2022年4月1日金曜日

[裁判例]通信回線を用いた情報供給システム事件(知財高裁令和3年10月27日)

 「通信回線を用いた情報供給システム」という特許に基づく特許侵害訴訟の控訴事件である。
 原審では、数ある被告システムの態様のうち、IPカメラを使用した被告システムは侵害であるとされたが、その他は非侵害とされた。控訴審では、IPカメラに加えて、スマートロックを使用した被告システムも侵害であるとされた。

 特許は、自宅等の特定領域の様子を遠隔監視するシステムに関するものである。従来の監視システムにおいては、通信回線を介して第三者が監視端末にアクセスして監視情報を入手することができてしまうと、プライバシーが保護されなくなるという課題があったので、この課題に鑑みてなされたものである。

 特許は2件あるが(ファミリーなので明細書は共通)、そのうち1つの発明を示す。なお、ポイントとなる要件に下線を付した。

【請求項1】
 インターネットや電話網からなる通信回線網の中に設置されている管理コンピュータに於ける通信回線を用いた情報供給システムであって,
 前記管理コンピュータ側には,監視目的に応じて適宜選択される監視手段を有する監視端末側に対して付与されたIPアドレスを含む監視端末情報が,利用者IDに対応付けられて登録されている利用者データベースを備え,
 前記監視端末側は前記管理コンピュータ側と前記通信回線網を介して接続可能とされており,
 前記管理コンピュータ側は,
 インターネットや電話網からなる通信回線網を利用してアクセスしてくる利用者の電話番号,ID番号,アドレスデータ,パスワード,さらには暗号などの認証データの内少なくと も一つからなる利用者IDである特定情報を入手する手段と,
 この入手した特定情報が,前記利用者データベースに予め登録された監視端末情報に対応するか否かの検索を行う手段と,
 前記特定情報に対応する監視端末情報が存在する場合,インターネットや電話網からなる通信回線網を利用して,この抽出された監視端末情報に基づいて監視端末側の制御部に働きかけていく手段と,
 インターネットや電話網からなる通信回線網を経由して,前記監視端末側によって得られた情報を入手する手段と,
 この監視端末側から入手した情報を,インターネットや電話網からなる通信回線網を用いて,前記特定情報を送信してアクセスした利用者に供給する手段と,
 特定できる監視端末側から前記管理コンピュータ側のグローバルIPアドレスに対して接続する接続処理を受け付け,前記利用者データベースに登録されている前記監視端末情報であるIPアドレスを変更処理する手段と,
 を備えていることを特徴とする通信回線を用いた情報供給システム。

 請求項は長いが、要するに、
・監視端末情報と利用者IDが対応付けられていて、アクセスしてきた利用者を特定し、特定された利用者に対応する監視端末にアクセスして監視端末で入手した情報を供給する
・(監視端末との接続が切れたとき等)監視端末からの再接続を受けてIPアドレスを更新する
 ということを言ってるだけと思われる。

[原審の判断]
 これらの発明の課題等を含む本件明細書の記載からすると,「働きかけていく手段」は,監視端末により取得された監視のための情報の入手及びその情報の利用者への供給を前提とした働きかけを意味するものであると解するのが相当である。 
 被告システムでは,スマートロックを使用すると現在の施錠/解錠の状態が画面に表示されて利用者が施錠/解錠の遠隔操作をすることができ,スマートライトを使用すると現在の照明の状態(明るさ,消費電力)が画面に表示されて利用者が照明のON/OFFや,その明るさの調整についての遠隔操作をすることができる(構成1(1)dⅴの⒞,⒟,2dⅴの⒞,⒟)。しかし,スマートロックやスマートライトにおける利用者の要求(働きかけ)は,施錠又はライトのON又はOFFという遠隔操作を目的とするものであって,そのような利用者の作為は監視端末(側)によって得られた監視のための情報を入手することを目的としていないから,本件各発明の「働きかけていく手段」に対応するとはいえない。

[控訴審の判断]
 以上の本件発明1⑴の特許請求の範囲の請求項1及び本件発明2の特許請求の範囲の請求項1の記載と本件明細書の記載によれば,本件発明1⑴及び2の「監視端末(側)の制御部に働きかけ」とは,管理コンピュータから監視端末側の制御部に制御信号を送信することを意味し,その制御信号に限定はないものと解される。 
 そして,前記⑹のとおり,スマートロックは,利用者によって,外出先から解錠,施錠を可能とするものであるから,その解錠,施錠の操作に当たっては,被告システムの管理コンピュータからスマートロックの制御部に解錠,施錠に関する制御信号が送信されているものと認められる。 
 したがって,スマートロックを使用した被告システムは,構成要件1⑴Dⅲ,1⑵A,2Dⅲ(「監視端末(側)の制御部に働きかけ(ていく手段)」)を備えていることが認められる。 
・・・
(ア) 本件各発明における「監視端末(側)によって得られた情報」とは,監視端末側がその監視手段によって得られた監視対象に関する情報(「監視情報」)であることは,前記⑸のとおりである。そして,スマートロックを使用した被告システムにおける監視対象は鍵の開閉であり,鍵の開閉に関する情報は,「監視端末(側)によって得られた情報」に該当するものと認められる。また,前記⑹のとおり,スマートロックの利用者は,外出先からスマートフォンやタブレット端末を用いて玄関の鍵の施錠状態を確認することができることからすれば,スマートロックを使用した被告システムにおいては,スマートロックによって得られた鍵の開閉に関する情報をサーバー⑥が入手し,利用者に供給しているものと認められる。 
 以上によれば,スマートロックを使用した被告システムは,構成要件1⑴Dⅳ,ⅴ,1⑵A,2Dⅳ,ⅴ(「監視端末(側)によって得られた情報を入手する手段と…監視端末(側)から入手した情報を…利用者に供給する手段」)を備えていることが認められる。
(イ) これに対し,一審被告は,利用者が携帯端末から,スマートロックの開閉の遠隔操作をしたときに,携帯端末に表示される当該操作の結果の情報は,自らの操作に従った結果になったことを確認するための情報であり,監視情報ではないというが,前記(ア)のとおり,鍵の開閉に関する情報は監視情報であるといえるから,一審被告の上記主張は,理由がない。


 原審では、「働きかけていく手段」は、監視のための情報の入手及びその情報の利用者への供給を前提としたものであると解釈したため、鍵の開閉に関する情報を送信することは働きかけていく手段に該当しないと判断された。
 控訴審では、「監視端末(側)の制御部に働きかけ」とは,管理コンピュータから監視端末側の制御部に制御信号を送信すること以上の制限はないと解釈したため、原審とは異なる判断となった。
 



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