孔に挿通された一対のローラシャフトと, 
E 該一対のローラシャフトに取り付けられた一対のローラと,を備え, 
F 上記ハンドル本体の表面及び上記ハンドルカバーの表面が,上記ハンドルの表面を構成している, 
G 美容器。

 新被告製品は、構成要件Cに相当する構成が、「一対の分枝部はそれぞれ中空であり,当該中空は,ハンドル本体の穴部に貫通していない。」ので、「連通する軸孔」を有していない。
 裁判所は、均等の第1要件について以下のとおり判断した。

(裁判所の判断)
 前記2⑴ア(ア)のとおり,本件発明の技術的思想(課題解決原理)は,二股の美容器において,ハンドルを中心線に沿って上下又は左右に分割して, ハンドルの内部に各部材を収納する構成とした場合には,ハンドルの成形精度や強度,組み立て作業性が低下するなどの技術的課題が生じていたため, ハンドルを,凹部を有するハンドル本体と,その凹部を覆うハンドルカバーで構成することにより,ハンドルが上下又は左右に分割された従来の構成よ りも,ハンドルの成形精度や強度を高く維持するとともに,美容器の組み立 て作業性が向上するようにして,上記の技術的課題の解決を図ったというものである。このような本件発明の技術的思想(課題解決原理)からすれば, 分枝部の軸孔とハンドル本体の凹部が連通していない場合であっても,ハンドルを,凹部を有するハンドル本体と,その凹部を覆うハンドルカバーで構成するときには,なお上記の従来の構成の問題点により生ずる技術的課題を解決できることに変わりはなく,この点を置換することによって技術的思想 (課題解決原理)が本件発明とは別のものとなるということはできない。また,新被告製品のように,「連通する軸孔」との構成をとらずに連通していない構成をとった場合にも,ハンドルの成形精度や強度を高く維持するとと もに,美容器の組み立て作業性が向上するとの上記作用効果を奏することについては,本件発明と変わらないものと認められる。したがって,新被告製 品の構成c2が非貫通の構成であって,「連通する軸孔」(構成要件C)の文言を充足しないという,本件発明と新被告製品の異なる部分(相違部分) は,本件発明の本質的部分ではなく,新被告製品は均等の第1要件を充足するものと認められる。 

 この裁判所の判断は、明細書に記載された発明の課題解決原理に沿ったものであり、かつ、審査経過における意見書での特許権者の主張にも沿ったものである。この判決では、従来技術に対する貢献の大きさには触れられていない。

令和2年(ネ)第10035号

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