デッキ対戦型ゲームに関する出願の拒絶審決の審決取消訴訟である。本件はゲームのルールの違いに基づく進歩性について正面から判示をしている。
[事案の概要]
出願に係る発明(以下、「本願発明」という)は、自分の手元(第1のフィールド)にあるキャラクタカードを、対戦の場(第2のフィールド)に出し、相手が同様にして対戦の場に出したキャラクタカードと対戦をするというのが基本的な制御である。
本願発明と引用発明との相違は、本願発明はキャラクタカードを対戦の場(第2のフィールド)に移動すると、それに伴って、第3のフィールドから自分の手元(第1のフィールド)に追加のキャラクタカードが補充されるのに対し、引用発明では、対戦の場とは異なる領域に、キャラクタカードとは異なる種類のカードを配置することにより、カードが補充されるという点である。
この相違点について、拒絶審決では、「どのフィールド又は領域への移動を補充の契機とするかはゲーム上の取り決めにすぎない」ので、引用発明の構成を本願発明における構成とすることは当業者が容易に想到し得たと判断した。
[裁判所の判断]
「イ このように、引用発明におけるカードの補充は、本願発明におけるそれとの対比において、補充の契機となるカードの移動先の点において異なるほか、移動されるカードの種類や機能においても異なっており、相違点6は小さな相違ではない。そして、かかる相違点6の存在によって、引用発明と本願発明とではゲームの性格が相当程度に異なってくるといえる。したがって、相違点6に係る構成が「ゲーム上の取決めにすぎない」として、他の公知技術等を用いた論理付けを示さないまま容易想到と判断することは、相当でない。」
そして被告の主張に対しては、上記相違点が「ゲームの性格に関わる重要な相違点であって、単にルール上の取り決めにすぎないとの理由で容易想到性を肯定することはできない」とした。
[コメント]
本件は、ゲームのルールであっても、進歩性に寄与することを明確に判示した。
ゲームのルールそれ自体は、自然法則を利用しておらず発明に該当しないので、引用発明との差分がゲームのルールしかない場合には、一見すると進歩性がないようにも思われる。
しかし、その差分が「ゲームの性格に関わる重要な相違点」である場合には、その相違点を示す公知技術等がなければ進歩性を有するというのが本判決の内容である。
審査基準では、参考事例として、商品の選択に際して、「少なくとも嗜好を含むユーザの個人情報」に代えて、「少なくとも嗜好並びに趣味及び家族構成を含むユーザの個人情報」を用いることは設計事項であると説明している。この説明は、以下のとおりである。
「ユーザとの間で商品の売買を行う取引において、ユーザの嗜好や趣味、家族構成などの個人情報に基づいて選択した、おすすめの商品を当該ユーザに提示することはビジネスの慣行として周知である。
当該ビジネス慣行に鑑みると、引用発明において、ユーザの嗜好に加えてユー
ザの趣味や家族構成に基づいて、ユーザに提示する商品を選択するよう構成することは、取引の実態に応じて適宜取り決め得る事項である。」
この例をよく読むと、取り決めだから、直ちに、設計事項と説明しているのではなく、周知のビジネス慣行に鑑みると、設計事項であると説明している。
本件においては、特許庁は、この参考事例でいうところの周知のビジネス慣行にあたる部分を立証しなければならなかった。
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