本件は、拒絶査定不服審判の拒絶審決に対する審決取消訴訟である。請求項1は、以下のとおりである。
【請求項1】 電子記録債権の額に応じた金額を債権者の口座に振り込むための第1の振込信号を送信すること、 前記電子記録債権の割引料に相当する割引料相当料を前記電子記録債権の債務者の口座から引き落とすための第1の引落信号を送信すること、 前記電子記録債権の額を前記債務者の口座から引き落とすための第2の引落信号を送信することを含む、電子記録債権の決済方法。 |
本願発明は、従来の電子記録債権による取引決済において、割引料の負担を債務者に求めるよう改訂された下請法の運用基準に適合させるようにしたものである。
取消理由は2つあるが、裁判所は、発明該当性についてのみ判断している。
[裁判所の判断]
(ウ) 以上によれば、本願発明は、電子記録債権を用いた決済方法において、電子記録債権の額に応じた金額を債権者の口座に振り込むとともに、割引料相当料を債務者の口座から引き落とすことを、課題を解決するための技術的手段の構成とし、これにより、割引料負担を債務者に求めるという下請法の運用基準の改訂に対応し、割引料を負担する主体を債務者とすることで、割引困難な債権の発生を効果的に抑制することができるという効果を奏するとするものであるから、本願発明の技術的意義は、電子記録債権の割引における割引料を債務者負担としたことに尽きるというべきである。
イ 前記アで認定した技術的課題、その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術的意義を総合して検討すれば、本願発明の技術的意義は、電子記録債権を用いた決済に関して、電子記録債権の割引の際の手数料を債務者の負担としたことにあるといえるから、本願発明の本質は、専ら取引決済についての人為的な取り決めそのものに向けられたものであると認められる。
したがって、本願発明は、その本質が専ら人為的な取り決めそのものに向けられているものであり、自然界の現象や秩序について成立している科学的法則を利用するものではないから、全体として「自然法則を利用した」技術的思想の創作には該当しない。
以上によれば、本願発明は、特許法2条1項に規定する「発明」に該当しないものである。
上記した裁判所の判示によれば、発明の本質が専ら人為的な取り決めそのものに向けられている場合には、発明に該当しない。一つ前の投稿では、裁判所は、「単にルール上の取り決めにすぎないとの理由で容易想到性を肯定することはできない」と判示したことを紹介した。対戦ゲーム制御プログラム事件では、先行技術との相違がルール上の取り決めにすぎない発明について発明該当性があるとされている。
この違いについて検討すると、次の判示部分が示唆を与えてくれる。出願人が、本願発明の各処理の実行は、全て信号の送受信により達成され、業務手順そのものを特定するだけでは達成できないと主張したのに対して、裁判所は以下のとおり判示した。
[裁判所の判断]
本願発明において、「信号」を「送信」することを構成として含む意義は、電子記録債権による取引決済において、従前から採用されていた方法を利用することにあるのに過ぎない。すなわち、前述のとおり、本願発明の意義は、電子記録債権の割引の際の手数料を債務者の負担としたところにあるのであって、原告のいう「信号」と「送信」は、それ自体については何ら技術的工夫が加えられることなく、通常の用法に基づいて、上記の意義を実現するための単なる手段として用いられているのに過ぎないのである。そして、このような場合には、「信号」や「送信」という一見技術的手段に見えるものが構成に含まれているとしても、本願発明は、全体として「自然法則を利用した」技術的思想の創作には該当しないものというべきである。
この点、審決も同様の判断であり、次のように述べている。
「・・・各構成要件は、コンピュータに処理を依頼するための命令を送信することであり、当該命令を作成するために、コンピュータである債権管理サーバが特別な情報処理を行っている訳ではないから、債権管理サーバと口座管理サーバというコンピュータ同士の間で行われる情報のやりとりを行う上での必然的な技術的事項であり、それを超えた技術的特徴が存するとはいえない。
してみると、本願発明には、「ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することによって、使用目的に応じた特有の情報処理装置又はその動作方法が構築」されているといえる事項が記載されているとはいえないから、「コンピュータソフトウェア関連発明」である本願発明は、その観点から見ても『自然法則を利用した技術的思想の創作』とはいえない。」
0 件のコメント:
コメントを投稿