均等論は、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、特許侵害を認める法理であり、その第1要件は、対象製品等と異なる部分が特許発明の本質的部分ではないことである。
この要件の判断に関し、本質的部分説と技術思想同一説があったが、平成28年3月25日の大合議事件において、本質的部分か否かは、技術思想同一説で判断するべきことが判示された(下記判示の後段部分参照)。
[裁判所の判断]
そして,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許発明の課題及び解決手段 (特許法36条4項,特許法施行規則24条の2参照)とその効果(目的及び構成とその効果。平成6年法律第116号による改正前の特許法36条4項参照)を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである。
・・・
また,第1要件の判断,すなわち対象製品等との相違部分が非本質的部分であるかどうかを判断する際には,特許請求の範囲に記載された各構成要件を本質的部分と非本質的部分に分けた上で,本質的部分に当たる構成要件については一切均等を認めないと解するのではなく,上記のとおり確定される特許発明の本質的部分を対象製品等が共通に備えているかどうかを判断し,これを備えていると認められる場合には,相違部分は本質的部分ではないと判断すべきであり,対象製品等に,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分以外で相違する部分があるとしても,そのことは第1要件の充足を否定する理由とはならない。
上記判示内容について解説する。
上述した本質的部分同一説とは、特許発明において、従来技術に見られない技術的特徴を構成する特徴部分に係る構成要件を、対象製品が備えているかという観点で判断するという説である。これに対し、技術思想同一説は、従来技術に見られない特徴部分を対象製品が備えているかという観点で判断するという説である。
例を示す。特許発明がA,B,Cを備えるDであり、特徴部分に係る構成要件がAであったとする。これに対し、対象製品は、Aに代えてA´を備えているとする。本質的部分同一説によれば、対象製品は、特徴部分に係る構成要件Aにおいて相違するから、均等論の第1要件を満たさないことになる。これに対し、技術思想同一説によれば、A,B,CからなるD(対象特許)と、A´,B,CからなるD(対象製品)が、特許発明の本質的部分(従来技術に見られない技術的特徴)を共通に備えているか否かを判断し、これを備えていると認められる場合には、相違部分は本質的部分ではないと判断される。つまり、特徴部分にかかるAにおいて相違するとしても、直ちに、第1要件が否定されるわけではなく、特徴部分を共通に備えるかどうかをいう観点で判断される。
さて、電子メール誤送信防止事件においては、明細書に、
「【課題が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1に記載の技術においては、送信メール保留装置は受信したメッセージ単位でしか保留の可否を判断することができない。そのため、複数の送信先が記載された電子メールに対しては、誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば、その他の送信先に対するメール送信までもが保留、取り消しがされることとなる。
本発明は上述の問題点に鑑みなされたものであり,ユーザによる電子メールの誤送信を低減可能とすると共に,宛先に応じた電子メールの送出制御を行うことにより効率よく電子メールを送出させる仕組みを提供することを目的とする。」
との記載があることから、この課題を解決する構成が従来技術には見られない特有の技術的思想を構成する特徴部分であると理解された。上に引用した大合議事件の判示(前段部分参照)からみて妥当な判断といえる。
その上で、ドメイン単位で保留の可否判断を行う対象製品では、同じドメイン内に誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば、その他の送信先に対するメール送信までも保留等されてしまうから、明細書に記載の課題を解決する従来技術には見られない特徴部分を共通に備えているとは言えない。つまり、相違部分は本質的部分であると判断された。
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