2021年8月30日月曜日

[記事]6Gの官民研究施設

 日本経済新聞 2021年8月30日

(ポイント)
・情報通信研究機構(NICT)が6Gの研究施設を整備。2022年度中。
・高周波数帯で電波を送受信できる機器の開発に必要な装置や試験環境を準備。
・参加企業は無償または電気代のみで施設を利用可能。
・5Gでは日本は出遅れ。6Gでは早期の基盤技術確立を目指す。


2021年8月28日土曜日

[米国]Intervening right US特許法252条(再発行の効果)

  米国特許法には、特許の内容の変更を求めて再度の特許処分を求める特許再発行の制度がある。日本の訂正審判と似ているが、特許発行から2年以内なら権利の拡張もできる点が相違する。
 
 一方で、Intervening rightは、再発行特許の発行前からの実施している者に対して、次の内容を認めている。
・再発行特許は、再発行前から製造、販売等を行っている者に影響を与えない(absolute intervening rights)。
・裁判所は、衡平の観点から、再発行前から製造、販売等の準備を行っている者に対し、実施を継続してよい範囲を規定することができる(equitable intervening rights)。

 Intervening rightが認められるためには、再発行の前後におけるクレームの変化が実質的であったことが必要である。例えば、単なる誤記の訂正のように、実質的にクレームの内容に変化がない場合には認められない(Marine Polymer v. Hemcon, CAFC 2012)
 ここで、クレームの変化が実質的であれば、クレームが減縮された場合にも、Intervening rightが認められる。クレームが拡張された場合に、特許再発行前から実施している者に対して権利行使可能とするのは、実施者に酷であるというのは理解しやすいが、減縮した場合にもIntervening rightが認められる点は注意を要する。


2021年8月26日木曜日

[均等論]半導体チップの製造方法事件(東京地裁平成28年10月14日)

  本件特許は、半導体チップの製造方法に関する特許である。特許に係る方法は、半導体ウエハーをチップに分離するために、上面に第一の割り溝(11)を形成すると共に、下面に第二の割り溝(22)を形成し、その後に割って分離するというものである。
 特許請求の範囲は、次のとおりである。
A サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体を積層したウエハーから窒化ガリウム系化合物半導体チップを製造する方法において、
B 前記ウエハーの窒化ガリウム系化合物半導体層側から第一の割り溝(11)を所望のチップ形状で線状にエッチングにより形成すると共に、第一の割り溝(11)の一部に電極が形成できる平面を形成する工程と、
C 前記ウエハーのサファイア基板側から第一の割り溝の線と合致する位置で、第一の割り溝の線幅(W1)よりも細い線幅(W2)を有する第二の割り溝(22)を形成する工程と、
D 前記第一の割り溝(12)および前記第二の割り溝(22)に沿って、前記ウエハーをチップ状に分離する工程とを具備することを特徴とする
E 窒化ガリウム系化合物半導体チップの製造方法。

(被告方法の構成)
 本件で充足性が問題になったのは、「第二の割り溝」(構成要件C、D)である。
 被告方法では、ウエハーの下面に、レーザースクライブによって断面V字形状の変質部分を形成する。レーザースクライブによっては、溝(「溝」とは、周囲よりも窪んでいる細長い形状の部分である)は形成されない。

 裁判所は、大合議判決にも触れつつ、次のように判断した。

(裁判所)
 本件においては、本件明細書等に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが、出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分であるという事情は認められない。
 以上のような、本件特許の特許請求の範囲及び明細書の記載、特に明細書記載の従来技術との比較から導かれる本件発明の課題、解決方法、その効果に照らすと、本件発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分は、サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体が積層されたウエハーをチップ状に切断するに当たり、半導体層側にエッチングにより第一の割り溝、すなわち、切断に資する線状の部分を形成し、サファイア基板側にも何らかの方法により第二の割り溝、すなわち、切断に資する線状の部分を形成するとともに、それらの位置関係を一致させ、サファイア基板側の線幅を狭くした点にあると認めるのが相当であり、サファイア基板側に形成される第二の割り溝、すなわち、切断に資する線状の部分が、空洞として溝になっているかどうか、また、線状の部分の形成方法としていかなる方法を採用するかは上記特徴的部分に当たらないというべきである。
ウ 被告方法は、・・・LMA法でサファイア基板を加工した場合、溶融領域が発生し急激な冷却で多結晶化し、この多結晶領域は多数のブロックに分かれるが、加工領域中央に実質の幅が極端に狭い境界が発生し、この表面に垂直な境界線の先端に応力集中するので割れやすくなることが認められる。・・・
 そうすると、被告方法は本件発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分を共通に備えているものと認められる。したがって、本件発明と被告方法との相違部分は本質的部分ではないというべきである。

(コメント)
 特許請求の範囲の記載において、「第二の割り溝」が特許の本質的部分に関係のある構成であるが、被告製品が「第二の割り溝」の構成を備えていないことをもって第1要件の非充足としてはいない。明細書に記載された従来技術に照らして、本件発明の特徴的部分は、“切断に資する線状の部分”であると認定し、被告製品がこの特徴的部分を共通に備えているから、相違部分が非本質的部分であると判断した。この例は、特許請求の範囲に記載された「第二の割り溝」の構成要件が、“切断に資する線状の部分”に上位概念化された例である。
 ここで、“切断に資する線状の部分”は明細書に表れておらず、これをどこから持ってきたのかは不明である。本件の場合は、具体的構成である「第二の割り溝」が果たすべき機能で特定すると、“切断に資する線状の部分”になるようにも思える。しかし、明細書にも記載されていない概念での上位概念化は、場合によっては発明者すら発明していないことを後知恵で発明してしまう結果になってしまうかもしれない。また、均等論による権利範囲の広がりの予測を難しいものにするであろう。

平成25年(ワ)第7478号

2021年8月23日月曜日

[均等論]ナビゲーション事件(知財高裁 平成29年5月23日)

  ナビゲーション装置の特許を有るパイオニア株式会社が株式会社いいよねっとを訴えた事件の控訴審である。発明の概要は、ナビゲーション装置において、経路設定を行った時点と、経路案内を開始する時点とで、車両の位置が異なる場合(「ずれ」がある場合)に、経路案内を開始する位置を基準として経路案内を開始するというものである。本件特許と被控訴人製品では、この「ずれ」の求め方が異なる。

【請求項1】
A 移動体の現在位置を測定する現在位置測定手段と, 
B 前記現在位置から経由地を含む前記移動体が到達すべき目的地までの 経路設定を指示する設定指令が入力される入力手段と,
C 前記設定指令が入力され,経路の探索を開始する時点の前記移動体の 現在位置を探索開始地点として記憶する記憶手段と, 
D 前記記憶した探索開始地点を基に前記経路の探索を行い,当該経路を経路データとして設定する経路データ設定手段と, 
E 前記移動体の現在位置と前記設定された経路データとに基づいて前記移動体を目的地まで経路誘導するための誘導情報を出力する誘導情報出力手段と, 
F 前記移動体の移動に基づいて前記誘導情報出力手段を制御する制御手段と,を備え, 
G 前記制御手段は,前記記憶した探索開始地点と,当該経路データが設定され,前記移動体の経路誘導が開始される時点の当該移動体の現在位置を示す誘導開始地点と,が異なる場合に,前記誘導開始地点からの前記移動体の誘導開始に基づいて前記誘導情報出力手段を制御する 
H ことを特徴とするナビゲーション装置。

 本件特許では、上記クレームの引用において下線を引いたように、探索開始地点と誘導開始地点の「地点」どうしを比較する。
 これに対し、被控訴人製品では、マップマッチングにより車両の現在位置と一致する地図リンクを特定し、特定された「地図リンク」と設定された「経路リンク」とが一致するかどうかを判断し、一致する場合には経路リンクに基づく案内が行われ、一致しない場合には所定の絞り込みによって道路境界領域内のリンクと現在位置とを比較する。

 均等の第1要件について、裁判所は次のように判断した。

(裁判所)
イ 本件明細書によれば,本件発明は,従来技術では経路探索の終了時にいくつかの経由地を既に通過した場合であっても,最初に通過すべき経由予定地点を目標経由地点としてメッセージが出力されること(【0008】)を課題とし,このような事態を解決するために,通過すべき経由予定地点の設定中に既に経由予定地点 のいずれかを通過した場合でも,正しい経路誘導を行えるようなナビゲーション装置及び方法を提供することを目的とし(【0011】),具体的には,車両が動くことにより,探索開始地点と誘導開始地点のずれが生じ,車両が,設定された経路上にあるものの,経由予定地点を超えた地点にある場合に,正しく次の経由予定地点を表示する方法を提供するものである(【0018】【0038】)。・・・
 このように,本件発明は,上記技術常識に基づく経路誘導において,車両が動くことにより探索開始地点と誘導開始地点の「ずれ」が生じ,車両等が経由予定地点を通過してしまうことを従来技術における課題とし,これを解決することを目的として,上記「ずれ」の有無を判断するために,探索開始地点と誘導開始地点とを比較して両地点の異同を判断し,探索開始地点と誘導開始地点とが異なる場合には, 誘導開始地点から誘導を開始することを定めており,この点は,従来技術には見られない特有の技術的思想を有する本件発明の特徴的部分であるといえる。 
 したがって,探索開始地点と誘導開始地点とを比較して両地点の異同を判断する構成を有しない被控訴人装置が本件発明と本質的部分を異にすることは明らかである。 

 確かに、本件特許の構成要件のうちでは、探索開始地点と誘導開始地点との「ずれ」があるかを判断する構成要件Gが特徴的部分であると言えるが、控訴人が主張しているのは、請求項では地点と地点を比較すると記載しているが、必ずしも地点どうしの比較ではなく、リンクどうしの比較であっても、「経路探索の終了時にいくつかの経由地を既に通過した場合」の課題(上記判示の下線部)を解決できるから良いのではないか、ということである。
 その意味では、若干かみ合っていない(なぜ「地点どうし」であることが大事なのかがはっきりしない)ような気がするが、裁判所が最初に「被控訴人装置が,本件発明における探索開始地点と誘導開始地点と の比較を各地点の存するリンクとリンクとの比較に置換したものであるとは認め難い。」と判示しているとおり、均等論の前提に誤りがあることに起因するのかもしれない。
 また、「構成要件Gの解釈」のところでは、出願経過において、出願人が「探索開始地点と誘導開始地点を比較する点を明確に致しました」と主張したことにも言及しており、そのような事情も踏まえて、本質的部分という認定になったと思われる。

平成28年(ネ)第10096号

2021年8月22日日曜日

[均等論]骨の固定手段装置(知財高裁 平成29年12月5日)

  骨の断片の固定のための固定手段装置の特許を有する個人が株式会社ホムズ技研を訴えた事件の控訴審である。発明は、大腿骨頸部の骨折における骨の断片の固定のための大釘に関するものである。下の図に示すように、スリーブの内部に湾曲したピンを備えている。
【請求項1】
A 骨折における骨の断片を固定するための固定手段としての装置であって, 
B 固定手段(1)は大腿骨頚部の骨折(4)における骨断片(2,3) を固定するための大腿骨頚部用の大釘であり, 
C 前記固定手段(1)は作動可能位置(B)にピン(7)を挿入するために後部が開口したスリーブ(5)を備え, 
D 前記スリーブ(5)は2つの対向する壁面(8,9),すなわち側面開口部(10)を有する第1縦方向壁面(8)と案内面(12)が 斜め前方向に前記側面開口部(10)の先端部(13)まで延在する第2縦方向壁面(9)とにより細長い空間(6)が画定され, 
E 前記案内面(12)は,前記ピン(7)が,前記スリーブ(5)に 対して前進方向に移動される際に,前記ピン(7)の湾曲前端部(7 f)を案内して,前記ピン(7)の前記湾曲前端部(7f)が前記側 面開口部(10)を介して出口に押出されるように形成された装置に おいて, 
F 前記湾曲前端部(7f)に一番近接する前記ピン(7)は前方部 (7a)を含み,前記ピン(7)が前記スリーブ(5)の作動可能位置(B)に存在する際に前記前方部(7a)は,前記前方部(7a) の縦方向に直線状であり,また前記ピンの後方部(7e)から斜め前方向に方向づけられて前記湾曲前端部(7f)に至り,前記案内面 (12)に近接する前記第2壁面(9)の前方部(9a)まで延在する 
G ことを特徴とする装置。 

 上記引用中で下線部を引いた箇所が被告製品との相違点である。被告製品は、ピンが湾曲していない。
(裁判所の判断)
 (イ) また,本件明細書【0002】,【0003】及び【0006】には,本件各発明は,特許文献1(甲20)及び特許文献2(乙9の1)に記載された従来の固定手段では,ピンが作動可能位置から移動してしまうことで側面開口部を通る 出口を見つけられずにスリーブ内部で変形する危険性や,周囲の骨物質に移動する ピンの前端部の部分が有利に曲がった状態へ変形しない危険性があったことから, 特許請求の範囲請求項1記載の構成を採用することで,①ピンが作動可能位置を離れ意図しない動作をすることを防ぎ(第1の作用効果),及び/又は,②ピンの端部において骨の断片の安定した固定が得られ,かつ,骨の断片を貫通するピンが減るような有利な湾曲状態を得られるようにした(第2の作用効果)ものであること が記載されている。そして,特許請求の範囲請求項1記載の構成のうち,構成要件Fを除く構成は,従来技術である乙9発明に開示されていると認められるから(乙9の1・2),本件発明は,構成要件Fに規定された構成を採用することにより, 第1の作用効果及び第2の作用効果(本件各作用効果)を奏すると解される。 
 ・・・
 一方,本件発明1において,第1の作用効果を奏するのは,ピン7がスリーブ5の作動可能位置Bに存在する際に,ピン7の前方部7aが,ピンの後方部7eから第2壁面9に向かって斜め前方向に延びて湾曲前端部7fに至り,案内面12に近 接する第2壁面9の前方部9aに至ることで(本件明細書【0012】,【図1】), ピン7の前方部7aと第2壁面9との間の遊びがなくなり,ピン7の第2壁面に向かう方向の移動が抑制されることによるものと認められる。また,第2の作用効果を得られるのは,第1の作用効果によって,ピンが作動開始位置からずれにくい結果,ピンの湾曲前端部7fが案内面12に沿って押し出されて,意図した湾曲が得られることによるものと認められる。 

 この裁判例では、構成要件Fの相違点に係る要件は、従来技術と相違する構成であること、および、作用効果を奏するための構成であることから、本質的部分であると判断した。


平成29年(ネ)第10066号

2021年8月21日土曜日

[均等論]導光板事件(知財高裁 令和元年7月10日)

 嶋田プレシジョンがAmazonのKindleが特許を侵害しているとして訴えた事件である。原審、控訴審ともに均等不成立と判断されたが、第1要件の判断過程が異なる点が面白い。
 発明は、液晶のバックライト等に用いられ、光源からの光を均一に照射するための導光板に関する。従来は、裏面に多面プリズム33で構成されていたが(下の左図)、本件特許は裏面に回折格子3で構成されている(下の右図)。

【請求項1】
A 透明な板状体の少なくとも一端面から入射する光源からの光を,上記板状体の裏面に設けられた回折格子によって板状体の表面側へ回折させる導光板であって, 
B 上記回折格子の断面形状または単位幅における格子部幅/非格子部幅の比の 少なくとも1つが,上記導光板の表面における輝度が増大し,かつ均一化されるよ うに変化せしめられていることを特徴とする 
C 導光板。

 これに対し、被告製品において光源からの光を均一にしているのは、ディスプレイ側に設けられたライドガイドが微細構造体を有しているためである。微細構造体はライトガイドの「表面」に設けられており、「裏面」ではない点が相違点であるとされた。

(裁判所の判断)
イ 本件における第1要件の成否 
 本件発明に係る特許請求の範囲及び明細書の記載は,前記(1⑵のアイ)のとおりであり,要するに,本件発明は,液晶表示装置に用いられる平面照光装置に関し, 導光板の下面に多数の多面プリズムを設ける従来技術の下では,乱反射が起きて上面に向かう光量が減り,照光面である上面に極端な明暗のコントラストが生じるなどの問題があったところ,液晶表示装置を均一にかつ高い輝度で照らすという課題を解決するため,導光板である板状体の両面のうち,照光面とは反対側の面に回折格子を設け,この回折格子の回折機能によって,導光板である板状体に入射した光が照光面の側において均一にかつ高い輝度を発揮するようにしたものである。 
 そして,照光面とは反対側の面に回折格子を設けるようにしたのは,本件明細書の記載(前記1⑵イの(エ)(オ)(カ))によれば,本件発明においては,透明な板状体からなる導光板の両面のうち照光の効果を生じさせるのとは反対の面(裏面)に,光の入射角と臨界角をもとに適切に決められた間隔で,回折格子(刻線溝)が加工されており,これにより,導光板の一端面から裏面に向けて入射した光は,上記回折格子によって導光板の表面(照光の効果を生じさせる面)に向かって回折され,導 光板の表面がこれに直交する高強度の出射光と導光板内に導かれる全反射光によっ て極めて明るく照らされるようにしたからであり,以上が本件発明における回折機能の機序であるものと認められる。 
 このような機序が本件発明の技術的思想を構成していることからすれば,照光面とは反対側の面に回折格子を設けるようにしたこと,すなわち本件発明のうち板状体の裏面に回折格子を設けるとの部分は,本件発明における本質的部分であるというべきである。

 このように回折格子は裏面にあるからこそ、本件発明の効果を奏する、という発明の機序に基づき、「裏面に回折格子を設ける」が本質的部分であると判断された。

 なお、原審では、大合議事件の判示に従って、従来技術に対する貢献が小さいため、本質的部分は、請求項とほぼ同義であるとして第1要件を判断しており、判断の仕方を変えている点は興味深い。
 さらに面白いことに、原審が、従来技術と言っているのは、29条の2が適用される、いわゆる拡大先願発明であったことである。そのこころは、先願が公開される前に出願された後願であっても、先願と内容が同一である以上、新しい技術を公開するものではないから特許を与えないという29条の2の趣旨から、拡大先願発明も従来技術として参酌すべきというものである。
 しかも、原審は、この29条の2の文献では、本件発明は無効にできないと判断している。無効にすることができない文献であっても、均等論における貢献の程度が小さい、と判断することは可能ということを述べている。そもそも、無効にできてしまえば、均等を論ずる必要もないのであるから、それはそうかもしれない。8月15日に投稿した情報端末サービスシステム事件もそのような判断をしていると思われる。

平成31年(ネ)第10010号

2021年8月20日金曜日

[均等論]生活地図事件(知財高裁 令和元年7月19日)

 2020年1月20日に取り上げた裁判例である。 概要は、ヤフーが提供する地図が住宅地図に関する特許を侵害するとして、損害賠償請求を求めた事件である。対象の特許は、小型で廉価かつ検索を容易に行える住宅地図を提供することを目的として、一般住宅に関しては名称を省略することで縮尺を圧縮すると共に、地図を適宜に分割して区画化し、区分に付した記号と住宅の番地を対応させた索引を設けたものである。
 特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
【請求項1】
A 住宅地図において, 
B 検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載すると共に, 
C 縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図を構成し, 
D 該地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化し, 
E 付属として索引欄を設け, 
F 該索引欄に前記地図に記載の全ての住宅建物の所在する番地を前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の記号番号と一覧的に対応させて掲載した, 
G ことを特徴とする住宅地図。

 文言侵害については、構成要件D及びFを充足せず、非侵害と判断された。
 裁判所は、明細書に記載された課題を参照して、構成要件B~Fが本質的部分であると判断した。
「本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び前記(2)の本件明細書の開示事項を総合すると,本件発明の技術的意義は,従来の住宅地図においては,建物表示に住所番地及び居住者氏名も全て併記されていたため,肉眼でも判別可能な実用性を確保するために縮尺度を低いものにする必要があり,これに伴って全体として地図の大型化や大冊化を招き,この大型化や大冊化が氏名の記載変更作業の実地調査に係る人件費と相俟って住宅地図を高価格なものとし,更に氏名の公表を希望しない住人についても住宅地図に氏名を登載してしまうこととなるため,プライバシーの保護という点からも問題を有し,また,従来の住宅地図の付属の索引は,住所の丁目及びそれぞれの丁目に該当するページだけが掲載されていたため,「目的とする居住地(建物)を探し出す作業」(検索)が,煩雑で面倒であり,迅速さに欠け,非能率な作業となっていたという課題があったことから,本件発明の住宅地図は,この課題を解決するため,検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については,居住人氏名や建物名称の記載を省略し,住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載することにより,縮尺度の高い,広い鳥瞰性を備えた構成の地図とし(構成要件B及びC),地図の各ページを適宜に分割して区画化した上で,地図に記載の全ての住宅建物の所在番地を,住宅建物の記載ページ及び記載区画を特定する記号番号と一覧的に対応させた付属の索引欄を設ける構成(構成要件DないしF)を採用することにより,小判で,薄い,取り扱いの容易な廉価な住宅地図を提供することができ,また,上記索引欄を付すことによって,全ての建物についてその掲載ページと当該ページ内の該当区画が容易に分かるため,簡潔で見やすく,迅速な検索の可能な住宅地図を提供することができるという効果を奏することにあるものと認められる。 」

 裁判所は、明細書に記載された課題を把握し、その課題の解決に寄与している構成要件が本質的部分であると判断した。


平成31年(ネ)第10019号

方法発明の間接侵害が否定された例(令和6年(ワ)第70583号)

  液晶キーボードのキーの背景画像を着せ替える方法に関する特許を有する原告らが、文字入力キーボードアプリ「Simeji」を製造販売するバイドゥ株式会社を訴えた事件である(東京地裁民事第46部・令和8年4月15日判決)。実際に本件各発明に係る方法を使用するのは、被告製品をインストー...