2021年8月7日土曜日

「進歩性の拒絶理由に対する各種反論の有効性」(パテント2021年7月号より)

「進歩性の拒絶理由に対する各種反論の有効性」パテント2021年7月号田中研二先生の論文より。 
 この論文では、進歩性の拒絶理由通知に対して意見書だけで反論した場合の有効性を調査している。全部で716件を調べたとのことで頭が下がる。
 全716件の特許査定率は82.5%とのことで、全案件の特許査定率85.2%と遜色がなかった。
 意見書だけで反論したにしては意外に特許査定率が高いと感じたが、意見書だけで心証を覆せる自信があった案件の集合だからではないかと思われる。

 さて、分析にかかる各種反論は、下記の5種類である。
①事実認定に対する反論
②設計事項ではない反論
③動機づけがないとの反論
④阻害要因が存在するとの反論
⑤有利な効果を奏するとの反論

 これらのうち、反論の有無と審査結果との間に有意な結果が見られたのは①事実認定に対する反論だけであり、②~⑤の反論は、審査結果に影響しなかった。これは感覚に合う結果である。①は組み合わせが容易と考えるか、という評価の問題ではなく、引用発明等の認定が間違っているということだからである。

 少し意外に思えたのが、裁判例では進歩性ありと認定される場合に、④阻害要因があるという理由をよく見かけるが、審査では阻害要因の反論がそれほど効果的ではなかったという結果である。これは裁判の俎上に上がるのは、審査のフィルタにかけられたものであり、①事実認定の誤りがあれば審査の段階で進歩性ありと判断されるため①の事案が少なく、④阻害要因を理由として判断が覆された例が目立ってしまうだけかもしれない。そういった意味では、裁判例で阻害要因が認められているからといって阻害要因を探すのではなく、④阻害要因よりも①事実認定についての反論を中心に検討すべきであろう。

 なお、④阻害要因をさらに小分類に分けて調査を行った結果から、田中先生は、「審査基準に記載された類型でない限り、多少の不利益があっても決定的な阻害要因といえない、というのが多くの審査官の共通見解であると考えられる」という見解を述べられている。このことから、阻害要因について反論する際には、どの類型の阻害要因に該当するのか、審査基準ないし裁判例を示すことが一つのポイントではないかと思う。
 

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