2022年3月19日土曜日

[裁判例]サブコンビネーション発明の要旨認定(知財高裁令和4年2月10日)

 知的財産権の権利者と利用者のマッチングの発明の拒絶審決に対する審決取消訴訟である。
 発明は、権利活用を希望するユーザ側の情報処理装置に関するものであるが、特許請求の範囲には、次のように、サーバ側の構成(構成要件(C)等)も混在していた。

【請求項1】
(A)第1ユーザによって操作される情報処理装置であって, 
(B)事業に使用されていないが前記第1ユーザが活用を希望する知的財産権を,前記第1ユーザが保有する1以上の知的財産権の中から特定し,当該知的財産権に関する公報の情報を,サーバによる第2情報及び第3情報の抽出の根拠となる情報を含む第1情報として,前記サーバに通知する公報通知手段と, 
(C)前記サーバにおいて, 
(C1)前記公報通知手段により通知された前記第1情報により特定される前記公報に含まれ得る第1書類の内容のうち,所定の文字,図形,記号,又はそれらの結合が,前記第2情報として抽出され, 
(C2)当該公報に含まれ得る第2書類の内容のうち,抽出された前記第2情報と関連する文字,図形,記号又はそれらの結合が,前記第3情報として抽出され, 
(C3)所定の文字,図形,記号,又はそれらの結合を第4情報として予め登録している複数の第2ユーザのうち,抽出された前記第3情報と関連のある第4情報を登録した者が,通知対象者として決定され, 
(C4)当該通知対象者の端末に対して,当該知的財産権に関する情報が第5情報として通知され, 
(C5)当該通知対象者の端末から,当該第5情報に関する当該知的財産権に対して当該通知対象者が興味を有する旨の第6情報が取得されて, 
(C6)当該第6情報に基づいて,前記複数の第2ユーザの中に当該知的財産権に興味を有する者が存在することを少なくとも示す情報が,第7情報として 生成され, 
(C7)前記情報処理装置により前記第1情報が通知された結果として生成さ れた当該第7情報が,当該情報処理装置に送信された場合において, 
(D)当該第7情報を受付ける受付手段と, 
(E)を備える情報処理装置。

 審決は、サーバ側の構成については、直接的に情報処理装置を限定する特定事項ではないとして、以下のように発明を認定した。

【審決が認定した請求項1の発明】
(A)第1ユーザによって操作される情報処理装置であって, 
(B')事業に使用されていないが前記第1ユーザが活用を希望する知的財産権を,前記第1ユーザが保有する1以上の知的財産権の中から特定し,当該知的財産権に関する公報の情報を,前記サーバに通知する公報通知手段と, 
(D')知的財産権に興味を有する者が存在することを少なくとも示す情報であって,情報処理装置により当該知的財産権に関する公報の情報がサーバに通知された結果として生成され,サーバから情報処理装置に送信された情報を受付ける受付手段と, 
(E)を備える情報処理装置。

 裁判所は、次のように述べて、審決の認定に誤りはないと判断した。

(総論)
「ところで,サブコンビネーション発明においては,特許請求の範囲の請求項中に記載された「他の装置」に関する事項が,形状,構造,構成要素,組成,作用,機能,性質,特性,行為又は動作,用途等(以下「構造,機能等」という。)の観点から当該請求項に係る発明の特定にどのような意味を有するかを把握して当該発明の要旨を認定する必要があるところ,「他の装置」に関する事項が当該「他の装置」のみを特定する事項であって,当該請求項に係る発明の構造,機能等を何ら特定してない場合は,「他の装置」に関する事項は,当該請求項に係る発明を特定するために意味を有しないことになるから,これを除外して当該請求項に係る発明の要旨を認定することが相当であるというべきである。

(各論:一例として構成要件Cのみ)
「本件補正後発明の構成要件(C)及び(C1)ないし(C7)は,情報処理装置から知的財産権に関する公報の情報(第1情報)の通知(送信)を受けた サーバが,第1情報から第2情報を抽出し,さらに第3情報を抽出し,第3情報と第4情報とから通知対象を決定して当該公報の情報を第5情報として通知対象者の端末に通知し,その後,通知対象者の端末から第6情報を受信し第7情報を生成して情報処理装置に送信するという,サーバが行う処理を特定したものであって,情報処理装置が行う処理を特定するものではない。 すなわち,情報処理装置から通知された情報に対して,どのような処理を行い,どのような情報を生成して情報処理装置に送信するかという処理は,サーバが独自に行う処理であって,情報処理装置が行う処理に影響を及ぼすものではない。 
 一方,情報処理装置は,第1情報をサーバに送信し,第7情報をサーバから受信するものであるところ,かかる情報処置装置の機能は,サーバに所定の情報を送信してサーバから所定の情報を受信するという機能に留まり,当該機能は,上記構成要件(C)及び(C1)ないし(C7)によって影響を受けたり制約されるものではない。このように,構成要件(C)及び(C1)ないし(C7)は,情報処理装置の機能,作用を何ら特定するものではない。 
 よって,本件補正後発明の認定に当たっては,構成要件(C)及び(C1) ないし(C7)を発明特定事項とはみなさずに本件補正後発明の要旨を認定すべきであり,これと同旨の本件審決に誤りはない。 」


 例えば、ユーザの携帯端末によってサーバにアクセスして処理を行う発明だと、サーバの構成は見えにくいので、権利行使が可能なように、サーバの構成を除外して携帯端末の処理だけを規定した発明を記載することがある。複数主体が実施に絡む場合には、クレームの仕方を工夫することで実施行為を捕捉することができるという論調も見られる。
 権利行使を見据えたクレームドラフティングはもちろん重要である。携帯端末だけで発明を特定できれば侵害行為を捉えやすい。しかし、携帯端末側に特徴がない場合には、サーバ側の構成が捨象された結果、この判決のように何の変哲もない構成のみの発明と認定されてしまうおそれがあることにも注意を要する。



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