ナビゲーション装置の特許を有るパイオニア株式会社が株式会社いいよねっとを訴えた事件の控訴審である。発明の概要は、ナビゲーション装置において、経路設定を行った時点と、経路案内を開始する時点とで、車両の位置が異なる場合(「ずれ」がある場合)に、経路案内を開始する位置を基準として経路案内を開始するというものである。本件特許と被控訴人製品では、この「ずれ」の求め方が異なる。
【請求項1】
A 移動体の現在位置を測定する現在位置測定手段と,
B 前記現在位置から経由地を含む前記移動体が到達すべき目的地までの 経路設定を指示する設定指令が入力される入力手段と,
C 前記設定指令が入力され,経路の探索を開始する時点の前記移動体の 現在位置を探索開始地点として記憶する記憶手段と,
D 前記記憶した探索開始地点を基に前記経路の探索を行い,当該経路を経路データとして設定する経路データ設定手段と,
E 前記移動体の現在位置と前記設定された経路データとに基づいて前記移動体を目的地まで経路誘導するための誘導情報を出力する誘導情報出力手段と,
F 前記移動体の移動に基づいて前記誘導情報出力手段を制御する制御手段と,を備え,
G 前記制御手段は,前記記憶した探索開始地点と,当該経路データが設定され,前記移動体の経路誘導が開始される時点の当該移動体の現在位置を示す誘導開始地点と,が異なる場合に,前記誘導開始地点からの前記移動体の誘導開始に基づいて前記誘導情報出力手段を制御する
H ことを特徴とするナビゲーション装置。
本件特許では、上記クレームの引用において下線を引いたように、探索開始地点と誘導開始地点の「地点」どうしを比較する。
これに対し、被控訴人製品では、マップマッチングにより車両の現在位置と一致する地図リンクを特定し、特定された「地図リンク」と設定された「経路リンク」とが一致するかどうかを判断し、一致する場合には経路リンクに基づく案内が行われ、一致しない場合には所定の絞り込みによって道路境界領域内のリンクと現在位置とを比較する。
均等の第1要件について、裁判所は次のように判断した。
(裁判所)
イ 本件明細書によれば,本件発明は,従来技術では経路探索の終了時にいくつかの経由地を既に通過した場合であっても,最初に通過すべき経由予定地点を目標経由地点としてメッセージが出力されること(【0008】)を課題とし,このような事態を解決するために,通過すべき経由予定地点の設定中に既に経由予定地点
のいずれかを通過した場合でも,正しい経路誘導を行えるようなナビゲーション装置及び方法を提供することを目的とし(【0011】),具体的には,車両が動くことにより,探索開始地点と誘導開始地点のずれが生じ,車両が,設定された経路上にあるものの,経由予定地点を超えた地点にある場合に,正しく次の経由予定地点を表示する方法を提供するものである(【0018】【0038】)。・・・
このように,本件発明は,上記技術常識に基づく経路誘導において,車両が動くことにより探索開始地点と誘導開始地点の「ずれ」が生じ,車両等が経由予定地点を通過してしまうことを従来技術における課題とし,これを解決することを目的として,上記「ずれ」の有無を判断するために,探索開始地点と誘導開始地点とを比較して両地点の異同を判断し,探索開始地点と誘導開始地点とが異なる場合には,
誘導開始地点から誘導を開始することを定めており,この点は,従来技術には見られない特有の技術的思想を有する本件発明の特徴的部分であるといえる。
したがって,探索開始地点と誘導開始地点とを比較して両地点の異同を判断する構成を有しない被控訴人装置が本件発明と本質的部分を異にすることは明らかである。
確かに、本件特許の構成要件のうちでは、探索開始地点と誘導開始地点との「ずれ」があるかを判断する構成要件Gが特徴的部分であると言えるが、控訴人が主張しているのは、請求項では地点と地点を比較すると記載しているが、必ずしも地点どうしの比較ではなく、リンクどうしの比較であっても、「経路探索の終了時にいくつかの経由地を既に通過した場合」の課題(上記判示の下線部)を解決できるから良いのではないか、ということである。
その意味では、若干かみ合っていない(なぜ「地点どうし」であることが大事なのかがはっきりしない)ような気がするが、裁判所が最初に「被控訴人装置が,本件発明における探索開始地点と誘導開始地点と
の比較を各地点の存するリンクとリンクとの比較に置換したものであるとは認め難い。」と判示しているとおり、均等論の前提に誤りがあることに起因するのかもしれない。
また、「構成要件Gの解釈」のところでは、出願経過において、出願人が「探索開始地点と誘導開始地点を比較する点を明確に致しました」と主張したことにも言及しており、そのような事情も踏まえて、本質的部分という認定になったと思われる。
平成28年(ネ)第10096号
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