ホストクラブ来店勧誘方法事件(知財高裁 令和2年3月17日)
拒絶審決に対する審決取消訴訟である。対象特許出願は、ホストクラブへの来店の敷居を下げるために仮想現実動画ファイルをスマートホンに送信する技術であり、「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイル」の中から選択されたファイルを送信して再生することを特徴としている。
これに対し、引例は、広告代理店による販促支援に係る、テーマパークの事前体験などが想定されたサービスなどの疑似体験による販促の方法である。
特許庁は、メンタルケアを行う複数の動画ファイルの部分は相違点としつつも、対象出願における「メンタルケア」の文言は広範かつ抽象的であるから、およそ体験型のサービスはメンタルケア的な側面を有すると主張すると共に、コマンドボタンに動画の内容を表記することは周知技術であるから、動画の内容としてサービスの「メンタルケア的な側面」を捉えた表示を行うことも、周知技術の採用に当たって、広告代理店とサービスの提供者との間の取決めに即して、適宜決定すべきことであると主張した。
これに対し、裁判所は、本件出願における「メンタルケア」について明細書の記載を参照して、「本件補正発明の「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイル」との記載は、「潜在顧客」がホストクラブに行く動機付けとなる「心理状態」にそれぞれ対応した「ホストとの会話により顧客をリラックスさせたり」、「ストレスを解消させたり」、「癒したりする」などの異なる「メンタルケア」を行うべく、「ホストクラブに入店してホストから接客のサービスを受け、店を出るまでの状況」をそれぞれ撮影した「複数の異なる仮想現実動画」のファイルであることを意味するものと理解される。 」と解釈した。
その上で、裁判所は、引例には、潜在顧客が疑似体験したいサービスを自由に選択できるようにすることや、当該サービスのメンタルケア的な側面を仮想現実動画のタイトル等として表記した複数のボタンを設けることの記載はなく、かかる示唆もないとして、引用発明を「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」に適用した場合に、販促支援の内容は、販促支援をする広告代理店とこれを受ける広告主との間の取決めに即したものとなるとしても、「仮想現実動画」を、「心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なる」ものにすることが必然とはいえないと判断した。
この判決で結論が覆ったのは、「メンタルケア」の文言を、特許庁は広範かつ抽象的と理解したのに対し、裁判所は明細書に即して解釈を行ったからである。進歩性判断の場面においても、明細書の記載を参酌して発明を理解することが大事である。
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