2020年7月23日木曜日
[US]審判請求後の口頭審理
2020年7月21日火曜日
均等論について ~電子メール誤送信防止事件の補足~
2020年7月15日水曜日
[裁判例]電子メール誤送信防止事件(知財高裁 令和2年6月18日)
本件は、電子メール誤送信防止に関する特許権を保有するキャノンITソリューションズがデジタルアーツ株式会社を訴えた事件の控訴審である。
対象となる特許は、電子メールを送信する際に、メールの誤送信を防止するために、送信先と送信元に対応付けた制御ルールに基づいて、メール送信を保留する技術に関する。この特許の特徴は、電子メールを複数の送信先に一斉送信するときに、送信先を個々の送信先に分割し、送信先ごとにメール送信を保留するか否かの判定を行うことにした点である。従来は、保留するかどうかの判定がメッセージ単位で行われていたため、一つでも保留条件を満たす送信先が含まれていると、その他のメール送信まで保留、取消がされるという課題があったが、本件発明はこのような課題を解決した。
これに対し、被控訴人の装置は、複数の宛先の電子メールアドレスが設定された電子メールを、宛先のドメイン毎の電子メールに分割するものである。
ドメインを特定するのみでは電子メールは受信者に届かないことや、本件明細書の記載等から、上記要件における「送信先」は電子メールアドレスと解すべきであるとされた。この解釈を前提として、被控訴人の装置は、文言上、本件特許を侵害しないと判断された。「送信先」という文言からみても、妥当な判断である。
本件では、均等侵害についても判断されており、こちらの方が興味深い。
本件発明の課題は、次のとおりである。
「【課題が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1に記載の技術においては、送信メール保留装置は受信したメッセージ単位でしか保留の可否を判断することができない。そのため、複数の送信先が記載された電子メールに対しては、誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば、その他の送信先に対するメール送信までもが保留、取り消しがされることとなる。」
これに対して、裁判所は次のように判断した。
[裁判所の判断]
「特許文献1に記載の技術においては、送信メール保留装置は受信したメッセージ単位でしか保留の可否を判断することができない。そのため、複数の送信先が記載された電子メールに対しては、誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば、その他の送信先に対するメール送信までもが保留、取り消しがされることとなる。」(段落【0004】)とあるところ、一部であっても本来保留される必要のない送信先に対するメール送信が保留されれば、誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていることにより、メール送信が保留されてしまったことに変わりはないから、本件発明1の課題は、誤送信の可能性がないその他の送信先に対するメール送信は保留、取り消しがされなくなることと解すべきであり、メッセージ単位での保留の可否判断よりも送出制御を効率化すれば足りるとはいえない。
という判断を元に、
・・・(段落【0004】①)とは、本来保留される必要のないその他の送信先(すなわち電子メールアドレス)に対するメール送信は全てなされるべきであるとの趣旨と解するのが自然である。
また、前記アのとおり、「効率よく電子メールを送出させる」ことは、電子メールアドレスに応じた電子メールの送出制御によってもたらされるものとされている。電子メールアドレスに応じた電子メールの送出制御によれば、保留の必要がないその他の電子メールアドレスに対する送信は全てなされるのであるから、本件発明の効果も同様と解すべきであって、保留の必要がないその他の電子メールアドレスのうちの一部の電子メールアドレスに対する電子メールの送信が保留されなくなることでは足りないというべきである。
この点に関して、控訴人の主張も主張しており、それに対する裁判所の判断は次のとおりである。
[裁判所の判断]
ウ 控訴人は、文言侵害が否定された場合に、本件明細書等1の課題に記載された「送信先」を「電子メールアドレス」と読み替えて、課題を認定し、当該課題から直接的に本質的部分を認定することは、均等侵害の成否の場面において、文言侵害が否定されることを理由に、均等侵害の成立が直ちに否定され、均等侵害がその機能を果たさない結果となることから、かかる結果が著しく妥当性を欠く旨主張する。
しかし、本質的部分の認定は、特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである(大合議判決)。よって、本件明細書等1の記載に基づいて、本件発明1が、従来技術である特許文献1のどのような点を課題として把握し、どのような解決手段を提示し、どのような効果をもたらすものなのかを把握することは、当然なされるべきことであるから、控訴人の主張は理由がない。
このような判示をみると、発明の課題はなるべく書かない方が得策なのかもしれない。書いていない分には、大合議判決(平成27年(ネ)10014号)のように、従来技術との対比によって、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定され、従来技術との差分が発明の本質的部分として認められる可能性があるからである。そして、後から差分を主張する方が、被疑侵害品が見えているだけにやりやすい。
2020年7月10日金曜日
[裁判例]電子記録債権の決済方法事件(知財高裁 令和2年6月18日)
本件は、拒絶査定不服審判の拒絶審決に対する審決取消訴訟である。請求項1は、以下のとおりである。
|
【請求項1】 電子記録債権の額に応じた金額を債権者の口座に振り込むための第1の振込信号を送信すること、 前記電子記録債権の割引料に相当する割引料相当料を前記電子記録債権の債務者の口座から引き落とすための第1の引落信号を送信すること、 前記電子記録債権の額を前記債務者の口座から引き落とすための第2の引落信号を送信することを含む、電子記録債権の決済方法。 |
本願発明は、従来の電子記録債権による取引決済において、割引料の負担を債務者に求めるよう改訂された下請法の運用基準に適合させるようにしたものである。
取消理由は2つあるが、裁判所は、発明該当性についてのみ判断している。
[裁判所の判断]
(ウ) 以上によれば、本願発明は、電子記録債権を用いた決済方法において、電子記録債権の額に応じた金額を債権者の口座に振り込むとともに、割引料相当料を債務者の口座から引き落とすことを、課題を解決するための技術的手段の構成とし、これにより、割引料負担を債務者に求めるという下請法の運用基準の改訂に対応し、割引料を負担する主体を債務者とすることで、割引困難な債権の発生を効果的に抑制することができるという効果を奏するとするものであるから、本願発明の技術的意義は、電子記録債権の割引における割引料を債務者負担としたことに尽きるというべきである。
イ 前記アで認定した技術的課題、その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術的意義を総合して検討すれば、本願発明の技術的意義は、電子記録債権を用いた決済に関して、電子記録債権の割引の際の手数料を債務者の負担としたことにあるといえるから、本願発明の本質は、専ら取引決済についての人為的な取り決めそのものに向けられたものであると認められる。
したがって、本願発明は、その本質が専ら人為的な取り決めそのものに向けられているものであり、自然界の現象や秩序について成立している科学的法則を利用するものではないから、全体として「自然法則を利用した」技術的思想の創作には該当しない。
以上によれば、本願発明は、特許法2条1項に規定する「発明」に該当しないものである。
上記した裁判所の判示によれば、発明の本質が専ら人為的な取り決めそのものに向けられている場合には、発明に該当しない。一つ前の投稿では、裁判所は、「単にルール上の取り決めにすぎないとの理由で容易想到性を肯定することはできない」と判示したことを紹介した。対戦ゲーム制御プログラム事件では、先行技術との相違がルール上の取り決めにすぎない発明について発明該当性があるとされている。
この違いについて検討すると、次の判示部分が示唆を与えてくれる。出願人が、本願発明の各処理の実行は、全て信号の送受信により達成され、業務手順そのものを特定するだけでは達成できないと主張したのに対して、裁判所は以下のとおり判示した。
[裁判所の判断]
本願発明において、「信号」を「送信」することを構成として含む意義は、電子記録債権による取引決済において、従前から採用されていた方法を利用することにあるのに過ぎない。すなわち、前述のとおり、本願発明の意義は、電子記録債権の割引の際の手数料を債務者の負担としたところにあるのであって、原告のいう「信号」と「送信」は、それ自体については何ら技術的工夫が加えられることなく、通常の用法に基づいて、上記の意義を実現するための単なる手段として用いられているのに過ぎないのである。そして、このような場合には、「信号」や「送信」という一見技術的手段に見えるものが構成に含まれているとしても、本願発明は、全体として「自然法則を利用した」技術的思想の創作には該当しないものというべきである。
この点、審決も同様の判断であり、次のように述べている。
「・・・各構成要件は、コンピュータに処理を依頼するための命令を送信することであり、当該命令を作成するために、コンピュータである債権管理サーバが特別な情報処理を行っている訳ではないから、債権管理サーバと口座管理サーバというコンピュータ同士の間で行われる情報のやりとりを行う上での必然的な技術的事項であり、それを超えた技術的特徴が存するとはいえない。
してみると、本願発明には、「ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することによって、使用目的に応じた特有の情報処理装置又はその動作方法が構築」されているといえる事項が記載されているとはいえないから、「コンピュータソフトウェア関連発明」である本願発明は、その観点から見ても『自然法則を利用した技術的思想の創作』とはいえない。」
2020年7月6日月曜日
[裁判例]引例との相違が「ゲームの性格に関わる重要な相違点」である場合には進歩性を有するとした例(知財高裁 令和2年6月4日)
2020年7月1日水曜日
[US]IPRにおける当事者の併合(35U.S.C.315(c))
2020年6月12日金曜日
[EP]ゲーム方法等の審査ガイドライン
EPCの審査ガイドラインでは、GⅡ3.5.2において、ゲーム方法等の審査について記載している。
|
パートG 特許性 第Ⅱ章 発明 3 除外されるリスト 3.5 精神的活動、ゲーム、ビジネスのためのスキーム、ルール及び方法 3.5.2 ゲームのためのスキーム、ルール及び方法 |
ガイドラインは、EPOのホームページに記載されているので、そちらを参照していただくとして、内容をかいつまんで紹介する。
まず、原則として、ゲームルール自体は、どんなにオリジナリティがあっても進歩性を生まない。EPOの審査においては、非技術的な要素は考慮されないからである。逆に、ゲームルールを特定する技術的手段を特定していれば技術的特徴を有する。
ゲーム実装による進歩性は、エンジニアやゲームプログラマ等の当業者の視点で評価する。非技術的手段を言い換えるだけ(ゲームトークンの数を監視するための「勝利計算手段)、または、要約するだけ(「ゲームトークン」の代わりに「オブジェクト」)では、非技術的要素であり、進歩性に関係しないと記載されている。こうした観点で、クレームの構成要件をチェックすると良いかもしれない。
日本の実務と異なることとして、日本では、発明の効果として娯楽性や興趣性に言及した明細書が見られるが、ガイドラインでは、娯楽性や興趣性は技術的効果ではないと明記されている。例えば、ゲームスコアや腕前のレーティングを計算する方法を構成要件とし、これにより娯楽性が向上すると記載しても、技術的要素とは考慮されない。
方法発明の間接侵害が否定された例(令和6年(ワ)第70583号)
液晶キーボードのキーの背景画像を着せ替える方法に関する特許を有する原告らが、文字入力キーボードアプリ「Simeji」を製造販売するバイドゥ株式会社を訴えた事件である(東京地裁民事第46部・令和8年4月15日判決)。実際に本件各発明に係る方法を使用するのは、被告製品をインストー...
-
ワインセラーの霜取り制御に関する特許を有するさくら製作所株式会社がデバイスタイルマーケティングを訴えた裁判である。 問題となった特許は以下の構成を有する。 【請求項1】 A コンプレッサーを使用した冷却方式を採用し、冷却サイクルによって冷却器に付着した霜を溶かす霜取り機能を有...
-
1 除くクレームについて 特許実務において、引用文献と差別化を図るために、構成要件の一部を除くことが行われることがある。新たな技術的事項を導入しないものである場合には構成要件の一部を除くことが認められるが(ソルダーレジスト大合議事件(平成18年(行ケ)第10563号))、...
-
取引管理システムについての特許を有する株式会社キーソフトがふるさと納税に係る返礼品についてのサービスを提供する株式会社サンカクキカクを訴えた裁判の控訴審である。 対象となった特許は、段階的な複数の取引者間での商品の取引の伝票管理を簡易にすることを目的とする取引管理システムであ...
