2022年4月8日金曜日

[EP]技術的特徴と非技術的特徴からなるクレーム (審査ガイドライン)例2

 第2の例は、貨物輸送のオファーとデマンドをユーザの現在位置に基づいてマッチングするソフトウェア関連発明である。

「 請求項1 
貨物輸送の分野においてオファーと要求を仲介するためのコンピュータで実装された方法であって、以下のステップを含む、方法:
(a)位置及び時間データを含む、ユーザーからの輸送オファー/デマンドを受信するステップ;
(b)ユーザが装備しているGPS端末からユーザの現在位置情報を受信するステップ;
(c)新たなオファー/デマンド要求の受信後、新たな要求に応じることができるまだ満たされていない以前のオファー/デマンドがあるかどうかを確認するステップ;
(d)存在する場合、両ユーザの現在位置が最も近いものを選択するステップと
(e)そうでない場合、新しい要求を保存する。」

 課題ー解決アプローチのステップ(ⅰ)は、発明の技術的性質に貢献する特徴を発明の文脈で達成される技術的効果に基づいて決定することであった。
 例2においては、発明の技術的性質に貢献する特徴について次のように判断される。

「ステップ(i):請求項の方法の根底には、次のビジネス方法がある。
 貨物輸送の分野におけるオファーとデマンドを仲介する方法であって、以下を含む:
 位置と時間のデータを含む、ユーザーからの輸送のオファー/デマンドを受け取ること;
 利用者の現在位置に関する情報を受信するステップと 
 新しいオファー/デマンドの受信後、新しい要求に応じることができるまだ満たされていない以前のオファー/デマンドがあるかどうかを確認する;
 もしある場合、両ユーザーの現在位置が最も近いものを選択する;
 それ以外の場合は、新しいリクエストを保存する。

 このようなビジネス方法は、それ自体非技術的であり、法52条(2)(c)及び(3)の下で除外される。オファーとデマンドを仲介することは、典型的なビジネス活動である。利用者の地理的位置を利用することは、輸送仲介業者が、非技術的でビジネス上の考慮のみに基づくビジネス方法の一部として指定することができる種類の基準である。このビジネス方法は、発明の文脈ではいかなる技術的目的も果たさず、したがって、その技術的性質に貢献するものでもない。
 したがって、このビジネス方法の技術的実施に関連する特徴のみを、本発明の技術的性質に貢献する特徴として特定することができる。
 ビジネス方法ステップは、コンピュータによって実行される。
 GPS 端末から現在位置情報を受信する。

 上記のとおり、例2の発明の技術的特徴は、下線を引いた2点だけであり、ビジネス方法自体はすべて捨象されてしまった。
 その結果、サーバーコンピュータがGPS端末から位置情報を受信する受注管理方法を開示している文献D1に基づいて、「ビジネス方法ステップを実行するためにD1の方法を適応させることは、簡単であり、ルーチンのプログラミングのみを必要とする。したがって、法52条(1)及び56条にいう進歩性はない。」と一蹴されてしまうことになる。
 
 例1の携帯端末でのショッピングを容易にする方法と例2の貨物輸送のマッチングを行う方法は、いずれもソフトウェア関連発明であるが、例1はサーバーコンピュータと携帯端末からなる分散システムと判断されたのに対し、例2は本質的にビジネス方法というように判断が分かれた。
 これは、例2においては、各ステップの主体が特定されていないことが原因ではないかと思われる。ガイドラインの備考においても次のように述べている。

「備考:この例では、ステップ(i)の最初の分析から、クレームされた方法の根底には、オファーとデマンドを仲介する方法があり、それがビジネス方法であることは明らかであった。ビジネス方法を定義する特徴は、そのコンピュータによる実装の技術的特徴から容易に分離可能であった。

 日本では、各ステップの主体が特定されていないと、発明が明確でないとされ、記載要件違反となるが、欧州では進歩性の判断において技術的特徴から分離されて、簡単に進歩性を否定されてしまうことになる。

2022年4月7日木曜日

[EP]技術的特徴と非技術的特徴からなるクレーム (審査ガイドライン)例1

 第1の例は、ユーザが購入したい2つ以上の商品を選択すると、ユーザの現在位置に基づき、商品を購入するのに最適なルートを提示するソフトウェア関連発明である。

「請求項1 
携帯端末でのショッピングを容易にする方法であって 
(a)ユーザが購入したい商品を2つ以上選択するステップと
(b)前記携帯端末は、前記選択された商品データおよび前記端末の位置情報をサーバに送信し、
(c)サーバーは、業者のデータベースにアクセスし、選択された製品の少なくとも1つを提供する業者を特定し、
(d)サーバーは、端末の位置と特定された業者とに基づいて、以前のリクエストに対して決定された最適なショッピングツアーが格納されているキャッシュメモリにアクセスして、選択された商品を購入するための最適なショッピングツアーを決定し、
(e)前記サーバは、前記最適なショッピングツアーを前記携帯端末に送信して表示させる。」

 この発明に最も近い先行技術は、1つの商品を選択するとその商品を販売する業者の情報を提供する方法である。
「ユーザーが1つの商品を選択し、サーバーがデータベースからユーザーに最も近い選択された商品を販売している業者を決定し、この情報を携帯端末に送信する携帯端末でのショッピングを容易にする方法を開示している文献D1が最も近い先行技術として選択される。」

 この先行技術D1との相違点は、課題ー解決アプローチによって次のように特定される。
「ステップ(iii):請求項1の主題とD1との相違点は、以下の通りである。
(1)ユーザは、(単一商品のみではなく)2つ以上の商品を選択して購入することができる。
(2)2つ以上の製品を購入するための「最適なショッピングツアー」がユーザーに提供される。
(3)最適なショッピングツアーは、サーバーが、過去のリクエストに対して決定された最適なショッピングツアーが格納されているキャッシュメモリにアクセスして決定する。

 相違点(1)及び(2)は、その商品を売っているお店の順番を決めるという、ビジネスの基本的な考え方の変更である。技術的な目的はなく、これらの相違点から技術的な効果を見出すことはできない。したがって、これらの機能は D1 に対して技術的な貢献を構成しない。
 一方、相違点(3)は、相違点(1)及び(2)の技術的実現に関連するものであり、キャッシュメモリに格納された過去の要求にアクセスすることにより、最適な買い物ツアーを迅速に決定できるという技術的効果を有するので、技術的貢献をするものである。
 ステップ(iii)(c):客観的な技術課題は、当業者が技術分野の専門家としての立場から定式化するものである(G-VII,3)。このような者は、ビジネスに関する専門知識を有しているとは認められない。本件では、当業者は、解決すべき技術的課題の定式化の一環として、(要求仕様書という現実的な状況で)ビジネス関連の特徴(1)、(2)に関する知識を得る情報技術の専門家と定義することができる。このように、満たすべき制約として与えられる相違点 (1)及び (2) によって定義される非技術的なビジネス概念を、技術的に効率よく実現するために、D1 の方法をどのように変更するかということが、客観的な技術課題として定式化される。

 この例では、ユーザに2つの商品を選択させ、その2つの商品を購入する最適ルートを提供するというビジネス上のアイデアは、特許性の議論においては評価の対象外である。2つの商品を購入する最適ルートを提供するという仕様がビジネス部門から与えられたときに、文献D1の技術を変更して実現することが自明であったかどうかが問題となる。その結果、次のように判断されると説明されている。

「第2の文書D2は、訪問すべき場所のセットをリストアップして旅行計画を決定する旅行計画システムを開示し、この技術的問題に対処している:D2のシステムは、この目的のために、以前のクエリの結果を格納するキャッシュ・メモリにアクセスする。したがって、当業者は、D2の教示を考慮し、最適な買い物ツアーの決定の技術的に効率的な実施、すなわち相違点(3)を提供するように、D1のサーバをD2で提案されているようにキャッシュメモリにアクセスし使用するよう適合させたと考えられる。」

 日本の審査では、その2つの商品を購入する最適ルートを提供するというアイデアが新しければ、例えばD2の旅行計画をヒントにショッピングツアーに基づいて対象の発明に想到し得たかどうか、が進歩性判断の材料になるであろう。これは、実務上の大きな違いである。

2022年4月6日水曜日

[EP] 技術的特徴と非技術的特徴からなるクレーム (審査ガイドライン)

EPの審査ガイドラインは、技術的特徴と非技術的特徴からなるクレーム(以下「混合型発明」という)の進歩性の考え方について規定している。
PartG-Patentability/ Chapter VII-Inventive step/ 5.Problem-solution approach/ 5.4 Claims comprising technical and non-technical features 
(https://www.epo.org/law-practice/legal-texts/html/guidelines/e/g_vii_5_4.htm)

※翻訳は筆者による
「コンピュータで実装された発明によく見られるように、クレーム中に技術的特徴と非技術的特徴が混在することは適法である。非技術的特徴がクレームの主題の主要な部分を形成することさえある。しかし、法52条1項、2項、3項に照らすと、法56条の進歩性が存在するために、技術的課題に対する非自明な技術的解決策を必要とする(T 641/00, T 1784/06)。

 このような混合型発明の進歩性を評価する際には、発明の技術的性質に貢献するすべての特徴が考慮される。これらの特徴には、単独では非技術的であるが、発明の文脈上、技術的目的に資する技術的効果の発生に寄与し、それによって発明の技術的特徴に貢献する特徴も含まれる。しかし、発明の技術的性質に貢献しない特徴は、進歩性の存在を裏付けることはできない(「COMVIKアプローチ」、T 641/00, G 1/19) 。このような状況は、例えば、特徴が非技術的な課題の解決にのみ貢献する場合、例えば、特許性から除外される分野の課題の解決にのみ貢献する場合に生じ得る(G-II,3及びサブセクションを参照)。

 問題解決アプローチは、発明の技術的性質に寄与しない特徴に基づいて進歩性が認められることがないように、また、寄与するすべての特徴が適切に識別され、評価において考慮されるように、混合型発明に対して適用される。このため、クレームが非技術分野で達成されるべき目的に言及している場合、この目的は、解決すべき技術的課題の枠組みの一部として、特に満たされなければならない制約として、合法的に客観的な技術的課題の定式化に現れることができる(T 641/00;下記ステップ(iii)(c)及び G-VII, 5.4.1 を参照)。

 以下のステップは、COMVIKアプローチによる混合型発明への問題解決アプローチの適用を概説する。
(i)発明の技術的性質に貢献する特徴は、発明の文脈で達成される技術的効果に基づいて決定される(G-II,3.1~3.7参照)。
(ii)ステップ(i)で特定した発明の技術的性質に貢献する特徴に着目して、最も近い先行技術として適切な出発点を選択する(G-VII, 5.1参照)。
(iii)最も近い先行技術との相違点を特定する。これらの相違点から、技術的貢献をする特徴としない特徴を識別するために、請求項全体との関係において、これらの相違点の技術的効果が判断される。
 (a)相違点がない場合(非技術的な相違点もない場合)、法54条に基づく拒絶理由が提起される。
 (b)相違点に技術的な貢献がない場合、法 56条に基づく拒絶理由が提起される。拒絶理由は、先行技術に対する技術的貢献がない場合、請求項の主題は進歩性を有しない、というものである。
 (c)相違点に技術的貢献をする特徴が含まれる場合は、次のようになる。
 客観的な技術的課題は、これらの特徴によって達成される技術的効果に基づいて定式化される。さらに、相違点が技術的貢献のない特徴を含む場合、これらの特徴又は発明によって達成された非技術的効果は、当業者に「与えられた」ものの一部として、特に満たさなければならない制約として、客観的技術課題の定式化に用いることができる(G-VII, 5.4.1 参照)。
 客観的技術的課題に対するクレームされた技術的解決策が当業者にとって自明である場合、法56条の下での拒絶理由が提起される。」


 混合型発明に対する基本的な考え方は、「技術的性質に貢献しない特徴は、進歩性の存在を裏付けることができない」であり、進歩性の審査においては技術的側面だけが評価の対象となる。
 課題ー解決アプローチにおいて、最も近い先行技術との相違点に技術的貢献のない特徴を含む場合、その特徴と非技術的効果は、当業者に与えられる「満たさなければならない制約」として、客観的な技術的課題に組み込まれる。進歩性を判断するに際しては、要求仕様が「与えられた」当業者が、技術的課題を技術的に解決することが自明かどうかが判断の基準となる。
 したがって、非技術的な部分がいかに画期的でも、その画期的な部分は、客観的技術的課題として与えられてしまうため、その部分は何ら評価されない。このことは、ガイドラインが列挙している事例を見るといっそう理解できる(つづく)。



2022年4月1日金曜日

[裁判例]通信回線を用いた情報供給システム事件(知財高裁令和3年10月27日)

 「通信回線を用いた情報供給システム」という特許に基づく特許侵害訴訟の控訴事件である。
 原審では、数ある被告システムの態様のうち、IPカメラを使用した被告システムは侵害であるとされたが、その他は非侵害とされた。控訴審では、IPカメラに加えて、スマートロックを使用した被告システムも侵害であるとされた。

 特許は、自宅等の特定領域の様子を遠隔監視するシステムに関するものである。従来の監視システムにおいては、通信回線を介して第三者が監視端末にアクセスして監視情報を入手することができてしまうと、プライバシーが保護されなくなるという課題があったので、この課題に鑑みてなされたものである。

 特許は2件あるが(ファミリーなので明細書は共通)、そのうち1つの発明を示す。なお、ポイントとなる要件に下線を付した。

【請求項1】
 インターネットや電話網からなる通信回線網の中に設置されている管理コンピュータに於ける通信回線を用いた情報供給システムであって,
 前記管理コンピュータ側には,監視目的に応じて適宜選択される監視手段を有する監視端末側に対して付与されたIPアドレスを含む監視端末情報が,利用者IDに対応付けられて登録されている利用者データベースを備え,
 前記監視端末側は前記管理コンピュータ側と前記通信回線網を介して接続可能とされており,
 前記管理コンピュータ側は,
 インターネットや電話網からなる通信回線網を利用してアクセスしてくる利用者の電話番号,ID番号,アドレスデータ,パスワード,さらには暗号などの認証データの内少なくと も一つからなる利用者IDである特定情報を入手する手段と,
 この入手した特定情報が,前記利用者データベースに予め登録された監視端末情報に対応するか否かの検索を行う手段と,
 前記特定情報に対応する監視端末情報が存在する場合,インターネットや電話網からなる通信回線網を利用して,この抽出された監視端末情報に基づいて監視端末側の制御部に働きかけていく手段と,
 インターネットや電話網からなる通信回線網を経由して,前記監視端末側によって得られた情報を入手する手段と,
 この監視端末側から入手した情報を,インターネットや電話網からなる通信回線網を用いて,前記特定情報を送信してアクセスした利用者に供給する手段と,
 特定できる監視端末側から前記管理コンピュータ側のグローバルIPアドレスに対して接続する接続処理を受け付け,前記利用者データベースに登録されている前記監視端末情報であるIPアドレスを変更処理する手段と,
 を備えていることを特徴とする通信回線を用いた情報供給システム。

 請求項は長いが、要するに、
・監視端末情報と利用者IDが対応付けられていて、アクセスしてきた利用者を特定し、特定された利用者に対応する監視端末にアクセスして監視端末で入手した情報を供給する
・(監視端末との接続が切れたとき等)監視端末からの再接続を受けてIPアドレスを更新する
 ということを言ってるだけと思われる。

[原審の判断]
 これらの発明の課題等を含む本件明細書の記載からすると,「働きかけていく手段」は,監視端末により取得された監視のための情報の入手及びその情報の利用者への供給を前提とした働きかけを意味するものであると解するのが相当である。 
 被告システムでは,スマートロックを使用すると現在の施錠/解錠の状態が画面に表示されて利用者が施錠/解錠の遠隔操作をすることができ,スマートライトを使用すると現在の照明の状態(明るさ,消費電力)が画面に表示されて利用者が照明のON/OFFや,その明るさの調整についての遠隔操作をすることができる(構成1(1)dⅴの⒞,⒟,2dⅴの⒞,⒟)。しかし,スマートロックやスマートライトにおける利用者の要求(働きかけ)は,施錠又はライトのON又はOFFという遠隔操作を目的とするものであって,そのような利用者の作為は監視端末(側)によって得られた監視のための情報を入手することを目的としていないから,本件各発明の「働きかけていく手段」に対応するとはいえない。

[控訴審の判断]
 以上の本件発明1⑴の特許請求の範囲の請求項1及び本件発明2の特許請求の範囲の請求項1の記載と本件明細書の記載によれば,本件発明1⑴及び2の「監視端末(側)の制御部に働きかけ」とは,管理コンピュータから監視端末側の制御部に制御信号を送信することを意味し,その制御信号に限定はないものと解される。 
 そして,前記⑹のとおり,スマートロックは,利用者によって,外出先から解錠,施錠を可能とするものであるから,その解錠,施錠の操作に当たっては,被告システムの管理コンピュータからスマートロックの制御部に解錠,施錠に関する制御信号が送信されているものと認められる。 
 したがって,スマートロックを使用した被告システムは,構成要件1⑴Dⅲ,1⑵A,2Dⅲ(「監視端末(側)の制御部に働きかけ(ていく手段)」)を備えていることが認められる。 
・・・
(ア) 本件各発明における「監視端末(側)によって得られた情報」とは,監視端末側がその監視手段によって得られた監視対象に関する情報(「監視情報」)であることは,前記⑸のとおりである。そして,スマートロックを使用した被告システムにおける監視対象は鍵の開閉であり,鍵の開閉に関する情報は,「監視端末(側)によって得られた情報」に該当するものと認められる。また,前記⑹のとおり,スマートロックの利用者は,外出先からスマートフォンやタブレット端末を用いて玄関の鍵の施錠状態を確認することができることからすれば,スマートロックを使用した被告システムにおいては,スマートロックによって得られた鍵の開閉に関する情報をサーバー⑥が入手し,利用者に供給しているものと認められる。 
 以上によれば,スマートロックを使用した被告システムは,構成要件1⑴Dⅳ,ⅴ,1⑵A,2Dⅳ,ⅴ(「監視端末(側)によって得られた情報を入手する手段と…監視端末(側)から入手した情報を…利用者に供給する手段」)を備えていることが認められる。
(イ) これに対し,一審被告は,利用者が携帯端末から,スマートロックの開閉の遠隔操作をしたときに,携帯端末に表示される当該操作の結果の情報は,自らの操作に従った結果になったことを確認するための情報であり,監視情報ではないというが,前記(ア)のとおり,鍵の開閉に関する情報は監視情報であるといえるから,一審被告の上記主張は,理由がない。


 原審では、「働きかけていく手段」は、監視のための情報の入手及びその情報の利用者への供給を前提としたものであると解釈したため、鍵の開閉に関する情報を送信することは働きかけていく手段に該当しないと判断された。
 控訴審では、「監視端末(側)の制御部に働きかけ」とは,管理コンピュータから監視端末側の制御部に制御信号を送信すること以上の制限はないと解釈したため、原審とは異なる判断となった。
 



2022年3月27日日曜日

[裁判例]遠隔監視方法事件(知財高裁令和3年11月25日)

 「遠隔監視方法および監視制御サーバ」という特許に基づく特許侵害事件の控訴審である。
 発明は、従来、家庭への侵入者や家庭内の異常を警備会社へ通知するホームセキュリティシステムが知られているが、施設の所有者や管理責任者が、一次的に当該侵入や異常発生を知ることができなかったという課題に鑑みてなされたものである。すなわち、監視装置にて異常を検出すると、撮影された画像を顧客の携帯端末に送信する。また、携帯端末からの遠隔操作により、他の領域を参照することができるようにしたものである。

【請求項1】
1A 施設中の所定の位置に配置された監視装置からの情報を受理し、当該監視装置からの情報に基づき、所定のデータを関連する携帯端末に伝達するように構成された遠隔監視方法であって、
1B 監視装置による異常検出によって前記監視装置により撮影された画像を受理するステップと、
1C 前記受理された画像を監視装置と関連付けて記憶するステップと、前記受理された画像のうち、少なくとも所定の部分をコンテンツとして形成するステップと、
1D 前記監視装置の顧客の所持する携帯端末を特定するステップと、前記携帯端末に通知すべきメッセージを作成するステップと、前記通知すべきメッセージ、および、前記コンテンツを、前記携帯端末に伝達するステップと、を備え、
1E 前記コンテンツは、初期的に受理された画像のうち、略中央部分の画像の領域から構成され、前記コンテンツを受理した携帯端末からの遠隔操作命令であって、前記受理された画像のうち、他の領域の画像を参照することを示す命令であるパンニングを含む遠隔操作命令を受理するステップと、
1F 前記パンニングを含む遠隔操作命令にしたがって、前記受理され或いは記憶された画像のうち、前記中央部分の画像の領域から縦横左右の何れかにずらした画像の領域を特定し、当該特定された画像の領域から構成されるコンテンツを形成するステップと、
1G 前記特定された画像の領域から構成されるコンテンツを前記携帯端末に伝達するステップと、を備えた
1H ことを特徴とする遠隔監視方法。

 原審では、被告製品ではパソコン等の固定式のモニタを使用していることから、対象特許の「携帯端末」に該当しないとして、文言侵害および均等侵害の成立を否定した。
 控訴審では、「携帯端末」に加えて、「パンニング」についても、文言侵害および均等侵害の成立を否定した。
 裁判所の判断の概要は、対象特許はいずれの場所でも通知を受け取ることができるという携帯端末の特性を利用した点と、また、携帯端末の画面の小ささをカバーするためにパンニング可能とした点が本質的部分であるからこれを備えない被控訴人製品は非侵害というものである。
 以下に、対象特許の本質的部分についての裁判所の判示を抜粋する。

「本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書の開示事項を総合すれば,本件発明1は,従来の遠隔監視システムでは,施設の侵入者があったり,施設において異常が発生した場合に,当該施設の所有者や管 理責任者が一次的に当該侵入や異常発生を知ることができず,また,警備会 社からの二次的な通報により上記所有者や責任者が侵入や異常発生を知ることは可能であるが,これらの者が外出している場合等には警備会社が通報を することができないといった課題があり,こうした課題を解決するために, 構成要件1Bないし1Gの構成を採用し,施設の監視対象領域を監視する監視装置からのメッセージと監視装置によって得られた画像の情報が当該施設の所有者や管理責任者に対応する顧客の携帯端末に通知又は伝達されることにより,顧客が何れの場所においても施設の異常等を適切に把握することができるとともに,監視装置から受理された画像の略中央部分の画像からなるコンテンツを携帯端末に伝達することにより,表示装置が小さい携帯端末でも顧客により十分に認識可能な画像を表示することができ,さらに,カメラの「パンニング」を含む携帯端末からの遠隔操作命令により「パンニング」に従った領域を特定し,その領域の画像を携帯端末に伝達するステップを備え,顧客が参照したい領域を特定して携帯端末に提示することができるようにしたことにより,施設の所有者や管理責任者が外部からの侵入や異常の発生を知り,その内容を確認することができるという効果を奏するようにしたことに技術的意義があるものと認められる(【0004】ないし【0007】)。」


2022年3月19日土曜日

[裁判例]サブコンビネーション発明の要旨認定(知財高裁令和4年2月10日)

 知的財産権の権利者と利用者のマッチングの発明の拒絶審決に対する審決取消訴訟である。
 発明は、権利活用を希望するユーザ側の情報処理装置に関するものであるが、特許請求の範囲には、次のように、サーバ側の構成(構成要件(C)等)も混在していた。

【請求項1】
(A)第1ユーザによって操作される情報処理装置であって, 
(B)事業に使用されていないが前記第1ユーザが活用を希望する知的財産権を,前記第1ユーザが保有する1以上の知的財産権の中から特定し,当該知的財産権に関する公報の情報を,サーバによる第2情報及び第3情報の抽出の根拠となる情報を含む第1情報として,前記サーバに通知する公報通知手段と, 
(C)前記サーバにおいて, 
(C1)前記公報通知手段により通知された前記第1情報により特定される前記公報に含まれ得る第1書類の内容のうち,所定の文字,図形,記号,又はそれらの結合が,前記第2情報として抽出され, 
(C2)当該公報に含まれ得る第2書類の内容のうち,抽出された前記第2情報と関連する文字,図形,記号又はそれらの結合が,前記第3情報として抽出され, 
(C3)所定の文字,図形,記号,又はそれらの結合を第4情報として予め登録している複数の第2ユーザのうち,抽出された前記第3情報と関連のある第4情報を登録した者が,通知対象者として決定され, 
(C4)当該通知対象者の端末に対して,当該知的財産権に関する情報が第5情報として通知され, 
(C5)当該通知対象者の端末から,当該第5情報に関する当該知的財産権に対して当該通知対象者が興味を有する旨の第6情報が取得されて, 
(C6)当該第6情報に基づいて,前記複数の第2ユーザの中に当該知的財産権に興味を有する者が存在することを少なくとも示す情報が,第7情報として 生成され, 
(C7)前記情報処理装置により前記第1情報が通知された結果として生成さ れた当該第7情報が,当該情報処理装置に送信された場合において, 
(D)当該第7情報を受付ける受付手段と, 
(E)を備える情報処理装置。

 審決は、サーバ側の構成については、直接的に情報処理装置を限定する特定事項ではないとして、以下のように発明を認定した。

【審決が認定した請求項1の発明】
(A)第1ユーザによって操作される情報処理装置であって, 
(B')事業に使用されていないが前記第1ユーザが活用を希望する知的財産権を,前記第1ユーザが保有する1以上の知的財産権の中から特定し,当該知的財産権に関する公報の情報を,前記サーバに通知する公報通知手段と, 
(D')知的財産権に興味を有する者が存在することを少なくとも示す情報であって,情報処理装置により当該知的財産権に関する公報の情報がサーバに通知された結果として生成され,サーバから情報処理装置に送信された情報を受付ける受付手段と, 
(E)を備える情報処理装置。

 裁判所は、次のように述べて、審決の認定に誤りはないと判断した。

(総論)
「ところで,サブコンビネーション発明においては,特許請求の範囲の請求項中に記載された「他の装置」に関する事項が,形状,構造,構成要素,組成,作用,機能,性質,特性,行為又は動作,用途等(以下「構造,機能等」という。)の観点から当該請求項に係る発明の特定にどのような意味を有するかを把握して当該発明の要旨を認定する必要があるところ,「他の装置」に関する事項が当該「他の装置」のみを特定する事項であって,当該請求項に係る発明の構造,機能等を何ら特定してない場合は,「他の装置」に関する事項は,当該請求項に係る発明を特定するために意味を有しないことになるから,これを除外して当該請求項に係る発明の要旨を認定することが相当であるというべきである。

(各論:一例として構成要件Cのみ)
「本件補正後発明の構成要件(C)及び(C1)ないし(C7)は,情報処理装置から知的財産権に関する公報の情報(第1情報)の通知(送信)を受けた サーバが,第1情報から第2情報を抽出し,さらに第3情報を抽出し,第3情報と第4情報とから通知対象を決定して当該公報の情報を第5情報として通知対象者の端末に通知し,その後,通知対象者の端末から第6情報を受信し第7情報を生成して情報処理装置に送信するという,サーバが行う処理を特定したものであって,情報処理装置が行う処理を特定するものではない。 すなわち,情報処理装置から通知された情報に対して,どのような処理を行い,どのような情報を生成して情報処理装置に送信するかという処理は,サーバが独自に行う処理であって,情報処理装置が行う処理に影響を及ぼすものではない。 
 一方,情報処理装置は,第1情報をサーバに送信し,第7情報をサーバから受信するものであるところ,かかる情報処置装置の機能は,サーバに所定の情報を送信してサーバから所定の情報を受信するという機能に留まり,当該機能は,上記構成要件(C)及び(C1)ないし(C7)によって影響を受けたり制約されるものではない。このように,構成要件(C)及び(C1)ないし(C7)は,情報処理装置の機能,作用を何ら特定するものではない。 
 よって,本件補正後発明の認定に当たっては,構成要件(C)及び(C1) ないし(C7)を発明特定事項とはみなさずに本件補正後発明の要旨を認定すべきであり,これと同旨の本件審決に誤りはない。 」


 例えば、ユーザの携帯端末によってサーバにアクセスして処理を行う発明だと、サーバの構成は見えにくいので、権利行使が可能なように、サーバの構成を除外して携帯端末の処理だけを規定した発明を記載することがある。複数主体が実施に絡む場合には、クレームの仕方を工夫することで実施行為を捕捉することができるという論調も見られる。
 権利行使を見据えたクレームドラフティングはもちろん重要である。携帯端末だけで発明を特定できれば侵害行為を捉えやすい。しかし、携帯端末側に特徴がない場合には、サーバ側の構成が捨象された結果、この判決のように何の変哲もない構成のみの発明と認定されてしまうおそれがあることにも注意を要する。



2022年3月15日火曜日

無効資料調査についてのメモ

後日、手順書をまとめたいと思うが、とりあえず思いつくまま。

・「ありそうな」キーワードやFIで絞り込むこと
・「ありそうな」には、絶対にこれは含まれているというクエリ(必要条件ともいえる)と、発明を表現するにはこれは含まれているかもしれないというクエリがあるので、組み合わせて使う。
・各検索式のヒット件数は少なくする(20件前後?)。ヒット件数が多いということは、観点がぼんやりしているということであり、ゴミの山の場合あり。
※現実的に網羅できることはないので、大きな網で絞るのは得策ではない。可能性が高そうな範囲をいくつも見るのが、可能性を高めることになる。
・色々な観点が考えられる。構成要件のワード、効果のワード、具体例のワード等。自分が明細書を書くとしたら、どんなことを書くかを想像。
・絞り込みのためのFIは、全体の件数の割りにヒット数が多いものが良い。
→例えば、ありそうな集合をキーワード等で決定し、そこで使われているFIをランキング。一見、ランキングが高いものが有効に思えるが、その集合にかかわらず全体的に件数が多いのであれば、絞り込みに有効とは言えない。
・有力な文献の引用、被引用関係にある文献。
・有力な論文を引用している文献。
・複数のキーワードを使う場合、使われている場所が離れていると、ノイズが多い。
・キーワードが一般的だと、近傍検索で組み合わせても、ノイズが多いことがある。

・対象特許の本質、背景技術からの位置づけを理解することは重要。
これにより、どういうクエリが必要かを理解することができる。
→明細書や審査経過をチェックするのはもちろんだが、それだけで理解できることはない。特にどのような背景があったかは、従来技術を見ていくうちに分かる。検索式の作成とスクリーニングは繰り返した方がよい。

・スクリーニングの仕方としては、こまめに内容を精査するのがよい。(全件見た後、まとめて精査、は良くない。)。それによって、その後のスクリーニングの精度とスピードが高まる。

・主引例を探すときと要素技術を探すときでは、検索期間を変えてもよい。

・見る順番としては、出願人別が良い。分割出願等の関係を検討しやすい。
・多少の重複があるくらいなら、検索式ごとにみるのがよい。観点がはっきりしている方が探しやすい。

・主引例は図面で判断できることが多い。図面にバシッと現れているくらいでないと、論理付けで苦労する。図面に現れている場合には方向性が同じことが多い。

[2022/12/10追記]
・検索式の本質は、キーワード。FIやFTMでは探せない。発明の特徴は、FI=技術分野では表せない。FI、FTMはノイズを除去する役割。
・単一のキーワードもよほど特殊でない限り、ノイズを除去する役割。一言で発明の特徴は表せない。
・そうすると、本質は、近傍検索ということになる。要約は高々400字なので、近傍でなくてもよいかもしれない。
・検索式は、こういうものを探したい!という意思が必要。なんとなく、こんなものが含まれているのでは?という検索式は、しらみつぶし方式だが、効率が悪い。
・名詞(特によく見られる名詞)どうしを近傍検索すると思わぬ組み合わせがヒットしてしまう。助詞を入れるのはありかも。件数が一定数以上の場合には、要チェック!
・短い言葉は、なるべく近く設定。
・同義語(たとえば「貯金、蓄える、貯蓄、貯める」等)を漏れなく検索しようと、共通の漢字(たとえば「貯+蓄」等)を使うことが考えられる。逆に、考えられる言葉を全部列挙する選択肢もあるが、どちらがよいか。どのみち網羅することは不可能という立場なら後者か。

方法発明の間接侵害が否定された例(令和6年(ワ)第70583号)

  液晶キーボードのキーの背景画像を着せ替える方法に関する特許を有する原告らが、文字入力キーボードアプリ「Simeji」を製造販売するバイドゥ株式会社を訴えた事件である(東京地裁民事第46部・令和8年4月15日判決)。実際に本件各発明に係る方法を使用するのは、被告製品をインストー...