2021年9月4日土曜日

[商標]マツモトキヨシ事件(知財高裁令和3年8月30日)

  マツモトキヨシの音商標の出願が拒絶審決を受けたことに対する審決取消訴訟である。
 商標法4条1項8号は、他人の氏名等を含む商標は、その他人の承諾を得なければ登録できないことを規定している。
 特許庁は、「マツモトキヨシ」の音商標は、「松本清」、「松本潔」、「松本清司」等の人の氏名として 客観的に把握されることを否定することはできないとして、出願を拒絶した。

(裁判所の判断)
 また,同号(注:4条1項8号のこと)は,出願人の商標登録を受ける利益と他人の氏名,名称等に 係る人格的利益の調整を図る趣旨の規定であり,音商標を構成する音と同一の称呼の氏名の者が存在するとしても,当該音が一般に人の氏名を指し 示すものとして認識されない場合にまで,他人の氏名に係る人格的利益を 常に優先させることを規定したものと解することはできない。 
 そうすると,音商標を構成する音と同一の称呼の氏名の者が存在するとしても,取引の実情に照らし,商標登録出願時において,音商標に接した者が,普通は,音商標を構成する音から人の氏名を連想,想起するものと認められないときは,当該音は一般に人の氏名を指し示すものとして認識されるものといえないから,当該音商標は,同号の「他人の氏名」を含む商標に当たるものと認めることはできないというべきである。

 以上のように4条1項8号の規定の解釈について述べた上で、次のように判示した。

(裁判所の判断)
 前記アの取引の実情の下においては,本願商標の登録出願当時(出願日平成29年1月30日),本願商標に接した者が,本願商標の構成中の「マツモトキヨシ」という言語的要素からなる音から,通常,容易に 連想,想起するのは,ドラッグストアの店名としての「マツモトキヨシ」, 企業名としての株式会社マツモトキヨシ,原告又は原告のグループ会社 であって,普通は,「マツモトキヨシ」と読まれる「松本清」,「松本 潔」,「松本清司」等の人の氏名を連想,想起するものと認められない から,当該音は一般に人の氏名を指し示すものとして認識されるものと はいえない。 
 したがって,本願商標は,商標法4条1項8号の「他人の氏名」を含む商標に当たるものと認めることはできないというべきである。 

 特許庁は、これまでに「マツモトキヨシ」を含む商標の登録を認めている。音商標に関して出願を拒絶することとしたのは、事実認定として、音商標としての「マツモトキヨシ」の周知性は、4条1項8号の判断において、他人の氏名を連想、想起させないほどではないということであったと思う。つまり、4条1項8号の規定の解釈は裁判所と同じであるが、事実認定が異なっていた。

令和2年(行ケ)第10126号 

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