2021年3月6日土曜日

[AI関連発明]勧奨通知最適タイミング算出方法(特許6828203)

 (登録例5)勧奨通知最適タイミング算出方法

【請求項1】
  医療保険機関が実施する各種の医療行為や健康診断の受診を促す被保険者への勧奨通知最適タイミングを、コンピュータを用いて算出する方法であって、
  被保険者に係る複数の特徴量から抽出された説明変数と、時期ごとの勧奨効果の大きさを示すスコアを目的変数とした回帰分析によって得られた回帰式、又は前記説明変数と前記目的変数とした機械学習によって得られた機械学習モデルに、
  個々の前記被保険者の複数の特徴量から抽出された説明変数を入力して前記勧奨通知の時期ごとの勧奨効果の大きさを示すスコアを算出し、前記スコアに基づいて最適通知時期を決定する、
  ことを特徴とする、勧奨通知最適タイミング算出方法。

 この発明は、被保険者に健康診断等の受診を促す勧奨通知の最適なタイミングを算出する方法に関する。ここで、最適なタイミングとは、被保険者が勧奨通知を受けて健康診断等を受診する確率が高いタイミングである。

 発明の構成は、被保険者の複数の特徴量を説明変数、時期ごとの勧奨効果を示すスコアを目的変数として、あらかじめ回帰式または機械学習モデルを生成しておき、対象の被保険者の特徴量を回帰式または機械学習モデルに適用して時期を決定するというものである。

 審査経過を見ると、本発明者がすでに公開している技術として、機械学習によって学習したモデルを使って、被保険者の健診データから受診確率を求める論文や特許が存在した。これに対し、出願人は、「機械学習を用いて勧奨効果を上げることのみが開示されているに過ぎず、具体的な方法として最終目的とするアウトプットを「個々人の最適通知時期」とすることの記載はありません。」と主張し、特許査定を得た。この審査経過から、本件特許の特徴は、アウトプットとして最適通知時期を決定することであり、このアウトプットを得るあめに、時期ごとの勧奨効果の大きさを示すスコアを目的変数としていることと考えられる。

 アウトプットとして、最適通知時期を求めようと思えば、時期ごとの勧奨効果の大きさを目的変数とすることは自明なので、最適通知時期をアウトプットとするという発想が新しかったということになる。パラメータが新しいことによって特許がとれるパターンであり、その中でも目的変数の方が新しいパターンに分類できる。

2021年3月5日金曜日

[AI関連発明]心電図データの拡張方法(特許6831944)

 (登録例4)心電図データの拡張方法

【請求項1】
  心電図データを取得するステップと、
  前記心電図データを処理して複数の心拍データを取得するステップと、
  前記複数の心拍データのうち少なくとも2つの心拍データに基づいて、機械学習における学習用データの拡張データを生成するステップとを含む、ことを特徴とする心電図データの拡張方法。
【請求項2】
  前記心電図データを処理して複数の心拍データを取得する前記ステップは、
  前記心電図データを前処理するステップと、
  前処理された心電図データに対して心拍識別を行って、複数の心拍データを取得するステップとを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。

 この発明は、機械学習に使う学習用データ(教師データ)を水増しする方法の発明である。学習用データが少ないと適切な学習を行うことができないので、例えば、画像なら反転、回転させたり、様々なエフェクトをかけて、学習用データを増やす。

 心電図データの場合、画像と同じ処理を行ってしまうと、「心電図の医学的意義を破壊し、機械学習モデルの訓練に有効な効果を果たすことができない。」ことに鑑み、心電図データに特有の拡張を行うことがポイントのようである。このように、取り扱うデータの特徴に合わせた処理により、特許性を出すことができると思われる。

 ただし、請求項1は、「拡張データを生成するステップ」の内容が一切特定されていないので、生成された拡張データが学習用データとして機能するのか定かではない。明細書には、学習用データとして機能したことを示す実験結果もなく、そもそも心電図においてデータ拡張がWORKすることが示されていない。請求項2についても「前処理」の内容が規定されておらず、不明確と考えられる。

 心電図データの学習データを適切に拡張する方法がポイントなのであるから、そこは限定すべきであるし、その結果、うまく学習ができたことを示すべきと思う。



2021年3月4日木曜日

[AI関連発明]身体負荷推定装置(特許6822715)

 (登録例3)身体負荷推定装置

 【請求項1】
 手に圧力がかかる動作の際に身体の所定部位にかかる負荷の正解情報と、該動作の際における手の平側の荷重情報及び身体の一以上の部位の姿勢情報とが関連付けられた複数の教師データに基づいて機械学習されている学習済みモデルを格納するモデル格納手段と、
  対象者の手の平側で測定された荷重情報及び該対象者の身体の一以上の部位で測定された姿勢情報を測定タイミングで関連付け可能な状態で取得する取得手段と、
  前記取得された荷重情報及び姿勢情報を前記学習済みモデルに適用して、該荷重情報及び該姿勢情報が示す荷重及び姿勢に対応して前記対象者の前記所定部位にかかる負荷を推定する推定手段と、
  を備える身体負荷推定装置。

 請求項を見る限り、手の平側の荷重と姿勢と身体にかかる負荷との間に関係があるので、その関係性をあらかじめ学習しておき、学習済モデルを使って、手の平側の荷重と姿勢から負荷を推定すると言っている。答えを導く法則を学習しておくと言ってだけにしかみえないが、早期審査→一発査定であり、詳細はわからない。このようなケースで特許が取れるのは、パラメータが新しい場合であるが、本件については果たしてどうであろうか。

 明細書で挙げられた先行技術文献には、使用者の姿勢とその姿勢で腰に係る負荷をテーブル(下図)に記憶しておき、使用者が作業を開始したときに作業者の姿勢から手に許容される荷重を推定することが記載されている。
 

 先行技術文献と本件特許は共に、①手にかかる荷重、②姿勢、③身体(腰)の負荷に関係があるという知見に基づき、本件特許では③負荷を求め、先行技術文献では①荷重を求めている。テーブルと学習済モデルの違いだけでは特許はとれないと思うので、本件において何が決め手になったのかすぐには分からない。限界的な事例と思われる。

2021年3月3日水曜日

[AI関連発明]肌状態の評価支援(特許6821852)

(登録例2)肌状態の評価支援

【請求項1】 
 肌の表面のみを含む第1の画像と、前記肌の肌状態の評価を行う評価者によって、前記第1の画像から前記評価に適した領域として選択された1または複数の領域とが対応付けられた教師データを取得する取得ステップと、
  前記教師データに基づいて機械学習を行い、評価対象肌の表面のみを含む第2の画像を入力した場合に、前記第2の画像における肌状態の評価を行うための候補となる1または複数の領域を出力する学習済みモデルを生成する学習ステップと、
を備えた学習済みモデル生成方法。

 この発明は、肌を撮影した画像には状態の良い領域と悪い領域が混在しているため、どの領域が肌状態の評価に適しているかを見分けるには、経験と熟練を要することに鑑み、評価を行うための候補となる領域を選択する支援を行うものである。
 発明の構成としては、評価の対象として適した領域を教師データとして学習をしておき、その学習済みモデルを使って、処理対象の肌画像から評価領域を出力するというだけである。従来、熟練者がやっていたことをモデル化しただけであり、特許が認められるポイントがないような気がする。
 審査の過程を見ると、目、鼻、口といった顔の特定部位を含む画像を処理対象にし、これらを除外する発明は知られていたようであるが、本件発明は「顔の特定部位等を含まず、肌の表面のみを含む画像を処理対象」としていると主張して、特許が認められた。要するに、「肌の表面のみを含む画像を処理対象」とした引例がなかったということのようである。

2021年3月2日火曜日

[AI関連発明]点検システム(特許6807092)


 AI関連の発明は一般的には権利行使が難しいと考えられている。確かに、学習の処理自体の工夫に係る発明だと、その構成を特定することは難しい。一方、AIを利用した発明ならば、AIを利用していることを謳ったシステムに対しては、権利行使のきっかけをつかめる可能性がある。その反面、AIを利用する発明は公知の学習手法を利用しただけと見られがちで、特許の進歩性の観点から権利化が難しい。
 権利行使が可能と思われるAI関連発明の成立例があるか見てみたい。

(登録例1 点検システム)

【請求項1】
  無人飛行体により撮影されたコンクリート護岸の撮影画像を取得する画像取得部と、

  前記コンクリート護岸におけるヒビ割れの発生に関する統計情報に基づき、前記撮影画像に対して検索対象外範囲を設定する検索対象外範囲設定部と、
  コンクリート護岸における複数のヒビ割れ画像に基づき機械学習したヒビ割れ学習モデルを記憶する学習モデル記憶部と、
  前記撮影画像の内、前記検索対象外範囲を除いた検索対象範囲に対して、前記ヒビ割れ学習モデルを適用して前記検索対象範囲におけるヒビ割れを検出するヒビ割れ検出部と、
  前記ヒビ割れ検出部が検出したヒビ割れを示すヒビ割れ情報を出力するヒビ割れ情報出力部と、
  を備える点検システム。


 要するに画像を使ったヒビ割れの検出に、学習モデルを使ったというにすぎない。特許のポイントは、検索対象外範囲を設定する点である。
 明細書(例えば【0014】)の記載によれば、コンクリート護岸の上方は、波が直接当たりにくくヒビ割れが発生しにくいという事情がある一方、上方は車両や建造物の影響で誤検出が発生しやすいという状況がある。このような状況に鑑み、コンクリート護岸の上方は検索対象外範囲とすることで、精度良くヒビ割れを検出するという考え方に特許が認められたと思われる。
 AIの審査基準に記載された事例との関係では、教師データに前処理を行うパターンに該当する。

2021年2月12日金曜日

[裁判例] スマートロック事件(令和2年(ネ)10003号)

  シャープのスマートホンAQUOS等の「スマートロック」という機能に関する事件である。「スマートロック」には色々な態様があるが、本件で対象となったのは、信頼できる端末と接続されている間、端末のロックを解除した状態にすることができる機能である。

 対象特許の概要は、RFIDインターフェースを有する携帯電話であって、所定のトリガ信号に応答して、Rバッジ(信頼できる端末に相当)に要求信号を送信し、Rバッジから受け取った識別情報と携帯電話に記録されている識別情報を比較して、その比較結果に応じて、アクセス制御手段が「被保護情報」へのアクセスを許可するというものである。争点は、「アクセス制御手段」を充足するか否かである。



 裁判所は、次のとおり判断した。少し長くなるが抜粋する。

「イ 上記①の点につき
(ア) 証拠(甲4など)によれば,被告製品の「画面ロック機能」とは,スマートフォンの画面をロックすることによって画面を介した操作が行えないようにするためのものであり,画面ロックの解除とは,スマートフォンの操作(画面を介した操作)が可能な状態にするためのものであって,これらは被保護情報へのアクセスを許可するとか禁止するといったことそのものを意味するわけではないし,それと同視すべき事柄であるということもできない。このことは,画面を介した操作が可能となったからといって,常に被保護情報へのアクセスが行われるわけではなく,公開された地図の検索等,被保護情報には当たらない情報へのアクセスに終始する場合もあり得ることや,逆に,被保護情報そのものにパスワードが付されている場合等を想定すると,画面ロックを解除したからといって直ちに当該被保護情報にアクセスできるようになるわけではないことなどからも明らかである。 
 もちろん,被保護情報そのものにパスワード等が付されていない場合には,画面ロックを解除した後,ユーザが画面を介して所定の操作を行うことにより,スマートフォンに格納された被保護情報へのアクセスが可能になるし,壁紙として,第三者に見られたくない写真を設定しているような状況の下では,画面ロックの解除と同時に,被保護情報へのアクセスが起こり得ることとなる。しかしながら,これらは,画面が開かれたことそのものや,それによって画面を介した操作が可能になったことに付随して生じた結果というべきものであって,画面ロックやその解除の直接の目的や効果といえるものではない(なお,①の構成における違いが,②の構成における違いにも反映していると考えられることについては,後述のイ参照。)。 」

「イ 上記②の点につき 
  本件訂正発明の「アクセス制御手段」の「前記アクセス要求が許可されてから所定時間が経過するまでは前記被保護情報へのアクセスを許可する」構成は,その記載のみからは,所定期間が経過した後の状態が明らかでない。しかしながら,本件明細書の【0009】に,本件訂正発明の目的は,「個人情報や金銭的価値のある情報を統合して管理する場合に当該情報の第三者による不正使用を確実に防止するための情報保護システムを提供することにある。」と記載されていることや,【0039】に,「タイマを設けて一定のタイムラグを許容することで,ICアセンブリ130とICアセンブリ140とを実際に使用するときの距離が比較的長い場合であっても,通信可能距離の短い通信方式を採用することが可能になる。」と記載されていることからすると,上記の構成の意義は,所定時間に限ってアクセスを許容する構成を付加することで,第三者による被保護情報の不正使用を確実に防止しつつ,Rバッジと携帯電話とが離間していても,自動改札機等による被保護情報に対するアクセス要求を適切に処理できるようにしたことにあると解される。そうすると,所定時間経過後には,被保護情報の保護のために,再度アクセスを禁止することが必須とされているというべきであり,「前記アクセス要求が許可され」たときを起点とし,それから所定の時間が経過した後は,たとえ被保護情報へのアクセスが継続している最中であっても,被保護情報へのアクセスは禁止されることになるものと解される。 
 これに対し,被告製品の構成は,前述のとおり,「画面ロックを解除するという比較結果が得られた場合は,画面ロックが解除された後,無操作状態が一定期間継続しない限り,画面を介して操作をすることができる」というものである。その一定期間の起点は,画面ロックが解除された後,何の操作もしないという例外的な場合には,画面ロックが解除されたときとなるが,何らかの操作がされる多くの場合には,その操作が終了したときとなるのであって,常にアクセス許可がされたときが一定期間の起点となる本件訂正発明とは異なる。また,本件訂正発明においては,アクセス許可がされた後,一定期間が経過すれば,被保護情報へのアクセスが継続していたとしてもアクセスが禁止されることになるのに対し,被告製品においては,画面を介した操作が継続している限り,一定期間がカウントされることはなく,したがって,画面がロックされることはあり得ないのであり,この点においても違いが存するものというべきである。 
 そして,両者にこのような違いが生じているのは,本件訂正発明においては,アクセス許可が被保護情報へのアクセスという意味を有するため,被保護情報の保護という観点から時間制限が設けられているのに対し,被告製品の画面ロック解除は,単に,画面を介した操作を可能にするという意味しか持たないため,被保護情報の保護という観点から時間制限をする必要はなく,無駄な電力消費を防ぐという観点から時間制限が設けられているのにすぎないからであり,両者の時間制限が持つ技術的意義が全く異なるからであると解される(このように本件訂正発明におけるアクセス許可と被告製品における画面ロック解除が持つ技術的意義に違いがあることは,被告製品が①の構成要件をも充足しないことをも裏付けるものであるといえる。)。 」

 ※全文はこちら。089992_hanrei.pdf (courts.go.jp) 


 ①②のいずれの点も、非常に示唆に富んでいる。
 まず、①に関しては、判決で述べるように、被告製品は「被保護情報そのものにパスワード等が付されていない場合には,画面ロックを解除した後,ユーザが画面を介して所定の操作を行うことにより,スマートフォンに格納された被保護情報へのアクセスが可能になる」。このため、画面のロック解除=被保護情報へのアクセス許可と即断してしまいそうだが、両者は同一ではない。
 また、「画面ロックの解除と同時に,被保護情報へのアクセスが起こり得ることとなる。」場合があることから、侵害する場合もあり得ると考えることができそうであるが、これについては、「画面を介した操作が可能になったことに付随して生じた結果というべきものであって,画面ロックやその解除の直接の目的や効果といえるものではない」として、ロック解除の直接の目的や効果を検討しているところは参考になる。情報処理関連の特許では、”侵害する場合がある”という態様は起こりやすいが、たまたま構成要件に合致する場合があるだけでは侵害とは言えない好例である。

 次に②に関しては、請求項は、「所定時間が経過するまでは・・アクセスを許可する」と記載し、所定時間が経過した後のことを限定しておらず、形式的には、画面ロック機能はこれに当てはまるように見える。
 しかし、裁判所は、所定時間が経過した後のことを検討し、本件特許は所定時間が経過した後はアクセスが禁止されるものであるとして、画面ロック機能とは本質的に異なると判断した。発明の技術的意義に基づいてクレーム解釈し、非侵害と判断していることは参考になる。



2021年2月4日木曜日

Re就活 vs リシュ活 (平成30年(ワ)11672号)


 原告商標は「Re就活」で、指定役務に求人情報の提供がある。
 被告は、標章「リシュ活」を使い、履修履歴や成績を登録した者を対象としたウェブサイト上での求人情報の提供を行っている(被告は、「リシュ活」は「履修履歴活用」の略であると主張。なお、被告の名称は「一般社団法人履修履歴活用コンソーシアム」)。

 裁判所は、概略、次のようなロジックで誤認混同のおそれありと判断した。

・需要者には求職者が含まれる。
       ↓
・会員登録は無料なので、求職者は精査することなくとりあえず会員登録する。
       ↓
・インターネット検索では、称呼に基づくひらがなやカタカナでの検索も一般的だし、あいまいな表記でも検索できる。
       ↓
・そうすると、称呼の類似性の影響が大きく、両者は類似している。


 「リシュ活」の使用が、「Re就活」の商標を侵害するとは、ちょっと驚きました。
 インターネット検索では、称呼の類似性の影響が大きいというところは要注意で、商標の誤認混同の範囲もだんだん変わってきているのかもしれない。

方法発明の間接侵害が否定された例(令和6年(ワ)第70583号)

  液晶キーボードのキーの背景画像を着せ替える方法に関する特許を有する原告らが、文字入力キーボードアプリ「Simeji」を製造販売するバイドゥ株式会社を訴えた事件である(東京地裁民事第46部・令和8年4月15日判決)。実際に本件各発明に係る方法を使用するのは、被告製品をインストー...