シャープのスマートホンAQUOS等の「スマートロック」という機能に関する事件である。「スマートロック」には色々な態様があるが、本件で対象となったのは、信頼できる端末と接続されている間、端末のロックを解除した状態にすることができる機能である。
対象特許の概要は、RFIDインターフェースを有する携帯電話であって、所定のトリガ信号に応答して、Rバッジ(信頼できる端末に相当)に要求信号を送信し、Rバッジから受け取った識別情報と携帯電話に記録されている識別情報を比較して、その比較結果に応じて、アクセス制御手段が「被保護情報」へのアクセスを許可するというものである。争点は、「アクセス制御手段」を充足するか否かである。
「イ 上記①の点につき(ア) 証拠(甲4など)によれば,被告製品の「画面ロック機能」とは,スマートフォンの画面をロックすることによって画面を介した操作が行えないようにするためのものであり,画面ロックの解除とは,スマートフォンの操作(画面を介した操作)が可能な状態にするためのものであって,これらは被保護情報へのアクセスを許可するとか禁止するといったことそのものを意味するわけではないし,それと同視すべき事柄であるということもできない。このことは,画面を介した操作が可能となったからといって,常に被保護情報へのアクセスが行われるわけではなく,公開された地図の検索等,被保護情報には当たらない情報へのアクセスに終始する場合もあり得ることや,逆に,被保護情報そのものにパスワードが付されている場合等を想定すると,画面ロックを解除したからといって直ちに当該被保護情報にアクセスできるようになるわけではないことなどからも明らかである。もちろん,被保護情報そのものにパスワード等が付されていない場合には,画面ロックを解除した後,ユーザが画面を介して所定の操作を行うことにより,スマートフォンに格納された被保護情報へのアクセスが可能になるし,壁紙として,第三者に見られたくない写真を設定しているような状況の下では,画面ロックの解除と同時に,被保護情報へのアクセスが起こり得ることとなる。しかしながら,これらは,画面が開かれたことそのものや,それによって画面を介した操作が可能になったことに付随して生じた結果というべきものであって,画面ロックやその解除の直接の目的や効果といえるものではない(なお,①の構成における違いが,②の構成における違いにも反映していると考えられることについては,後述のイ参照。)。 」「イ 上記②の点につき本件訂正発明の「アクセス制御手段」の「前記アクセス要求が許可されてから所定時間が経過するまでは前記被保護情報へのアクセスを許可する」構成は,その記載のみからは,所定期間が経過した後の状態が明らかでない。しかしながら,本件明細書の【0009】に,本件訂正発明の目的は,「個人情報や金銭的価値のある情報を統合して管理する場合に当該情報の第三者による不正使用を確実に防止するための情報保護システムを提供することにある。」と記載されていることや,【0039】に,「タイマを設けて一定のタイムラグを許容することで,ICアセンブリ130とICアセンブリ140とを実際に使用するときの距離が比較的長い場合であっても,通信可能距離の短い通信方式を採用することが可能になる。」と記載されていることからすると,上記の構成の意義は,所定時間に限ってアクセスを許容する構成を付加することで,第三者による被保護情報の不正使用を確実に防止しつつ,Rバッジと携帯電話とが離間していても,自動改札機等による被保護情報に対するアクセス要求を適切に処理できるようにしたことにあると解される。そうすると,所定時間経過後には,被保護情報の保護のために,再度アクセスを禁止することが必須とされているというべきであり,「前記アクセス要求が許可され」たときを起点とし,それから所定の時間が経過した後は,たとえ被保護情報へのアクセスが継続している最中であっても,被保護情報へのアクセスは禁止されることになるものと解される。これに対し,被告製品の構成は,前述のとおり,「画面ロックを解除するという比較結果が得られた場合は,画面ロックが解除された後,無操作状態が一定期間継続しない限り,画面を介して操作をすることができる」というものである。その一定期間の起点は,画面ロックが解除された後,何の操作もしないという例外的な場合には,画面ロックが解除されたときとなるが,何らかの操作がされる多くの場合には,その操作が終了したときとなるのであって,常にアクセス許可がされたときが一定期間の起点となる本件訂正発明とは異なる。また,本件訂正発明においては,アクセス許可がされた後,一定期間が経過すれば,被保護情報へのアクセスが継続していたとしてもアクセスが禁止されることになるのに対し,被告製品においては,画面を介した操作が継続している限り,一定期間がカウントされることはなく,したがって,画面がロックされることはあり得ないのであり,この点においても違いが存するものというべきである。そして,両者にこのような違いが生じているのは,本件訂正発明においては,アクセス許可が被保護情報へのアクセスという意味を有するため,被保護情報の保護という観点から時間制限が設けられているのに対し,被告製品の画面ロック解除は,単に,画面を介した操作を可能にするという意味しか持たないため,被保護情報の保護という観点から時間制限をする必要はなく,無駄な電力消費を防ぐという観点から時間制限が設けられているのにすぎないからであり,両者の時間制限が持つ技術的意義が全く異なるからであると解される(このように本件訂正発明におけるアクセス許可と被告製品における画面ロック解除が持つ技術的意義に違いがあることは,被告製品が①の構成要件をも充足しないことをも裏付けるものであるといえる。)。 」
※全文はこちら。089992_hanrei.pdf (courts.go.jp)
①②のいずれの点も、非常に示唆に富んでいる。
まず、①に関しては、判決で述べるように、被告製品は「被保護情報そのものにパスワード等が付されていない場合には,画面ロックを解除した後,ユーザが画面を介して所定の操作を行うことにより,スマートフォンに格納された被保護情報へのアクセスが可能になる」。このため、画面のロック解除=被保護情報へのアクセス許可と即断してしまいそうだが、両者は同一ではない。
また、「画面ロックの解除と同時に,被保護情報へのアクセスが起こり得ることとなる。」場合があることから、侵害する場合もあり得ると考えることができそうであるが、これについては、「画面を介した操作が可能になったことに付随して生じた結果というべきものであって,画面ロックやその解除の直接の目的や効果といえるものではない」として、ロック解除の直接の目的や効果を検討しているところは参考になる。情報処理関連の特許では、”侵害する場合がある”という態様は起こりやすいが、たまたま構成要件に合致する場合があるだけでは侵害とは言えない好例である。
次に②に関しては、請求項は、「所定時間が経過するまでは・・アクセスを許可する」と記載し、所定時間が経過した後のことを限定しておらず、形式的には、画面ロック機能はこれに当てはまるように見える。
しかし、裁判所は、所定時間が経過した後のことを検討し、本件特許は所定時間が経過した後はアクセスが禁止されるものであるとして、画面ロック機能とは本質的に異なると判断した。発明の技術的意義に基づいてクレーム解釈し、非侵害と判断していることは参考になる。
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